Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

しょうもないマリアリ

2009/12/20 03:00:42
最終更新
サイズ
8.15KB
ページ数
1

分類タグ

私、アリス・マーガトロイドは人形を扱う魔法使いとして知られている。
ただ、人形しか使えないという訳では、決して、ない。
たとえば弾幕ごっこの際。人形を目立たせておいて、別の手段で奇襲……そんな手を使うことだって、勿論出来る。

そして、これはその一つである。

す、と息を吸い。
急速に前進し。
標的を蹴り飛ばす!

私の蹴りを受け、訓練用のサンドバッグ人形はずどんと大きく吹き飛んだ。

筋力・速度・体重を魔法で一時的に強化した下段蹴り。
ダッシュキック、とでも呼ぼうか。
私のことを"戦闘は人形まかせで本体は隙だらけ"と思って油断している相手に、思い切り奇襲をかけることができる。

余談だがこのダッシュキックは私本人にも強烈な慣性が掛かり、相手にガードされてしまうと多大な隙をさらすことになる。
が、あらかじめ槍を装備させた人形達をスタンバイしておけば、すかさず彼女達を突進させることでフォローも可能である。
私のキックに隙はない。霊力の消耗がきついのはご愛嬌。

閑話休題。

「ふっ」
サンドバッグ人形を立たせ、再度蹴りをぶちこむ。
これは知り合いの霧雨魔理沙を模した人形だが、特に他意はない。本当にない。

ずどん

気持ちよく魔理沙を吹き飛ばす音が、しばらく辺りに鳴り響いていた。





すこし後、トレーニングを終え、私は人里の近くを飛んでいた。

「ん?」

人里の外れの開けた場所に、里の男の子達が集まって遊んでいる。
いや、それだけでは別に私の注意を引いたりはしないのだが。

「……あいつ、何やってんのかしら」

魔理沙がその中に混じっている。
勘当された実家の親父さんが見たら何と言うだろうと、他人事ながら思った。

地面に降り、離れた場所から観察していると、どうもこれは複数人が2つのチームに分かれて対戦するゲームのようだ。
地面にはラインが引かれてあり、長方形のコートの中で対戦が行われている。

よく見るとゲームの中心は一つのボールらしい。
彼らは皆、手は使わず、足技でボールをやりとりしている。

見ているうち、魔理沙のもとにボールが渡った。
彼女は左足をボールの傍に添え、そこを軸足に右足を振りぬいた。
足の甲が、ボールの中心を綺麗に蹴り飛ばす。

「ああ、サッカー」

魔理沙のシュートが相手陣地のゴールに吸い込まれるのを見ながら、私は彼らが遊んでいる競技を理解した。

サッカー。
これはもともと、外の世界の競技だという。
このゲームが幻想郷で始まった当時は、日傘でボールを突き刺したりいきなり極太レーザーをコートに撃ちこんだりコートが突然弾幕裁判所と化したりと無茶苦茶なものだった。
ゴールキーパーがボールに吹き飛ばされるなど日常茶飯事だった。いかれている。

が、ハンドとファウルのルールが広まるにつれてそういったカオスさはなりをひそめ、最近では里の人間も遊ぶようになったようだ。


話がずれた。

この試合、見ていると魔理沙は少しずるをしている。
魔法で肉体を強化しているのだ。
男の子が相手、魔理沙は女の子。とはいえ、あれは少し強すぎる。

私が観戦を始めてからも、魔理沙は既に2点入れた。スコアボードを見ると、現在5‐0。
とっくにハットトリックぐらいは達成していると思われる。

ぽん

魔理沙の相手側チームのディフェンダーが、なんとかボールを奪い返し、大きくクリアした。
ボールは危険域を脱し、コートの外に飛んでいく。

そして私の目の前に落ちてきた。

「あ、お姉さーん」
男の子の一人が、私に気づいて声を掛けてくる。

「それ、取っ」
彼がみなまで言う前に、私は右足で踏み込み、バウンドするボールを見据えた。

左のインステップボレー。
私の蹴ったボールは低空を這うように飛んで行き、魔理沙側のゴールにすぱんと突き刺さった。

「私も混ざっていいかしら?」
…気づけば私はそう言っていたのだった。







まったく驚いた。
私が蹴鞠(正式名称はサッカー。でも別にそんなカッコつけなくても良いだろう。蹴鞠でいい)に参加して遊んでいると、突然アリスの奴が相手チームに加わったんだ。
アリスは肉体的には弱いと思われがちだが、そんなことはない。奴は万能型の魔女である。
肉体強化の魔法だってさらりとやってのけ、しかも人間のレベルに合わせたパワーに抑えつつ、

中盤でのキープで人を集めてから空いたスペースにスルーパスを出し、
味方ディフェンダーからの速いパスをダイレクトでサイドアタッカーに流し、
ドリブルで中央を単独突破…と見せかけて端に抜けて絶妙なセンタリングを上げ。

なんだかんだで大活躍している。なんという器用さ。

「く、やるじゃないかアリス!」
こちらの攻めの出鼻を潰され、中央付近でアリスと1on1の状況。私はアリスに話しかけた。

「あら魔理沙。一方的な展開だと詰まらないでしょう?もっと楽しくしてあげるわ」
アリスはにやりと笑った。

す、とアリスの右足が動き…ボールを、蹴らなかった。
左足。も、ボールの前をくぐる。

(個人技――)

ダブルシザース。

魔理沙は知らなかったが、その技はそう呼ばれている。アリスの知識は広範なのだ。






アリスが魔理沙を抜き去った。
それから一歩ドリブルし、アリスはミドルシュートを放った。
ゴールポストぎりぎり、右斜め上。キーパーは捕れない。

ゴール。気づけば、スコアは5‐5。同点になっていた。

「むむ。…悔しいな」
そう呟く魔理沙。その表情はむしろ、いきいきとしていた。
努力の天才。誰も口に出しては言わないが、霧雨魔理沙はそういう人である。
苦境をむしろ楽しめる人間なのだ。

「アリス。ここからが本番だぜ?」
「あら、私はずっと本番よ」

すれ違いざま、二人はそう言葉を交わした。







魔理沙は本当に、いつでも楽しそうな奴だ。
私はそう思う。
大した力も持っていない癖に、全力で楽しむことにかけては誰にも引けを取らないのだ。
常に凪いでいて穏やかなはずの、妖怪である私の心まで引っ張られていくような、そんな幻覚すらおぼえる。

魔理沙がパスを受ける。無駄なくトラップし、体重を移動させてスピードに乗る。
それからフェイント……は、かけない。私から見て向かって右側へ、一直線にドリブル。目標は明確、サイドアタックで崩してくる気だ。
生半可な速度ではない。単純だけど速い!

「くっ」

そう簡単には止められない。置いていかれそうになるのを、ぎりぎりでスライディングしてボールを掠め取った。

「いたた」
ずてん、と魔理沙は転んだ。もちろん、足を引っ掛けてはいない。ホイッスルは鳴らない。

私は味方の前線を見渡す。
守備から一転、速攻をかけられる条件が揃っている。相手ディフェンダーはラインを下げ切れていない。
いま一気に攻め込めば、人数差でゴールまでもっていける!

大きく前進する味方フォワード目掛けて、私がロングパスの体勢に入った時だった。

がきん

ボールがブロックされた。
見なくても分かる、魔理沙だ。
転んでも一瞬で体勢を立て直し、私に喰らい付いてきたのだ。

(まったく、こいつは)

これはただの遊び。
命がかかってる訳でもないし、人生の趨勢が占われるものでもない。
それなのに魔理沙は、転んで服が泥んこになっても、汗だくで綺麗な金髪が顔に貼りついても、それでもこうして全力で挑んでくるのだ。


今度は私が転倒する番だった。
転びながら私は…少し笑っていたような気がする。

今まさに蹴り飛ばそうとしていたボールをブロックされ、勢いあまって私は地面に転がった。

魔理沙が前線にボールを送っているのが、視界の隅で見えた。
今度はこちらがカウンターの速攻を貰う番というわけだ。
残り時間は少ない。今、失点すればそれが決勝点になりかねない。

「くそっ、まったく!」

私はがばと起き上がった。
空を飛ぶのは当然駄目。
魔法の肉体強化はせいぜい人間の男性並まで。

ここまできてズルはしない。
味方ゴールに向けて私は走った。

息が切れ、たぶん私は無様な格好なんだろうな。
そんな事を思ったけれど、むしろそれはどうでもいいと思った。



景色がスローモーションに見える。

魔理沙のチームのフォワードがサイドに流れ、センタリングを上げる。

大きい。これはゴール前を抜ける――?

……いや、むしろそれが相手の狙い!
ゴール前の密集地帯。を、少し離れた場所で。

あいつは空中を飛び去っていこうとするボールに向かって、跳びあがっていた。



頭を下げ、足を天に向け、オーバーヘッドキックの体勢に入った霧雨魔理沙が、痛いほど綺麗に、私の目に映った。

魔理沙の足が振り下ろされる。
いいコースのシュート!

キーパーは捕れるか、どうか。
そんな事を考える余裕もなく、私は夢中でボールに跳びついていた。









さて、思い切った事をしたものだ。

こんな蹴鞠、これはただの遊びだ。
でも、私はアリスに負けまいと必死だった。それは認めよう。
だから私は、とにかく頑張って、飛んできた鞠に喰らい付いて、思い切り蹴ったんだ。

予想外だったのはアリスだ。
いつだってクールで、私がほうぼうで要らぬことに首を突っ込んでいるのを見ても、静かに笑ってるだけのあいつが、だ。

いつのまにか真剣な顔をしていたんだ。
こんな…こんな蹴鞠で。

どうしても負けたくない、そんな表情で、なりふり構わず鞠を止めに入ったんだ。

バチィ

そう、アリスは顔面で鞠を止めたのだった。

はたして。

……鞠は大きく跳ね、ぽんぽんと離れていった。


私はアリスの顔を見た。
あいつのふっくらと艶やかな唇が、今は真っ赤に腫れ上がっていた。


…それと同時に、試合終了の笛が鳴った。同点、か。


アリスは笑って、肩をすくめてこう言った。

「ファーストキスだったのに」
「キスか、鞠と」
「ボールと言いなさい」

なんだか分からんが、アリスはとても満足げだった。
よく分からんけど、私も満足だったと思う。
鞠アリ-New!-
ガブー
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
後書きに腹筋をもっていかれた。
2.ずわいがに削除
マリアリを読みに来たら鞠アリだったけど面白かったから満足でござる。
個人的にサッカーは最高のスポーツ。
3.名前が無い程度の能力削除
これはいい青春
4.名前が無い程度の能力削除
確かにしょうもない鞠アリwww
5.名前が無い程度の能力削除
鞠アリww
6.名前が無い程度の能力削除
たしかにこれは新しいwww
7.名前が無い程度の能力削除
ワロタwww
8.名前が無い程度の能力削除
後書き言いたい為だけにこんな良い話書くなよw
9.名前が無い程度の能力削除
その発想力が妬ましい…
10.名前が無い程度の能力削除
青春だなーとか思ってたのにギャグかよww
11.名前が無い程度の能力削除
これはいい鞠アリ……あれ?
12.名前が無い程度の能力削除
後書きすげえw
いや、話も普通に良かったが、全部持ってかれた感が。
13.奇声を発する程度の能力削除
青春だぁ!
後書きwww少し経ってから気づいたwww
14.名前が無い程度の能力削除
しょーもねーなオイw
15.名前が無い程度の能力削除
これはしょうもないとしか言いようがないw
16.名前が無い程度の能力削除
確かに鞠アリwwwwww
新しすぐるwwww
17.名前が無い程度の能力削除
上手い!やられた!
何でこんなまともな話が
18.名前が無い程度の能力削除
珍しく全力出してる良いアリスが見れたのに、
なんかすごくもったいなく感じるぞwww
19.名前が無い程度の能力削除
これはしょうもないw
しかし素晴らしい!
20.名前が無い程度の能力削除
次回はマリ蟻ですね、わかります。
21.名前が無い程度の能力削除
うあ、最後に全部持ってかれた
22.名前が無い程度の能力削除
完璧なオチw
23.名前が無い程度の能力削除
これは本当にしょうもないなw
24.名前が無い程度の能力削除
イイハナシダッタノニナーwww
25.名前が無い程度の能力削除
\鞠アリ/
しょうもねーけど、笑ったw