冬も終わりに近づいた如月の幻想郷。
終わりのみえない雪掻きもようやくせずに済むと村人達は浮かれ喜んでいた。
しかし、人里では奇妙な病が伝染し、人々の頭を悩ませていたのだった。
蓬莱の薬師を呼ぼうが人里の半獣を招こうがまるでお手上げであり、そうして博麗の巫女、霊夢にお鉢が回ってきた。
珍妙な帽子を被った頭をぺこぺこと下げる慧音に悪い気もせず、霊夢は呼ばれるがままに人里へと向かった。
ここだ、ここにいると慧音がフスマを開けて明かりを灯すと、そこには低い唸り声をあげる男の姿が目に飛び込んだ。
ははあ、これは獣の霊にでも取り憑かれたのねと霊夢があたりを付けると、早速お祓いの準備へととりかかった。
しかし、それから一時間。
何をしようにも男の体から霊が出て行く気配は無い。
八方手を尽くしてもまるで祓われぬその霊は、決して何か強大な力を持った怨霊などではないというのに。
はて、どういうことかと首を傾げて男を見詰めると、男は丸く開いた黒い瞳孔を霊夢に向け、涎を垂らしながら低い唸り声をあげる。
縛り付けられているというのに今にも縄を引きちぎり飛びかかりそうな男の気迫に、霊夢は生意気よと御幣で頭を叩き返す。
それからすっかり黙りこくってしまった男を見詰めてうんうん唸る霊夢の隣に、すかりと長い切れ目が入る。
途端、辺りに漂う禍々しい気配に、ははあ、彼女のご登場かと霊夢はそちらを睨みつける。
「紫、もしかしてあんたの仕業じゃないでしょうね」
紫と呼ばれた少女は扇子で口元を隠し上品に笑う。
「あら、失礼ですわね。私はただ忠告しに来ただけですわ」
「忠告?」
紫の言葉に霊夢は眉を顰めた。
すると、紫はやれやれと言わんばかりに首を振り、自らが沸き出たスキマを手に持つ日傘で差し示した。
「ほら、私のスキマを見てごらんなさい? 沢山の”目”が付いてるでしょう?」
霊夢が覗き見ると、確かにぱちりと開かれた無数の”目”が霊夢と視線を交わらせた。
「相変わらず気持ち悪いわよね。それがどうかしたの?」
身震いしながら言う霊夢に、紫は続ける。
「一つだけ確認させて頂きますわ。霊夢、貴女はその村人の目を見てしまったかしら?」
「ええ。まるで狐みたいな目だったわ」
霊夢の言葉を聞き終えた時、紫はその名と同じ色の瞳を一瞬大きく見開き、薄笑いの仮面を脱ぎ捨てていた。
「そう――藍、聞いたわね?」
「はい、確かに」
霊夢が彼女の隣に目をやると、そこにはいつから居たのか八雲紫の式が頭を垂れて、霊夢に恭しくお辞儀をしていた。
しかし、今問題なのは、式がいつ現れたか、ではない。彼女の発言の真意が何処にあるのか、であった。
「ちょっと紫、それどういう意味よ?」
「いえ、お気になさらず。それでは”お大事に”」
掴み掛かろうとする霊夢の腕をひらりと躱しながら、紫はスキマの向こうに消えていった。
その言葉だけを残して。
「全く……どういう意味よ……」
結局、八雲紫が何故、何の用でこの場に現れたのか霊夢には理解出来なかった。
だが、紫が消え去った途端、男は嘘の様に正気を取り戻し、霊夢に何度も頭を下げて礼を言い放っていた。
釈然としないながらも多額の礼を受け取った霊夢は、ほくほく顔で帰路に着く。
しかし、その途中である事に気が付いてしまった。
八雲紫が何故、男にではなく自分に”お大事に”と言ったのかを…………。
そうか、そう言う事だったのか。
彼女は一人納得したように頷くと血相を変えて神社に戻り、それから丸三日、博麗神社の結界を強化したのであった。
これは霊夢がその奇病を男から感染されたってことでいいんだろうか?
大きなお友達に気をつけろって意m(針
お手上げです、どういうことだったんでしょうか?;
狐は人の心のすきを突くと言うし、男には藍か狐が憑いてたのかな?
感染者の目を見た相手に移るのだろうか?
そういや感染者が一人しかいないのに伝染とはこれいかに、
一人が治ったらその数日後その人に接触した誰か一人だけに移ったのかしら。
ゆかりんが来て藍が現れたら男の病は治った訳だから・・・
いずれにしても妖怪の賢者殿は胡散臭いなぁ。
霊夢は「女狐」って事かな?