「あら、お嬢様」
「邪魔するわよ、明日休むって?」
「はい」
珍しい、咲夜が休むというのだから珍しい。
理由を聞きに私はこの部屋に来たのだが、咲夜は忙しそうにクローゼットを漁り、服やらなにやらを引っ張り出している。
「なに探してるの?」
「ええ、服を」
「みりゃわかるけど、いったい何のために」
「ありました」
私の発言が遮られた。
ようやく咲夜は目的の服を見つけることができたらしい。
「なにそれ?……ジャージ?あんたそんなのもってたんだ」
「美鈴が動きやすい格好だからと言って寄こしたんです」
「ふーん…」
「そういえば、明日どうして休むの?」
「ええ、実は、アリスにデートに誘われました」
「そうなんだ」
ジャージのサイズや汚れをチェックしながら、私の言葉に返事をする咲夜。
デートか、まぁ別に、本人達がそうしたいならそうさせるか。
「初めてじゃない?」
「はい、初デートです、さすがに私も少し緊張してしまって」
「まぁそうかもね、精々お洒落でもして……」
………ジャージ?
「咲夜あんた、もしかしてだけど」
「はい?」
「それ、着てくの?」
「ええ」
「……や、やめろ!」
ようやく、念願の初デートにこぎつけたであろうアリスからしたら。相手がジャージできたらショックで立ち直れない可能性がある。
咲夜自身に悪気がないとしてもだ。
大体なんでこいつはこんなに怖いもの知らずなんだ。
「どうしたんですか?」
「ジャ、ジャージって…まず貴女人前でそれを着る度胸があるの?」
「はい」
言い切ったよこいつ。
ならそうさせてみようとも思うのだが、こいつがこれ以上悪化していかないようにここで止める必要もある。
「ともかくジャージはやめときなさい、それを着るくらいなら貴女の普段の格好のほうがなんぼかいいわよ」
「えー」
「えーじゃない」
「でも、アリスから頼まれたんです」
「なんて?」
「普段着の貴女が見てみたいと」
なんとも乙女らしいセリフだが、言う相手を間違えたな。
「いやだから、普段着でいけばいいじゃない、ノースリーブとかあったでしょ」
「あまり肌を出さないで欲しいとも言われました」
「ふーん…」
「それに、どんなハードな動きをするかもわかりませんし、やっぱりここは動きやすい格好で望もうかなと思いました」
「そうね、それがいいわ」
「では」
「…いや」
そうはならない。
とりあえず止めよう、何か変わりになるような服を探すんだ。
小悪魔の服を借りればいいんじゃないか?どうせ何着も持ってるだろう。
「小悪魔のをですか?うーん」
「何か不満?」
「いえ、あのひらひらが動きづらそうで」
「あんた普段なに着てると思ってんだ」
「ともかくさぁ、ジャージだけは考え直しなよ」
「そうですか……?」
「うん、だってとにかくダサいもの、相手はあの大乙女アリス嬢よ?傷つくかもしれないわよ」
「………うーん」
「貴女だって傷つけたくはないでしょう」
「……」
咲夜はここまで言われては考えるのか、表情を落として手を止めた。
「………もし」
「……」
「もし、アリスが私の服装を見てがっかりするような子なら」
「………」
「私はアリスとの交際を諦めます」
「ーー」
言葉が出なかった。
咲夜は私なんていないかのように反対側を向いて手を仰ぎながら叫び始めた。
「私は外見だけじゃなく、内面も見てもらいたいんです!人は私がメイド服を着ているから誰かの従者なのだと勝手に決めつける!」
「いやそうだろ!」
「メイド服を着ていれば、その人物の上には誰かがいるんだろうと思い込む!そんなバカな!私は私だ、私は着替えを選ぶのが面倒くさいからメイド服をいつも着ているだけで、私はいつでも誰かを敬って慕って下手にでるつもりはない!!」
「おいおいおいおい!」
「あ、お嬢様方は別です」
くるっとこちらを振り返ってちょっと付け足しやがった、ムカツク。
「これは賭けです、もしアリスが私のメイド服を愛していたなら、そこまでの話です」
「………」
「お嬢様、こんな私をお許しください」
「え、あ、いや別に」
「そして、私が無事に帰ってくることを祈っていてください」
「はい」
なんて面倒くさいやつだろう、まぁ、同時にそこが魅力でもあるんだが…
面白い一面を見れたな。
私、アリスマーガトロイドは賭けに出た。
そして第一の賭けには勝った、咲夜を初デートに誘うことができた。
次は第二の賭け、咲夜の気持ちを確かめる為の諸刃の剣だ。
今私は咲夜が私の家にくるのを待っている。もうすぐ来てもいいころだ。
普段のドレスは置いておいて、今日は一風変わった格好をしてみた。
すさまじいダサさを誇る、トップとボトムが同一色彩配色のジャージと呼ばれる衣服だ。
こんなものを着てデートに望むものなどまずいるまい。いくらちょっと頭のネジが曲がってる咲夜でも驚くだろう。
そのとき、咲夜がこんな格好でもかまわないと言ってくれるのを期待している。
もちろん緊張はしているが、不覚にも着心地がいいこの服のおかげで平静を保っていられる。
そしてついに現れた、私の恋の相手が。
「………?!」
「あら…?」
「え、ちょ……なによその服……ってか、え!?なにこれどういうこと!?」
「アリス、なにを慌てているの」
いつもの穏やかな表情で私を諭す咲夜、でも取り乱さずにはいられないだろう。
だって、咲夜は私と同じ服を着ているんだぞ。
なにが悲しくて初デートにジャージなんて着てくるんだこのメイド、絶対いつもの格好で来ると思って私は……
私は………?
私はなにやってんだ!?
「ごめん!着替えてくる!」
「待ちなさい!」
普段着に着替えようと家の中に逃げようとしたが、咲夜に腕をつかまれた。
そして据わった瞳で私に言った。
「嬉しいわ、私たち気が合いそう」
「………あの、これは…」
「貴女もジャージマイスターだったのね」
「はい?!」
「正直ほっとしたわ、こんな格好で呆れられるかもしれないと思ってたけど………本当によかった」
ジャージを着ているとはいえ、咲夜はいつもどおり咲夜だった。
何の意図でこんな服を着てきたのか知らないが、私の変な格好を見ても顔色一つ変えず傍に寄ってきてくれた。
少なからず私もほっとしてしまった。ジャージだけど。
「じゃあ、咲夜……お茶、飲んでく?」
「いいえ、せっかくのデートなんだから、里のほうまで出ない?」
「それは勘弁!」
.
「邪魔するわよ、明日休むって?」
「はい」
珍しい、咲夜が休むというのだから珍しい。
理由を聞きに私はこの部屋に来たのだが、咲夜は忙しそうにクローゼットを漁り、服やらなにやらを引っ張り出している。
「なに探してるの?」
「ええ、服を」
「みりゃわかるけど、いったい何のために」
「ありました」
私の発言が遮られた。
ようやく咲夜は目的の服を見つけることができたらしい。
「なにそれ?……ジャージ?あんたそんなのもってたんだ」
「美鈴が動きやすい格好だからと言って寄こしたんです」
「ふーん…」
「そういえば、明日どうして休むの?」
「ええ、実は、アリスにデートに誘われました」
「そうなんだ」
ジャージのサイズや汚れをチェックしながら、私の言葉に返事をする咲夜。
デートか、まぁ別に、本人達がそうしたいならそうさせるか。
「初めてじゃない?」
「はい、初デートです、さすがに私も少し緊張してしまって」
「まぁそうかもね、精々お洒落でもして……」
………ジャージ?
「咲夜あんた、もしかしてだけど」
「はい?」
「それ、着てくの?」
「ええ」
「……や、やめろ!」
ようやく、念願の初デートにこぎつけたであろうアリスからしたら。相手がジャージできたらショックで立ち直れない可能性がある。
咲夜自身に悪気がないとしてもだ。
大体なんでこいつはこんなに怖いもの知らずなんだ。
「どうしたんですか?」
「ジャ、ジャージって…まず貴女人前でそれを着る度胸があるの?」
「はい」
言い切ったよこいつ。
ならそうさせてみようとも思うのだが、こいつがこれ以上悪化していかないようにここで止める必要もある。
「ともかくジャージはやめときなさい、それを着るくらいなら貴女の普段の格好のほうがなんぼかいいわよ」
「えー」
「えーじゃない」
「でも、アリスから頼まれたんです」
「なんて?」
「普段着の貴女が見てみたいと」
なんとも乙女らしいセリフだが、言う相手を間違えたな。
「いやだから、普段着でいけばいいじゃない、ノースリーブとかあったでしょ」
「あまり肌を出さないで欲しいとも言われました」
「ふーん…」
「それに、どんなハードな動きをするかもわかりませんし、やっぱりここは動きやすい格好で望もうかなと思いました」
「そうね、それがいいわ」
「では」
「…いや」
そうはならない。
とりあえず止めよう、何か変わりになるような服を探すんだ。
小悪魔の服を借りればいいんじゃないか?どうせ何着も持ってるだろう。
「小悪魔のをですか?うーん」
「何か不満?」
「いえ、あのひらひらが動きづらそうで」
「あんた普段なに着てると思ってんだ」
「ともかくさぁ、ジャージだけは考え直しなよ」
「そうですか……?」
「うん、だってとにかくダサいもの、相手はあの大乙女アリス嬢よ?傷つくかもしれないわよ」
「………うーん」
「貴女だって傷つけたくはないでしょう」
「……」
咲夜はここまで言われては考えるのか、表情を落として手を止めた。
「………もし」
「……」
「もし、アリスが私の服装を見てがっかりするような子なら」
「………」
「私はアリスとの交際を諦めます」
「ーー」
言葉が出なかった。
咲夜は私なんていないかのように反対側を向いて手を仰ぎながら叫び始めた。
「私は外見だけじゃなく、内面も見てもらいたいんです!人は私がメイド服を着ているから誰かの従者なのだと勝手に決めつける!」
「いやそうだろ!」
「メイド服を着ていれば、その人物の上には誰かがいるんだろうと思い込む!そんなバカな!私は私だ、私は着替えを選ぶのが面倒くさいからメイド服をいつも着ているだけで、私はいつでも誰かを敬って慕って下手にでるつもりはない!!」
「おいおいおいおい!」
「あ、お嬢様方は別です」
くるっとこちらを振り返ってちょっと付け足しやがった、ムカツク。
「これは賭けです、もしアリスが私のメイド服を愛していたなら、そこまでの話です」
「………」
「お嬢様、こんな私をお許しください」
「え、あ、いや別に」
「そして、私が無事に帰ってくることを祈っていてください」
「はい」
なんて面倒くさいやつだろう、まぁ、同時にそこが魅力でもあるんだが…
面白い一面を見れたな。
私、アリスマーガトロイドは賭けに出た。
そして第一の賭けには勝った、咲夜を初デートに誘うことができた。
次は第二の賭け、咲夜の気持ちを確かめる為の諸刃の剣だ。
今私は咲夜が私の家にくるのを待っている。もうすぐ来てもいいころだ。
普段のドレスは置いておいて、今日は一風変わった格好をしてみた。
すさまじいダサさを誇る、トップとボトムが同一色彩配色のジャージと呼ばれる衣服だ。
こんなものを着てデートに望むものなどまずいるまい。いくらちょっと頭のネジが曲がってる咲夜でも驚くだろう。
そのとき、咲夜がこんな格好でもかまわないと言ってくれるのを期待している。
もちろん緊張はしているが、不覚にも着心地がいいこの服のおかげで平静を保っていられる。
そしてついに現れた、私の恋の相手が。
「………?!」
「あら…?」
「え、ちょ……なによその服……ってか、え!?なにこれどういうこと!?」
「アリス、なにを慌てているの」
いつもの穏やかな表情で私を諭す咲夜、でも取り乱さずにはいられないだろう。
だって、咲夜は私と同じ服を着ているんだぞ。
なにが悲しくて初デートにジャージなんて着てくるんだこのメイド、絶対いつもの格好で来ると思って私は……
私は………?
私はなにやってんだ!?
「ごめん!着替えてくる!」
「待ちなさい!」
普段着に着替えようと家の中に逃げようとしたが、咲夜に腕をつかまれた。
そして据わった瞳で私に言った。
「嬉しいわ、私たち気が合いそう」
「………あの、これは…」
「貴女もジャージマイスターだったのね」
「はい?!」
「正直ほっとしたわ、こんな格好で呆れられるかもしれないと思ってたけど………本当によかった」
ジャージを着ているとはいえ、咲夜はいつもどおり咲夜だった。
何の意図でこんな服を着てきたのか知らないが、私の変な格好を見ても顔色一つ変えず傍に寄ってきてくれた。
少なからず私もほっとしてしまった。ジャージだけど。
「じゃあ、咲夜……お茶、飲んでく?」
「いいえ、せっかくのデートなんだから、里のほうまで出ない?」
「それは勘弁!」
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pixivの【だっさい文字Tシャツとジーパン企画】で咲アリ絵がありましたが普通にカッコ良かったですし。
次回のデートはハーフパンツかブルマでお願いしますねw
いいじゃんいいじゃん、お互いジャージで人里デートして、巷で噂のジャージ夫婦になればいいじゃない!
アリスは1サイズ大きめのジャージだとオレが嬉しい
内面をどうこう言う前にそれで人前に出る思考をどうにかせいw
HDDは南無三でした。
あと、タグの奇人と奇声は≒で結ばれますか?
>>11
実はこの奇人タグは咲夜さんが常軌を逸した発言や行動をするときにつけさせてもらってます
みなさんいつも感想ありがとうございます