Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

Lunatic, frantic

2009/12/25 12:57:21
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1、 Lunatic, frantic





 箱庭。私が普段生活する場所を例えるならそう、箱庭。鳥籠とも違う、箱庭。生活する分には何不自由無い設備と、美味しいご飯が出てくる。ぐうたらしているだけで生活には困らないけど、寿命も無駄に長くて一日一日の変化も楽しめないような吸血鬼の身体じゃ暇でしょうがないのだ。

 こんなに退屈な日々を過ごすだけなら、もういっそ死んでしまおうと思ったことなんて何回もある。でもその度にお姉様が悲しむ顔が浮かんで、思いとどまってしまう。
 お姉様は私をこの箱庭に閉じ込めた張本人だけど、それはお姉様が私の身を案じてのこと。

 強すぎる力は、畏れられ、人はそれを認めない。私だって、幻想郷においても強すぎる力をもっているし、コントロールもきかないとなっては、何をされるか分からない。そういうこと。お父様だって人の手によって殺されてしまった。パチュリーから借りた本に出てくる吸血鬼というのは、大体が悪者。確かに少しくらい人間を食料として貰うことはあるけれど、あんな風に大殺戮は行わない。血を吸ったら大抵は町に返すし、血を吸う量もその人の血のことを考えて貧血が起こる程度にとどめていたと聞く。パチュリーのところにある本は大抵人間が書いた物だから、やっぱり人間が活躍するには人間に悪者の敵が必要なんだろうけど、それにしても過度な描写だなぁと思う。



 部屋の話に戻そう。

 さっきも言ったとおり、この部屋は箱庭である。でもこの箱庭は、今となっては私の意思で出ることが出来て、紅魔館というもう少し楽しくて、もう少し大きな箱庭まで範囲を広げることが出来る。でも、何だかこんなどうしようもない部屋でも、五百年近く住んでいると愛着が沸いてきてしまって、一日の大半はこの部屋で過ごしている。


 この部屋は開け閉め出来るとはいえ箱庭だから、その入り口以外の出口は無い。つまり何かから逃げる場所がその入り口以外無いのだ。加えて地下にあるからどうしようもなく暗い。本来吸血鬼である私にとって暗さなど何の問題も無いのだが、心に大きな闇を抱える私はどうしても光の方にあこがれてしまう。

 光を意識すると闇が濃くなる。だからと言って、明かりを灯してしまえば、その明かりに比例した濃さの影が出来るのだ。


 私は紅魔館から出たことが無いから、色を良く知らない。でも、闇とか、影とかそういうのは黒なんだということを、本からの知識で知っている。

 昔お姉様から暇つぶしの道具として大きな画用紙と絵の具を貰ったことがあった。でも私は影の色である黒と、血の色が赤ということしか知らなかったから、その二色だけで絵を描いた。その絵がどんなにお姉様を悲しませたことか。

 影も黒。闇も黒。心の中の暗い部分も、色で言ったら黒。黒は全部悪い色。イメージ的には良くない色。


 黒は他の色と混ざらないところも恐ろしい。その絵の一件から私は少し絵の勉強をして、色を学んだけれど、黒は何と混ぜても黒だった。黒を薄めたいのなら、その何倍もの白を混ぜるより他は無い。

 私は心に白を持っていないから、黒を薄める術は無い。


 私が持っているのはスカーレットの色である赤と、明るさの反面、危険も表す黄色。血のような黒に近い赤の茜色。そして黒。

 だから私に黒を消す術は無いのだ。



 時々私のこの箱庭にも黒が沸いて出る。当然私は恐い。吸血鬼という暗さに恵まれている種族でも、黒は恐いのだ。例え身体が種族として強かろうと、多分黒は精神に攻撃してくるもの。吸血鬼だろうがそんなものは関係ない。身体が強い分、吸血鬼は心が弱いように思える。人間の方が、心はよっぽど強い。

 この間お姉様に聞いてみたら、お姉様も黒は恐いと言っていた。抗いはするけど、攻撃する勇気は無いとまで言っていた。

 しかし咲夜は依然、あろうことか私の部屋で広がっていった黒を退治してしまった。恐くないのかと聞くと、

「恐いですわ。恐いですけれど、お嬢様方を、時を止めてでも危険から守るのが咲夜の役目ですわ」

 だそうだ。


 人間である咲夜は黒に向かっていくだけの勇気を持っている。羨ましいことだと思う。



 ほら、こうしている間にも部屋に黒は沸いて出た。意識さえしなければ分からないというのに、一度視界に入ってしまったが最後、とても意識せずには居られずその存在感はどんどん大きくなって、私を締め付ける。


 私はベッドの上まで後退した。
 それでも黒は段々と私に近づいてくる。

 もうベッドのすぐ近くまで黒が寄ってきたときに、私も咲夜みたいに強くなりたくて意を決する。


 黒を壊そう。


 集中がぶれるからか、黒の「目」は手に現れない。握りつぶせば全てが終わる私の目の前に置いて、恐らく唯一私が恐れ、握りつぶせないもの。

 私は舌打ちをして、握りつぶせないものに効果があるか分からないけれどレーヴァテインをその手に握った。

 今までの悪夢を振り払うように、最大出力のレーヴァテインを振るう。
 その一撃は、弾幕ごっこで使う一撃とは比べ物にならない本気の一撃だった。


 私の箱庭の壁は特殊な魔法で補強されているから傷一つ付かないけれど、中の家具等は今の一撃で滅茶苦茶だった。それでも黒には効いていない。驚くべきことに、レーヴァテインは当らなかったのだ。


「ひっ」


 私は等々恐ろしくなってベッドに潜ってしまう。
 黒は段々近づいてくる。振れてしまったが最後、私はどうなるのだろう。理性が完全に吹っ飛んでしまうかもしれない。発狂することは間違いないだろう。

 今まで私のことを意識せずにうろうろしているだけだった黒は、等々私を見据える。どこに目があるのかは分からないが、多分今こちらに標準を合わせているだろう。


 私は半泣きだった。
 あぁ、やっぱり私には黒をどうにかする術を持っていなかった。





 そのとき、妙な感覚に襲われる。この感覚は、咲夜が時を止めた感覚だ。その不思議な感覚から解放されると、私の毛布を捲られる。

 恐る恐る顔を上げると、そこには少し困った様な、優しい笑顔を浮かべている咲夜が居た。





















「全く、お嬢様も妹様も吸血鬼なんですから、ゴキブリくらいでそんなに騒がないでくださいな。この有様を修復するのは私なんですから」



 こうやって、何度でも咲夜は私を黒から救ってくれる。
フランちゃん、フランちゃん。ゴキブリは人間でも無理なものは無理なんだよ。
鉄梟器師ジュディ♂(元フクロウちゃん)
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あれ、何やら鼻から愛情が溢れ出てきた
2.ずわいがに削除
確かにGが爆散するのはキツイww

俺なんてムシは全部ダメだ……リグルは例外。
3.名前が無い程度の能力削除
まさかこういうオチとは
4.名前が無い程度の能力削除
まさかのGw
5.名前が無い程度の能力削除
フランちゃんかわいい
6.奇声を発する程度の能力削除
黒は怖いwww
7.名前が無い程度の能力削除
俺は茶色も怖いwww
8.名前が無い程度の能力削除
くろと聞いてGを連想した俺は異端ww
9.名前が無い程度の能力削除
最初は咲夜さんがフランにやさしくして、それを光として好かれてるのかとも思ったけど。

途中、黒が動く、という描写が濃くなってきた当たりでGだと気付いた。
なぜなら、心象風景や雰囲気的にフランの心に潜む恐怖を黒と例え、伝えたいならこの黒はそれと同格にしていた闇と書けばいいから。読んでるほうも、闇と書かれたほうが怖いものだと認識しやすいと思うし。

が、湧いて出たのは闇じゃなくて黒。うごめくのも黒。迫ってくるのも黒。
あぁ、ゴキブリの話かwと途中で納得した。

かくいう私は虫というか節足動物もアウトですけどね!
ゴキブリ見つけた瞬間の反応速度はきっと吸血鬼をも上回ると自負している。

ところで、さっきから黒いマント羽織った女の子が泣いているんだが……
10.フクロウちゃん削除
沢山のコメントありがとうございます。
>1様
紅魔組の暖かさは尋常じゃ無いと常々思っております。

>ずわいがに様
私はカマキリが一番苦手です。過去にトラウマがありまして。

>3様
最初に思いついたのはfranticという英単語で、フランちゃんがfrantic(躍起になる)としたら何になるんだろうと、思って考えたら先日私の家で黒が出たのでこうなっちゃいました。

>4様
ゴキブリ恐い。世界のどこかには巨大なゴキブリも存在するのだとか。間違いなく生物兵器。

>5様
フランちゃんは可愛いです。ほっぺたぷにぷにしてそうです。細くて長そうな足もたまりません。

>奇声を発する程度の能力様
私も現れたときは数秒固まって、にらみ合いから始まります。黒との闘いは常に武士が如くです。

>7様
黒は存在感が、茶色はあの生々しさが尋常じゃ無いですよね。彼等は多分人間の心理を知った上であのカラーを選んでいると思います。

>8様
読まれてしもうたか。しかしあやつらの存在感はやはり強大な物なのですなぁ。

>9様
そこまで読まれてしまっていたか。ゴキブリを濁した言い方を探し、黒を思いついてからという物、「黒」という言葉を存在として認識させ、尚且つ恐い存在という風に思われるように頑張ってみたのですが、修行不足ですね。それにしても、すごい!
なんというか、奴等はこうなんであんなに恐い形相をしているのですかね。服でも着せてあげたら可愛らしくみえるのでしょうか。
蛍なんて、そういえば高校のとき見た以来だなぁ。
11.名前が無い程度の能力削除
モノクロームは~から来ました。
面白かったです。まさかこう繋がるとはw
ちなみに巨大なGとは恐らくヨロイモグラゴキブリの事ではないでしょうか。驚いたことにペット用なんですよ。
12.名前が無い程度の能力削除
>11様
楽しんでいただけたら幸いです。
そうしてヨロイモグラゴキブリの検索結果を見た俺は麻痺したが、「押すな」と書いてあるボタンは押したくなるように、検索で出たYoutube動画を見てしまった俺は石化した。