人が寝静まり、妖怪が星を見て笑い合うような時刻。
人里の近くに立つ命蓮寺の一室では、何やら二人の人物が話し合う声が聞こえていた。
「ご、ご主人。もう少しやさしくして、はうっ」
「これでもやさしくしてるんですよ」
「そんな意図が感じられな、ひうっ」
この会話だけではなんとも怪しげに聞こえてしまうが、なんてことはない。
「ご主人。私は耳かきが苦手だと何度言ったら分かるんだい」
「まあまあナズーリン、そう言わずにおとなしくしていてください」
耳かきが行われているだけである。あしからず。
畳の上に寝転がり、星のひざに頭を置いているのはナズーリン。
そしてそんなナズーリンの右耳を掃除しているのが星である。
ほじほじと、たまに鼻歌を歌いながら楽しそうに耳かき棒を動かす星に対し、
ナズーリンは時折びくっと体を震わせていた。
「ご主人。私は耳がくすぐったいのは苦手だと前にも言ったじゃないか」
「そんなことを言っても仕方ないでしょう。こうしないと耳掃除はできないんですから」
そう言って耳かき棒を動かす。それに反応するように、はうぅ、と身をよじるナズーリン。
その様子は、普段の飄々としているナズーリンとは異なり顔を赤らめて不安そうな顔を浮かべている。
しかし、それには構わず耳かきを進めていく星。なぜか楽しそうにしているのは気のせいではないだろう。
そんな星の顔を横目で見ながら、ナズーリンが聞く。
「どうしてご主人は、私の耳を掃除するのが好きなんだい?」
そう、この耳かきは初めてではないのだ。
何か大きな出来事が起こったとき、例えて言えば聖が封印から解放された時や命蓮寺が新しく建立された時にも行われた。
そして大きな出来事が起こっていない時にも行われていたりする。
ナズーリンが星にご飯を作ったときや星が失くした物を見つけてきたとき。何もなかった一日の最後にも行われたりするのだ。
先ほどのナズーリンの問いかけに、それはですねと前置きを置いてから星が答える。
「好きだからしているんですよ」
ほんわかとした笑顔をうかべながらそう答える星。
「耳かきが好きなのかい?」
「……うーん。その問いの返事には困りますねぇ」
「なぜだい?」
一拍、次に言う言葉考えてから星が答える。
「この耳かきは感謝の気持ちも込めているんですよ」
「……感謝の気持ち?」
「はい。いつも私に付き添ってくれて、なくしものを見つけてきたり助言をしてくれたりしてくれる。
先のことでは大事な宝塔を見つけてきてくれたりしましたからね。それらに対するナズーリンへの感謝の気持ちです」
「従者が主人を支えるのは、当然だと思うんだが」
「それでも、私は恩返しというかそういうことがしたいんです」
「それで耳かきかい? できれば他のことにしてもらいらいんだが……」
くすぐったそうに身をよじりながら答えるナズーリン。
そんなナズーリンに対して、星はもう一度言葉を考えてからつづける。
「それと、もうひとつ意味がありまして」
「なんだい?」
「二人きりのときは出来るだけ近くにいたいなと思って」
「な!?」
「嫌でしたか?」
その言葉に、ナズーリン慌てては前を見ていた目を星の方向に向ける。
耳かきをするために膝枕をされていて横目で見る形になってしまったが、ナズーリンの横目にうつる星の顔は、なぜか不安そうに見えた。
ごくりと息を呑みこんで、パッと星から目をそらしてからナズーリンは答える。
「い、嫌なら大人しく耳かきされるわけ、ないじゃないか」
目をそらし、顔を真っ赤にしながらそう答えるナズーリン。
そんなナズーリンの言葉と横顔を受けとめて、星は嬉しそうな顔をする。
「本当?」
「も、勿論だとも。嫌なら受けるはずないだろう」
「それは、よかった」
そうして再び続いていく耳かき。
ほんの少しの無言が二人の間に流れたあと星が口を開く。
「それと、ナズーリンにお願いがあるんです」
先ほどの余韻が残っていたのか、言葉をかけられて少しびくっとなったナズーリン。
しかし、それをさとられないようにいつもの飄々さを心がけようとする。
「なんだい、ご主人」
「二人きりのときは名前で呼んでもらってもいいですか?」
「ほえ?」
その言葉にもう一度星を横目で見ると、またもや不安そうにしている星の顔があった。
(その顔は反則だろう!)
そう思うナズーリンではあったが、頭の中はぐるんぐるんと混乱していた。
真っ赤に染まっているであろう顔を、星からは見えないようにできるだけ俯いてから返事をする。
「ご。……しょ、星だって二人のときはその改まった話し方やめてくれないか?」
その言葉に、星はとても嬉しそうに笑った。
「うん。分かったわ、ナズーリン」
そのあと五分ほど耳かきは続き、その間中ナズーリンはずっと顔を真っ赤にしていて、星は嬉しそうににこにこしていた。
そして右耳の掃除を終わらせて、よし、と一言つぶやく。
「ナズーリン。右耳終わったから左耳出して」
「わ、分かった」
「そのままこっち向いてくれたらいいから。ね」
「あ、ああ」
そうして今まで眺めていた襖とはお別れをして、左耳を出すために星の体の方向に向く。
その途中、上を向くことになったナズーリンと、ずっとナズーリンを見ていた星の目がばっちりと合う。
にっこりと笑う星にナズーリンは再び顔を赤くする。
「あのね、耳かきをする理由にはもう一つあってね」
「な、なに?」
「耳かきをしている間、私しか見られないナズーリンが見られるからなの」
「! あうぅ……」
「好きよ、ナズーリン」
その言葉に、ぼふん、と顔を沸騰させるナズーリン。
そしてとても恥ずかしそうにしながら、顔を見られないように星のお腹に押しつけてぐりぐりし始めた。
「ひ、卑怯だぞ星。そんな風に言うなんて!」
「だって本当なんだもん。仕方無いじゃない」
「でも!」
「で、返事は?」
その言葉に、星のお腹に顔をおしつけながらぷしゅうという音を立てて止まってしまうナズーリン。
しかしながら、その両腕は星の背中にまわされていて、両手はギュッと服を掴んでいた。
そんなナズーリンの様子に星は、困っているような、それでいて嬉しそうな様子でふふっと笑った。
「仕方ないわね。じゃあ、左耳の掃除が終わってから返事を聞かせてもらいましょうか」
その五分後、耳かきが終りナズーリンと向き合ったとき、星は星にだけ向けられるナズーリンの顔と言葉を受けとることができたのだった。
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「ねえ一輪。あの二人、部屋が襖一枚でしか仕切られていないってこと、忘れてない?」
「えっとねムラサ。気持ちは分かるけど、とりあえずそのアンカーしまって」
甘い星ナズを読ませてくれて圧倒的感謝!
>>襖一枚
つまり命連寺に住めばこのやり取りがライブで楽しめるわけですねw
女の子な星がこんなに殺傷能力があるだなんて……
本当に耳から変な液が垂れてきてるんですが……
そして次は星さんが反撃にあうんですね……ちょっと命蓮寺に行ってきます。
きっと宝塔が見つかってこれでご主人様に喜んでもらえると思ったからだよ!
恋する女性はきれいだね!
そして! ふたりに! 殴られるまで! 出歯亀するのを! やめない!
マジで幻想郷に逝きたいと思い始めてる今日この頃。
耳かきの際には、耳に吐息を吹きかけてあげるんですよ!これ常識!
って星さんに教えてあげたい
もうニヤニヤが止まらんですよ!
ちょっともう命蓮寺に入居させてもらうしかない!