アリスの家。
今日は、魔理沙が来ていた。
「ふむ」
魔理沙が口を開いた。
「ヒマだな」
「そうね」
じつに、十五分ぶりの会話である。
魔理沙は、飲み干したカップを持ち上げた。
今日のアリスは、機嫌が悪いらしい。
お代わりも持ってきてくれない。
「なあアリス」
ちょっと考えていた魔理沙が言った。
「なによ」
「手袋って反対に言ってみ」
「は? ――ろくぶて?」
「ありがとう」
「……」
アリスはちょっと黙りこんだ。
動かしていた手を一瞬止める。
ちろりと魔理沙を見て、言う。
「ねえ、魔理沙」
「なんだ?」
ちくちくと、また手を動かして、アリスが言う。
「パチュリー・ノーレッジって反対に言ってみてくれる?」
「ジッレーノーリュチパ」
「……。なんでそんなにすらすら言えるのよ?」
「さあな。別に練習してるわけじゃないぜ。……だが、魔法使いにとっちゃ舌は命だからな。これくらいはできないとなー」
「ほほう」
アリスは鼻白んだように言った。
「ねえ魔理沙」
「なんだ?」
「博麗霊夢って反対に言ってみて」
「ムイレイレクハ」
「霧雨魔理沙」
「さりまめさりき」
「アリス・マーガトロイド」
「ドイロトガーマスリア」
「射命丸文」
「やあるまい、い……や、め、ゃし?」
「……。ふう」
「……。ほほう」
魔理沙は、ちょっと歯をむき出しにした。
アリスはわざとらしく、ため息をついて、肩をすくめている。
魔理沙は口を開く。
「なあ、アリス」
「はい? 魔理沙」
「河城にとりって反対から言ってみ?」
「りとにろしわか」
「東風谷早苗」
「エナサヤチコ」
「八雲藍」
「んらもくや」
「紅美鈴」
「んりいめんほ。ちょろいわね」
アリスは、余裕の表情で返した。
「無駄口は駄目だぜ? 黒谷ヤマメ」
「めまやにだろく」
「水橋パルスィ」
アリスは、すました顔で、眉をひそめた。
「……。ぃ、ぃす、るぱしはずみ?」
「……ふう。やれやれ」
「……」
アリスは、ぴきりと眉をつり上げた。
魔理沙はわざとらしく、眉尻を下げて、首をふっている。
アリスは、ゆっくりと口を開いた。
「ねえ、魔理沙」
「はい。アリス」
「八雲紫」
魔理沙は答えた。
「りかゆもくや」
「八坂神奈子」
「コナカカサヤ。十六夜咲夜」
返されて、アリスが返す。
「やくさいよざい。レミリア・スカーレット」
「トッレーカスアリミレ。蓬莱山輝夜」
すらすらと返して、魔理沙が言う。
アリスも、負けじと、即座に返す。
「やぐかんさいらうほ。洩矢諏訪子」
「こわすやりも。上白沢慧音」
「ねいけわさらしみか。藤原妹紅」
「うこものらわじふ。永江衣玖」
「くいえがな。因幡てゐ」
「ゐてばない。聖白蓮」
「……んれくゃびりじひ。スターサファイア」
魔理沙が、ちょっと眉をひそめた。
「あ……あ、いぁふ、さーたす」
アリスは、やれやれと冷たい眼差しを向けた。
「あらあら詰まったわね。アウトかしら?」
「まだまだ。三回までセーフだから私の残機はあと二機残ってるぜ」
「いつのまに決まったのよ」
「最初から決まってたが、あえて言わなかった。じゃあこっちの番だな。サニーミルク」
魔理沙は堂々と言ってきた。
アリスはやれやれという顔で応じた。
「くるみーにさ。ルーミア」
「あみーる。ミスティア・ローレライ」
「イラレーロ・アィテスミ。綺麗な巻き舌のできないあんたに、私が負けるはずがないでしょう? リグル・ナイトバグ」
「ぐばといなるぐり。おやおや、そいつはどうかな。火焔猫燐」
「ンリ・ウョビンエカ。あら、ありがとう。良い練習になるわ。霊烏路空」
「ほつうじういれ。おい、そんなに簡単なのばっかり出して大丈夫か? 追いつめられるのはお前なんだぜ? 多々良小傘」
「さがこらたた。追いつめられているのがどちらなのか、似非魔法使いの小娘にはわからないらしいな。古明地さとり」
「りとさじいめこ。お前だろ? その証拠に口数が増えている。そうやって余裕をアピールするのは余裕のない奴の典型。キスメ」
「めすき。勝った。もうこれは決定的ね。あんたのほうが数文字は無駄口が多い。チルノ」
「のるち。私のは余裕って言うんだぜ。その程度で勝ったとか思うなよ。底が知れるぞ。フランドール・スカーレット」
「トッレーカス・ルードンラフ。やれやれ。小娘の意地って言うのは見苦しくっていけないねえ。ルナサ・プリズムリバー」
「ーバリムズリプ・サナル。おっとっと。切り札が無くなったかな? 魂魄妖夢」
「むうよんぱくこ。虚勢もいい加減にしないと、だんだん鼻につくようになってくるわ。もっとも私は相手にしないので関係ないけど。森近霖之助」
「けすのんりかちりも。西行寺幽々子」
「こゆゆじうょぎいさ。鈴仙・優曇華院・イナバ」
「ばない・んいげんどう・んせいれ。風見幽香」
「かうゆみざか。稗田阿求」
「うゅきあの、だえひ。星熊勇儀」
「ぎうゆまぐしほ。村紗水蜜」
魔理沙の顔が、だんだんと真剣になる。
アリスも、すでに魔理沙を睨んでいる。
「つみなみさらむ。小野塚小町」
「ちまこかづのお。四季映姫・ヤマザナドゥ」
「……ぅどなざまや・きいえきし。比那名居天子」
「しんていななひ。橙」
「んぇ……ん、んえち!」
「……。ぶ」
魔理沙は、いきなり口元を押さえた。
アリスは眉をひそめた。
く、くく、と、笑いを漏らす魔理沙を睨む。
が、堪えて言った。
「……私のミスね。あと二機」
「ん、んえち」
「……」
アリスはさらに眉をひそめた。
「……。ちょっと」
が、そこが限界だった。
「だ、だははははははははははは」
魔理沙は、腹を抱えて、笑い転げだした。
「ん、んえち! んえちっておま、お前、あはははははははは!!」
「……。おい、あんたの負けで良いのか……?」
「ん、んえち」
「……」
く、くく、ぐ、ぐ、と魔理沙はテーブルに伏せって、馬鹿ウケしている。
アリスは白い目で見た。
魔理沙のとんがり帽子のつばが、テーブルにへばっている。
「……」
「ん、んえち……」
「……」
「んえち」
「……」
「……」
「……」
「……」
アリスは静かに人形を取った。
針と糸を取って、ちくちくと裁縫をすすめ出す。
横から、ぼそっと魔理沙が言った。
「んえち」
「ケンカ売ってんのかこらあああああああ!!!」
「だははあはははははははははは!! んえち!! んえちって、ひ必死な顔で、かか可愛すぎる! アリス可愛すぎ!! んえち!!」
「言うなああああああああああああああああああ!!!!」
結局、勝負はお流れになったらしい。
アリスはその後二週間ばかり、同じネタでからかわれ続けた。
神奈子様が泣いています
よく発音できるなこの二人はw
「…………(怒)ぷすっ」
「痛ぇえええええぇぇっっ!!」
修正しました
ご指摘有り難うございます
次はこれ読んでみて
つ『ぴ゚ょん』
んよ…んよ……、……。
黒パン妖夢・・・
許せる!
逆から読むのって楽しいですよね。