「・・・ん?」
ああ畜生眠いなあと思いつつも、文は頭上に何か気配を感じたので、眠気で重たい体を勢いと気合で起こそうとまだ良く回っていない頭で考え、実行した。せーの
ごちん、きゃいん。
「あいたたた・・・起きるなら起きるってちゃんと言ってくださいよー」
「わざわざそんな事言う奴なんていないって、あーまだ痛い・・・椛―、私のおでこ腫れてないー?」
「腫れてない腫れてない、大体たんこぶ出来てたってそんなん唾付けとけば治りますって」
「うがー!!」
「ちょ、文さん押し倒さないで。あ、痛い右腕極めないでたんまたんま痛いギブギブギブアーップ!」
おでことおでこの熱烈なモーニングキッスから、そのままくんずほぐれつの肉体言語で二人の休日は幕を開けたのであった。
「・・・で、何で人の頭の上にあんたの頭があったのか説明して貰おうか?」
「いや、本当は文さんの寝顔可愛いな~、と思って近くで見つめてニヤニヤしようとしたんですが、朝ごはん出来たから起こそうと思って」
「本音と建前が見事に逆で突っ込む気にもなれないわ・・・」
「寝顔可愛いってのが本音だから何も問題ないですよ?」
「~っ、この馬鹿犬!!」
とりあえず悔し紛れにニヤニヤしている椛をぽかぽかと叩いてはいるが、真っ赤になった顔でそんな事をしても何も解決はしなかった。寧ろ椛にとっては、涙目で真っ赤になっている文の姿は劣情を呼び覚ますのに十分な破壊力を持っていたのであった。
「全く、文さんったら朝っぱらから突っ込むとか卑わ・・・」
椛の脳内のギアがフルスロットルになる程度には。
「いっぺん死ね!このエロ犬!」
文が全力で投げた枕が椛の顔面にめり込む。今日も朝からこの二人は相も変わらず、バカップルであった。
馴れ合いもそこそこに切り上げて、文は正座でニコニコしながら待機している椛を部屋から蹴り出して寝巻きから着替え、そのまま表の水場で顔を洗って本格的な冬の訪れを実感してから、温かい朝食。ついでに椛の待つ居間へと向かった。
折角の休日の前夜だから、と百年以上と続いている後輩兼悪友兼その他いろいろな何かの家を訪れて酒盛りによる楽しい時間を過ごし、悪態を付きつつもこうやって朝からじゃれあえるのは我ながら幸せだなあ。と椛のよそってくれた温かいご飯を受け取りながらしみじみと文は実感していた。
「あー、朝ごはんとか食べるのすっごい久しぶりかも。ほら、自分一人だと作る気起きないし」
「文さんどんだけずぼらなんですか、というか朝ごはん食べないとお昼までにお腹空いて大変じゃないですか?」
「いやほら、そこは妖怪だから。朝ごはんどころか一週間食事無しでも問題は無いし、お腹は空くけど」
文の空になった茶碗をはぁ、とため息を付きながらも椛は受け取りお櫃の中身からご飯をよそってぶっきらぼうに突っ返した。
「はいはい妖怪凄い妖怪凄い。でもちゃんとご飯くらいは食べてくださいよ、妖怪とは言え健康的な生活をして貰いたいんです、文さんには。」
「も、椛の作るご飯だったら毎朝、いや毎食でも食べたいんだけどなー」
恥ずかしそうに顔を赤くしながらしどろもどろに答える文を見ながら心底意地の悪そうに、ニヤニヤしながら椛は返す。
「おお、朝のリベンジのつもりですか?こわいこわい。そんな台詞使わなくっても、家に来たらいつもご飯作ってあげてるじゃないですか。」
「な、・・・じ、じゃあ、今度からは私の家に作りに来てよ」
「嫌ですよ、文さんの家は紙とインクの匂いがキツいし散らかってて汚いし。あ、そうだあそこは完全に仕事場にして、文さんが私の家に住んだらいいんですよ。そうすれば毎日ご飯作ってあげますって。じゃあ文さんが家に嫁に来るって事で決まり・・・」
「ちょ、ちょっと待ったよよよ嫁に来いってななな何を言っていらっしゃるのですか椛さんそもそも嫁とか婿とかは異性同士の関係であってですね・・・あー、もー!」
文の精一杯の返答も椛のキラーパスによって悉く粉砕され、最早言語中枢すらまともに働かなくなって照れ隠しに茶碗の中身を物凄い勢いでかっ込み始め、卓上のおかずをさらい始めた文を見ながら椛は思った。
ああ、本当に文さんは何十年経っても初々しいなあ。ずっとこのまんまでいたらいいなあ、と。
「ほら椛、何ぼーっとしてんの。早く準備して出かけるわよ」
「って文さんどんだけ食べるの早いんですか・・・って私の魚も沢庵も無いし!!少しは感慨に耽らさせて下さいって!」
「意地糞悪い事聞いてくるから、天に代わって罰を下しただけよ。ほらほら、とっとと支度して。今日は人里に行って阿求の所で取材をしないと。記者たるものオンの日もオフの日も関係なく情報を集めなければならなんだから。」
朝食のおかずを掻っ攫っていった悪魔は、もう既にいつものマフラーと帽子を見に付けふんぞり返っていた。それを見た椛の中で、またむくむくと意地の悪い復讐心と、サディズム的な感情が芽生え始めた。
「まあ取材が終わったら、いつもの甘味所でいつもの白玉を食べて、里の雑貨屋を回るんですよね。・・・あれ?これってまるでデートみたい、文さんもそう思いませんか?」
「でででデートなんかじゃないって、これはその・・・新聞の特集記事を書く為の取材の一環であって別にやましい事なんか一つも無いって!」
「はいはい、やましい事なんて無いですけど一緒に取材して一緒に里のお店回って、一緒にご飯食べに行きましょうね。」
「・・・うん」
予想通りの返答が返って来た事に満足した椛は、意地の悪い気持ちからではなく本心からそうしたいと思った事を文に伝えて、文がまた顔を赤くしてしどろもどろしている間にねこまんまをかっ込んで席を立ち上がり茶碗を流し台の中に突っ込んでいた。
今日と言う日がこれから先、いつ振り返っても「楽しかった」と思えるような日になるように心の中で祈りつつも、とりあえずはお姫様を待たせないようにと出発する準備をしなければいけないなあと考えていた。
この二人はもう結婚しちゃえばいいのに。
素晴らしいもみあやだ。もっとやれ。
これはこれで素晴らしい
いや、しちゃいましょう!!!
ところで御祝儀いくらがいい?
これは世界的なジャスティス。
もみあや良いぞもっとやれもみあや。
初めてお目にかかったが……なかなかの威力だ(ゴクリ