――さて、暇潰しにインタビューを受けて頂きありがとうございます。顔色も昨日よりも良くなって
「いるように見えるんだったら、僕の代わりに入院することをお勧めするよ」
――ここまで豪華な病室なのに店主は何が御不満だというのですか?
「さっきの状態で満足する病人がいるのならぜひお目に掛かってみたいものだよ」
――はぁ……、先ほどまでの病室で満足と言われても、向こうが透けて見えるほど薄い林檎の桂剥きをされている八雲紫さん(年齢鬼門)と、頸動脈にメスを当てて脈を計っていた八意永琳医師(年齢カンスト)と、尿瓶を抱えてじっと天井の片隅を見ている聖白蓮貫首(年齢係争中)と、師走なのに花瓶いっぱいに生けられた向日葵位しか気がつく点はありませんでしたが
「わかっていて言っているんなら、勘弁して欲しいんだが。ああ、そうそう。質問の前にこないだの新聞」
――ご覧になりましたか! 久々にいい写真が撮れまして、その件に関して感謝してます。欲を言えば、吹き出している瞬間だったらもっと良かったんですが、白線だけでも十分に臨場感があると思いませんか
「あの記事なんだが、一点訂正しておいた方がいいよ」
――食いつきが悪いですねぇ。それに訂正、ってなんですか? 文々。新聞では取材に基づき書いているのです。訂正する必要など、どこにありましょうか?
「事実に基づき、と言わないところが如何にも天狗だね。もっともそれが原因で読者離れ
――さて、どこが違うと仰るのでしょう?
「……君の基準は面白いかどうかと購読者数しかないのか?」
――失礼なことを言いますね。三つ目に上司の査定というのも付け加えておいて下さい
「そういった思想は三途の船頭にでも言うと喜ばれると思うよ、主にその上司から。で、訂正箇所けど、あの姉妹は僕の店でひっくり返ってだだをこねたりはしていないよ。たまにあそこのメイドは自分の主観、というより願望でものをしゃべる時があるからね……」
――はて? では店主が参加された理由は?
「彼女たちがやったことといえば、朝から晩まで店の片隅からじっと僕を見ていただけだよ」
――それはそれは…………、それはそれで大差ないのでは?
「三日もされるとさすがに感覚が麻痺してね。間違えて値札を貼りそうになったのを誤魔化すために用件を聞いたのが運の尽きだったね」
――三日も放置した方も方なら、用件も言わずに三日も座り込む方も方ですねえ。で、そこでサンタクロース役をするように、と?
「まぁ、そういうことだ」
――根負けして押し切られるところは如何にも貴方らしい話ですねえ。
「いやいや、あのままじゃ商売に支障をきたすと思ったからこそ、泣く泣くだね」
――はいはい、そういうことにしておきましょう。さて本題に入りますが、前回の読者のもっともな疑問「なぜ森近霖之助は吐血したのか」をお聞きしても宜しいでしょうか?
「君もヒトの傷口に塩を塗るのがよくよく好きな手合いだね」
――面と向かって言われると照れますね
「天狗というのは面の皮だけで頭ができているんじゃないか、と思っていたけれどあながち間違いじゃない、ということかな? まぁ、いいか。気分転換に受けると言ったんだ、答えようじゃないか」
――では、ずばり
「おじいちゃん、と呼ばれたからに決まってるじゃないか」
――はぁ
「……その溜息と手帳を仕舞い始めるのはどういう意味だい」
――いえいえ、単純にがっかりしただけですよ。ええ、ストレートに言えば、香霖堂にはがっかりだ、ですよ。そこまで当たり前な理由だなんて。高々人間の小娘におじいちゃんと呼ばれる程度で血を吐くなんて、いっそのこと御阿礼の子にお願いして『年齢のことを言われると血を吐く程度の能力』って付け加えて貰ったらどうです?
「ふむ。それじゃぁ、君は、それこそ御阿礼の子から『分かりました。では、その用にしますのでどうぞご安心下さい。おばあちゃん』などと言われたらどうだい?」
――妖怪的な高い高いをするだけですよ?
「その表情を見る限り、高い高いではなく、高いで終わりそうな気がするが、僕の場合は君とは違うベクトルの行動になっただけだよ」
――それにしたって、ただの人間よりは長生きをされているんですから、そういった経験位あるはずでは?
「そういった言われ方をするのが嫌であの場所に店を構えているという想像力を期待するのは君には酷な話かな?」
――そこはせめて、無縁塚により近いから、とかオブラートに包んだままにしませんか?
「自分と同じ程度の容姿の相手からおじいちゃんなどと呼ばれる苦痛。ありがとうと持ち上げられた直後の落下感といったら、今思い出しても有頂天から奈落まで落とされた気分がする」
――さりげなく年齢を若く見せようとしませんでしたか、今
「気のせいだろう」
――まぁ、いいでしょう。つまらない理由でしたが最後に一言あれば
「今回の件だが、外の世界から『男性のクリスマス』だけが幻想入りしてしまったのが原因じゃないかと考えている。故に今僕の身に降りかかっている状況は僕の所為ではないので誤解しないで欲しい」
――はあ
「ふむ。今一つ理解が出来ない、という顔だね」
――ええ。その発想が理解出来ませんよ、普通
「外の事をよく知る妖怪に以前聞いた話では、外のクリスマスというのは男女が一緒になって過ごすものだったそうだが、最近では男性が一人で過ごすケースが増えているそうでね。『男性が女性と過ごすクリスマス』という部分だけが幻想入りして、たまたまあの場に居合わせた僕の身に降りかかって」
――つまり、森近霖之助としては、気を引くようなことをした記憶が無い、と。故に今回の件について責任をとる理由はない、と
「途端に食いつきが良くなったね、と感心する前に、責任という表現の意図を聞きたいんだが」
――そりゃぁ、夢見る少女として食いつかずにはいられませんから
「夢見る少女は普通ハッピーエンドを望むものだよ。下世話な話を聞きたがるのはその妖怪曰くオバサンという段階らしいんだが」
――……さて、狭い病室暮らしに退屈されているんでしたね。それでしたら、インタビューを受けて頂いたお礼、サーヴィスとして、気晴らしに高い高いでも如何ですか香霖堂さん。おやおや、そんな血相を変えてどこへ行こうというのですか。わざわざ取材を受けて頂いたんです、せめて一回位高いされてくれませんかね、なにかあってもここが病院ですし
二十四日夜から永遠亭に入院中し小康状態だった森近霖之助氏だが、二十九日昼再び絶対安静状態となった。
この件について主治医の八意永琳さんは「霖之助さんの容態ですが前回のように精神的なものではなく高いところから落下したような物理的な傷、つまり外傷が酷いため一時的に安静にするだけですので、どうかご安心下さい。また、昨今報道されているような複数の女性との関係を苦にした飛び降りではないかとの質問に関してはコメントを差し控えさせて頂きます」と記者会見で語った。
なお、この知らせについて香霖堂を物色中だった博麗神社巫女の博麗霊夢さんにコメントを求めたところ「これで大晦日の掛け取りが無くなったわね」と霧雨魔法店店主の霧雨魔理沙さんとともに安堵の表情を浮かべていた。
同じくその場に居合わせた面々のコメントは以下の通りである。
紅魔館メイド長の十六夜咲夜さん「案外としぶといんですね、あの店主」
はぐれ天人の比那名居天子さん「もう一押しで大穴的中なんだけど、なんとか出来ない?」
守矢神社巫女の東風谷早苗さん「無病息災の御祈願は、守矢神社分社でも受け付けております」
魔法の森在住の魔女アリス・マーガトロイドさん「ねえ、そろそろ紙面的に一人ぐらい心配した方がいいんじゃないかしら?」
紅魔館居候パチュリー・ノーレッジさん「両手に花じゃきかない相手を心配する必要があるのかしら?」
絶対安静との診断により、残念ながら予定されていた事件当夜についてのインタビューが行えなくなったことは非常に残念だが、今は森近氏の一日も早い容態回復を祈るものである。
「いるように見えるんだったら、僕の代わりに入院することをお勧めするよ」
――ここまで豪華な病室なのに店主は何が御不満だというのですか?
「さっきの状態で満足する病人がいるのならぜひお目に掛かってみたいものだよ」
――はぁ……、先ほどまでの病室で満足と言われても、向こうが透けて見えるほど薄い林檎の桂剥きをされている八雲紫さん(年齢鬼門)と、頸動脈にメスを当てて脈を計っていた八意永琳医師(年齢カンスト)と、尿瓶を抱えてじっと天井の片隅を見ている聖白蓮貫首(年齢係争中)と、師走なのに花瓶いっぱいに生けられた向日葵位しか気がつく点はありませんでしたが
「わかっていて言っているんなら、勘弁して欲しいんだが。ああ、そうそう。質問の前にこないだの新聞」
――ご覧になりましたか! 久々にいい写真が撮れまして、その件に関して感謝してます。欲を言えば、吹き出している瞬間だったらもっと良かったんですが、白線だけでも十分に臨場感があると思いませんか
「あの記事なんだが、一点訂正しておいた方がいいよ」
――食いつきが悪いですねぇ。それに訂正、ってなんですか? 文々。新聞では取材に基づき書いているのです。訂正する必要など、どこにありましょうか?
「事実に基づき、と言わないところが如何にも天狗だね。もっともそれが原因で読者離れ
――さて、どこが違うと仰るのでしょう?
「……君の基準は面白いかどうかと購読者数しかないのか?」
――失礼なことを言いますね。三つ目に上司の査定というのも付け加えておいて下さい
「そういった思想は三途の船頭にでも言うと喜ばれると思うよ、主にその上司から。で、訂正箇所けど、あの姉妹は僕の店でひっくり返ってだだをこねたりはしていないよ。たまにあそこのメイドは自分の主観、というより願望でものをしゃべる時があるからね……」
――はて? では店主が参加された理由は?
「彼女たちがやったことといえば、朝から晩まで店の片隅からじっと僕を見ていただけだよ」
――それはそれは…………、それはそれで大差ないのでは?
「三日もされるとさすがに感覚が麻痺してね。間違えて値札を貼りそうになったのを誤魔化すために用件を聞いたのが運の尽きだったね」
――三日も放置した方も方なら、用件も言わずに三日も座り込む方も方ですねえ。で、そこでサンタクロース役をするように、と?
「まぁ、そういうことだ」
――根負けして押し切られるところは如何にも貴方らしい話ですねえ。
「いやいや、あのままじゃ商売に支障をきたすと思ったからこそ、泣く泣くだね」
――はいはい、そういうことにしておきましょう。さて本題に入りますが、前回の読者のもっともな疑問「なぜ森近霖之助は吐血したのか」をお聞きしても宜しいでしょうか?
「君もヒトの傷口に塩を塗るのがよくよく好きな手合いだね」
――面と向かって言われると照れますね
「天狗というのは面の皮だけで頭ができているんじゃないか、と思っていたけれどあながち間違いじゃない、ということかな? まぁ、いいか。気分転換に受けると言ったんだ、答えようじゃないか」
――では、ずばり
「おじいちゃん、と呼ばれたからに決まってるじゃないか」
――はぁ
「……その溜息と手帳を仕舞い始めるのはどういう意味だい」
――いえいえ、単純にがっかりしただけですよ。ええ、ストレートに言えば、香霖堂にはがっかりだ、ですよ。そこまで当たり前な理由だなんて。高々人間の小娘におじいちゃんと呼ばれる程度で血を吐くなんて、いっそのこと御阿礼の子にお願いして『年齢のことを言われると血を吐く程度の能力』って付け加えて貰ったらどうです?
「ふむ。それじゃぁ、君は、それこそ御阿礼の子から『分かりました。では、その用にしますのでどうぞご安心下さい。おばあちゃん』などと言われたらどうだい?」
――妖怪的な高い高いをするだけですよ?
「その表情を見る限り、高い高いではなく、高いで終わりそうな気がするが、僕の場合は君とは違うベクトルの行動になっただけだよ」
――それにしたって、ただの人間よりは長生きをされているんですから、そういった経験位あるはずでは?
「そういった言われ方をするのが嫌であの場所に店を構えているという想像力を期待するのは君には酷な話かな?」
――そこはせめて、無縁塚により近いから、とかオブラートに包んだままにしませんか?
「自分と同じ程度の容姿の相手からおじいちゃんなどと呼ばれる苦痛。ありがとうと持ち上げられた直後の落下感といったら、今思い出しても有頂天から奈落まで落とされた気分がする」
――さりげなく年齢を若く見せようとしませんでしたか、今
「気のせいだろう」
――まぁ、いいでしょう。つまらない理由でしたが最後に一言あれば
「今回の件だが、外の世界から『男性のクリスマス』だけが幻想入りしてしまったのが原因じゃないかと考えている。故に今僕の身に降りかかっている状況は僕の所為ではないので誤解しないで欲しい」
――はあ
「ふむ。今一つ理解が出来ない、という顔だね」
――ええ。その発想が理解出来ませんよ、普通
「外の事をよく知る妖怪に以前聞いた話では、外のクリスマスというのは男女が一緒になって過ごすものだったそうだが、最近では男性が一人で過ごすケースが増えているそうでね。『男性が女性と過ごすクリスマス』という部分だけが幻想入りして、たまたまあの場に居合わせた僕の身に降りかかって」
――つまり、森近霖之助としては、気を引くようなことをした記憶が無い、と。故に今回の件について責任をとる理由はない、と
「途端に食いつきが良くなったね、と感心する前に、責任という表現の意図を聞きたいんだが」
――そりゃぁ、夢見る少女として食いつかずにはいられませんから
「夢見る少女は普通ハッピーエンドを望むものだよ。下世話な話を聞きたがるのはその妖怪曰くオバサンという段階らしいんだが」
――……さて、狭い病室暮らしに退屈されているんでしたね。それでしたら、インタビューを受けて頂いたお礼、サーヴィスとして、気晴らしに高い高いでも如何ですか香霖堂さん。おやおや、そんな血相を変えてどこへ行こうというのですか。わざわざ取材を受けて頂いたんです、せめて一回位高いされてくれませんかね、なにかあってもここが病院ですし
二十四日夜から永遠亭に入院中し小康状態だった森近霖之助氏だが、二十九日昼再び絶対安静状態となった。
この件について主治医の八意永琳さんは「霖之助さんの容態ですが前回のように精神的なものではなく高いところから落下したような物理的な傷、つまり外傷が酷いため一時的に安静にするだけですので、どうかご安心下さい。また、昨今報道されているような複数の女性との関係を苦にした飛び降りではないかとの質問に関してはコメントを差し控えさせて頂きます」と記者会見で語った。
なお、この知らせについて香霖堂を物色中だった博麗神社巫女の博麗霊夢さんにコメントを求めたところ「これで大晦日の掛け取りが無くなったわね」と霧雨魔法店店主の霧雨魔理沙さんとともに安堵の表情を浮かべていた。
同じくその場に居合わせた面々のコメントは以下の通りである。
紅魔館メイド長の十六夜咲夜さん「案外としぶといんですね、あの店主」
はぐれ天人の比那名居天子さん「もう一押しで大穴的中なんだけど、なんとか出来ない?」
守矢神社巫女の東風谷早苗さん「無病息災の御祈願は、守矢神社分社でも受け付けております」
魔法の森在住の魔女アリス・マーガトロイドさん「ねえ、そろそろ紙面的に一人ぐらい心配した方がいいんじゃないかしら?」
紅魔館居候パチュリー・ノーレッジさん「両手に花じゃきかない相手を心配する必要があるのかしら?」
絶対安静との診断により、残念ながら予定されていた事件当夜についてのインタビューが行えなくなったことは非常に残念だが、今は森近氏の一日も早い容態回復を祈るものである。
しかし鬼よりも鬼だぞこのカラス
台詞を短く、要点だけにとどめれば新聞らしくなるかもしれないけど、キャラクターの個性が死ぬ。
難しいですね。なんというパラドックス。
こいつら屑だ……(作品への苦情ではありません)
というかまともなコメントがアリスだけという事実に涙せざるを得ない
お前等人間じゃねぇ!