明けましておめでとうございます。
新年ですが、さして地霊殿に変わったことはありませんでした。
え?
年末?
ペットの毛を掃除する作業に追われていましたとも、ええ。
ああ、貴方はまったり遊んでいたと。
そうですか。
では、お年玉がビー玉になるトラウマをどうぞ。
そういう季節ですし。
旧都から、すごい酒気を感じます。
鬼どもが。
おかげで、里帰りしてるお燐とお空は二日酔いだ。
飲んでもいないのに。
旧都を横切って帰ってきただけ、らしい。
あくまで、本人曰く。
「まったく、お燐とお空は弱いなぁ」
けらけら笑いながら、酒をあおる我が妹。
見慣れないけど、何飲んでるのかしら。
「山の上の巫女から奪ってきた!」
不穏なこと言わないの。
ま、空を誘拐したからもっと取ってきてもいいわよ。
むしろ潰しても構わないわ。
で、何を飲んでるの?
「こっちがソルティードックでー、こっちがスピリタス」
その他、様々な壜が並ぶ。
ポン酒と違って、色々なデザインがあってそそられるモノがある。
空き瓶頂戴ね?
「飲んだらねー」
これだけの量、飲みきるには相当かかるわ。
私も、少し相伴に預かってみましょう。
「じゃあ、スピリタスね」
ありがとう。
ショットグラスとかいう、小ぶりの硝子容器に入れてもらった。
さて、味の……ほ……。
なにこれ。
匂いだけでくらっくらするわよ?!
「えー? おいしいのに」
美味しそうに飲むこいし。
これ、妖怪が溶解してしまうわよ……。
…………。
聞かなかったことにして、お願い。
「何か、お姉ちゃんが不穏なことを考えた気がするんだけど」
気のせいよ。
まさか、見たことがない壜全部がこうなんじゃないでしょうね……。
酒霊殿になっちゃうわよ。
鬼の巣窟とか、勘弁だからね?
「うにゅあああ……」
空、なんとか生還。
しかし、ここもまた地獄。
さっきのスピリタスの匂い、まだ残ってるわね。
はい、お水。
「重水?」
違います。
そもそも、何よそれ。
おもみず?
「おくうーあーそーぼー」
「こいし様、今頭痛がひどいんですが」
「世界は核の炎に包まれたごっこ」
「やります!」
やめなさい。
せめて、外でやりなさい。
私は、責任を取らないから。
「えーお姉ちゃんネグレクトー」
山の上の神社なら、巫女が好んでやりそうだからそっちを頼りなさい。
灼熱地獄が熱を持ったのに、これ以上火種持ってこないの。
こいしも、私と同じ程度の管理権限持ってるんだからね。
そもそも、貴女育児放棄されるような年でもないでしょうに。
「じゃあ、アレを準備して……」
「これは、ああして……」
聞いてない。
こいしとお空。
この二人、全く思考が読めないのだ。
何の計画を練っているのかは定かじゃないけど、間違いなく今は考え事をしている。
こいしは、相性か何らかの理由で仕方ないとして、お空の思考は意味不明なのだ。
山のあんちくしょうが埋め込んだ、八咫烏のせいかしら。
お空の思考に被せるようにして、よくわからない思考が見える。
これはもう、暗号ね。
まさか……お空は、これをわかっているのかしら。
だとしたら、もう私にはお空の心を読むことはできないわ。
さようなら、空の心。
こんにちは、よくわからない計算式。
狐のコンピューターをください。
「あ、今度お姉ちゃんに会わせたい子がいるの」
せんべい詰まった。
痛い痛い詰まる詰まるげっほっげほ。
どどどどどどどどいうことなのこいし?!
「どういうこともそういうことも、連れてくるだけだよ?」
おおおおおおお姉ちゃんそういうの許さないわよ!
「お空ー外いこー」
「はーい」
あ!
お空も、まだ三が日過ぎてないから行かなくていいのよ!
……行ってしまった。
本当に、地上を焼き尽くす気じゃないでしょうね……。
地底は、無事だろうけど。
あとで閻魔に怒られるの、私なんだけど……。
お燐まで上に行ったら、どうやって怨霊の管理をしましょうか。
今のところ、猫属のペットたちに任せてるけど。
人化できない子も多いから、死体運びは大変そうだし。
どうしましょう。
「「ただいまー」」
昼食の時間になったら、二人が戻ってきた。
多少焦げてるけど、怪我とかはなさそうで安心した。
「お姉ちゃんおみやげー」
こいしの手には、餡子や黄粉をまぶしたお餅。
包み布の色からして、紅白巫女が持たせてくれたらしい。
それも、結構な量。
「貴女たち、山に行ったんじゃなかったの?」
「いざ地上に行ったら、見事なまでに大雪」
「寒くて帰ってきました」
なるほど。
雪景色なんて、何年見てないかしら。
それはともかく、こんなにもらったならお返しをしないと。
死霊饅頭なんてどうかしら?
「お姉ちゃんお姉ちゃん、あっち人間」
あら、うっかり。
でも、おいしいわよ?
「トラウマになると思うよ」
残念。
じゃあ、クッキーでも焼きましょうか。
「クッキー食べるー」
貴女たち用じゃないわよ……。
「またたびっ!」
お燐起床。
いきなり、何喋ってるの。
読心。
……この子、欲望がはっきりしすぎて頭痛がするのよね。
寝起きとかだと、特に。
意識が覚醒すれば、それも収まるのだけれど。
「クッキー!」
「クッキー!」
はいはい。
こっちはこっちで、子どもかっていうくらいに眼を輝かせている。
……一応、貴女たちも旧い妖怪よね?
じゃ、早速つくりましょ。
「よーう地霊殿の! 呑ってるかーい!」
うわぁ。
酒気の塊が来ました。
速やかに帰ってください。
静かに年始を過ごしたいのです。
「そんな連れないこと言うなよう。呑もうぜ飲もうぜー」
「飲む飲むー」
すっかり出来上がっている。
こいしも乗らないの。
「めでたい時に、そんなこと言っちゃダメだよお姉ちゃん」
「お。妹のほうはよくわかってるな! 飲もう!」
星熊さんに酒を注がれ、注ぎ返すこいし。
スピリタス。
能力を使ったのか、すり返られたことに気づいていない。
互いにいい笑顔で、ぐいっと。
「あーおいしい」
こいしは、いい笑顔だ。
星熊さんは……。
「……」
す、座ったまま落ちた!
鬼が、酒に飲まれた?!
すでに、相当飲んでいたとはいえ酒に負ける鬼は初めて見た。
いや、あれは眠ってしまっただけか……。
ねえ、こいし。
「何?」
そのお酒、度数いくつあるの?
「えーと、九十六」
鈍角……。
せいぜい、直角の半分だと思ってた。
私も、まだまだ見立てが甘いわね。
とりあえず、布団を被せておいた。
何か、真っ白に燃え尽きたように見えるけど気のせいね。
「さとり様ー、外に潰れた鬼がくだまいてますよー」
ふっ飛ばしちゃっていいわよ。
特別に許可します。
「はーい」
力づくの時は、お空は本当に役に立つ。
洞窟が倒壊しない程度に、お願いしたいところ。
「お姉ちゃん、クッキー作るなら手伝うよ」
あら、珍しい。
じゃあお願いしようかしら。
姉妹で料理というのも、何百年ぶりだろう。
「じゃあ友達からもらった、このわからないものを」
やめてこいし。
「えい」
……何この黒い物質。
正体不明。
食べ物で遊んじゃだめって言ってるでしょう。
振り返ればそこには、
誰もいない。
……。
…………。
逃げたー!
こらー!
年明け早々、妹に鬼にと振り回される私です。
どうやら、今年も騒がしくなりそうです。
今年も、地霊殿をよしなにお願いいたします。
古明地さとり
了
もう鳥頭、とは呼べませんね。
>世界は核の炎に包まれたごっこ
洒落にならない遊びwww
正直、日本で飲む物じゃない
アレにはトラウマしかないしww
こいしちゃんの会わせたい子は…ぬえたん?
地霊殿組は設定の割りにこういうのが似合うから好きだ。