「見て早苗!ついに完成したよ!」
「何ですか?つまようじサイズの有人ロケット?」
「違う!大体、そんなサイズじゃ誰も乗れないでしょうが!」
「じゃあ、弁当箱型のミサイルランチャー?」
「それも違う!何だって私がそんな物騒なもの作るのさ!?」
昼下がりの守矢神社。境内を掃除していた早苗の元に現われたのは、発明好きな河童のにとりだった。
彼女は何か発明品が出来上がると、こうして早苗や文の元などに、披露しに向かっているのだ。いわば、小さな発表会である。
その度に、こうやってからかわれるのもいつものことだが。何だかんだ言いながら、彼女もまた楽しんでいるので、いいのだろう。
にとりは早苗に対してツッコミ疲れたのか、はあはあと荒い息を上げている。
「つっこんではあはあって、にとりさんはとんだエロガッパですね」
「誰がエロガッパだよ!?」
「冗談ですよ」
クスクスと微笑む早苗。
妖怪に対してこうまでマイペースを保てる人間すげえなどと思いつつ、にとりは怒鳴ると、大きなため息を一つ吐いた。
「もう。ちゃんと聞いてよ、早苗。今度のはすごい発明品なんだから」
「あはは、すみません」
おかしそうに笑う早苗を見つつ、つられたようににとりも笑う。
そして、鳥居の側に置いてあった発明品を、早苗の元まで運んできた。
「完成したのはこれ!ジャーン!」
そう言ってにとりが指差したのは、一見何の変哲も無い、大きめなキャンバス。
発明品と聞き、もっとメカメカしいものを想像していた早苗は、思わず拍子抜けしてしまう。
早苗は頭上に疑問符を浮かべつつ、にとりに問いかけた。
「これ、絵を描くキャンバスですよね?これが発明品なんですか?」
「ああ、そうだよ?」
「だって、どう見たって普通のキャンバスですよ……?」
難しい顔をして、キャンパスを見つめる早苗。
そんな早苗を見て、にとりは不敵な笑みを浮かべる。
「ふふん、分からないようだね?早苗」
「うーん、悔しいですけど分かりません」
お手上げとばかり両手を上げる早苗。
そんな早苗の様子を見て、満足したようににとりはうんうんと頷いた。
「よろしい。それでは実践してあげよう」
そう言って、にとりが取り出したのは一本の筆。
にとりはその筆で、キャンバスに向かって何やら球形を描いていく。
「きゅっきゅっきゅー、と」
「初代Q○郎とは随分古いですね、にとりさん」
「さあさあ、出来たよ!早苗!」
ボケを軽くスルーされ、少々凹む早苗。
そんな早苗だったが、描きあがったキャンバスを見て怪訝な表情を浮かべる。
「この絵……爆弾ですよね」
「そうだよ?」
「これが、どうかしたんですか?」
早苗の言うように、キャンバスには、それはもう見事な爆弾の絵が描かれている。
しかし、いかに見事でも、それだけでは発明とは到底言えないだろう。ただの絵である。
「もしかして、からかってます?」
「まあまあ、ちょっと待ちなよ」
訝しげに訊ねる早苗に対し、にとりはにやにやとした笑みを浮かべながら答える。
「待ちなよって、一体何が……」
そこまで早苗が言いかけたとき、ちょっとした異変が起こった。
突如キャンバスからがたがたという音が響きだしたのだ。
「え、あれ……?」
目の前で起こる現象に、驚愕の表情を浮かべる早苗。
それもそのはず、キャンバスからにとりの書いたものと寸分たがわぬ爆弾が、ごとりと音をたてて落ちて来たのだ。
ご丁寧にも、その導火線には既に火まで点されていた。
「ええ!?これ、もしかして、描いた物を実体化する装置なんですか!?」
「驚いた?描いたものの色、形、大きさを記憶し、それと同じものをキャンバスから出力する画期的な装置!その名も『描いたら出てくる君1号』!」
「か、描いたら出てくる君1号……」
そのネーミングセンスはともかくとして、たしかにこれはすごい装置だ。
今のにとりの言葉が確かなら、どんなものを描いても出てくるということなのだから、まさに夢の機械である。
発表すれば、喉から手が出るほど欲しがる輩は山ほどいるだろう。というか、既に早苗自身もすごく欲しいと感じていた。
「大発明じゃないですか、にとりさん!これはたしかにすごいです!」
「ふふーん、褒めたって何にも出ないよ?」
そう言いながらも、鼻を高くするにとり。褒められて、決して悪い気分ではないのだろう。
(実に、実に完成まで3ヶ月……長い道のりだった……!)
これまでの苦難を顧みて、万感の思いのにとり。
しかし、誰かの驚く表情を見れば、そんな苦難などは瞬時に消し飛んでしまう。
だからこそ、にとりは発明がやめられないのだった。
「それにしても、よくこんなの思いつきましたね」
感心したような様子でそう言う早苗。
絵が実体化するなど、外の世界ではよくあるアイデアだが、自分では中々出すことのできない発想でもある。
にとりは、よほど考えに考えてこの発想に至ったに違いない。早苗は、そんな風に思った。
しかしにとりは、早苗の言葉を否定するように言った。
「ああ、これ?構想自体は自分で練ったわけじゃないんだ。早苗のおかげだよ」
「私のですか?」
その言葉に驚く早苗。自身でこんな仕組みの装置を考えたことなど、一度も無い。
何がわたしのおかげなのかと考え込む早苗。するとにとりは、早苗に対して微笑みながら言った。
「早苗の家でやらせてもらったゲームがあったでしょ?」
「ファミ○ンのカー○ィのことですか?」
「そうそう。それでさ、こんなので攻撃してくる敵がいたじゃん」
「……ああ、ペイ○トローラー!」
にとりの言葉を聞いて、早苗も思い出す。
たしかに、あのゲームには、絵に描いたものを実体化して攻撃してくるペイ○トローラーというボスキャラがいた。
にとりはそれを見て、何とかこのキャンバスを実際に作れないかと考えたのだという。
「なるほど。それで最初に描いたのが、爆弾なんですか」
「うん、敬意を表す意味でもね」
「たしかに、あのボスはよく出してきますものね、爆弾」
早苗は納得したように一つ頷き、再び興味深そうに、まじまじとキャンバスを覗き込んだ。
「これ、生物は出せないんですか?」
ふと、早苗は気になった点を聞いてみた。本家の方では、ザコキャラも普通にキャンバスから出てくるのを思い出したのだ。
もし生物も産み出せるのだとしたら、それはもう色々な意味で問題になりかねないが、同時にあらゆる可能性も秘めてくる。
そういった機械に対するニーズも、決して少なくないはずだ。絶滅が危惧されている動物だって、救えるかもしれない。
しかし、にとりは首を横に振りながら答えた。
「生物は倫理的な問題もあるし、技術的にもさすがに難しいねー。動物の絵が描かれた場合は、その形を模した人形が出るようになってるよ」
「あ、そうなんですか」
「そのかわり、無機物には強いよ!何てったって、キャンパスに内蔵されたコンピュータに、あらゆるもののデータがインプットされてるんだから!」
その言葉を聞いて、首をかしげる早苗。どうも今一つ、話が見えてこない。
「? どういうことですか?」
「だから、このキャンバスから出てくるものは決して、ちゃちなおもちゃじゃないってこと。ベッドを描けばデータ通りにちゃんとふかふかのものが出てくるし、氷を描けば冷たいし、本物とまったく同じ性能をひめた物が出せるってことさ!それに……」
説明を続けながら、どうだ!と胸をはらんばかりのにとり。その鼻は、天狗もかくやというほどに高くなっていた。
よほどこの発明に自信があるのだろう。実際、1号機とは思えないほどの高い性能を、このマシンは秘めていた。
しかし「所詮は1号機だし、爆弾といっても大したことはないだろう」と高をくくっていた早苗は、その「本物と同性能」という言葉に青ざめる。
「……え?それって、つまり」
つまり、爆弾を描けば、きちんと爆発するわけだ。それも、本物とまったく同じ威力で。
シューっと嫌な音が、辺りに響き渡る。導火線は、もう根元の方まで燃えきっている。
その日、守矢神社からは、大きな火柱が上がったという。
ボールの使えなさは異常
『抑え切れない感情、コントロールできない衝動』
にとり大丈夫かw
ボス戦はカッターで遠距離からざくざくやるのが常套手段だったな
キャンバスに神社描いたら復元できるのかな。
阿求さん、これに一枚サニーを(ry
ファミコン版限定ですけれど……。
このお話を読んでたら久々にカービィをプレイしたくなりましたw