ある日私はふと思った。あれ、私ここに寝泊りしてる中で唯一何もしてないんじゃないかなって。
聖は今でもせっせと働いてるし、一輪は雲山つれてここの警備してるし、星は毘沙門天の代理やってて何だかよく分からないけど偉いし、ムラサはこの船のキャプテンだし。ナズーリンだって何か一生懸命探してる。
流石の私もこれではあんまりよろしくないと思って行動を始めることにした。
「一輪、一輪さ、警備やってるじゃん? その手伝いって要る?」
「んーっと、あんまり要らないわねぇ。ただでさえ平和すぎて困ってるところなのよ。まぁそれはそれでいいと思うんだけどね」
「まぁ、そうだよね」
最初は個人として動いている一輪を頼ってみたが、どうやら失敗のようだった。そもそも、聖を復活させようと思って行動していたとき以来、賊は愚か正式な弾幕勝負すらしていない程平和な命蓮寺だ。警備なんて一人でもいるだけ奇跡なんだろう。
気を取り直して私は星の元へと向かった。
「星? 星居る?」
「どうしました? ぬえ」
私は黙って星を見据える。うんうん。やっぱり何だかちょっと偉い風味のオーラを感じる。星はちゃんと毘沙門天の代理をこなしているんだなぁ。
「ねぇ、私って何だろう」
「はぁ。貴女が何か、ですか」
「そう」
うーん、と唸りを上げる星。何だかその動作にも何故か深い教養を感じる。それはやっぱり、ちゃんと役割があるからだと思う。肩書きもあるしね。
「あ、もしかして私をからかってます? 貴女は正体不明、そうなんじゃないのですか?」
「そうじゃなくてさー。こう、何だろう。例えば星なら毘沙門天代理、聖なら素敵な教祖様。一輪は警備役でナズーリンが探索する人。そしてムラサがキャプテン。そういうの」
「成る程。肩書き、仕事が欲しいのですか?」
「そうそう。話が早くて助かる」
そう、つまるところ私は仕事が欲しい。いつもならいたずらして、人が驚いているところを見て笑う毎日だったけど、この船に乗ってからはそれも自重し始めたから等々やることがなくなってしまった。暇だ暇だと贅沢な悩みを抱えていたところ、暇なのは私が何もしてないからだということを知った次第だ。
「私の下はナズーリンが大体なんでもこなしてくれるので、困ったことは無いですね。ナズーリンの手伝いとかならあるかもしれません。奥の部屋にいる彼女に聞いてみるといいと思います」
そう言われた私は星の部屋の奥にある襖を開けた。
そこにはナズーリンが既にこちらを向いて正座していた。私もそれに合わせるように、ナズーリンの前で胡坐をかく。
「はしたない」
「気にしない。で、話があるんだけど」
私がそう切り出したとき、ナズーリンが手を前に出してきてそれを止める。
「隣の部屋で話していたんだ。全部聞こえていた。私の方は鼠が沢山いるから手なら余っているほどだ。それよりも、ムラサに聞いてみたほうがいいだろう。ムラサはこの船の代表でもあるから、管理とかで大変な思いをしているかもしれない」
それは名案だ! と叫びを上げ、ナズーリンの言葉を全て聞き終わる前に部屋を後にした。
ムラサは自室でお茶を啜っていた。お茶漬けはおせんべい。美味しそうだったので私もちゃぶ台の反対側に座ると、おせんべいを一つ摘んだ。うん、おいし。ついでにムラサの手元に置いてあったお茶を飲み干す。
パコーンと、とっても澄んだ音が狭い部屋で反響した。
「いったいわねぇ」
「いったいわねぇじゃない。行き成り部屋に入ってきてなんです、その態度。無言のまま入ってきて、自分の飲み物を飲まれたら誰だって叩くでしょうが」
「いや、なんか命蓮寺の中で唯一こういうことが出来る相手な気がして」
あれ。今もしかしたら私はすごい大発言をしたのかもしれない。成る程、確かに命蓮寺の他の面子はこういうことを遠慮してしまうような、神々しさを持っている。でも目の前のムラサには平気でこういうことが出来る。私がするいたずらもムラサに対するものが圧倒的に多い気がする。
唸りながら星のときのようにムラサを見据える。
「な、何よ」
「もしかしてムラサ、キャプテン名乗ってるけど実は大したこと無い奴?」
パコーン。また気持ちのいい音が響いた。
「いったー」
「今度は嫌がらせ? 何なのよあんたは。って正体不明か」
重要なことを思い出した。
「そう、そこ! そこ大事よ、大事! 私は何?」
ムラサは露骨に嫌そうな顔をしている。
「何? 暴いていいわけ? 貴女弱っちゃうんじゃないっけ」
「そうじゃなくて、正体じゃなくて。ホラ、貴女なら例えば肩書きだけで特に何もやってないけどキャプテン」
パコーン。三回目の音が響く。痛い。
「えーっと、貴女はキャプテンでしょ? 星は毘沙門天代理で、一輪が警備員。そんな感じで皆働いてるわけよ。私だけ何にもやってないの。私は何? もしくは何かここで仕事無い?」
「無いわよ」
即答だった。
「正直ね、ぬえの言った通りキャプテンなんて本当にただの肩書きで何にもやってないの」
「じゃあ何で叩かれたの」
「むかついたから。で、言ったとおり仕事は無いわ」
私はすがるようにちゃぶ台の上に乗り出した。
「何でもいいからさ、何か困ってること無い? ちょっとした手伝いとか」
ここで仕事が無かったら次はいよいよ聖だ。あの人にこの話をしてもにっこり笑って、貴女は貴女のままでいいのよ。とか言われるだけに決まってる。
するとムラサはため息をついてしまった。
「全く。ここの妖怪達は皆堅い人ばっかりです」
「うん、そうね。だから私も少し学ぼうと思って」
「お酒の席では、聖は酔いが回ってきても変わらず色々なことに厳しいし、星はすぐに寝ちゃうし、一輪は何か暴走するし、ナズーリンなんて無口になっちゃうし」
「そうね」
「正直ね、お酒入って無いときでも、気を使わずに話が出来るのは貴女だけよ」
「そうなの?」
「だから、一生私の友達でいて。それがぬえが出来る一番の私へのお手伝いよ」
ムラサが普段見せないようなその顔を見た瞬間、私の胸が熱くなるのを感じた。
「え? 何、え? 告白?」
パコーン。顔を真っ赤にしながら叩かれた本日四発目は、やっぱり痛かった。
ムラムラぬえぬえ最高!!!!!
無茶しやがって…
つ[ポカリ]
恋人的友達のムラぬえ。素晴らしい。もっとやれ
この二人はお互いにただ一人、素で馬鹿言ったり出来る存在(いわゆる悪友?)だと思ってる。
ムラぬえ流行れ!
今更何を言ってますか。
ムラムラなぬえぬえまた見たいのでもう一度熱出してください。
いいですよね! いいですよね! 多分超仲いい。
>奇声を発する程度の能力様
布団から腕伸ばして書いていた状態で、立ち上がることも困難だったので病院には行かず仕舞いです。
ぬえムラでもムラぬえでもいいからもっと流行るといいと思います。
>3様
最高記録は41度1分でした。冗談抜きに死ぬかと。さらに独り身なので、本当危なかったんですよw
>4様
同感でございます。
>5様
恋人的友達、すなわち完全究極系距離感でございます。少年漫画に多くみられる距離感で、やはり少年漫画は素晴らしいものだな、と。
>6様
そう! それが大事です! そこそこそこです! 考えるだけでツボが刺激されます。
>7様
ありがとうございます。少し熱のテンションで書いてしまった部分もあるので、心配だったのですが、そのような言葉をもらえると嬉しいです。
>8様
完全究極系距離感です。最近ほんとにムラサとぬえの順位が駄々上がりしております。
>9様
何故気づかなかったのか。自分でも悔しいです。
いや、ほんと死ぬかと思ったので。やばい、熱やばい。でもあれか。熱に気づかされちゃいましたね。聖さん看病してくれるならいつでも熱出します。
>ずわいがに様
今でも心の病気でございます。もう歯がゆい距離感流行ってしまえ! と心から叫んでおります。