夜だった。
地底、旧地獄、地霊殿。
仕事を終え、さとりは自分の部屋にいた。
「……」
時計を見る。
もうそろそろ寝る時間だ。
本をたたみ、栞を挟む。
立ち上がって、寝間着に着替えるため、服のボタンを外す。
「……ん?」
はた、と気づく。
さとりは壁に目をやった。
いつのまにか、こいしがいる。
壁際に座り、絵筆を取って、壁に絵を描いていた。
「……」
「……」
こいしは筆を動かしている。
さとりは、半眼になって、話しかけた。
「こいし」
「こいしちゃん作『ポテトチップスとカスタードを一気食い ~あの夏の殺戮』」
「聞いてもいないのにタイトルまで」
「コンデンスすぎる」
わけがわからない。
とりあえず、腕組みして、さとりは言った。
「あとでちゃんと消しておいてよ」
「私のカンによるとお燐がひと晩でやってくれるそうです」
さりげなく、ペットに押しつける。
「なんでもかんでもやらせないの。あの子だって他の仕事があるんだから。あんまりストレスを溜めさせちゃ駄目よ。猫って言うのは本来デリケートで――」
「お姉ちゃんは説教をした……効果はいまいちのようだ」
「あのね」
さとりはジト目になってにらんだ。妹はどこ吹く風だ。
指の間に、絵筆をはさみ、片手のパレットに、ちょちょい、と色をくわえている。
描いている絵は、どこかの向日葵畑だ。
大きな向日葵が、満開に咲き誇っている。
「今日は地上に行ってきたの?」
「向日葵が咲いてました。あとにこにこ顔の妖怪が妖精をいじめてたらしい」
「ああ、それは今日行ってきたところなのね」
「そうですとこいしちゃんは言ったが、お姉ちゃんが見たところそれは嘘のようだ。もっとも本当のことを言っているかも知れないが、どっちみち判然とはしない」
「どっちなのよ」
「そういう曖昧な書き方をしておけば、深い意味があると勝手に勘違いをされそうになる」
「まるでわけがわからない」
「おねえちゃんは こんらん している!」
「……」
「今うわこいつうざいなと思っただろう」
「よくわかったわね」
そろそろ、相手をするのがしんどくなってきた。
さとりは、妹に背を向け、服のボタンを外した。
しゅるりと脱いで、寝間着を取り上げる。
かちゃちゃ、と、妹が筆を洗う音が響く。
「ねえ、こいし」
「なに?」
「最近地上にはよく行ってるの?」
「うん」
「そう」
かたん、と妹が筆を置いた音がした。
さとりは、寝間着を着終え、服をたたんで置いた。
「地上の――」
さとりは、妹のいたところを見た。
こいしは、いつのまにか姿を消していた。
「もう」
さとりはちょっと持て余し気味な顔になって、壁の絵を見た。
向日葵畑の絵が描かれてある。
そこに、こいしと手をつないださとりの姿が描かれていた。
あいかわらず、無愛想な顔で笑っている。
地底、旧地獄、地霊殿。
仕事を終え、さとりは自分の部屋にいた。
「……」
時計を見る。
もうそろそろ寝る時間だ。
本をたたみ、栞を挟む。
立ち上がって、寝間着に着替えるため、服のボタンを外す。
「……ん?」
はた、と気づく。
さとりは壁に目をやった。
いつのまにか、こいしがいる。
壁際に座り、絵筆を取って、壁に絵を描いていた。
「……」
「……」
こいしは筆を動かしている。
さとりは、半眼になって、話しかけた。
「こいし」
「こいしちゃん作『ポテトチップスとカスタードを一気食い ~あの夏の殺戮』」
「聞いてもいないのにタイトルまで」
「コンデンスすぎる」
わけがわからない。
とりあえず、腕組みして、さとりは言った。
「あとでちゃんと消しておいてよ」
「私のカンによるとお燐がひと晩でやってくれるそうです」
さりげなく、ペットに押しつける。
「なんでもかんでもやらせないの。あの子だって他の仕事があるんだから。あんまりストレスを溜めさせちゃ駄目よ。猫って言うのは本来デリケートで――」
「お姉ちゃんは説教をした……効果はいまいちのようだ」
「あのね」
さとりはジト目になってにらんだ。妹はどこ吹く風だ。
指の間に、絵筆をはさみ、片手のパレットに、ちょちょい、と色をくわえている。
描いている絵は、どこかの向日葵畑だ。
大きな向日葵が、満開に咲き誇っている。
「今日は地上に行ってきたの?」
「向日葵が咲いてました。あとにこにこ顔の妖怪が妖精をいじめてたらしい」
「ああ、それは今日行ってきたところなのね」
「そうですとこいしちゃんは言ったが、お姉ちゃんが見たところそれは嘘のようだ。もっとも本当のことを言っているかも知れないが、どっちみち判然とはしない」
「どっちなのよ」
「そういう曖昧な書き方をしておけば、深い意味があると勝手に勘違いをされそうになる」
「まるでわけがわからない」
「おねえちゃんは こんらん している!」
「……」
「今うわこいつうざいなと思っただろう」
「よくわかったわね」
そろそろ、相手をするのがしんどくなってきた。
さとりは、妹に背を向け、服のボタンを外した。
しゅるりと脱いで、寝間着を取り上げる。
かちゃちゃ、と、妹が筆を洗う音が響く。
「ねえ、こいし」
「なに?」
「最近地上にはよく行ってるの?」
「うん」
「そう」
かたん、と妹が筆を置いた音がした。
さとりは、寝間着を着終え、服をたたんで置いた。
「地上の――」
さとりは、妹のいたところを見た。
こいしは、いつのまにか姿を消していた。
「もう」
さとりはちょっと持て余し気味な顔になって、壁の絵を見た。
向日葵畑の絵が描かれてある。
そこに、こいしと手をつないださとりの姿が描かれていた。
あいかわらず、無愛想な顔で笑っている。
こいしたんのあまりの掴みどころの無さ、会話の秀逸さ、そしてすとんと綺麗に閉じるオチ。
貴方の古明地姉妹がもっと読みたい。
いやマジですごい。