朝起きて
胸を撫でたら
直滑降
詠・れみりあ=すかあれっと
私は混乱した。
乳がなくなっていた。
えぐれたとかそんなグロテスクな状況ではないけれど、なんというか、なくなったのよ。
「元々あまり見受けられなかったような気がしますが」
「お黙りなさい従者。あなたより小さくとも私にだって……咲夜?」
「はい?」
いつの間にか背後に立つ私の自慢のメイド。けれど何かこう、ちょっと……嘘吐いたわ。全体的に大きく変わっていた。
その……
「咲夜。ちょっと訊きたいのだけど?」
「なんでしょう?」
「縮んだ?」
どう見ても、10かそこら。フランよりちょっと上? その辺ね。
「はい。私もお嬢様も」
即答ね。何がどうしたら縮むというのよ。
……? お嬢様も?
嫌な予感がして、腕を前へ突き出して見てみる。
短い。
「縮んでるわ!?」
「鏡見ますか?」
「映らないわ!」
「承知しております」
右手でこちらに向けようとした手鏡が背後にそっとしまわれる。
……忘れてたわね。鏡に映らないこと。
しかしそんなことはどうでもいいのよ。何故、私や咲夜が縮むという事態になったのかしら。
……まさか異変?
「咲夜。どうしてあなた縮んだ……じゃない。この事態を説明しなさい」
「えっとですね」
ちび咲夜が顎に指を添えて思案顔。なんか可愛らしい。
「妹様が吸収していきました」
「……えっと? フランが、何ですって?」
……何故フランが関わったというだけでこうも嫌な予感がするのかしら。
「なんでも、パチュリー様の所有していた魔法具を強奪なさって、それを好き勝手に使用されているとのことです」
……何故パチェの名前が出ると、こうも絶望的な気持ちになるのかしら。
「それ、どんな魔法具なの」
「それは私には」
「説明してあげましょう」
「あれ、パチュリー様」
パチェが沸いた!?
……パチェも小さい!
「あ、あんたまで小さいじゃない」
「そりゃそうよ。私が真っ先に魔法具の餌食になったんだから」
「あんたの所有物でしょうが」
「えぇ。失敗作だと思ってたのに、まさかちゃんと稼働するなんてね」
「あんたの製作物かっ!」
思わず手刀でツッコミを入れてしまう。
落ち着きなさい。まだパチェが何を作ったのかさえ判っていないのだから。
……大体判ってきたけど。
「で、一体何なのよ、その魔法具っていうのは?」
「端的に言うと、相手の年齢を吸収するものよ」
「……はい?」
「だから、相手の年齢を吸収して、自分の年齢にしてしまうっていう魔法具」
「なんでそんなものを作ったのよ」
不老のあんたが。
「だって、小さなレミィが見たかったから」
「パチュリー様。この咲夜、今日ほど感激したことはありません」
「鼻血止めろ馬鹿二人」
鼻血噴き出し始めた……
……舐めたいわ。
そんなことない。
鼻血よ? 汚いわ。
ちょっと舐めたいわ。
失せるが好い煩悩。
「まったくそんなしょうもないものを。なんだってフランもそんなもの持ち出したのかしら」
「甘いわ、甘すぎる。甘すぎるわよレミィ」
何故かパチェがやたら熱く否定してきた。
「考えてみなさいレミィ」
「何よ」
「幼女になった霊夢」
ブッ
「何故私から鼻血が!?」
「ね」
「偶然よ! 勝ち誇らないで!」
「お嬢様ったら素直なんですから。灼けちゃいます」
「違う、って咲夜は早く鼻血止めなさい」
と、咲夜が私の鼻をぐしぐしする。私はもう止まってるわよ!
まったく。みんな鼻血で実に紅魔館だわ。
……大丈夫。まだ美鈴とフランがいる!
「そういえば美鈴は?」
「門の所で本読んでたわよ」
「咲夜、すぐに美鈴を呼びなさい」
「かしこまりました」
一礼して咲夜がとたとた駆けて行く。
それからしばらくして、二人分の足音を響かせながら戻ってきた。
「呼びましたー?」
その美鈴は、頬を赤らめ、眼を潤ませ、はぁはぁと熱い息を吐いている。
そして、鼻血出してた。
orz
……なんで顔紅葉させてるのかしら。
「どうしたの、美鈴?」
「あ、えっと、縮んだ所為だと思うのですが、なんだかえっちなことに対する耐性が落ちてしまって刺激が」
「はっ?」
すると、咲夜がすっと本を出す。
「うっ!?」
表紙を見ただけで、もういいと私は遠慮した。
正直表紙を捲りたくなかった。いや、表紙さえ直視したくなかった。
……なんで白髪の爺様がマッチョダンディと裸でハグしてるのよ。
「やぁ、良い本でした」
「朗らかな笑顔でいうのは止しなさい」
しばらく目を背けてから、改めて美鈴の方を見る。
咲夜はまだ本を突き出していた。
ビクッ!?
「さ、咲夜、もういいわ。しまいなさい」
「いいんですか?」
な、なんかいつもと違って反応が鈍いわね。幼くなって、メイドとしての出来も下がったのかしら。
うぅ、その本は出来ることなら燃してほしいわ。
ズイッ
「ひぃ!?」
なんでこっちに突き出してくるのよその本を!
「見なくていいんですか?」
「いいのよ!」
更に突き出してくる。
なぜこんな嫌がらせを、と思って咲夜顔を見たら、瀟洒な、でもどこか悪魔じみた笑みを浮かべていた。
もしや、精神的にも幼くなったのだろうか。
「すみません。お嬢様が可愛くてやばい」
咲夜がやばい。表情が。あと肩を抱いてゾクゾクしてる様が。
「咲夜。自制って」
「無理っぽいです」
「諦めた!?」
うっとりと蕩けた獣の目。
まずい、捕食される。
「緊急回避!」
「くっ、上手く操れないのに!」
跳ねて逃げる。咲夜が本を拡げながら駆けて追ってくる。
最悪だこのいじめっこ!
だけど、待って。なんかおかしい。
なんで咲夜は時間を止めないの?
振り返ると、相変わらず咲夜は本を拡げながら走っていた。
「……ちょっと見ちゃったじゃない馬鹿咲夜」
時間を止めている様子はない。そういえば、上手くいかないとか言ってたわね。
もしかして、幼くなった影響で能力が弱ってるのかしら。
「お嬢様!」
咲夜が急接近してた。
「しまった!? 考え事に夢中で、くそ、美鈴!」
「はい?」
「あなたの本を回収なさい!」
「ラジャーです!」
ロケットスタートで咲夜に接近する美鈴。ちっこいのに速い。
うお、美鈴ってばちっこいのに乳が揺れている! こやつ何歳から乳なんて凶器を持っていた!
そしてあっと言う間に咲夜に並ぶと、その手からいとも容易く本を奪い取り、颯爽とその場で読み始めた。
……駄目な子。
「はぁはぁ……すみません、お嬢様。我を見失いました」
「冷静に見失うものね」
恐かったわ。この子は早く元に戻さないと私が危ない。
「それでパチェ。要するに、フランが私たちから年齢を奪ったってことね」
「そうなるわね」
なんでそんなことを。ま、面白がっているんでしょうね。
厄介だわ。
ん?
そういえばフランは?
「ねぇ、それで当のフランは?」
問うと、本から目を離さずに美鈴が挙手する。
「外往きましたよ」
「何ぃ!?」
あの子、外まで年齢吸いにいったのか。
まずい、霊夢に目を付けられる。
「パチェ、その魔法具、元の持ち主に年齢を戻すことは可能なんでしょうね」
「無論だわ。というより、あの魔法具が破壊されれば、一時的に年齢を転移しているだけだから、一瞬でご破算よ」
「なるほど。じゃあ、さっさとフランの持つ魔法具を破壊した方が良さそうね」
おいたが過ぎるのは見過ごせないわ。
保護者として、睨まれるのは面倒くさい、
「とはいっても、妹様がどちらに往かれたのか見当がつきませんが」
「道歩いていて、子供の多い道を進めばいいんでしょ」
「なるほど」
たぶん手当たり次第子供にしてるでしょうからね。
とか考えていたら、突然窓ガラスを突き破って闖入者現る。
「何奴!」
何故か時代がかった科白でナイフを構えるチビ咲夜。
威圧感ないけど。というか、ナイフが危なっかしく見える。投げて飛ぶのかしら。
現れたのは、長身に、似つかわしくないキツキツの服を着た金髪の成人女性。
……とか面倒なぼかしで書くこともなく、たぶんこれ、フランよね?
「……お姉様」
当たりの様子。
「……大きくなったわね」
フランは、とても大きくなってた。
乳以外が。
身長的に咲夜よりも上に見えるわ。なんというか、威圧感のある顔立ちだし、くそう、美人じゃない。
「お姉様……」
「フラン、あなた」
ジワッと、フランの目に涙が溜まる。
「な、なに、どうしたのよ?」
何事か判らず戸惑ってしまう。
なんだっていうのよ、まったく。
すると、突然フランは鼻をすすり上げ、大人っぽい顔に似合わず子供の様な泣き顔を見せた。
「な、なんなのよ!?」
「見て、お姉様!」
言うが早いか、もはやスポーツブラにしか見えない自分の服をガバッと捲り上げた。
「お胸これしか大きくならなかった!」
「捲るなはしたない!」
瞬時に近付いて、持ち上がった服を殴りつける様にしてお腹諸々を封印する。
すると、ぺたんと膝を折ってしゃくり上げ始めてしまった。
まったく、何だっていうのよ。
「こ、こんな大きさじゃ、子供産めない……うわーん」
フランのそんな悲鳴に、私たちは、頭の中が白んでいく錯覚しか覚えなかった。
……子供?
「「「「はいっ?」」」」
間抜けな声の四重奏。
すると、フランは熱っぽい目で、訂正、姉を慕う妹の目で私を見てきた。
「お、お胸大きくないと、お姉様の赤ちゃん産めないんだもん」
「知ってる? 吸血鬼って女性同士で子供作れないのよ」
「生憎と人間もです」
生態進化の果ては案外不便である。
「魔法使いは不可能を可能に」
「パチェ、あとで頬にキスしてあげるから黙ってて」
「………」
効果は抜群だった。
「あ、パチュリー様だけずるい! 私も、私も!」
「はいはい判ったから静かにしなさい!」
「………」
効果はry
「ふぅ。ねぇ、フラン。何でこんなことしてるのよ」
「あ、お姉様小さい……なにこれ、可愛い」
「姉の言葉を聞け」
我が道を突き進むやつが多過ぎるわ。
「フラン。あなた、何で」
「はっ!? 今まさに私がお姉様のお姉様!?」
「話聞こうよ」
意思疎通って難しいのね。
「お姉様……ごくり」
「なぜ唾を飲む音がこんなにも不穏当……」
キラリと光る猛禽類の視線を放つ妹がすっげぇ恐いわ。
「姉は妹を好きにしていいと私が決めたよお姉様!」
「私が姉よ!」
「うふふふふ」
「かなり恐い!?」
不敵な笑み。どろりとして欲望。
その全てが今妹より放たれている。
……こんなことなら、もっとわがままに振る舞って嫌われておくんだった。
「今からここの主は私なのよ! この館のものは私のものよ!」
「しまった、いつの間にか謀叛に!?」
欲望が加速するのは幼さ故だろう。
とか冷静に考えながら、ハッと気付く。
……この年齢差。もしかして、すごくヤバいんじゃないかしら。
「わーい、そうだお姉様、抱っこさせて」
ぎゃー! 案の定こっちきたー!
捕まってたまるか!
「デーモンロードウォーク!」
「逃さないんだから!」
瞬時に捉えられた!?
く、私の足がすごく遅い!
……それだけじゃない。フランの力もすごい上昇してる……!
「うぐっ、私もやっぱり力が落ちてる!」
「あははは、お姉様よっわーい」
このままじゃ勝ち目がない。どうする!
大技はなっても多分勝てないわよね。目くらましじゃ、屋敷出る前に捕まるだろうし。
ううん。
……あ、閃いた。
「……フラン。判ったわ」
「何が?」
きょとんとした顔された。
普段は可愛いのに、なんで年上ってだけでこんなに憎たらしく見えるのかしら。
「勝負しましょう」
「……いいよ。何の? 何で?」
多少考えてから返事するようにならないと、一人前にはなれないわよ。
「ここの主であるなら、相応の強さが必要だわ。だから、私たちはとフランとで戦うの。私にフランが勝ったら、好きにしていいわ」
食い付くように、とりあえず餌を撒いておく。
私が餌というのがとても不服なのだけど。
「ほんと!? なんでも言う事聞く!?」
「ええ」
……恐い。
背筋も凍るわね。
「じゃあやる!」
よっしゃ!
「じゃあ始めようか!」
気が早い!
「ま、待ちなさい。勝負は、そうね。明後日の夕刻よ」
「えー」
うん、予想通り凄い不満そう。
この子待つの嫌いだからなぁ。
「長いよ。一時間後でいいよ」
「勝負には作戦が必要よ。時間はいくらあっても足りないわ」
「どんなに考えたって、私が一瞬で勝つんだから変わらないのに」
すごい自信だけど……その通りでしょうね。
私じゃ勝てない。だから、フランが外で年齢を奪った奴らを仲間にしないと。
……慢心したフランを、数で押せるかどうか。
んー。頑張らないと。
「まぁ、様式美よ。いいでしょ?」
「うー……判った」
不承不承とはいえ、どうにか良い返事を引き出せたわね。
「あ、そうだお姉様。能力禁止にしようよ」
「……はい?」
「だって、運命操られたらどうしようもないもん。それはなし」
「そう。残念だわ。了解よ」
「やった」
考えてなかったわ。そういう手もあったのね。
でも、これは都合が良いわ。まさかフランの力を制限できるなんて。これで作戦の幅も広がる。
にんまり。
「さて。それじゃ、私たちはしばらく屋敷を離れるわね」
「えっ!? なんで、どこいくの! 私もついていく!」
私より頭上の瞳が、うるうると私を睨む。
あらやだ可愛い。
「それじゃ意味ないでしょうが」
「だって仲間外れは酷いよ! それに、みんな出て行っちゃったらご飯やお風呂やお八つはどうなるの!」
「ふぅ。いい? フラン」
しまった。そこまで考えてなかった。
偉そうに自分でやりなさいとか言うと、後でしっぺ返しが恐いわね。
んー。でも咲夜を置いていくのも。
……この横で真剣に本を読んでる美鈴で好いか。
「まぁ、仕方ないわ。えっと、じゃあ美鈴、フランの面倒を見てあげて」
「はぁい」
やる気のない挙手で応じた。
よしよし。
「うぅ。お姉様のこと洗ってあげたりしたかったけど……それは明後日の晩に持ち越し……」
「勝てたらね」
「負けるわけないもん」
ふふんと鼻で笑う。
実に吸血鬼らしいわ。
とりあえず大きめの服着せないと、格好がどうしようもないけど。
「ところでフラン。その身長と胸の為に、一体何人の歳を食ってきたの?」
「お姉様は、今まで買った豊胸器具の数を憶えているの?」
「買ったことないわ」
「じゃあ美鈴が買い集めたホモ本の数と総額」
「……それは絶対に知りたくないわ」
無駄な妹の言い回しが私の心を折る。
技かしら。それとも格好付けようとして失敗してるだけなのかしら。
「ちなみに本の冊数でいえば370,129冊ですが読んだ回数ならおよそ10,000,000回になるでしょうか」
「数えるなそんなもの! っていうか凄まじい!?」
「凄い、1日10冊ペースで100年を超える……」
計算した咲夜も戦慄していた。
「さて、それじゃ往ってくるわ。フラン、留守をよろしくね。美鈴。門番はお休みよ。しばらくフランの世話を見てあげて」
「了解です」
一時も目を離しやがらない。
……まぁいいわ。
「それでフラン。誰の血を吸ったのよ」
「えっとねぇ……内緒」
えへっ☆なんて笑いながらくすくすしてる。
教える気ないわね。仲間探す参考にしようと思ったのに。
……はぁ。まあいいか。足で探しましょう。
「それじゃあね、二人とも」
「いってらっしゃーい」
「お姉様。絶対に負けないからね!」
何故か咲夜とパチェは口を積むんだまま、手を小さく振って挨拶していた。
そうして私たちは紅魔館の外に出る。
はぁ、これからどうしよう。
「さて、二人とも」
「………」
「………」
沈黙。
……そういえば、なんか約束してたわね。
「もう喋っていいわよ、パチェと咲夜」
「有難うございます」
律儀に守ってたのね。
……後でキスするのか。ついでに血吸ってしまおう。
「レミィ。まずは仲間を集めるんでしょう。これからどこに往くの?」
「そうね。とりあえず、里にでも……いえ、博麗神社に往くわよ」
「ちっちゃな霊夢に会いたいんですね」
「判りやすいわね」
「ち、ちち違うわよ馬鹿!」
なんか漫画チックにどもった!
まぁ、見たいんだけどさ。
「それには私もご同行しますよ」
と、背後から羽をばたつかせた小悪魔が現れる。
例に漏れず、ちっさい。
「小悪魔……あなたも縮んでるのね」
「私たちには年齢という概念がないので吸収されなかったのですが、仲間はずれは寂しいので自ら縮んでみました」
「さすがは悪魔」
何故かパチェからお前もだろうというような熱い視線が。
……ちょっと違うわ。
「さて、それじゃ仲間を集めに往きましょう」
「よく考えると、小さくされた人じゃないと協力してくれないわけですよね」
「そうなるわね」
「ということは、弱体化した方ばかりになるんですよね」
「………」
不安が積もった。
見て見ぬふり。
大丈夫、私は勝てる。それだけは判っている。
だって。
「今回は私が主役だもの」
とはいえ面白かった。後編、待ってるぜ。
どうみてもおぜぅさまの負けフラグですね、わかりますwww
でも大丈夫。私は胸の大きい小さいが好き嫌いの判断基準ではなく、誰の胸なのかということが一番なのですから。
ですからどんな胸であろうと私はふらんちゃんの胸が世界で一番好きなのです。
後編楽しみにしています。
あと成人フラン見たい。
それが紅魔館!!!
成人フランのイラスト誰か描いてくれませんか?
お願いします!!!
>私たちはと
私たちと
ちょっとした図書館並みの規模ですがw
『紅魔館にはもう一つの図書館があった!!』とか題して射命丸が食いつきそうだw
後編待ってます!
お嬢様は自ら立てた敗北フラグさえへし折ってくれると信じています。
…………でもやっぱ無理かな…………。