Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

君にもう一度会えたなら

2010/01/11 01:56:19
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 反魂の魔法。それは魔法使いにとって究極の魔法であり、最大の目標。だが、もし人々が反魂の魔法を好きに使うことが出来れば、幻想郷は即座に蘇った死者で埋め尽くされ、冥界からは人が消え去ってしまうことだろう。故に反魂の魔法は蓬莱の薬と共に最大の禁忌であり、罪。
 それでも私は反魂の魔法を完成させた。だが、完全ではない。私は彼女の魂の欠片を持っているから。私に出来たのは魂の器を作ること、そしてその器に魂を入れることだけだ。
 それは人形作りと変わらないことなのかもしれない。それでも罪なのかもしれない……どちらにしてももう関係無い。もう一度笑顔を見られるなら。ほんの刹那でも再び会えるなら、そして謝ることが出来るなら、私はどんな罪も罰も引き受けよう。
 私は科学の力を借りて作り上げた機械作りの体を見つめる。後は魔法を使ってこの石を、魂の欠片を入れるだけだ……また会えるよ。あの時から凍った時間がまた動き出すよ……私はあの時を、彼女の命を奪った瞬間を思い出しながら、そっと鉄の体に石を入れた。
 





 ……あの時の事は今でも鮮明に覚えている。





 何故? 何故? ナゼナゼナゼナゼナゼ? ぐるぐる、ぐるぐると私の頭の中をその言葉だけが回り続ける。でも、覆水は決して盆に返る事は無くて……溢してしまったのも私だ。アリス・マーガトロイドがあの子の命を奪ってしまったんだ。あの魔法が全てを奪ってしまったんだ。
 森から少し離れた平野。私は彼女を伴って魔法の研究をしていた。火の魔法なんて使い慣れていたはずだった。だけど私の手がほんの少しぶれた瞬間に……爆発が起きた。服はボロボロになった。魔導書は焼け焦げた。人形達は砕け散った。彼女も……。でも、服も魔導書も、人形だって所詮は魂を持たぬ無機物だ。そんなものは作り直せばいい。だけど魂を持った物は、そして魂を作り直す事なんて出来ない。何を呪えばいいのだろう? 己の力不足? 己の慢心? いや、何だっていい。全ては私の責任だ。

 二人で暮らし始める前の事を思い出す。沢山の人形に、物言わぬ人形に、糸がなければ動くことも無い人形に囲まれた一人ぼっちの生活。それが当たり前の生活で、それに不満の欠片も、満ち足りぬ物も一切が無くて。長い間それが当たり前だった。
 だけど、ある日魔理沙が来て……大事な物を。本当に大事だったはずの物を私に捧げてくれて……二人での生活が始まった。それまでの一人ぼっちの生活に比べれば本当に短かった生活だったけれど。
 そうだよね。また昔の生活に戻るだけなんだ。何も辛いことも苦しいこともない。私が思うがままに動く人形に囲まれた、一人での気楽で快適な生活。長い長い間、疑問なんて欠片も感じていなかった生活。

 なんだ、そう考えればどうって事は無いよね。ずっとそうやって楽しく暮らしてきたんだから。どうせ永遠なんてないんだし、それ以前に私たちは違う種族、違う生き物なんだから、私の方が置いていかれるなんてのは自然だ。何時か来るはずの別れの時がほんの少し近づいただけだ。
 そう思って私は忘れようとした。そう考えれば笑えるって思った。だけど、私の顔にはほんの少しの笑顔も出てこない。ただ涙がこぼれ落ちるだけ。
 出来るわけがない。私はもう幸せを知ってしまったから。二人で過ごすなんでも無い日々。それが幸せだった。それを忘れる事なんて出来るわけがない。あの輝いていた日々。私が粉々に砕いてしまった日々を忘れるなんて出来るわけがない。
 今でも目を閉じると、あの可愛らしい笑顔で私の事を見つめる彼女が見える気がする。だけど、涙の重さが私の瞼を開く。すると、現実の彼女が、もう笑ってはくれない彼女が、私の滲んだ目に映る。

「ごめんさない、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」

 私は彼女の亡骸にすがりつきながら叫び続けた。狂人のように叫び続けた。止まらない嗚咽と叫びに酸素が奪われ、私の頭がどんどん白くなっていく。そのまま意識が無くなってしまえればどれだけ幸せだろう? そして意識が永遠の闇に消えてしまえば。だけど、私の体は強いから。魔法使いの体は強いから、そうなってはくれなかった。
 ごめん、みんな。魔理沙。あの子。彼女。魔理沙。魔理沙。魔理沙。霊夢。パチュリー。小兎姫。神様。神様。神綺様。ミミちゃん。る~こと。紫。仏様。ぬえ。レミリア。エレン。くるみ。早苗。夢美。もう、一体誰に許しを請おうとしてるのかもわからない。それでも意識が消え去ってはくれない。嗚咽の中で次第に私は咳き込み始めた。力が抜け、私の体が崩れ落ちる。消えてくれない意識と共に。
 その時だ。崩れ落ちた視線の先でキラリ。と光る物を見た。白い石があった。それは私の涙で濡れ、涙が光を返して瞬いていた。震える手で、そっと、優しく掴んでみる。暖かかった。そして私にはその瞬間にわかった。これはあの子の魂の欠片だって。
 自律運動する人形を作ろうとしていた、人工の魂を作ろうとしていた私にはわかる。これは魂の欠片だって。彼女の体は壊れてしまったけど、ここにはまだ魂が宿っているってはっきりわかった。
 ……体を作り上げて、魂を入れ直してあげればきっと蘇る。それは反魂の魔法。冥界に行くべき魂を引き留める禁忌。でも、もう一度会えるなら。私は石を持つと、決して傷つかないように優しく、優しく持つと、家路へと付いた。深い悲しみと共に、だけどこの石が与えてくれた微かな希望と共に。彼女の残骸をうち捨てながら……




 
 長かった。本当に長かった。私が皆の前から姿を消し、禁忌に挑んでからどれだけが経ったのだろう? 魔法を学び、科学を学び。魔界へ、冥界へ、天界へ、そして、結局の所私に道筋を与えてくれたのは科学だった。科学の力があれば彼女の体を私は作り出せる。そう感じた私は住み慣れた森を、二人の思い出に満ちた森を離れ、皆の前から姿を隠し、ひたすら研究に没頭した。
 今、目の前には機械仕掛けの彼女の体がある。妖怪の山の奥深くで作り上げた人工の体だ。そこに私は魔法の力で再び魂を宿そう。 私は彼女の体を抱え、懐かしい家へ、二人で暮らした家に向かう。森に一歩足を踏み入れると化け物茸の匂いが、それが放つ瘴気が鼻を付く。森から離れ、機械が放つ油の中で科学と共に暮らしていた身には、かつては感じたこともない不快感を覚える。
 その不快感が、かつての私と今の私の距離を示しているように思えた。科学の力を借りて、禁忌の魔法を実現しようとする咎人。それが今の私。だけど瘴気の中を歩く内に、次第になんとも懐かしく、心地よく思えてくる。ああ、私はまだ魔法使いだ。魔法使いなんだ。
 そしてついに私は家の前に辿り着く。ドアを開けた。暗い、無言の部屋が私たちを出迎える。あの時と何も変わっていないように見える部屋が。だけど明かりを付けると、埃が随分と溜まっているのが見えた。埃の嵩が流れた時間を感じさせる。気がはやる。でも汚い部屋で再会なんてしたくない。私は丁寧に部屋を掃除すると、懐かしいベッドに、二人で夢を見ていたベッドに魂の無い体を寝かせる。

「……」

 入れよう。魂を。でも怖い。どうしよう? もし動かなければ? やりなおせばいい? ううん。違う。もう私には耐えられそうにない。これ以上一人ぼっちの時間を過ごすなんて。あの子抜きの時間を過ごすなんて。

「……行くよ」

 私は決心した。震える手で魂を。あの純白の珠を入れる。

「……」

 ああ、もし、いや、もしなんかじゃない。きっと起きる。絶対に起きる。必ず蘇る。そしてその時、私は最初に何を言えばいいんだろう? 「おかえりなさい」かな? 「おはよう」かな? 「ごめんなさい」かな? 怖いや。怖いよ。だって――あの子を殺したのは私なんだから。
 
「……」

 ……そして、私の目の前で起きたことはそれ以上に怖い、恐れていたことだった。死体が。いや、死んでもいない。ただの魂のない人形がベッドの上に横たわる。全身から力が抜ける。

「ねえ! 起きて! 起きてよ! 謝るから! 何度だって謝るから! 欲しいのなら私の命だってあげるから!」

 駄目だ駄目だ駄目だったんだ。私の魔法が駄目だったの? 科学が駄目だったの? 誰か助けてよ、魔理沙、パチュリー、白蓮。魔法を使ってよ。にとり。里香子。科学を使ってよ。

「起きてよ……一人ぼっちにしないでよ……もう耐えられないよ」

 私の涙が彼女にこぼれ落ちる。おとぎ話ならお姫様の涙で目が覚めて――ってなるんだろうけど、そんなに現実は甘くは――

「アリス!」

 ドン、という音と共にドアが開いた。そこには魔理沙の姿が合った。

「ごめん、魔理沙」

 ……私の涙は止まらない。出来ることはせめて、謝罪の言葉をかけるだけだ。

「明かりが付いてたからまさかとは思ったけど、やっぱり帰ってたんだな」
「ええ……さっき帰ってきたの」
「今まで何やってたんだよ! 急にいなくなって心配してたんだぜ?」
「河童の所にいたわ……」
「ああ、噂だけは聞いてた。でも手紙を送っても返事もこないし、河童の連中に聞いても口をつぐんでるしさ」

 魔法使いが魔法だけでは魔法を実現できなかった事に負い目があったし、それ以上に魔理沙への負い目が大きかったから。私は彼女の大事な物を壊してしまった。そしてそれを謝りもせず私は逃げていた。
 
「ごめんなさい魔理沙。私には無理だったみたい」

 反魂の魔法。それは私にはあまりにも困難な魔法だった。いや、元からそれは不可能な魔法だったのだろうか? 私は……あの子のいない現実から逃げるために、魔理沙に会うことから逃げるために、その時間稼ぎをしていただけだったのかもしれない。

「まあいいよ。話は後で、その前に預かり物があるんだ、ちょっと待ってな。家から持ってくるから」

 なんだろう? でも、魔理沙は出て行く前に、少し笑いを抑えるような顔をしていた。だから予感があった。奇跡の予感が。心臓の鼓動が高まる。破裂しそうなほどだ。もどかしい。本当にもどかしい。でも待った。待ち続けた。

「夢美からの預かり物だ。お前とミミちゃんがいなくなってる間にこっちに来てたんだよ。なんだっけな。制御チップ? よくわからんが、白い珠を持ってるだろう?」
 
 魔理沙が持ってきた物を見て私は息が止まりそうになった。それはとてもとても懐かしいあの子、あの子そのもの。

「あるわ」
「ええと、ここの蓋を開けてそいつを入れてくれ」

 私は緊張と期待で手が震えるのを必死に押さえながら、蓋を開け、珠を入れる。

「きゅーん」

 弱々しい声で、眠そうな声で……でも確実にあの子の物だってわかる声が聞こえてきた……

「……」

 声が詰まる。息が出来ない。

「黙ってる場合じゃないだろ? 最初に言うことがあるはずだぜ?」
「ごめんなさい、ごめんなさいミミちゃん!」

 叶った。私の夢が叶った。ミミちゃんに謝れた。ミミちゃんはまだとろん、とした目をしていたけど、私が大声で謝るのを聞いて次第に目が覚めてきたようで、私に目の焦点を合わせてきた。そして飛びきりの一発を食らった。

「きゅん!」

 見事な頭突き。金属製の頭突きは流石だ。

「きゅんきゅんきゅん!」

 二発、三発。息が止まりそうになる。なのにこんなにも嬉しい。またミミちゃんに会えた。それに、こんなに怒るミミちゃんは始めて見た。また新しいミミちゃんの一面が知れた。そして何発目の頭突きを喰らったか。ようやくミミちゃんの腹の虫も収まったようだ。

「頭突きくらいですめば上出来だな。お前の魔法で誘爆させられて粉々になったんだから」
「きゅん!」

 ミミちゃんが「そうだ」って調子で鳴き声を返す。

「きゅ~ん」

 そして「久しぶり」って調子の鳴き声を出すと、これで仲直りっていうように私の頬を撫でてきた。





「でも、まだ私がミミちゃんを持っててもいいの?」

 ようやく気持ちは落ち着いてきたけど、そうすると罪悪感に包まれる。何せ私はミミちゃんを爆破した身だ。

「私の家は物が多すぎて置き場がないんだよな……ミミちゃんは可愛いけど、結局マジックミサイルの研究には役に立たなかったし」
「でも……」
「今回は信管を抜いて貰ってあるから、多分そんなに危なくはないはずだぜ? どうせアリスは発射したりしないだろ?」
「うん……」
「それに自律人形の開発には役に立つはずだぜ。ミミちゃん自体そんなものだからな」
「だけど……」
「まあ、最後はミミちゃんの気持ち次第だけどな。どうだミミちゃん? お前はまだアリスと一緒に暮らしたいか?」

 そしてミミちゃんは私の足下に近寄ると、笑顔を見せながら飛び跳ねる。「うん」って返事以外にありえないような楽しそうな動きで。

「どうせ近所だ。会いたくなればいつでも会えるしな。なあ、ミミちゃん?」
「きゅんきゅん!」

 元々ミミちゃんを持っていたのは魔理沙だ。私は自律人形の研究のために無期限無返済で借りている身。最初はただの研究材料で……一緒に暮らす間に、いつの間にか家族のようなものになっていたけれど。

「で、だ。ミミちゃんに謝ったのはいい。でも私も言いたいことは山ほどあるぜ?」
「ごめんなさい……」
「借りてる物を壊したらまず謝るだろう? 普通?」
「謝ればすむ物じゃない気がして……治さなきゃ、蘇らせなきゃって……」
「体は簡単に替えが効くらしいぜ? 一応武器だから量産されてるらしいし。アリスは知らなかったのかもしれないけどな。まあいいさ、後でお詫びと共にたっぷり説教してやるから、お詫びはご馳走と飛びっきりの酒で許してやるよ、久々に三人で飲もうぜ? 説教を肴にな?」

 その魔理沙の言葉を聞いて私はまた泣いた。だけどそれは本当に嬉しい涙だった。また一緒にいられるんだ。家に帰っても一人ぼっちじゃないんだ。そう考えると嬉しくて涙が止まらなくて。
 魔理沙。あらかじめ謝っておくよ。ご馳走は作るけど、塩気が足りなかったらごめんなさい。だって……嬉しすぎて……涙が止まりそうにないから。
ミミちゃんは私のICBM!




遅ればせながら誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。
Pumpkin
[email protected]
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なん・・・だと・・・
2.名前が無い程度の能力削除
まさかミミちゃんが来るとはw
でもICBM爆発してアリス平気とか凄いな、確かICBMって核弾頭だったよねw
3.名前が無い程度の能力削除
し…心臓に悪いぜ…w
4.名前が無い程度の能力削除
ミミちゃんとは予想外すぎるww
5.奇声を発する程度の能力削除
まさかのミミちゃんwwwww
6.名前が無い程度の能力削除
ミミちゃんかわいすぎるwww
7.名前が無い程度の能力削除
ミミちゃんかいなwww
8.名前が無い程度の能力削除
大陸間弾道ミサイルなのにかわいい名前www
9.地球人撲滅組合削除
量産型だったのか!
それなら1つ欲しいですぜw
10.名前が無い程度の能力削除
なんか違和感があると思ったらそういう事かw

マスター、俺にもミミちゃん一体お願いww
11.ずわいがに削除
良い話……イイハナシダナー


誤字報告
>だけど瘴気の中を歩く家に