【ついこの間まで把握しきれてなかった登場人物紹介】
ルナサ=長女でヴァイオリン。地味で暗い。けれど安定感はある。
メルラン=次女でトランペット。明るすぎる人。いわゆるハイテンションな変態。
リリカ=三女でキーボード。基本は姉たちに頼りっきり。わりと黒い。
「うわぁぁぁぁッ! でたぁぁぁぁぁぁ! ルナサさんの歯ヴァイオリンだーッ!!!」
プリズムリバー三姉妹のライブは佳境に入っていた。
普段は暗くて地味なルナサも熱が入り、どうせ手を使わなくても演奏できるのに、わざわざ歯で弦を鳴らす次第。
この世のものとは思えない妙技に観客は熱狂し、盛大な拍手のうちにライブは終了した。
「ありがとー。みんなぁ!」
楽屋裏。
ルナサとリリカはシャワーを浴びに行った。
残ったのはメルランのみだ。普段ならルナサの裸を見るのに余念が無いメルランであるが、今日ばかりは、そう――、今日ばかりはかかせない行事があった。
「姉さんのヴァイオリンと間接キッスしなくちゃならないわ」
そう、ライブ時の歯ヴァイオリン。
あのときルナサの唇がヴァイオリンの弦に触れたはずなのである。唾液がねろねろなはずなのである。
こんな好機を逃すのを天国にいるレイラが許しておくだろうか。いや許しておかないだろう(反語)。
自分で勝手に納得して、メルランはきちんとヴァイオリンケースに収まっていたヴァイオリンをとりだした。もちろんああいった歯ヴァイオリンなる超絶技巧をしたあとであっても、ルナサは手入れをかかさない。弦の唾液などは残っているはずもないのだが、そこはもうメルランの肥大しきった妄執が『ある』と思えば、あるのである。
「姉さんのだ・え・き♪ ルナ姉のだ・え・き♪ ヒャッホーッ」
※しばらく音声のみでお楽しみください。
べろんべろん。
べろんべろんべろん。べろんべろんべろん。
れろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろ。
むちょりむちょり。じゅるるるるるるるるるる。
ねう゛ぁ~。ねみょらぁ~。
「ふぅ。満足満足。も、もう少しシャワーの時間かかるかしら。だったら……、ネックの部分で私のあれをこうしてああしてみたりすれば……わたし成仏しちゃうかもしれないわ。ヴァイオニーしちゃう? ヴァイオニーやっちゃう? いけないわ。はしたないわメルランやめるのよ。それだけはだめ。それだけは騒霊失格」
ヴァイオニーなる造語が何を意味するのかは定かではない。ともかくとてもいけないことらしい。
メルランが意味不明なことで悩んでいると、背後で突然ドアが開いた。
「メルラン。シャワー浴びないの?」
ルナサだった。
「うひぃ」
バタンとヴァイオリンケースを閉めて、にこりと微笑むメルラン。
幸いなことに汗だくだったとしても、ライブの後では不自然ではない。ん? とルナサが首をかしげていても、そのまま押し切るだけのこと。
「じゃあ入らせてもらうわ」
メルランがいなくなった後。リリカはなにやらもぞもぞしている。
「ルナ姉。オムレツつくって?」
「はい?」
「なんだか急に食べたくなったの。つくって?」
上目遣いで媚るような視線だった。指先が胸のあたりで軽く組まれており完璧なおねだりポーズである。
「仕方ないわね……。じゃあちょっと待ってて」
「うわーい」
ルナサがいなくなったあとに、リリカはニヤリと笑う。
今、楽屋には誰もいない。
そう、やるなら今だ!
「メル姉さんのトランペット♪ メル姉のピンク色の唇がついてるところ。メル姉のかわいい指が触ってるところ。つまりはこのトランペットは天壌の音を奏でる神の管。略してメルトラ♪ あ、いけないいけない音を鳴らさないようにしないともう少ししたらメル姉が帰ってきちゃう」
※しばらく音声のみでお楽しみください。
ぷぷぷ。めにゅる。めにゅる。
ぬぽ。ぬぽる。ぬぽる。ぬぽる。めるぽ。
れれれれー。れろんれろんれろんれろんれろん。
かりっ。
かりっ。
ちゅぽ。
ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ。
主に舌を使った演奏の一種であった。噛んだりもした。小悪魔的な素質があるリリカである。
「ふぅ。満足満足。それにしてもメル姉の味はとても金属チックだったわ。そ、それにしてもメル姉遅いわね。ルナ姉さんもオムレツ作るのにはもう少し時間かかるだろうし、トラペットにしちゃう? メル姉さんのトランペットをトラペットにしちゃう? だめ。それだけはだめだよリリカ。リリカは本当は良い子でしょう? そんなことをしたら騒霊失格」
トラペットなる造語が何を意味するかは定かではない。
とりあえずその行為が達成される前にドアは突然開かれる。
「入ったわよー」
「みぎゃ!?」
バタンとトランペットケースをしめて、リリカは何事も無かったかのように振り返る。
「あ、メル姉。入ったんだ。早かったね」
「あれ? 姉さんは?」
「ルナ姉なら私のためにオムレツつくってくれてる。なんだかおなかすいちゃって」
「ルナ姉の手作りオムレツ。私も食べたいわ」
「じゃあ、私の分を分けてあげよっか?」
「さも自分の手柄みたいに言わないの。あなたは何もしてないでしょ」
「てへへ。まあそうだけど。でも分けてあげてもいいってのはほんとだよ」
「まあいいわよ。育ち盛りのあなたと違って私の場合はむしろ食欲ではなく、せいよ……げふんげふん。ともかくそんなにおなか減っているわけではないから」
「ふうん。そう」
楽屋からは離れたところに設置されている台所では、ルナサがオムレツをつくっていた。
普段から妹たちの面倒を見ているルナサであるが、特に手のかかるのはリリカのほうだった。手のかかるほうがかわいいと言ったのは誰だったか。
至言である。
まさしくジャスティスである。
「さて完成。あとはリリカのために特別なトッピングをしてあげなくちゃいけないわね……」
真面目な声と視線。
見ている者は誰もいなかったが、もしも彼女の姿を見かけたものがいたら、こう言ったに違いない。
――まるで考える人のようだ。
思索。深い深い思索。
その思索の果てにたどり着いたのはいったい何なのか。
※やっぱり音声のみでお楽しみください。
だら~~~~~~~~~~~。
ぽとぽとぽとぽと。
れろ~~~~~~~~。
ねっちょねっちょねっちょねっちょ。ぬっちょぬっちょ。
ぬちゅぬちゅ。くんかくんかくっ……あぢっ!
はみはみはみはみはみはみ。
もむぐもむぐもむぐもむぐ。
危うかった。あと少しで食べてしまうところだった。甘噛みですんだのは奇跡に近い。
「ふぅ。満足かな? とりあえずこれでいいか。あとはリリカに味わってもらおう。それにしても残念なのはリリカのキーボード。リリカのちっちゃな指が奏でるのは良いとして、薄紅色をした唇が触れるところはどこにも無いんだもの。鬱だ……ほんと鬱だ……」
楽屋にいくと、メルランももう帰っていた。これではあーんして食べさせることはできそうにない。
再び鬱がぶり返すが、リリカの笑顔を見ていると、少しだけ心が晴れる気がした。やはり末の妹はかわいいものだ。
「わぁい。ルナ姉さんのオムレツだ! あれ、このオムレツなんだかルナ姉の顔の形にくぼんでる気がするよ?」
「気のせいでしょ。食べたら変わらない」
「それもそうだね。なんだか表面がテカってるのも気のせいだよね」
「気というより、気圧のせいかもしれない」
それから後。
プリズムリバー三姉妹の微妙な安定感の秘密が明らかになるのにさほど時間はかからなかった。
ルナサ→リリカ→メルラン→ルナサ→以下エンドレスという構造だと思えばよい。彼女たちと弾幕ごっこをするときによく見かけるトライアングルを思い描けばわかりやすいだろうか。
「つまりはお互い片思いってことなのね?」とメルラン。
「ルナ姉のことが嫌いなわけじゃないよ?」とリリカ。
「私だってメルランのことが嫌いなわけじゃないわ? でも……」とルナサ。
「そうだいいこと考えた!」
いつだって場をまとめあげるのは、調和の音を有するリリカだった。
いつものライブ会場にて。
「私たち結婚することにしました!」
三姉妹の声が綺麗にハモった。
ていうか全体的にひどいこれはひどいww
キスを含め体液交感はポピュラーなものですけど、その擬音はヤ・バ・い
※グロ注意、食事中注意のタグを希望。
ガッ
これはいいものだ