【天狗の発行する新聞のコラムより抜粋】
(椅子が軋む音)
……ええ、こんにちわ。
ああ、別に天狗さんはお話しなくても結構ですよ。
その……えーっと、ぼいすれこーだーでしたっけ? それが正常に機能しているかの確認に気を使って下さって結構です。
だって、私は相手の心が読めるんですからね……ふふっ。
ええ、それでは……はい。今日は私の妹のこいしの事について……ですね。
成程、分かりました。お話しましょう。
あの子……こいしは、昔から大人しい子でした。
私よりもずーっと大人しくて、ペットの猫やカラスの世話をするのが大好きな……とても、心優しい子だったんです。
……信じられない、ですか。確かに、今のこいしとは全く異なるイメージでしょうね。今のこいしは「恋焦がれる殺戮」だの「ペットが欲しい」だの……その、かなりお転婆な子ですから。
でもね、それにはきっと原因があると思うのですよ。
……ねえ、天狗さん。
貴女は私のこの瞳をどう思いますか?
(さとり氏、胸元の第三の瞳を軽く触る)
…………ふふっ、やっぱりそうですよね。
「恐ろしい」「秘密が暴かれるのは、怖い」「正直言って、近寄りたくない」
それが正常な心と言う物です。
それが、普通なんですよ。だから私はそれが原因で気を悪くしたりはしません。
……けどね、こいしはそれに耐えられなかった。
他人に嫌われたくない一心で、相手にどんどん触れてしまった。
お世話がしたい。
お役に立ちたい。
お友達になりたい。
それが……昔のあの子の願いだったのです。
けれども、それは叶いませんでした。
だって……私とこいしは、さとり妖怪なんですから。
「近寄るな」「怖い」「気持ち悪い」「離れろ」「逃げろ」
数多の心の声は、オブラートに包まれる事無くこいしの心へと突き刺さりました……
そしてその結果、こいしは心の目を閉ざしてしまった……
ああ、ご存知でしたか。それは失礼。
そうでしたか。モリヤ……神社で、巫女の方と協力してこいしと戦った……
あの子、相変わらず掴み所の無い性格をしていたでしょう?
(記者、返答に困る)
……うふふっ。そんなに困らないで下さいな。
姉である私だって、あの子の掴み所の無い性格には手を焼いているんですよ?
赤の他人、当時初対面だった天狗さんがあの子の性格を掴んでしまったら、姉の面目は丸つぶれです。
……ええ、そう。
さとり妖怪である私の力を持ってしても、あの子――こいしの心は、依然として分からないまま。
昔は、優しい子だった。
太陽みたいにキラキラ輝いていて……明るくて、快活で、本当に愛おしい妹でした。
でも、今は……正直な所、分からないんです。
私は、妹が分からない。
……不思議でしょう?
さとり妖怪で、血の繋がった姉妹だと言うのに……あの子の事が、全く持って分からない。
だって……昔のあの子と今のあの子を見ていると、それが到底同一人物であるとは考えられないのですから。
……「女の子は成長する物です。思春期は特にそう」ですか。
それなら良いのですけれど……ねぇ……
(さとり氏、数秒目を閉じて何かを考えている様子)
……たまにね、嫌な夢を見るんですよ。
あの子が瞳を閉じた瞬間から、「古明地こいし」はどこか遠い所……
そうね。例えば、地霊殿のさらに地下に秘密の隠し部屋があって、そこに幽閉されているんじゃないかって。
今の私達が「古明地こいし」だと認識しているのは、こいしではなくて「こいしに化けた何か恐ろしい怪物」なんじゃないかって……
そう、思うんです。
だから、私はあの子の事が分からない。
だって、あの子は「古明地こいし」じゃあないのですから。
妹の皮を被った、何か恐ろしい存在。
さとり妖怪にも心を読まれない、そんな恐ろしいヨウ――
(記者、ボイスレコーダーの不具合を調整 三十秒程、録音が途切れる)
……あら、直りました?
そうねえ……それじゃあ、さっきのお話の続き。
あのこいしは偽者で、本物のこいしはどこかに閉じ込められている……あるいは、もう死んでいる。
そんな、嫌な夢を見るんですよ。
天狗さんは、ふっと思ったりしませんか?
もしかして、自分の家族や友人、部下や上司がいつの間にか「何か恐ろしい存在」に入れ替われているんじゃないか――って。
……ふふふっ、そんな怪訝な表情をしないで下さいな。
ただ、私は思いついた妄想、あるいは夢の話をしているのですから。
……そう、気を悪くしたら謝りますわ。
その……椛さん? あとにとりさん……白狼天狗と河童の方は、きっと天狗さんにとって大切なお仲間なのでしょうからね。
でもね……ひとつだけ、覚えておいて下さいな。
心の声を聞く私だからこそ、人の中身が見える。
外見はそのままでも、中身が入れ替わる。
そうね……比喩するなら、鬼のひょうたんの中にお味噌汁が入っている様な感じ……かしら?
(記者の笑い声)
……もう! 笑わないで下さい! 私は真剣なんですよっ!
……とにかく。天狗さんがジャーナリストであると信じてこの事をお話します。
最近、旧地獄で「味噌汁の入ったひょうたん」が増えているの。
ささいな事だけど……ううん。
ささいな事だから、親しい誰も気付かない。
心を読む私にしか分からない変化……
……もしかして、何か良くない事が起こっているんj――
(数秒のノイズ)
(ノイズの一部が、少女の笑い声にも聞こえる)
(何かが倒れる音)
(何かが引き裂かれる音)
オ
ね
エ ち
ャ
ン
ワ ス レ
ヨ ウ ね
(水音)
(何かが割れる音)
(ノイズ、収まる)
……あら? 今まで何を……
もうっ! お姉ちゃんったら何をしていたの?
あ、あら? こいし……? 今まで何処に――
そんな事はどうだって良い! それよりさっきまで誰とお話していたの?
ふ、ふぇっ? 誰とって……あら? 誰とお話をしていたのかしら……
もうっ。変なお姉ちゃん。
ご、ごめんねこいし……お姉ちゃんってば、疲れていたのかもしれないわ。
……ふふっ、別にそこまで謝らなくて良いよ。
それよりさ、私ってばお外で遊んでいたから、体が冷えちゃって……何か温かい物が欲しいなあ。
そ、そう? それなら、少し早いけど夕ご飯にしましょうか。
たまには二人、テーブルで向かい合って食べるのも悪くは無いでしょうし。
うん!
それじゃあ、えーっと……こいしは何が食べたいのかしら?
……そう。お味噌汁が飲みたいのね。
分かったわ。お姉ちゃんがとーっても美味しいお味噌汁、作ってあげる。
わーい!
私、お姉ちゃんの作ってくれるお味噌汁だーいすき!
あらあら。そんなに期待されているのなら、頑張らないとね。
(録音テープの残量が僅かである事を示す警告音)
わっ!? びっくり!
そう言えば、さっきまで鴉天狗さんがおられた気が……
ふーん。そうなんだ。
それはそうとさ、お姉ちゃんどうして私の食べたい物――
(録音終了の音)
(録音可能時間を越えた後、テープを回し続けるとノイズが発生)
(ノイズの中に、何かが聞こえる)
オ 味 噌 汁
イ ダ
タ キ
マ ス
(今度こそ、テープの再生が終了)
話としては少々オチが弱めですがホラーなのでこれなこれで不気味さを出せていると思います。
にしても不意打ちのホラーだった。
ちゃんと話が理解できればもっと楽しめるのでしょうが、私にはよく分からない部分が多かった…読解力の無い自分が憎いorz
あと、怖いの嫌だーって人もいるかもしれんから、ホラータグはつけた方がいいんじゃないかな。
まぁ、ともあれ発想が面白い話だった。
文の変貌
悲鳴
ロボトミー…?
さとりも「何者か」に成り変られてしまった・・・?
さらに言うなら、味噌汁ってつまり○○の味噌を使ったんですね・・・その後遺症で奇行か・・・
コメントをD&Dして読んで、なんとなーく想像できてしまった・・・
隠している部分が多いものの、臭わせている要素はかなりありますね
うん。素直に怖いです…。
古明地さとりは、何者かによって「古明地こいしは心を閉ざしたと思いこまされている」。
さとりは、たまに「本物の古明地こいし」の事を思い出すことがあるけれど、
その度に何者かによって忘れさせられている……?
そんな事をする怪物の正体は、本物の古明地こいし?それとも別の何か?
などと想像してしまいました。
ホラー調ではあったが肝心の恐怖心を煽る効果が色にしか無い。内容もネタ的で怖くないし。さしずめ出汁の入ってないお味噌汁と言った所か。
深読みして良いのかしら、これは。
……いや止めておこう。