Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

盛大な自滅

2010/01/30 00:09:22
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八雲紫のなにがすごい?

境界を操る能力だろうか。確かにあれは万能で便利だし、上手に使えば神様にだって勝てるかもしれない。
じゃあやっぱりその能力だろうか。
いいや違う。神出鬼没なのは、霧になれる萃香だってレミリアだって同じだ。
未来も心も読めないし、人形師ほど器用でも、天狗ほど素早いわけでもない。力も鬼よりはないだろう。
彼女が本当にすごいのはそんなところではない。

彼女が一番にすごいのは















「……やっぱ出歯亀根性だと思うのよ」


「いきなり何いってんのよ」


 霊夢は賢者の話題が唐突に出たのでそう答えた。
 聞いたのは天子と妖夢だ。
 畳の上で天子が足を放り出した。控えめな同意を示す妖夢の隣で、青い長髪が、綺麗に床へ流れていた。

「まぁアイツの性根が悪いってのは天人であるワタシが保障するわ」
「あんたが言っていいの、それ?」

 霊夢は呆れて返した。
 居間の三人は思い思いに楽な姿勢でくつろいでいた。机にはお茶、隣には煎餅。ついでにコタツが置かれていたが、今日は利用するほど寒くはない。
 霊夢の本人には失礼極まりないぞんざいな返答に、妖夢は正座をしながら困った笑みを浮かべていた。
 引きかえ、当の天子はまるで気にしている様子はない。

 それどころか、どこか面白そうな、だるそうな顔をして天子は言った。

「桃ばっか食べてるの」
「ふーん。いいじゃない桃」
「ワタシの体の九割は桃できてるってことじゃん」
「だから?」
「日持ちしない。腐りやすい。性根が」

 霊夢はいっそう呆れて天子を見た。
 胸を張る天子に反省の色はない。この天人は自分が嫌な性格だと認めつつ、それを直そうって気はないらしい。天人の中じゃマシな方、と全く悪びれない。

 隣で聞いてた妖夢はいささか態度を崩して二人に切り出した。

「わたし、わたし自身すらおぼえていないような事を紫様に知られてたことが何度かあるわ」
「あ、分かるわかる。あいつのそういうとこ気味悪いわよね」

 同意したのは霊夢だったか天子だったか。
 とにかく身に憶えがある事を妖夢は語り始めた。

「私が料理をするときの癖、とか。浴室で体をどこから洗うとか、そういったことを知ってるみたいなのよ」
「うぇ…。私もそういうのやられたわ」

 二人は頷いた。紫には覗きの癖があるようだと、みんなは薄々気付いている。

「幽々子様の手前、何を言っているんですかっもう。って怒ったんだけど、正直不気味で…」

 愚痴る妖夢に、天子は憤った。

「アイツ、そういうのこれ見よがしに言うのよね。からかってるつもりなんだろうけど、ほんとヤなヤツ」

 霊夢は頬杖をついて言った。

「そういうキャラでも作ってるんじゃないの? 胡散臭くて何でも知ってる、みたいな。一応あいつも妖怪だし…ほらあるじゃない」
「妖怪は人の嫌がることが、好き、とか」
「そう、それ。妖怪って考えること分からんわ」
「胡散臭いんじゃなくて、キモいのよ!!」




 などと珍しい組み合わせのメンバーがなぜ神社で管を巻いているかというと、それは霊夢の買い物の帰り道だった。



 しばらくぶりに暇をもらった妖夢は時間を持て余していた。なにしろ年頃の遊びなど知るはずがない。
 時同じくして、天子は暇を持て余していた。気まぐれに地上に顔を出したものの、目新しいものはない。

 この時、二人が辻で出会ったのは全く偶然だった。

 妖夢は斬るものに困っていた。訓練でも実践でも、努力を実感する機会を得るには、幻想郷は平和すぎた。
 天子は丈夫過ぎて、自分を傷つけられるモノがないことに少々飽きていた。なにしろスリルがない。

 しばし歓談した二人はまるで幼子のように、天人が刀で斬れるのかどうかという不毛な遊びを始めた。
 ほんとに斬れるのか。怖い。怖いけど試してみたい。私の剣の腕。
 斬られちゃうの。駄目、ちょっぴり怖い。けど、すごくドキドキする。


 人間、暇だと碌なことをしないものである。
 真面目な顔して刀を握る妖夢。目をつぶって頬を紅潮させ、ばっちこーい、と構える天子。

 霊夢はすぐさま二人の頭をぶん殴って神社の境内まで引き摺ってきた。




 自然と共通の話題は紫に。そして、彼女の話となると、なぜか悪い方面に偏った。


「あいつこの前どこから出てきたと思う? お便所からよ。しかも私がもよおしてる最中」
「げ、うそ。信じらんない。霊夢よく我慢できるわね」
「それは…紫様、すこし気持ち、わるいわね…」
「その後、言うに事欠いて『こんにちわ、霊夢』よっ。なめんなっての。知るかい。ぶっ飛ばしてやったわ」
「うっわ。まさに下賎な妖怪の代表ね。アイツの国じゃきっとそれが正式な挨拶なのよ」
「……だ、大丈夫だった霊夢?わたしも同じことされたらどうしよう…」



 さすがに引いた。
 霊夢の中で紫が、妖怪の賢者から、便器から顔を出す、妖怪の賢者を名乗る女妖怪になった。

 前日のお酒が残っていたのよぉ、と必死に弁明されたが、酒の席にしたってもう少しマシな振る舞いがある。
 妖夢が身を乗り出し、ほだされたように口から言葉を吐き出した。霊夢の体験には共感できるものがあったからだ。

「朝起きたら、同じ布団に、紛れ込まれていたことがあって」

 妖夢は膝に手を置いて続ける。うんうん、と二人は頷いた。

「幽々子様にも同じような悪戯はされたことがあるんだけれど、なんていうか、そういうのじゃないのよ」

 自然と斜め下に視線が落ちる。
 それは、言い辛いことを口にするときの嫌悪が仕草に表れたものだ。

「幽々子様のご友人じゃ、失礼な態度を取るわけにもいかないし、正直困るのよ…。なんだか変な匂いがするし」

 それは香水だったが、妖夢は知るよしもない。

「本人は冗談のつもりかもしれない…。でも、こっちには冗談になってない、って言ったらいいの? 確かに近くで見ると綺麗な方には違いないのよ。だからって親しげに絡んで来られても、あんまり気分良くないのよね。恥ずかしがって、怒ったふりをして追いかけるのも面倒になってきたわ」

 妖夢はため息をついた。
 気分的には、友達の両親がやたらと自分にフレンドリーという感じだ。
 こう、扱いに困るのだ。

 二人は深く唸って、理解を示した。
 それでも比較的紫に理解の深い霊夢は、同情を含んだ表情をした。

「まぁ歳が違うから…ねぇ? 妖夢、それはきっと…」
「分かってるわよ霊夢。きっと本人には悪気がないんでしょ。その証拠に、お土産だって持って来てくれるし」
「そうね。うん。決して憎みきれないのが紫だもの」
「私だってあのお方が嫌いなわけじゃないの。ただ苦手っていったらいいのかな」

 妖夢は、霊夢に視線を向けて、頬を掻いた。
 人を悪く言うのに慣れてないのだろう。落ち着かずに、サラサラと揺れる銀髪をいじる。

 天子は言いよどむ二人を前にして、乱暴な声をあげた。

「ワタシは嫌いよっ。すぐお説教するし。その癖、自分はできてないんだもの」

 霊夢は一応反論した。

「それはあんたもじゃない」
「なによ。またアイツの擁護? 霊夢はほんとはアイツのこと好きなんじゃないの?」
「えぇ好きよ。ご飯とかくれるし…」
「ごまかさないでよ。じゃあ四六時中アイツと一緒にいられる?」
「それは、まぁ勘弁だけど…。すぐベタベタするし」
「フン。霊夢は食べ物をくれるヤツの悪口いえないようになってるのよ」

 天子は鼻息も荒く続ける。

「ワタシさぁ、アイツにぶっ飛ばされて以降、妙にくっついてこられるのよね。いきなりお茶しようとか言ってきたりさ、そりゃ暇だけど、口を開けば嫌味と地震の件を掘り返すばかりで……ったく、嫌になるわよっ!」
「紫が嫌味っぽいのはいつものことよ。取り合えず分かったふりして頷いときなさい」
「よく霊夢は耐えられるわねっ。あんなヤツ、ずっと冬眠してればいいのよ」
「まあ博麗だからね。ずっと付き合わなきゃなんないわけだし」

 さすがにそれは言いすぎかと霊夢は思った。

「しかも茶菓子は美味しいんだからタチが悪いわ。ワタシが桃だけしか食べてないの知ってて」
「そう、あいつの持ってくるものってほんとにおいしいのよね!」
「食いつくわね霊夢…食べ物の話だと。幽々子様が珍しい物を食べたいとき、私も紫様に頼るしかなくて…ずるずるお願いしてて」

 うなる霊夢の横合いから妖夢が発言する。

「むしろお土産だけ置いてってください、的な?」
「アハハ」

 普段の妖夢が言わないような毒に、天子は朗らかに笑った。
 ちょっと言うのに勇気がいったのか、妖夢の顔にはすこし緊張があった。

 こうなるとなんとなく悪口言わない方が空気を読んでない流れだ。
 霊夢も会話に乗る。

「むしろ、紫がいなくなってなんか支障ってあるのかしら。誰か困ったり。お土産以外に何かある?天子、妖夢?」
「幽々子様に友達がいなくなります。あの人、紫様以外に友達いないから」
「リボン屋さんがきっと困るわ。アイツの服あればっかり買うから」

 くすくすと笑い声が洩れた。
 天子は嬉しそうな顔して言う。

「ねぇねぇ! 厠が寂しくなるんじゃないっ」
「やだー、あははっ」

 言っておいて、みんなできゃっきゃと笑いあった。
 妖夢が真白い頬をふくらましながら、二人に言った。

「今度お風呂場で、誰か背中流してくれないかな、って呟いてみる?」
「ぷっ…。き、きっと紫、本気にして出てくるわよ!」
「ブフっ…クク!きょ、今日の妖夢はマジに容赦ないわ。天人もびっくり…!」

 三人は口から洩れる空気を手で押さえつける。

「むしろ、今だって聞いてるかも!」
「やだ、やめなさいよっ!」

 天子はハッと思いついて、二人と頭をくっつけあった。
 思いつきに乗るため、三人はぱっと花ビラのように弾ける。

「じゃ、せーの」


「「「紫なんてだいきらーい!」」」













「紫様、どうなさったんですか?」

 背中を丸くうずめて、自室の一室で、なにやら紫は怪しげにスキマを開いている。
 見咎めるわけではないが、ちょっとした掃除のついでに通りかかった片手間に、藍は主人の背中に声をかけてみた。

「あら藍。いえね、かわいい子供たちが博麗神社に集まってるから、ちょっと様子見かしら」

 顔色も変えずに紫は言った。
 藍は軽く肩を落とした。

「また紫様…。そんなことをしていては嫌われてしまいますよ」
「大丈夫よ。馬鹿ねぇ藍は」

 紫は含み笑いをした。

「少女が集まって秘密の会談。これを聞かない手はないわ。貴方も私の式を預かる者ならそれくらい分かりなさい」
「はぁ」

 藍は気のない返事と共に、開けたスキマを覗き込む。
 そこには、博麗神社の映像が結ばれていた。

 三人の少女が肩を並べている。紫はうっとりとした。
 幽々子のところの妖夢ちゃんに、わがまま天人の天子ちゃん。それと、言わずと知れた私の霊夢。

 妖夢ちゃんはいつでもお行儀正しく私を迎え入れてくれる良い子だ。
 裏表なく、いつも私がからかうと恥ずかしそうな表情をするのがたまらない。

 天子ちゃんだって私が叱ればちゃんと謝った素直な子だ。そういう子は、歳を経れば良き者に変わる。
 多少いじっばりなのは、自分の悪いところがすでに分かっている裏返し。
 かなりの寂しがり屋なので、私がお茶をしに行くと、実はとても喜んでいるのが露見している。

 霊夢は霊夢。あぁ、もう愛しいわが子のような少女。
 彼女に嫌われれば、きっと私の心は砕けてしまう。


 
 なんだか今日は私が気に入っている子ばかりじゃないか。

 精神年齢が見た目に相応な子ばかり。癖は強いけど、みんなアクはないのだ。
 老獪な少女が多い幻想郷で、そういう子は失敗が多く手間もかかるが、紫は大好きだった。
 それは彼女たちが修羅場を経験してないということだが、それがまた、より愛おしい。
 平和の印で、寵愛の対象だった。

 いいわね。一緒にお茶したいわね、みんな。組み合わせ的にもすごく珍しいし、素敵だわ。


「なんだかんだでね、みんな私のこと好きなのよ。尊敬してるんだわ」
「やけに自信があるようですね」
「そう思ってもらうように、この私が振舞ったのよ? フフ、ならそうならないはずが無いのよ」
「そうですか」

 きっとみんなして、憧れの大妖怪の話でもしているんじゃないかしら。あの年頃の子供たちの心理など、私の思う通りに操れる。
 いや、それはちょっと言いすぎか。などと恥ずかしい事を自問してみる。

 スキマの向こうをニヤニヤと見つめる紫に背を向けて、藍は洗濯物を取り込みに一階へと戻っていった。







「…おや?」

 戻ってくると、なんと、まだ主人はスキマの向こうを覗いているではないか。
 それほど好きなら、混ざってくればいいのに。

「あの、紫様…」
「……」
「紫様?」
「…」

 沈黙のみが返ってくる。
 不審に思っていると、不意に、小刻みに紫の肩が震え出した。

 なにやら怪しい背中から、やっと返事が戻ってくる。

「ねえ藍、私がいなくなったら、貴方何か困ること…あるかしら?」
「え、さあ? そうですねぇ…」


 思考を巡らせる。
 うーん、うーんと二回ほど唸って、ようやく答えが見つかった。

「あ、今夜のお夕飯が片付かなくて困ります。もう作っちゃってるので」


 次の瞬間、紫はスキマへと消えた。


 支障はあった。幻想郷が滅んだ。
意味も無くゆかりんをいじめたい気分だった。反省も後悔もしていない。

ある意味遠隔さとり能力。
アルサ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
天子も霊夢も可愛い、それには同意せざるを得ない。
2.奇声を発する程度の能力削除
うをいwwwww
遠隔さとり能力半端ねぇwwww
3.名前が無い程度の能力削除
かわいそうだけど身から出た錆だしなぁ…
4.名前が無い程度の能力削除
面白いな。
でも紫かわいそうだな。
5.名前が無い程度の能力削除
別にゆかりんファンじゃないのに、救済エンド欲しくなった。
6.名前が無い程度の能力削除
ゆかりんがかわいそうだけど・・・続きが見たい。
7.名前が無い程度の能力削除
不憫なり……
年頃(?)の女の子3人集まればこういう会話になるわなあ。
8.名前が無い程度の能力削除
女の子(に限らないけど)のこの手の会話は、誰が対象であれほぼ必ずそういう流れになるんだ。
だから気にしちゃ駄目だゆかりん。
9.名前が無い程度の能力削除
おま・・・支障をきたすってレベルじゃねーぞ!
紫が悪いとはいえちょっと可哀想だよなあ
世界を左右するグラスハートな17才なんだから優しく扱ってあげないとw
10.名前が無い程度の能力削除
かわいそうだが…いややっぱかわいそうだ。