早苗が此処、守矢神社に久々に帰って来たのは、私達が2人で洗濯物を干している時だった。
ちなみに早苗がいない今、家事は基本的に2人の共同作業となっている。
これはこれで満ち足りた日々だ。
それはともかく、今は早苗だ。
何かは知らないが、相談にのって欲しいとの事。
余程大切なことなのだろう、その表情は真剣そのものだ。
はて、その相談って何だろ?
円満な夫婦生活の秘訣とか?
そんなの愛よ。他にはない。
「うん、愛より必要なものなんてないわ、早苗。」
「いや、諏訪子? 早苗はまだ何も言ってないよ?」
「愛……ですか? でも愛だけじゃあ、その……子供は出来ませんよね?」
ちょっぴり恥ずかしそうに告げる早苗に、神奈子は顔を青くした。
何だか『予想していた悪夢が、現実のものになってしまった』みたいな、そんな絶望的な顔をしている。
ーん? 子供?
「だっ、駄目だ駄目だ駄目だぁ! 早苗!? お前にはまだ早過ぎる! それに私は霊夢との関係を認めた覚えは── 「ちょっと黙ってて、神奈子。」 ぐはぁ!」
何やら激昂して早苗の前に躍り出た神奈子の後頭部を、邪魔だったので私は地面に叩きつけた。
「そっかぁ! 子供かぁ……! やっぱり子供は欲しいよね!? 流石だよ早苗!」
どうして今まで思いつかなかったんだろう!
素晴らしい思いつきに私は年甲斐も無く興奮しているのを実感した。
そんな、喜びを隠し切れない私を目の当たりにした早苗は、置いてけぼりをくらったようにポカーンと口を開けていた。
ガバッ
しかし神奈子は私のたどり着いた答えに気付いたみたい。
血相を変えて起き上がってきた。
うんうん。永年連れ添っただけの事はあるね。
「諏訪子!? あんたまさか!?」
「神奈子……神奈子も子供……欲しいよね?」
私の両肩を押さえる神奈子の手は、何故か震えていた。
きっと歓喜に、だろう。そういうことにしておく。
「お、落ち着こう諏訪子! 子供なんてそんな急に──」
「欲しいよね?」
「…………い、イエス・マム……」
神奈子ったら泣くほど嬉しかったの? だったら最初っから素直にそう言えばいいのに。仕方ないな~神奈子は。
「あの~諏訪子様? その……出来るんですか? 子供。」
「ん? どうして?」
「だってその……雌しべと雌しべじゃあ普通…………。」
言いながら顔を真っ赤にして俯いてしまう早苗。
そっか、普通の人間ならそう思うよね。まだまだ早苗も常識に囚われてるって言う事かな。
しかし神の力を甘く見てもらっちゃぁ困るなぁ。
私が出来るといえば、出来るのだ。
それが未だに理解できていないであろう早苗は、どこか不安気だ。
そんな彼女を安心させてやろうと、肩にそっと手を置いて、私は諭すように言葉を紡ぐ。
「任せといて! 貴女達にも可愛い赤ちゃんを授けてあげるわ! 私が保証する!」
「ほ、本当ですか!?」
「でもね、早苗。焦ってはダメ。ものにはそう──」
一度言葉を区切り、私はチラッと後ろに控える神奈子を見つめた。
すると神奈子も私の熱い視線に気付いてくれたみたい。
薄く笑みを浮かべて答えてくれていた。
「──順序ってもんがあるのよ。」
そう。まずはお手本を見せてあげないとね♪
「あの……何だか神奈子様が青ざめて──あ、いえ何でも無いです。」
そうと決まったら早速準備。
ふふふっ、色々忙しくなるな♪
ルンルン気分な私は、何故か顔を引きつらせる二人を黙殺することにした。
後日──
「騙したわね、早苗。」
ある日のこと。
突然早苗に二週間泊まれる用意をしろなんて言われた。
もちろん理由を聞いたのだが、早苗から返ってきた答えは『心配は要りません……きっと霊夢さんびっくりしますよ?』だった。
てっきり私ってば、きゃっきゃっうふふな2人旅だとばかり思い、ホイホイついて来てみれば、向かっている先が妖怪の山の頂である事に、つい先程、気付いてしまったのだ。
「騙したなんて人聞きの悪い……私は何処へ行くなんて一言も言ってませんよ?」
「屁理屈言ったって私は許さないわよ? あんたんちに挨拶行くのだけは嫌だって、私あれほど言ったじゃない。」
ぶーたれる私に、先を飛ぶ早苗はどう思ったのか、その場に止まってこっちに振り返った。
見上げた早苗の表情はどこか浮かない顔だった──私の一番苦手な顔だ。
しかし今回だけは譲るまいと、意志を固くし、そっぽを向いて早苗を直視しないようにした。
「今回は……そういうのじゃないんで、安心して下さい。」
「……? 何にせよあの神奈子と顔を合わせてただで済むとは思えないわよ。」
私が挨拶に行きたがらない一番の理由は、親バカである神奈子に出会したら最後、どちらかが倒れるまで弾幕ごっことなるに決まっているからだ。
仮にも、そう。恋人の保護者だ。揉め事は起こしたくないというのも本音としてある。
第一面倒くさい。
「……その心配も無いですよ。」
……どうやら何か訳あり様子だ。
早苗の声に、いつものような元気が無い。
どうしても気になって、やっぱり早苗の表情を覗ってしまう。
「あの……霊夢さん? どうしても……嫌、ですか?」
──たく、そんな不安そうな顔見せられたら、嫌だなんて言えないじゃない。
それを理解せず、天然でやってるから性質が悪いったらありゃしない……。
仕方なく私は、瞳を潤ませて見つめてくる早苗の頭をそっと撫でてやった。
すると早苗は照れるように、はにかんだ笑みを見せてくれた。
ドキッ
「…………私を驚かせてくれるんでしょう? とっとと行くわよ。荷物で腕がつりそうよ。」
……目的地もわかったから、私は先行することにした。
別に、赤くなった顔を見せたくないとか、そんなんじゃない。
「……もう、不器用なんだから。」
「い、良いから行くわよ!」
「はい……!」
……悪かったわね、不器用で。
そんなこんなで到着した守矢神社。
当然のように待ち構えていた二神のありえない姿に、私は驚きを通り越して逃げ出したくなった。
「いっらっしゃい、婿さん。」
婿じゃない、巫女だ。
そんなたわいもない突っ込みを飲み込んでしまう程に、諏訪子の姿は異常だった。
「どう? 随分大きくなったでしょう?」
──なんせ妊婦である。身ごもっているのである。これで驚かない方がおかしい。しかし、それだけではない。
「本当だぁ。うわぁ……本当に出来るんですね。赤ちゃん。」
どこかうっとりした表情を見せる早苗に、諏訪子も目を細めて見守るような視線を送っている。
──百歩譲って、これはまだいいとしよう。何故こうなったかは分からないが、最初っから事情を知っていたらしい早苗なら当然こういうリアクションになるだろう。
しかし、普段なら既に何らかの嫌がらせを私に対して行っているであろう神奈子が、この場にいて言葉すら発しない。
──否、できないのだ。
私の目から見ても分かる。あれは不味い……!
端から見てミイラかと思ってしまう程に、神奈子はやつれていた。
正気を失ったかのような霞んだ目で、それでも辛うじて私を睨んでいる。
いや、その瞳からは何の意思も伝わって来ず、もはや睨んでいるのか、それとも何かを訴えているのか判別がつかない。
しかし神奈子はただ朦朧としている訳ではない。巫女である私だから見えているのだろう。
神奈子の身体から出ている霊気や妖気と言った類いの何かが諏訪子の身体──正確には胎児が居るであろうそのお腹へと注がれているのが見える。
そして、そんな神奈子を見て、私も漸くここに呼ばれた訳を理解した。
──す、吸われるっ!?
「‥………霊夢、さん?」
ビクッ!
すぐ後ろから、早苗の声がした。
──何時の間に回りこまれたのか?
私は戦々恐々としながらも壊れた人形のように、ギギギと音を立てながら首だけで振り返った。
すると当然、早苗と目が合う──
「…………霊夢さん…………?」
彼女の瞳は、眩しいくらいに輝いていた──。
純粋に私に期待を寄せている、そう思わせる輝きだった。
襲われるだなんて、勝手に被害妄想浮かべた自分が恥ずかしくなる程に……。
──早苗、ちょっとでも貴女を疑った私を許して。
「全く……仕方ないわね。好きにしなさい。」
あんなミイラみたいになるのは正直御免被りたいところだけど。
早苗のそんな姿を見るよりかは数倍マシなわけで。
……きっと大丈夫よね?
ほら、準備とかしっかりしとけば思ってるより辛くなかったりとかして。
ぎゅっ。
「早苗…………。」
私の不安を案じてくれたのか……気付けば早苗が私の震える手を握ってくれていた。
ああ……たったそれだけでどれだけ力強く思える事か……。
そうよ! 辛いのは私だけじゃないわ!
実際に子供を産むのは早苗なのだから、それでこそ公平ではないか。
……しかし、事実は考えている以上に無情だった。
「それじゃあ、遠慮なく。頂きます♪」
「……………………へ?」
思いの外、強く握られた早苗の手……いや既に何かの力が働いているかもしれない。
振りほどこうにも腕が全く言う事を聞いてくれない……!
まっ、待って! まだ心の準備が……!
しかし、時既に遅く──私は早速言葉を発する事すら出来なかった。
そして、徐々に暗転していく景色の中で私が最後に見たものは、満面の笑みを浮かべる早苗と、その影でほくそ笑む諏訪子の姿だった。
……これで終わると後味が悪すぎるので一応。
私達は無事、元気な女の子を出産できた──とだけ明記しておこう。
どうかその間のことは聞かないで欲しい……。
神の奇跡で生まれた子=「神奇」
紅白+蒼白=「紫」
でどうでしょう?
ヘルツ氏は立派な幻想人だ
すわかなの子供だけかと思ったらさなれいにも……熟年夫婦はともかく、さすがに二人にはまだ早すぎないかwww
最初から子供を作る前提なのであれば、それは人類史上最高の神聖な行為であります。何も問題ありません。その行為自体が目的であれば不純ですが。
子供を成長させるためには毎晩精(神)力を吸われるのですね。あの手この手で。以前は諏訪子様がエプロンをずらして迫ったりしてましたが今回も同じように諏訪子様と早苗さんが……しかし子供のためですから神聖な行為です。何も問題ありません。あれ?でも子供ができたのはわかりますが生まれるまでの過程がありませんよ? それに子供を作るまでは神の力でわかりますが、産むのはやはり普通に産むしかないですよね……? いえ、不埒な考えなどしていませんよ?! 神聖な行為ですから!!!
早苗さんの子供は「麗那」「玲奈」「れな・れいな」とか読みだけ取ってあえて漢字は別の字とか。
諏訪子様のほうも女の子なんでしょうか?「佳和子」「かわこ」「神乃子」「かのこ(神の子の意)」とか。難しい。
ご……誤字報告を……申し訳ありません。「心配は入りません」要りません「考えている以上に無常だった」無情だった
「皐月(さつき)」
皐月は、耕作を意味する古語「さ」から、稲作の月として「さつき」になった。
早苗を植える月「早苗月」が略され「さつき」になったという説もあるようです。
「皐」という字には「神に捧げる稲」という意味があるため皐月があてられたようです。
↑適当に調べてた辞書より抜粋
なんていうか神奈子様の娘としても早苗さんの妹としてもぴったりの意味かと。
次回子供が出てくるのも楽しみにしています。
「さおり」
神前に早苗と御神酒を供えて田植えが無事終了したことを感謝し,豊作を祈願する「さなぶり」。「さ」は「田の神」のことで「なぶり」は「昇り」が変化したものであり,田の神が天に昇るという意味です。それに対して、田の神が地上にお降りになるというのが「さおり」という言葉です。漢字は可愛いのがいろいろあるので私からは読みだけで。
二人の名前の意味を比較すると巫女さんチームが「皐月」で神様チームが「さおり」のほうがいいかもしれません。
ある意味双子のような関係になりそうな二人なので読み方も「さおり」「さつき」で語呂がよくてどうでしょう。
あと、ふと思ったのが巫女二人の子で「ふみこ」とか。安易すぎ。