家を建ててみた

幻想郷でもめったに人が寄り付かない鈴蘭畑。
幼い毒人形はそこに住んでいる。

ある時ふと閃いた。家を建てよう、と。
普段はお花畑の真ん中で、野宿である。
家を建てれば雨風雪も寒さも凌げる。
しかし、家の建て方など知らなかった。

「スーさんわかる？」

人形は虚空に問い掛ける。
返答はない。
沈黙をどうとったのか、メディスンは家を持っている人に聞きに行く事にした。わからなかったら人に聞く、当然の事である。

家を建てるなら素敵なのにしたい。ならばセンスの良さそうな人を選べばいいじゃない。
そういう訳で、メディスンは幻想郷を飛び回った。オシャレな家を目印に。

まず、メディスンのお眼鏡に適ったのは花の妖怪の別荘であった。
シンプルな木造建築。決して大きい訳ではないが、一人で住むには十分に広い。
煙突もあるからサンタクロースも困らない。
何より向日葵畑の中心で周囲に溶け込んでいる、それが大きかった。

とりあえずノッカーを鳴らす。
ガチャリと扉を開け、幽香が出てきた。

「あら、来客なんて珍しいわ。何か用かしら」
「家を建てたいの」

家を建てたい、で何故私の所へ来るのだろう
脈絡がわからない。話を聞くことにする。

「ところで、家ってどうやって作るの？」
「家の材料集めて、技術のある人に頼むとかかしら」
「技術のある人って？」
「里の業者とかかしら。私はうちの門番達にやらせたけど」
「門番に？」
「役に立たない奴らだけど、力仕事は得意なのよ」

要は力のある人に任せれば良い、とメディスンは納得した。
力あるなら幽香が一番、そう結論もする。

「んじゃ、幽香が作って」
「嫌よ。めんどくさい」
「作って下さい」

もう向日葵妖怪の心情は、めんどくさい、の一言につきている。

「そもそも何で私なのよ？」
「あなたの家はセンスがいいから、きっとさぞかし素敵な家を建てるんだろうなと」

誰でも褒められると嫌な気分はしない。
心優しい幽香さんなら尚更であった。
そうして、家を作る事になったのである。


やっぱり作るのが簡単な家がいいわよね、そんな訳で花の妖怪が用意した材料は藁だった。
藁を巧に使い素敵な藁の家が出来た。
イメージはモンブラン。
夕日がとても良く似合う。

「ありがとう。とてもアーティフルな優しそうな家ね」

優しいのは自然に対してだ。
幼人形はこの家をいたく気に入ったのである。


藁の家と聞くと、普通の人間なら吹き飛ぶだろうと予測がつく。
当然、幻想郷においても藁の家は吹き飛ぶものである。

鈴蘭畑に家ができてから半月程過ぎた日だろうか、幼人形が居ぬ間に、ネタ探し中の天狗がこの家を見つけた。
天狗はインタビューにと家に呼びかけたが、返事は無い。
居留守かと思い、手に持つ扇子で一扇ぎ。
ひとたまりもなかった。また、中には誰も居なかった。
そして天狗は何知らぬ顔でその場を立ち去ったのだ。


毒人形が帰って来ると、そこには家などは無かった。
あるのは藁のみ。
匠の技を持たない者には組み立てられない。
要はどうしようもない状態だった。

しょうがない。今度はもっと丈夫な家を建てよう。いや、建てて貰おう。

「また行って来るね。スーさん」

その声は鈴蘭畑に飲まれて消えた。


せっかくなので今度は前と違う家を建てたくなった。
そんな訳で再び素敵な家探し。
今回目にとまったのは、人形遣いの家だった。

ノッカーを叩き、声をかける。

「どなたか居ませんかー」
「あら、どちら様かしら」

と、人形遣いが出てくる。
出てくるなり顔をしかめた。めんどくさそうだ、と。

アリスとメディスンは面識はあるが親しいわけじゃない。
そんな間柄の人が来ると面倒事が起きるのだ。

「家が壊れちゃったから新しく作って欲しいの」
「けど、あなた人形じゃない。寒いのとか平気でしょう？」

人形遣いの台詞じゃないが、めんどくさかったのだ。

「いやいや、汚れは劣化の元だし、雨で中身が錆びるのよ」

さもありなむ、と人形師は納得した。やはり人形遣いは人形には甘い。

「で、どんな家がお望みかしら」
「前の家がいつの間にか壊れてたから、もっと丈夫な家が欲しい」
「ちなみに前の家の材質は？」
「藁」

人形遣いは全てを理解し、当然の如く木の家を建てた。
素材が生きた木造建築。
家具一式までセットで作られてるあたりに、人形師のささやかなこだわりを感じる。


「ありがとう。とてもナチュラルな温かみのある家ね」

新しい家に毒人形は大いに満足した。


たとえ木の家であってもちょっとの風位ではなかなか飛ばないもの。
いくら幻想郷でも木の家が簡単に壊れたら人々の生活がままならない。

しかし、藁の後に建てた木の家は壊れる。それは真実。
なぜなら、幻想郷での家が壊れる原因は風だけじゃないならだ。

白黒の魔法遣いが散歩してると、木の家を見つけた。
マスタースパーク。
築４、５日でその家は生涯を閉じたのだった。

白黒曰く、アリス作な感じがして、何か隠してありそうだったから。
反省の色は見えない。


メディスンはもう家を建てるのはよそうと思った。
家なんか持つから襲撃されるんだ。
だったら家なんか持たずに細々と生きていこう、そう決心した。


ある日、鈴蘭畑に一冊の本が落ちていた。
幼い毒人形はそれを拾った。
表紙には『三びきのこぶた』と書いてある。
人形はそれを読み法則に気づいた。
藁、木の順に家は壊されるのであると。
そして、その次に建てられる煉瓦の家は決して壊される事は無い、と。

「行って来るね！スーさん！」

力強い声が鈴蘭畑に木霊する。
毒人形は幻想郷最高の技術者を求めて出かけるのであった。

道行く人妖に尋ね回った結果、ある河童に辿り着いた。

「あなたが幻想郷最高の技術者ですか？」
「ええ。私こそが河城にとり。冷蔵庫から洗濯機までなんでも作ってみせるよ」
「家を作って欲しいの。煉瓦の家」
「わざわざ私に煉瓦の家を頼む、その心は？」
「要塞、よ。それこそ最強の、ね」

人形の口がニヤリと笑う。
河童の口もニヤリと笑う。

「面白い。その話乗らせて貰おう。お代は新型武装のテスト、要塞の防衛時のデータでいいよ」


要塞は国防時の要所を侵略から守る為に作られる。
この要塞は毒人形宅の守護が目的。侵略の危険性自体ほとんどない。
周りの毒の沼は攻め入る者の体力を一歩ごとに奪い、さらにはイペリットをはじめ各種ガスも揃えている。
毒を操るのだ。シトリニンからアフラトキシンまでなんでもござれ。
ベロ毒素って聞くとわくわくするよね。
効かぬ敵には銃火器で。河童が重機関銃を沢山用意してくれたので手数には困らない。
さらには工業用レーザーや山で発掘された機械人形部隊なども。にとりの技術力をなめちゃいけない。
そして、ささやかながら鰯の頭を門に置いた。

こうして鬼すらも突破できない素敵な要塞が完成したのだ。

しかし、メディスンの不安は拭いきれなかった。
『完璧』は存在しない。
保険に館を守る門番を設置しよう。そう考えた。

門番に選ばれたのは秋姉妹だった。
秋姉妹は門を守りきれば箔がつく。従って信仰は集まって当然と考え承諾した。
他にもっと良い所はありそうなのに。

こうして『完璧』に近い要塞が完成したのだ。


この要塞は出来るなり話題を生み、挑戦者が絶えなかった。
具体的には紅い悪魔や小鬼、唆された従者達である。
それでも陥落はする事はなかった。
そして、突破出来た者がいない事がさらに挑戦者を生む、と思いきや、すぐに飽きられてしまった。
ここの住民はいつもそうだ。
誰にも攻め入られる事自体無いならそれに越した事はないのだが。

しかし、メディスン達は守る側である。いつ何時攻められるかはわからない。
今敵が見えずとも半刻後には現れるかもしれない。
そんな思いから気を抜く事は許されないのだ。
まさに、見えない敵との戦いである。


要塞に誰も攻め入らなくなって半年程経った。
今日も毒人形は仮眠から醒めるなり哨戒をする。
こんな事なら家なんか建てるんじゃなかったな、そんな思いを抱きながら。

なんとなくイメージで書いてみたけど、要塞って何なんでしょう？

物資不足ってすごいですね。
重機関銃が幻想入りしてきたと堂々と書ける日はまだ先らしいです。

誤字修正しました。どうもです。