冬のある日、森で遊んでいたチルノと大妖精は落ち葉の山の中から『妙なもの』を見つけた。
『ソレ』は大きさは財布ほど。
形も財布に似ていて、横に長い長方形、角は丸くなっている。
財布の口に当たる部分にギザギザの凹凸が付いているが、開くわけではないようだ。
色は黒くて光沢があり、表面はかなりツルツルしている。
人間が作ったもののようにも見えるが、色や手触りは自然の物っぽい。
匂いはしない。そして軽い。
少し豆に似ているかもしれない。
小豆を扁平にしたようなのか、ヒヨコ豆の角を取ったような感じ。
そう大妖精が評すると、お昼を食べ損ねていたチルノのお腹がグゥと盛大に鳴った。
「…………食べられるかな?」
「…………拾い食いは良くないって、幽香さんも言ってたよ?」
この親友の事だから止めても無駄だろうなと思いつつ大妖精は忠告する。
もちろん結果は言わずもがな。
「飽くなき探求! それがあたいの生きる道! 逼迫する幻想郷の食糧問題があたいの発見した新食材によって鮮やかに解決される瞬間が今ここに!」
「チルノちゃん、昨日もそんなこと言って秋神さまに齧りついてなかった……?」
「あれは不味かったわ……」
「一昨日はフンコロガシの糞玉をトリュフと間違えて食べてたし……」
「でも今度こそ大丈夫! 今日のあたいは一味違う! 絶好調で歴史に偉大なる一歩が刻んでやるわ!」
「一味違うって……なにが?」
「朝ごはんがコーンフレーク(チョコ味)! だった!」
「そうだったね……」
理屈が通らないのもいつも通りだ。
というわけでチルノが一念発起して齧みついてみたが、固くてまるで歯が立たない。
ムキになったチルノが叩いたり振ったりしてみたが変化なし。
「なんなのよこれぇ……」
「何かの道具かなぁ?」
「例えば?」
「お財布……とか?」
「とかぁ? でも振ってもチャリンチャリンって鳴らないよ?」
「うーん……」
言ってみた大妖精も自信なさ気だ。
形が似てるだけだし。
とりあえず、道具ならば森の外れの古道具屋に持ち込めば用途が分かる。
外の世界の品なら良い値で引き取ってもらえるかもしれない。
そう大妖精が言うと、チルノは目を輝かせた。
「じゃ、そのお金でドラ焼き買おう!」
「うん。でも誰かの落し物かもしれないし」
「そんなの知らない! あたいはドラ焼きが食べたいの!」
「でもお財布かもしれないんだよ。失くした人が困ってるかも……」
「えー」
「…………持ち主に返しに行ってあげたら、お礼にお茶くらい出してくれるかも」
「じゃ、それでいこう!」
親友の単純な思考が少し恨めしい。
と、そこへ、予期せぬ人物が通りかかった。
「ん? お前らなにやってんだ?」
「げ。魔理沙!」
「ああ。よりにもよって……」
「おう。霧雨魔理沙さまだぜ。で、今なにを隠したんだ?」
「こっちくんな! こっちくんなってばっ」
フギーっ。
猫みたいに威嚇するチルノを適当にいなしつつ、魔理沙は大妖精が後ろ手に隠したそれをあっさり奪い取る。
こちらはこちらでチルノのあしらい方が上手い。
「ん? なんだこりゃ」
「こらーっ。魔理沙ー! か・え・せーっ!」
「向こうの落ち葉の下に落ちてたんです。……隠してあったのかも」
「んー。なんだっけなこれ。形には見覚えがあるんだが…………落ち葉の下?」
ピクン、と魔理沙のまゆ毛が変な形に歪む。
無言のまま黒いそれを大妖精に返すとハンカチを取り出しフキフキ手を拭いた。
そのハンカチはぽいっと宙に放ってマスタースパーク!
灰すら残らなかった。
「? 魔理沙、それがなにか知ってるの?」
「あー。知ってるっていうかなんていうか」
「教えてください。誰かの落し物かもしれないし」
「お財布かもしれないんだよ!」
「財布なら私がもちろんネコババするぜ。そいつはな……」
魔理沙は嫌そうな顔をしながら説明しようとしたが、ふと口を止めた。
一転、ニヤニヤと悪戯顔になる。
そして意味ありげに、ゆっくりと口を開いた。
「そいつはな、確かに、『落としもの』だぜ」
「やっぱり」
「そうなのかー」
「お前ルーミアの真似上手いな……ああ、『落としもの』だ。持ち主はリグルで間違いないだろ」
「リグルさんの?」
「リグルってばお間抜けさんね!」
「ああそうだな。こんな『大事なもの』をこんな所に落とすなんて」
「そんなに大事なものなんですか?」
「なんなのよ? 『コレ』」
「そりゃあもう、とてもとっても、『大事なもの』さ。それはな……」
魔理沙はニヤニヤしながら『大事なものの正体』を二人に耳打ちした。
大妖精の顔が真っ赤になって、チルノが『エーーーッ』と悲鳴を上げた。
「リグルーっ! あんたって子はーっ!」
「げひゃぁ!?」
太陽の畑からの帰り道、リグルは突然飛んできたチルノに体当たりされて吹きとんだ。
そのまま二人でごろんごろんと落ち葉の道を転がって「ふんぬっ」と馬乗りになったチルノがマウントを取る。
「お母さんはそんなうしとらな関係認めませんからね!」
「だ、誰が誰のお母さんだって……ふしだら?」
「ムキー! あたいだってまだなのに! リグルの癖に生意気だ!」
「チルノちゃん。もうそれくらいにして……」
大妖精が間に入ってくれたおかげで、リグルはどうにか立ち上がる事ができた。
礼を言おうとして、大妖精の様子が何かおかしい事に気付いた。
何やら真っ赤になっている。
まだウキーウキー言っているチルノを後ろに押しやった大妖精は、黒い物体をおずおずと差し出してきた。
「あの、『コレ』……」
「あれ? 『これ』って」
「あ、やっぱりリグルのなのね! ウキーっ」
「いや私のっていうか」
「チルノちゃんは黙っててっ…………。あの、私達、『コレ』を森で偶然見つけちゃって……」
「はぁ……」
何やら深刻そうな表情でぽつぽつと語る大妖精。
リグルには何の事だか分からない。
「……魔理沙さんに『コレ』はリグルさんのだって聞いて……届けなきゃって…………でも最初は何か分からなくて、少し、というか……かなり乱暴に扱っちゃって…………割れてはないですけど、いろいろ……揺らしたり、叩いたりしちゃって……もしかしたら……中の……中の……リグルさんの……ウゥ、ぐす」
「?????????」
リグルには何の事だかサッパリ分からない。
終いには泣き出してしまった大妖精にリグルは慌てて声をかける。
「え? いやいや待って待って。『これ』は別に私のっていうか、え? 『これ』が私のなんだって魔理沙が言ったの?」
「ぐす……ぇ、ぇっと、リグルさんと、あの……誰だか分からないけど……リグルさんが好きな人との……その、愛の結晶、だって」
「へ?」
「……卵って」
「え? ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
「……ひっく。……違うんですか?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやないからないからないからないからないからないからないからないからないからそれはさすがにないから! ていうか私、卵生だったの!?」
「とぼけんなー!」
「いや、ほんとだってば。確かに『これ』は私が知ってる蟲の卵だけど、私の卵じゃ決してないから!」
「……そうなんですか?」
「そうそう」
「……うぅ、良かった」
「うん。だからほら、涙拭いて?」
「ありがとうございます……」
ハンカチを差し出すリグルとそれを受け取る大妖精を見てチルノがぷくーっとむくれて「あたいの大ちゃんに触るなこの×××××おんなーっ」と騒ぎだしたりなんだりと中略。
「じゃ、これの持ち主の所に渡しに行くけど、二人も一緒に来る?」
「はい」
「お茶出るかな?」
「期待しない方がいいよ……」
そういうわけで三人で黒いソレを持ち主まで持って行く事になった。
魔法の森を飛ぶこと十分、リグルは森の空き地の一つに降り立った。
大妖精とチルノもそれに続く。
「どういう方なんですか?」
「でっかい? ねえでっかい?」
どういう相手が出てくるのかワクワクする二人。
でも大妖精はちょっと怖がっているみたい。
そんな空気を読み取って、リグルは安心させるように説明する。
「大きさは、妖化してるから私より一回り大きいくらいかなぁ。その子供や孫たちは結構小さいんだけど。普段は森で暮らしてる一族でね。朽ちた木や小動物の死骸とかを食べてるんだ。意外と鋭い牙を持ってるけど今から会う『彼』は紳士だから怖がらなくていいよ」
「だいじょうぶだよ大ちゃん! あたいがついてるから!」
「うん、ありがと……。期待しすぎないでおくよ」
「凍らせるは勘弁してほしいなぁ」
苦笑いしながらリグルは草むらに呼びかける。
「おーい。ジョンソン、いるー?」
「はいはーい」
返事があった。
カサカサ。カサカサ。下生えを掻き分ける音がする。
そして『彼』が姿を現した。
大妖精は気絶した。
「あ、リグルさん。どうもー」
「元気。あ、今日はね、これ」
隙間に潜むのに適した扁平な体躯。
肢は六本でなぜか二足歩行。体長は2メートルほど。
色は黒だが光の加減によっては茶色にも見える。
細い触角をフサフサ揺らし、発達した顎を噛み合せてキチャキチャ言わせている。
『彼』が主に家庭の台所で最も忌み嫌われる一族の出自であると一目で分かる容貌だ。
かの一族の血脈は恐竜が跋扈する太古より連綿と続いており、もちろん幻想郷においても確固たる勢力を築いている。
人々は恐れおののき、かのレミリア・スカーレットになぞらえて『黒い悪魔』と呼んでいる程である。
チルノも、大妖精よりも理解が遅れる事10秒で気絶した。
「あれ。こりゃわたくしどもの卵じゃないですかー」
「西の森の外れにあったっていうんだけど、心当たりある?」
「西ですと、従姉妹夫婦が住んでたはずです」
「なんか落ち葉の下に隠してあったとか。この子たちが遊んでて見つけちゃったみたいで」
「隠してもすぐに見つかるような場所じゃダメですねぇ。今度言っときます」
「うん。そうして。ところで今年の冬は越せそう?」
「ええ。おかげさまで。丁度いい根城も見つけまして」
「そりゃ良かった」
「人家なんですが暖炉があって暖かいんですよ。一族まとめてご厄介になろうかと」
「うんうん」
「生ゴミや野菜くずなんかもすぐ近くにまとめて捨ててる感じで。ネズミを追い払ったんでこの冬の食糧には困りませんや」
「無理しないでね。君達は少ない食糧でも冬を越せるけど今年の冬は寒さが長くなりそうだから」
「お気遣いありがとうございます。ではこれで」
「うん。よいお年をー」
「よいお年を」
カサカサ。カサカサ。
カサカサ。カサカサ。
カサカサ……。
「うん。よかったよかった。さて二人とも、今日はありがとね。お礼に私がドラ焼きでも……ってアレ?」
おわれ
しかしチルノ。そのコーンフレークは本物か? 踏み潰されたウサギの糞とかじゃないのか?
いやしかし、てっきり俺とリグルの愛の結sy(ry
内容はちゃんと面白かったので素晴らしかったですよ~
リグルはどうかは分からんけどw
文は卵生なんだよなぁ・・・
…ぱっと見わかんねぇなw
おろろろろ…