『釣瓶です』
ヤマメに「どこ住んでるの」って聞かれたことがある。わたしは答えた。「ここに住んでるの」
もちろん、こことは釣瓶のことだ。ヤマメもパルスィも釣瓶と桶はまったく違う存在であることに気づいていない。桶の親戚ぐらいに思っている。
わたしにとっては、イモリとヤモリほどに違うのだと主張したかった。実際は釣瓶の中に頭を潜めただけで私の主張は不発に終わった。
それでヤマメは次に「ドアはどこにあるの?」って聞いてきた。たしかに世の中の多くの家にはドアがついているようだ。ついでに言えば屋根もついていることが多いらしい。
わたしの住んでいる釣瓶は屋根もなければドアもない。だから、家未満。なるほどヤマメの主張は一理あると思った。
それで今はぴったりサイズの鍋蓋をドア兼屋根の代わりにしている。後日ヤマメには、「いいおひつだね」と言われた。もう好きにしてもおーけー。
『明るいことはいいこと』
ヤマメの性格は明るい。地の底に住む妖怪はどんよりしていることが多いのにヤマメは明るい。
ひるがえって、わたしはどうだろうか。自分の性格を分析してみる。釣瓶のなかに引きこもって、ぶらぶらしてて、世に言うニートというやつなのかもしれない。
このまま奥手なままの性格でいいのだろうか。明るい自分になりたい。自己啓発したいと考えた。そこでヤマメの明るさの秘密を解き明かそうと決意した。
ヤマメについていくと、ヤマメは快活な声で挨拶する。それにみんな答える。鬼の勇儀さんに対しても臆することなく声をかけているのを見てわたしは感動した。
わたしとヤマメの違いはどこから生じるのだろう。そこでもヤマメは優しくわたしを諭してくれた。「積極性じゃないかな」
後日地底に来た巫女服の女の子に、わたしが弾幕勝負を挑んだのは、以上の理由による。
『X軸だけ』
最近、釣瓶のサイズが小さくなったような気がする。
ヤマメには「最近太った?」って言われた。断じて違う。そうじゃない。釣瓶が小さくなったのである。「もしかして成長期ってやつ?」
成長という言葉は好きだ。古いわたしを捨てて新しいわたしを得る。脱皮の概念を思い浮かべる。
ヤドカリみたいに家を変えることになったのは数日後の話。
わたしは脱皮した。わたしは成長したと思う。けれどX軸方向ばかり成長しているのはなぜだろう。世界にはYが足りない。
『リアル充実』
パルスィがいつにも増して「妬ましい妬ましい」と呟いていた。何かあるのかなと思って尋ねてみたら、どうやら妬ましいイベントが近いらしい。
恋愛成就のイベントでみんな幸せになれって祈りがこめられた日。いわゆるクリスマスとか呼ばれている日がもうすぐ来るようなのだ。
ここ幻想郷においても外の流行に敏感な人はいるらしく、地上との交流が始まってからは、にわかにクリスマスという概念が輸入された。
それで、クリスマスの日には、みんなが仲良く手をつないだり、キスしたり、幸せになるらしい。わたしにはよくわからなかったが、みんな幸せになるならそれでいいじゃないかと思った。
けれどパルスィは、「リア充が妬ましいのよ。みんなリアルで充実して、ああ、妬ましい妬ましい」と嫉妬パワー全開。
でも「妬ましい妬ましい」と口にだすパルスィは、とてもリアルに充実しているとわたしは思った。ちょっと妬ましい。パルパル。
『インタビュー』
地上の文屋と名乗る人からインタビューを受けた。わたしは辞退したかったのだが、ヤマメとともにいつのまにか受けることが決定していた。
名前から始まり、身長、体重、趣味、嗜好とまるで犯罪者のような扱いである。インタビューなので我慢していると、ついに住所の話になった。
知ってのとおり、私の家はここ釣瓶のなかである。わたしが「釣瓶の中に住んでる」と答えると、インタビュアーさんは興味を引かれたようで、釣瓶について話をふりはじめた。
Q:お風呂はどうしているんですか。A:釣瓶のなかに水を浸して入っています。
Q:寝るときはどうするんですか。A:胎児のように丸まって寝ています。
Q:おトイレはどこで。A:そのインタビュアーさんには、私の住み家が鈍器にもなることを教えてあげた。
>X軸だけ
胸が成長したんだと認識してよろしいですね!
縦だっけ?いや、横か?
>1
この情報だと横?
お風呂の入り方が凄いですねキスメさんはwww
で、おトイレはどこd
誰かが不幸になるってことなんだ!
いえ、何でもないです。ところでキスメさん。ご趣味はなんでしょうか?
X軸増大で桶の隅までみっちり詰まったキスメを想像したら萎えt(桶のカド)