満月の夜だ。
秋風の、湖の上を渡る、夜風の匂い。
レミリアはテラスにいた。
かちゃり、と、陶器の音が鳴る。
「どうぞ」
咲夜が置いた紅茶を手にとって、薫りを楽しむ。
夜風の匂いと溶けあって、鼻をくすぐる。
すう、こくん、と喉を通す。
甘くて苦い味わいが、舌に広がる。
レミリアはカップを置いて、月を見た。
紅茶に映りこみそうな、まん丸い紅い月を。
「ねえ、咲夜」
「はい」
「ちょっとお前の血を吸わせてくれない?」
レミリアは、何のけなしに言った。
咲夜は答えない。
ちょっと考えてから言う。
「お嬢様」
「うん」
「嫌です」
そっけのない答えを聞いて、レミリアはちょっとむくれた。
「嫌だって何だよ。ねえ、いいじゃないか。こんなにいい月の夜だもの。ね。今夜なら上手く吸えそうな気がするんだ。いいだろう? 吸わせておくれよ」
「駄目ですよ」
レミリアはむくれた顔で、咲夜を見る。
「ちぇ。なんだい。ちょっとくらいいいじゃないか。だいたいなんだよお前。駄目ですだの嫌ですだの。主人に向かってさ。まったく態度がなってない!」
「はいはい。至らぬメイドで申しわけありません」
「ちぇ」
テーブルに頬杖をつく。
レミリアは、むくれた頬で、そっぽを向いた。
「ふん。もういいや。咲夜。お菓子作ってよ」
「お菓子ですか? あら、申しわけありません。今からだと簡単なものしか作れませんけど」
「それで構わないよ。あ。なるべくならプリンが良いな」
「畏まりました」
うなずいて、咲夜は姿を消した。
レミリアは湖を見たまま、鼻先に風を巻いて、座っていた。
「ふん。なんだい。ちぇ」
満月の夜だ。
秋風の、湖の上を渡る、夜風の匂い。
レミリアはテラスにいた。
かちゃり、と、陶器の音が鳴る。
「どうぞ」
メイドが置いた紅茶を手にとって、薫りを楽しむ。
夜風の匂いと溶けあって、鼻をくすぐる。
すう、こくん、と喉を通す。
甘くて苦い味わいが、舌に広がる。
レミリアはカップを置いて、月を見た。
紅茶に映りこみそうな、まん丸い紅い月を。
「ねえ、パチェ」
「なに、レミィ」
「ちょっとあなたの血を吸わせてくれない?」
レミリアは、何のけなしに言った。
パチュリーはすぐに答えた。
「レミィ」
「うん」
「嫌」
そっけのない答えを聞いて、レミリアはちょっとむくれた。
「嫌って何だよ。ねえ、いいじゃないか。こんなにいい月の夜だもの。ね。今夜なら上手く吸えそうな気がするんだ。いいだろう? 吸わせておくれよ」
「嫌。噛まれるの痛いでしょ」
レミリアはむくれた顔で、パチュリーを見る。
「ちぇ。なんだい。ちょっとくらいいいじゃないか。だいたいなんだよお前。そっけなく嫌だのって。親友に向かってさ。まったく態度がなってない」
「はいはい。至らぬ親友で申しわけありません」
「ちぇ」
テーブルに頬杖をつく。
レミリアは、むくれた頬で、そっぽを向いた。
「ふん。もういいや。パチュリー。お菓子作ってよ」
「そういうのはメイドに言いなさいよ」
「たまにはあなたが作ってくれたっていいじゃない。あ。なるべくならプリンが良いな」
「嫌。明日にして」
パチュリーはすげなく断ってきた。
レミリアは湖を見たまま、鼻先に風を巻いて、座っていた。
「ふん。なんだい。ちぇ」
胸に、鎖で下げた懐中時計を指で撫でる。
もう動かない懐中時計を。
秋風の、湖の上を渡る、夜風の匂い。
レミリアはテラスにいた。
かちゃり、と、陶器の音が鳴る。
「どうぞ」
咲夜が置いた紅茶を手にとって、薫りを楽しむ。
夜風の匂いと溶けあって、鼻をくすぐる。
すう、こくん、と喉を通す。
甘くて苦い味わいが、舌に広がる。
レミリアはカップを置いて、月を見た。
紅茶に映りこみそうな、まん丸い紅い月を。
「ねえ、咲夜」
「はい」
「ちょっとお前の血を吸わせてくれない?」
レミリアは、何のけなしに言った。
咲夜は答えない。
ちょっと考えてから言う。
「お嬢様」
「うん」
「嫌です」
そっけのない答えを聞いて、レミリアはちょっとむくれた。
「嫌だって何だよ。ねえ、いいじゃないか。こんなにいい月の夜だもの。ね。今夜なら上手く吸えそうな気がするんだ。いいだろう? 吸わせておくれよ」
「駄目ですよ」
レミリアはむくれた顔で、咲夜を見る。
「ちぇ。なんだい。ちょっとくらいいいじゃないか。だいたいなんだよお前。駄目ですだの嫌ですだの。主人に向かってさ。まったく態度がなってない!」
「はいはい。至らぬメイドで申しわけありません」
「ちぇ」
テーブルに頬杖をつく。
レミリアは、むくれた頬で、そっぽを向いた。
「ふん。もういいや。咲夜。お菓子作ってよ」
「お菓子ですか? あら、申しわけありません。今からだと簡単なものしか作れませんけど」
「それで構わないよ。あ。なるべくならプリンが良いな」
「畏まりました」
うなずいて、咲夜は姿を消した。
レミリアは湖を見たまま、鼻先に風を巻いて、座っていた。
「ふん。なんだい。ちぇ」
満月の夜だ。
秋風の、湖の上を渡る、夜風の匂い。
レミリアはテラスにいた。
かちゃり、と、陶器の音が鳴る。
「どうぞ」
メイドが置いた紅茶を手にとって、薫りを楽しむ。
夜風の匂いと溶けあって、鼻をくすぐる。
すう、こくん、と喉を通す。
甘くて苦い味わいが、舌に広がる。
レミリアはカップを置いて、月を見た。
紅茶に映りこみそうな、まん丸い紅い月を。
「ねえ、パチェ」
「なに、レミィ」
「ちょっとあなたの血を吸わせてくれない?」
レミリアは、何のけなしに言った。
パチュリーはすぐに答えた。
「レミィ」
「うん」
「嫌」
そっけのない答えを聞いて、レミリアはちょっとむくれた。
「嫌って何だよ。ねえ、いいじゃないか。こんなにいい月の夜だもの。ね。今夜なら上手く吸えそうな気がするんだ。いいだろう? 吸わせておくれよ」
「嫌。噛まれるの痛いでしょ」
レミリアはむくれた顔で、パチュリーを見る。
「ちぇ。なんだい。ちょっとくらいいいじゃないか。だいたいなんだよお前。そっけなく嫌だのって。親友に向かってさ。まったく態度がなってない」
「はいはい。至らぬ親友で申しわけありません」
「ちぇ」
テーブルに頬杖をつく。
レミリアは、むくれた頬で、そっぽを向いた。
「ふん。もういいや。パチュリー。お菓子作ってよ」
「そういうのはメイドに言いなさいよ」
「たまにはあなたが作ってくれたっていいじゃない。あ。なるべくならプリンが良いな」
「嫌。明日にして」
パチュリーはすげなく断ってきた。
レミリアは湖を見たまま、鼻先に風を巻いて、座っていた。
「ふん。なんだい。ちぇ」
胸に、鎖で下げた懐中時計を指で撫でる。
もう動かない懐中時計を。