さくり さくり さくり さくり さくり
さくり さくり さくり さくり さくり
満月と篝火に照らされた雪道に、足音が三つ。前の者が歩を進めれば、次の者がその足跡に歩を進める。 日中に溶けかけた雪が、夕方からの冷え込みで氷となり、歩く者の足元で柔らかい音を奏でる。
さくり さくり さくり さくり さくり
さくり さくり さくり さくり さくり
足音の主はそれぞれ、先頭を長く白い髪の者が、次いで銀髪の者、しんがりを夕暮れで染めたような髪をした者であった。時折しんがりを歩く者が、踏み固められたがために滑りやすくなった坂道の雪に足を取られ転びそうになるのを、前を行く銀髪の者が手を差し伸べ転倒から助けていた。
坂を登り切った三人の眼下には、ぽつりと立つ家が一軒。家の周りには昨晩の雪がこんもりとした小山を作っていた。それを見て、銀髪の者が誰に聞かせるでも無しに呟く。
「やれやれ、ようやく懐かしの我が家、だね」
「病み上がりに香霖堂も無理をするもんだね。それに店があれなら、輝夜のやつに同意したくはないが、永遠亭で迎えれば良かったんじゃないか?」
「永遠亭に居づらい理由でもおありでしたら、私達のところにお越しになりませんか?」
ふー、と溜息が白い筋となって夜風にたなびく。香霖堂と呼ばれた銀髪の青年は、誘いに対して苦笑をもって返答とする。それを目にした白髪の少女がこちらも白い筋を夜風にたなびかせ、今度は坂道を下り始める。
さくり さくり さくり さくり さくり
さくり さくり さくり さくり さくり
「白蓮も袖にするとはね」
「あら、妹紅さんも天狗の記事に振り回された口ですか?」
「あのブン屋の記事? まぁ、年の瀬の暇潰しにはなったけどね。さすがに血を吐いたヤツに打つ鞭はないかなあ」
「その割には袖から大穴狙いのハズレ籤が見え隠れしているんだが?」
「そこらへんは淑女の嗜みということで」
「ふむ。あの子にも言ったが、それは淑女というよりは」
「まあまあまあ。霖之助殿もそこいら辺で止めませんと、来た道を逆戻りすることになりますよ?」
「ブン屋ほどウブじゃないから、気にしなくてもいいんだけどね」
「すまないね、どうも鈍った体の代わりに口が良く動いてしまうようで」
弁解になっていない弁解を口にして、霖之助は一週間ぶりの我が家を見上げる。そして一つ首を傾げ、疑問を口にした。
「この一週間で振った雪の勢いにしては、積もった量が少ないのはどういうことだろうね」
「さて、言われてみれば確かに」
霖之助の疑問に対し、白蓮は辺りを見渡しそして香霖堂の屋根に積もった雪と比較し霖之助の見立てを肯定した。揃って首を傾げる二人に対して、歩みを止めることなく扉の前に立つと、扉を押し開く。そして空いた手で懐から符を一枚取り出しながら妹紅が答えを告げる。
「そりゃあ、香霖堂が不在の間、誰かしらがここに来ていたからね」
特に熱心だったのは、霊夢と魔理沙だったけどね、と苦笑する。そして、よ、っとかけ声と共に符に力を込め
ほわ
と柔らかな火の華を店内に咲かせる。
「あら」
霖之助が僅かに息を飲んだ気配を背に、妹紅は扉をさらに押し開け二人を中へと誘う。妹紅が咲かせた華に照らされた店内は、以前に白蓮が見た光景のそれではなかった。白蓮が知っている香霖堂、それは星が無くした宝塔ですらガラクタとして積み上げるほどに雑然としたものだった。
が、眼前に広がる香霖堂はその混沌とした雰囲気がさっぱりと一掃されていた。
大小軽重用途目的明不明問わずそれこそ様々な書籍雑貨道具置物が、店主不在のカウンターを前に整然と輪を作っていた。
「これは……」
店内に足を入れ、足元を、そして棚を、天井をと、店内隅々をぐるり、ぐるりと見渡す。彼の目に映ったのは、どこか黴臭く埃っぽい我が家ではなく、かつて自分なりの道具店を持つと告げ、構えた日の我が家だった。呆然とする霖之助に対して、妹紅はにやりと笑うと、柏手を一つ。霖之助の肩がその音に我を取り戻したかのようにびくりと震え、また、咲いていた華がわっと舞い散った。舞い散った花弁の一つが、元の鞘に収まるかのようにカウンターに置かれた蝋燭へと舞い降り、灯火となる。
蝋燭の灯りの下、一通の手紙が照らされる。
妹紅はそれを確認すると、それじゃぁ、と短く告げ、訝る白蓮の肩を押して、ぎしり、と開けたときと同じ音を最後に店を後にしていった。
「参ったな」
蝋燭が半分ほどになるまで一人ぐるりぐるりと部屋を見渡していた霖之助の口から零れたのは、溜息とも苦笑ともとれる短いものだった。灯火に照らされる手紙の厚みから文量を推測し、まあ半分もあれば読めるかと、今度ははっきりと溜息をつくとカウンターへと歩みを進める。
彼が不在の間に、彼に代わって香霖堂の年の瀬を取り仕切った少女達からの手紙を見るために。
それにしても、と霖之助は呟く。
「親父さんから押しつけられた春画まで引っ張り出されるとはね……」
あるいは、それは嘆きだったのかもしれない。
さくり さくり さくり さくり さくり
満月と篝火に照らされた雪道に、足音が三つ。前の者が歩を進めれば、次の者がその足跡に歩を進める。 日中に溶けかけた雪が、夕方からの冷え込みで氷となり、歩く者の足元で柔らかい音を奏でる。
さくり さくり さくり さくり さくり
さくり さくり さくり さくり さくり
足音の主はそれぞれ、先頭を長く白い髪の者が、次いで銀髪の者、しんがりを夕暮れで染めたような髪をした者であった。時折しんがりを歩く者が、踏み固められたがために滑りやすくなった坂道の雪に足を取られ転びそうになるのを、前を行く銀髪の者が手を差し伸べ転倒から助けていた。
坂を登り切った三人の眼下には、ぽつりと立つ家が一軒。家の周りには昨晩の雪がこんもりとした小山を作っていた。それを見て、銀髪の者が誰に聞かせるでも無しに呟く。
「やれやれ、ようやく懐かしの我が家、だね」
「病み上がりに香霖堂も無理をするもんだね。それに店があれなら、輝夜のやつに同意したくはないが、永遠亭で迎えれば良かったんじゃないか?」
「永遠亭に居づらい理由でもおありでしたら、私達のところにお越しになりませんか?」
ふー、と溜息が白い筋となって夜風にたなびく。香霖堂と呼ばれた銀髪の青年は、誘いに対して苦笑をもって返答とする。それを目にした白髪の少女がこちらも白い筋を夜風にたなびかせ、今度は坂道を下り始める。
さくり さくり さくり さくり さくり
さくり さくり さくり さくり さくり
「白蓮も袖にするとはね」
「あら、妹紅さんも天狗の記事に振り回された口ですか?」
「あのブン屋の記事? まぁ、年の瀬の暇潰しにはなったけどね。さすがに血を吐いたヤツに打つ鞭はないかなあ」
「その割には袖から大穴狙いのハズレ籤が見え隠れしているんだが?」
「そこらへんは淑女の嗜みということで」
「ふむ。あの子にも言ったが、それは淑女というよりは」
「まあまあまあ。霖之助殿もそこいら辺で止めませんと、来た道を逆戻りすることになりますよ?」
「ブン屋ほどウブじゃないから、気にしなくてもいいんだけどね」
「すまないね、どうも鈍った体の代わりに口が良く動いてしまうようで」
弁解になっていない弁解を口にして、霖之助は一週間ぶりの我が家を見上げる。そして一つ首を傾げ、疑問を口にした。
「この一週間で振った雪の勢いにしては、積もった量が少ないのはどういうことだろうね」
「さて、言われてみれば確かに」
霖之助の疑問に対し、白蓮は辺りを見渡しそして香霖堂の屋根に積もった雪と比較し霖之助の見立てを肯定した。揃って首を傾げる二人に対して、歩みを止めることなく扉の前に立つと、扉を押し開く。そして空いた手で懐から符を一枚取り出しながら妹紅が答えを告げる。
「そりゃあ、香霖堂が不在の間、誰かしらがここに来ていたからね」
特に熱心だったのは、霊夢と魔理沙だったけどね、と苦笑する。そして、よ、っとかけ声と共に符に力を込め
ほわ
と柔らかな火の華を店内に咲かせる。
「あら」
霖之助が僅かに息を飲んだ気配を背に、妹紅は扉をさらに押し開け二人を中へと誘う。妹紅が咲かせた華に照らされた店内は、以前に白蓮が見た光景のそれではなかった。白蓮が知っている香霖堂、それは星が無くした宝塔ですらガラクタとして積み上げるほどに雑然としたものだった。
が、眼前に広がる香霖堂はその混沌とした雰囲気がさっぱりと一掃されていた。
大小軽重用途目的明不明問わずそれこそ様々な書籍雑貨道具置物が、店主不在のカウンターを前に整然と輪を作っていた。
「これは……」
店内に足を入れ、足元を、そして棚を、天井をと、店内隅々をぐるり、ぐるりと見渡す。彼の目に映ったのは、どこか黴臭く埃っぽい我が家ではなく、かつて自分なりの道具店を持つと告げ、構えた日の我が家だった。呆然とする霖之助に対して、妹紅はにやりと笑うと、柏手を一つ。霖之助の肩がその音に我を取り戻したかのようにびくりと震え、また、咲いていた華がわっと舞い散った。舞い散った花弁の一つが、元の鞘に収まるかのようにカウンターに置かれた蝋燭へと舞い降り、灯火となる。
蝋燭の灯りの下、一通の手紙が照らされる。
妹紅はそれを確認すると、それじゃぁ、と短く告げ、訝る白蓮の肩を押して、ぎしり、と開けたときと同じ音を最後に店を後にしていった。
「参ったな」
蝋燭が半分ほどになるまで一人ぐるりぐるりと部屋を見渡していた霖之助の口から零れたのは、溜息とも苦笑ともとれる短いものだった。灯火に照らされる手紙の厚みから文量を推測し、まあ半分もあれば読めるかと、今度ははっきりと溜息をつくとカウンターへと歩みを進める。
彼が不在の間に、彼に代わって香霖堂の年の瀬を取り仕切った少女達からの手紙を見るために。
それにしても、と霖之助は呟く。
「親父さんから押しつけられた春画まで引っ張り出されるとはね……」
あるいは、それは嘆きだったのかもしれない。
雰囲気も良く面白かったですよ
まあそれが幻想郷の少女らしいのかな?
とりあえずある程度丸く収まったし楽しめました