幻想郷の東の端、現実と幻想の境界に位置する此処、博麗神社。
もうすぐ年が明け、新しい年を迎える。私は縁側に腰かけながら、酒を片手に幻想郷を眺めていた。
「今年も終わりかぁ」
何事も無く無事に過ごせた一年、とは言い難いか。今年も異変解決に駆け回った一年だった。
しかし、異変が起きるたびに新しい幻想郷の住人が増えていく。それは喜ばしいことなのかもしれない。
異変とは幻想郷が新しい住人を迎えるための儀式のようなものではないだろうか。そして、それを見届けるのが博麗の巫女の仕事なのかもしれない。
新しい隣人に、最大級のおもてなしを。博麗の巫女は一期一会の精神で、弾幕勝負挑ませてもらってます。
「なんてね」
一人空を見上げながら、くすくすと笑う私。だいぶ酒が回ってきてるのかもしれない。
「あと少しか」
時計を見る。日付が変わるまであと30秒……10秒……3、2、1──
「あけましておめでとー!!」
「はい、あけましておめでとう」
一人高らかにハッピーニューイヤーを叫んだはずだったが、なぜか返事が返ってきた。
左隣を見てみると、紫が座っていた。手には自前のお猪口を持って。
いつもの胡散臭いニヤニヤ笑いではなく、花が咲いたような朗らかな笑みを浮かべた紫は「今年もよろしく」と挨拶すると、お猪口を私の方に差し出した。
ポカンとしていた私は慌てて酒瓶を持ち、少し改まった口調で「今年もよろしくお願いします」と返し、紫のお猪口へと酒を注いだ。
それからしばらくの間、私達は無言で酒を飲んでいた。最初のうちは慎ましく、チビチビと飲んでいたのだが、しばらくすると飲んでは注ぎ、飲んでは注ぎと、飲み比べのようになってしまった。
私が用意していた酒が無くなり、紫が用意した2本目に手をつける。5本目が底を尽く頃には、紫も私もすっかりと出来上がってしまっていた。
ベロンベロンに酔っ払った私達は、あぶない足取りで縁側から室内へと入り、布団も敷いていない畳の上で寝転び、じゃれつきあった。
「あははっ!! 紫ーー!! このこの……あははははーーーー!!!」
「霊夢、霊夢ーーー!! あは、あははははははッッ!!!」
ひんやりとする畳の上をゴロゴロと転がりながら、腋をくすぐられたり、プロレス技をかけあったり、髪をぐしゃぐしゃと撫で回したり……息が上がる頃には服はグチャグチャに乱れて、私のリボンも紫の帽子もどこかに行ってしまっていた。
お互いの姿を見た私達はお腹を抱えて笑いあった。ひとしきり笑い終えた私達は、どちらからともなく互いの背に腕をからめると、そのまま抱きしめ合った。
紫の右手が私のボサボサに乱れた髪を梳いてくれる。私は紫の肩に顔を埋め、されるがままになっていた。
私の髪がある程度整った後、紫は頭を優しく撫でてくれた。
多幸感に体が震える。背中にまわした腕に力をこめる。紫の心臓の音が体を通して伝わってきた。
「霊夢……」
紫が私の耳元へ囁きかける。紫の生暖かい吐息が耳にかかり、全身が熱くなる。
私の肩に手を置いた紫は、そっと体を離すと、潤んだ紫色の瞳で私の目を見つめた。
「もう我慢できないわ……イかせて頂戴」
(あぁ、紫……紫ぃ……いいわ、イかせてあげる!! 感じて、私の全てをッッ!!!)
「ゆ……ゆ、紫------っっ!!」
「……さっきからゲロ吐きそうでたまらないの」
そう告げた紫はグラングランと頭を揺らしながら、厠の方へと消えていった。しばらくすると、あまり聞きたくはない類の声が厠から響いた。
放心状態だった私は、紫と同じくグラングランと頭を揺らしながら台所へと歩いていき、水を一杯湯呑みに注ぎ、一気に飲み干した。
ふぅ、と息を吐く。しばらくボーっと台所に立っていたら、今度は私が強烈な吐き気に襲われた。
とても危険な足取りで台所から駆け出し、裸足のまま庭へと飛び出した私は、手近な木の根元に盛大に した。
「「…………」」
新年から一体なにをやっているのだろう。
私達はお互い無言で、ガンガンと痛む頭を押さえながら、元居た縁側に腰を降ろしていた。
「そういえば、紫はなんでうちに?」
酔いが覚めてきた私は、一番最初から疑問に思っていたことを口にした。まさかゲ~をするために来たなんてこともないだろう。
「それはね……」
悪戯っぽく両目を細めた紫は、私の手を取り庭へと出て行った。
お互い裸足のままだ。地面から刺すような冷たさが足の裏に伝わってくる。
「い、一体なんなの?」
「気がつかないかしら?」
私が「なにに?」と聞き返すと、紫はいましがた私達が出てきたばかりの、後方の神社を指差す。私も後ろを振り向いた。
「あ……れ?」
暗い中、目をこらして神社を見る。そしてようやく気がつく。
私達が先ほどまで酒を飲み、馬鹿をしていた場所は──博麗神社ではなかった。
「ここは……なに?」
其処はところどころが博麗神社と違っている。外観は私が知っている神社とは似ても似つかない程ボロボロで、人間が住んでいるとは思えない。今にも朽ち果てそうな材木で出来た、忘れ去られし神社……
そういえば、先ほど私と紫がじゃれついていた部屋には、普段ちゃぶ台が置かれていたはずだった。なのに、私達は畳でじゃれついていた……ちゃぶ台をどかした覚えは無いのに。
(一体いつのまにこんな場所へ……)
「ここは博麗神社なのよ」
あまりの出来事に放心していた私へ、紫がさらに驚くべき事を口にした。しかし、此処は私が住んでいた博麗神社ではない……
「正確に言うと、幻想郷の外……結界の外から見た博麗神社よ」
「結界の……外?」
という事は、私はいつのまにか外界に来ていたということか。たぶん、縁側で紫に新年の挨拶をされたあの時にはたぶん外に居たのだろう……
「どうしてこんなことを?」
「お年玉よお年玉」
それならば、こんな神隠し紛いの異変よりも、普通にお金が欲しかった。紫がなにを考えているのか解らない。
「もうすぐかしらね」
紫がふわりと飛び立った。私も後を追おうとするが、なぜか飛べない。もうなにがなんだか混乱していた私はピョンピョンとその場で兎のように飛び跳ねる。が、飛べない。
そんな私を上空から見下ろした紫はひとしきり笑った後、私を抱えに戻り、もう一度空高く飛び立った。
「わ、わ、わ!!」
自分の力で飛べないとなると、飛びなれていた空が急に恐ろしく感じる。紫は「大丈夫、大丈夫」と私を強く抱きしめたまま、今度は物凄い速さで空を翔けた。
紫の腕に抱かれながら、私はそっと地上を見た。
地上には見たことも無い、石造りの大きな建物達がところ狭しと立ち並んでいる。黒い線で繋がれた石の柱や、鉄が組み合わさって出来たようなオブジェのようなものも、そこかしこに見られる。
紫の速度がさらに上がる。私はもう地上を見ている余裕も無く、目をぎゅっと瞑り、時が過ぎるのを待った。
「さぁ、着いたわよ」
紫の声に恐る恐る目を開ける。
地上はさきほどまでとは打って変わって、どこまでも、どこまでも静かな平面の黒い世界。目を凝らしてみると、湖のようにも見えるが、いくらなんでも広すぎる…………これが噂に聞いていた海というものなのだろうか。
「くるわよ」
そして、私は見た──
水平線の彼方から昇る太陽、その光に照らされ、黒い世界が黄金色へと姿を変えていく光景を。
眩しさに目を細めながら、紫を見上げる。しかし、そこに居たのは私が知る八雲紫ではなかった。
居るのは、どことなく彼女に雰囲気の似た女の人……金色になびく髪が太陽の光を受け艶やかに輝いている。服装も紫とは違う、リボンもフリルも少ないごく普通の服だ……彼女は私を見つめると優しげに微笑んだ。
「これが……私からのお年玉よ」
紫とよく似た声でそう言った彼女は──私を抱きしめていた手を放した。
落ちていく
落ちていく
沈んでいく
ゆっくりと……沈んでいく
まどろむ意識の中、紫に似た彼女が私に語りかけた気がした。
(今年も……頑張って……ね)
そうして、私の意識は深い海の底へと沈んでいった──
*
*
*
「霊夢ーーーーーーーーッッ!!」
「キャーーーーーーーーッッ!?」
ガバッッ!!!
突然の声に驚いた私は自分でもびっくりするくらいの叫び声を上げて目を覚ました。布団をすっとばし、寝ぼけ眼を擦りながら時計を見る。
(朝の……7時か)
私を起こした大声の発生源を見る。彼女はいつも通りの黒い服装で私の横に座っていた。
「あけおめことよろー!! キノコ持ってきたんだ。雑煮に入れて食おうぜ」
「……うん」
なんだろう、とても不思議な夢を見た気がするが、内容が思い出せない。なんだか……とても……
「魔理沙……あの、紫は……?」
「は? なんで私が紫と一緒に来るんだよ」
そういわれてみればそうだ。なんでだろう。なんでそんな事聞いたんだろう。まだ寝ぼけているのだろうか。
「早く着替えて、雑煮食おうぜ雑煮」
うきうきと魔理沙は台所へと向かっていく。
私は渋々と寝巻きから普段の巫女装束へと着替え、布団を押入れに仕舞い、台所へ行こうとして……何気なく外を見た。
一本の木が目に留まる。
その木の根元には寝起きに……というか何時だって、できるならば見るのをご勘弁願いたいものが、ぶちまけられていた。
その光景を見た私は……いましがた片付けた布団があったばかりの場所に寝転んだ。
畳には私の温もり以外にも、誰かの温かさが残っている気がした。なぜだか解らないけど、そんな気がした。
「おい! 早く雑煮……って霊夢、なに畳で転がりながらニヤついてるんだ?正直気持ち悪いぜ」
「ねぇ」
なんだ、どうしたと心配した表情で私の顔を覗き込む魔理沙。そんな魔理沙と、ここにはいない誰かに、私は笑顔で告げた。
「今年も一年、頑張りましょうね」
もうすぐ年が明け、新しい年を迎える。私は縁側に腰かけながら、酒を片手に幻想郷を眺めていた。
「今年も終わりかぁ」
何事も無く無事に過ごせた一年、とは言い難いか。今年も異変解決に駆け回った一年だった。
しかし、異変が起きるたびに新しい幻想郷の住人が増えていく。それは喜ばしいことなのかもしれない。
異変とは幻想郷が新しい住人を迎えるための儀式のようなものではないだろうか。そして、それを見届けるのが博麗の巫女の仕事なのかもしれない。
新しい隣人に、最大級のおもてなしを。博麗の巫女は一期一会の精神で、弾幕勝負挑ませてもらってます。
「なんてね」
一人空を見上げながら、くすくすと笑う私。だいぶ酒が回ってきてるのかもしれない。
「あと少しか」
時計を見る。日付が変わるまであと30秒……10秒……3、2、1──
「あけましておめでとー!!」
「はい、あけましておめでとう」
一人高らかにハッピーニューイヤーを叫んだはずだったが、なぜか返事が返ってきた。
左隣を見てみると、紫が座っていた。手には自前のお猪口を持って。
いつもの胡散臭いニヤニヤ笑いではなく、花が咲いたような朗らかな笑みを浮かべた紫は「今年もよろしく」と挨拶すると、お猪口を私の方に差し出した。
ポカンとしていた私は慌てて酒瓶を持ち、少し改まった口調で「今年もよろしくお願いします」と返し、紫のお猪口へと酒を注いだ。
それからしばらくの間、私達は無言で酒を飲んでいた。最初のうちは慎ましく、チビチビと飲んでいたのだが、しばらくすると飲んでは注ぎ、飲んでは注ぎと、飲み比べのようになってしまった。
私が用意していた酒が無くなり、紫が用意した2本目に手をつける。5本目が底を尽く頃には、紫も私もすっかりと出来上がってしまっていた。
ベロンベロンに酔っ払った私達は、あぶない足取りで縁側から室内へと入り、布団も敷いていない畳の上で寝転び、じゃれつきあった。
「あははっ!! 紫ーー!! このこの……あははははーーーー!!!」
「霊夢、霊夢ーーー!! あは、あははははははッッ!!!」
ひんやりとする畳の上をゴロゴロと転がりながら、腋をくすぐられたり、プロレス技をかけあったり、髪をぐしゃぐしゃと撫で回したり……息が上がる頃には服はグチャグチャに乱れて、私のリボンも紫の帽子もどこかに行ってしまっていた。
お互いの姿を見た私達はお腹を抱えて笑いあった。ひとしきり笑い終えた私達は、どちらからともなく互いの背に腕をからめると、そのまま抱きしめ合った。
紫の右手が私のボサボサに乱れた髪を梳いてくれる。私は紫の肩に顔を埋め、されるがままになっていた。
私の髪がある程度整った後、紫は頭を優しく撫でてくれた。
多幸感に体が震える。背中にまわした腕に力をこめる。紫の心臓の音が体を通して伝わってきた。
「霊夢……」
紫が私の耳元へ囁きかける。紫の生暖かい吐息が耳にかかり、全身が熱くなる。
私の肩に手を置いた紫は、そっと体を離すと、潤んだ紫色の瞳で私の目を見つめた。
「もう我慢できないわ……イかせて頂戴」
(あぁ、紫……紫ぃ……いいわ、イかせてあげる!! 感じて、私の全てをッッ!!!)
「ゆ……ゆ、紫------っっ!!」
「……さっきからゲロ吐きそうでたまらないの」
そう告げた紫はグラングランと頭を揺らしながら、厠の方へと消えていった。しばらくすると、あまり聞きたくはない類の声が厠から響いた。
放心状態だった私は、紫と同じくグラングランと頭を揺らしながら台所へと歩いていき、水を一杯湯呑みに注ぎ、一気に飲み干した。
ふぅ、と息を吐く。しばらくボーっと台所に立っていたら、今度は私が強烈な吐き気に襲われた。
とても危険な足取りで台所から駆け出し、裸足のまま庭へと飛び出した私は、手近な木の根元に盛大に した。
「「…………」」
新年から一体なにをやっているのだろう。
私達はお互い無言で、ガンガンと痛む頭を押さえながら、元居た縁側に腰を降ろしていた。
「そういえば、紫はなんでうちに?」
酔いが覚めてきた私は、一番最初から疑問に思っていたことを口にした。まさかゲ~をするために来たなんてこともないだろう。
「それはね……」
悪戯っぽく両目を細めた紫は、私の手を取り庭へと出て行った。
お互い裸足のままだ。地面から刺すような冷たさが足の裏に伝わってくる。
「い、一体なんなの?」
「気がつかないかしら?」
私が「なにに?」と聞き返すと、紫はいましがた私達が出てきたばかりの、後方の神社を指差す。私も後ろを振り向いた。
「あ……れ?」
暗い中、目をこらして神社を見る。そしてようやく気がつく。
私達が先ほどまで酒を飲み、馬鹿をしていた場所は──博麗神社ではなかった。
「ここは……なに?」
其処はところどころが博麗神社と違っている。外観は私が知っている神社とは似ても似つかない程ボロボロで、人間が住んでいるとは思えない。今にも朽ち果てそうな材木で出来た、忘れ去られし神社……
そういえば、先ほど私と紫がじゃれついていた部屋には、普段ちゃぶ台が置かれていたはずだった。なのに、私達は畳でじゃれついていた……ちゃぶ台をどかした覚えは無いのに。
(一体いつのまにこんな場所へ……)
「ここは博麗神社なのよ」
あまりの出来事に放心していた私へ、紫がさらに驚くべき事を口にした。しかし、此処は私が住んでいた博麗神社ではない……
「正確に言うと、幻想郷の外……結界の外から見た博麗神社よ」
「結界の……外?」
という事は、私はいつのまにか外界に来ていたということか。たぶん、縁側で紫に新年の挨拶をされたあの時にはたぶん外に居たのだろう……
「どうしてこんなことを?」
「お年玉よお年玉」
それならば、こんな神隠し紛いの異変よりも、普通にお金が欲しかった。紫がなにを考えているのか解らない。
「もうすぐかしらね」
紫がふわりと飛び立った。私も後を追おうとするが、なぜか飛べない。もうなにがなんだか混乱していた私はピョンピョンとその場で兎のように飛び跳ねる。が、飛べない。
そんな私を上空から見下ろした紫はひとしきり笑った後、私を抱えに戻り、もう一度空高く飛び立った。
「わ、わ、わ!!」
自分の力で飛べないとなると、飛びなれていた空が急に恐ろしく感じる。紫は「大丈夫、大丈夫」と私を強く抱きしめたまま、今度は物凄い速さで空を翔けた。
紫の腕に抱かれながら、私はそっと地上を見た。
地上には見たことも無い、石造りの大きな建物達がところ狭しと立ち並んでいる。黒い線で繋がれた石の柱や、鉄が組み合わさって出来たようなオブジェのようなものも、そこかしこに見られる。
紫の速度がさらに上がる。私はもう地上を見ている余裕も無く、目をぎゅっと瞑り、時が過ぎるのを待った。
「さぁ、着いたわよ」
紫の声に恐る恐る目を開ける。
地上はさきほどまでとは打って変わって、どこまでも、どこまでも静かな平面の黒い世界。目を凝らしてみると、湖のようにも見えるが、いくらなんでも広すぎる…………これが噂に聞いていた海というものなのだろうか。
「くるわよ」
そして、私は見た──
水平線の彼方から昇る太陽、その光に照らされ、黒い世界が黄金色へと姿を変えていく光景を。
眩しさに目を細めながら、紫を見上げる。しかし、そこに居たのは私が知る八雲紫ではなかった。
居るのは、どことなく彼女に雰囲気の似た女の人……金色になびく髪が太陽の光を受け艶やかに輝いている。服装も紫とは違う、リボンもフリルも少ないごく普通の服だ……彼女は私を見つめると優しげに微笑んだ。
「これが……私からのお年玉よ」
紫とよく似た声でそう言った彼女は──私を抱きしめていた手を放した。
落ちていく
落ちていく
沈んでいく
ゆっくりと……沈んでいく
まどろむ意識の中、紫に似た彼女が私に語りかけた気がした。
(今年も……頑張って……ね)
そうして、私の意識は深い海の底へと沈んでいった──
*
*
*
「霊夢ーーーーーーーーッッ!!」
「キャーーーーーーーーッッ!?」
ガバッッ!!!
突然の声に驚いた私は自分でもびっくりするくらいの叫び声を上げて目を覚ました。布団をすっとばし、寝ぼけ眼を擦りながら時計を見る。
(朝の……7時か)
私を起こした大声の発生源を見る。彼女はいつも通りの黒い服装で私の横に座っていた。
「あけおめことよろー!! キノコ持ってきたんだ。雑煮に入れて食おうぜ」
「……うん」
なんだろう、とても不思議な夢を見た気がするが、内容が思い出せない。なんだか……とても……
「魔理沙……あの、紫は……?」
「は? なんで私が紫と一緒に来るんだよ」
そういわれてみればそうだ。なんでだろう。なんでそんな事聞いたんだろう。まだ寝ぼけているのだろうか。
「早く着替えて、雑煮食おうぜ雑煮」
うきうきと魔理沙は台所へと向かっていく。
私は渋々と寝巻きから普段の巫女装束へと着替え、布団を押入れに仕舞い、台所へ行こうとして……何気なく外を見た。
一本の木が目に留まる。
その木の根元には寝起きに……というか何時だって、できるならば見るのをご勘弁願いたいものが、ぶちまけられていた。
その光景を見た私は……いましがた片付けた布団があったばかりの場所に寝転んだ。
畳には私の温もり以外にも、誰かの温かさが残っている気がした。なぜだか解らないけど、そんな気がした。
「おい! 早く雑煮……って霊夢、なに畳で転がりながらニヤついてるんだ?正直気持ち悪いぜ」
「ねぇ」
なんだ、どうしたと心配した表情で私の顔を覗き込む魔理沙。そんな魔理沙と、ここにはいない誰かに、私は笑顔で告げた。
「今年も一年、頑張りましょうね」
ゆかれいごちになりました