私、アリス・マーガトロイドは人形を扱う魔法使いとして知られている。
ただ、人形しか使えないという訳では、決して、ない。
たとえば弾幕ごっこの際。人形を目立たせておいて、別の手段で奇襲……そんな手を使うことだって、勿論出来る。
そして、これはその一つである。
す、と息を吸い。
急速に前進し。
標的を蹴り飛ばす!
私の蹴りを受け、訓練用のサンドバッグ人形はずどんと大きく吹き飛んだ。
筋力・速度・体重を魔法で一時的に強化した下段蹴り。
ダッシュキック、とでも呼ぼうか。
私のことを"戦闘は人形まかせで本体は隙だらけ"と思って油断している相手に、思い切り奇襲をかけることができる。
余談だがこのダッシュキックは私本人にも強烈な慣性が掛かり、相手にガードされてしまうと多大な隙をさらすことになる。
が、あらかじめ槍を装備させた人形達をスタンバイしておけば、すかさず彼女達を突進させることでフォローも可能である。
私のキックに隙はない。霊力の消耗がきついのはご愛嬌。
閑話休題。
「ふっ」
サンドバッグ人形を立たせ、再度蹴りをぶちこむ。
これは知り合いの霧雨魔理沙を模した人形だが、特に他意はない。本当にない。
ずどん
気持ちよく魔理沙を吹き飛ばす音が、しばらく辺りに鳴り響いていた。
すこし後、トレーニングを終え、私は人里の近くを飛んでいた。
「ん?」
人里の外れの開けた場所に、里の男の子達が集まって遊んでいる。
いや、それだけでは別に私の注意を引いたりはしないのだが。
「……あいつ、何やってんのかしら」
魔理沙がその中に混じっている。
勘当された実家の親父さんが見たら何と言うだろうと、他人事ながら思った。
地面に降り、離れた場所から観察していると、どうもこれは複数人が2つのチームに分かれて対戦するゲームのようだ。
地面にはラインが引かれてあり、長方形のコートの中で対戦が行われている。
よく見るとゲームの中心は一つのボールらしい。
彼らは皆、手は使わず、足技でボールをやりとりしている。
見ているうち、魔理沙のもとにボールが渡った。
彼女は左足をボールの傍に添え、そこを軸足に右足を振りぬいた。
足の甲が、ボールの中心を綺麗に蹴り飛ばす。
「ああ、サッカー」
魔理沙のシュートが相手陣地のゴールに吸い込まれるのを見ながら、私は彼らが遊んでいる競技を理解した。
サッカー。
これはもともと、外の世界の競技だという。
このゲームが幻想郷で始まった当時は、日傘でボールを突き刺したりいきなり極太レーザーをコートに撃ちこんだりコートが突然弾幕裁判所と化したりと無茶苦茶なものだった。
ゴールキーパーがボールに吹き飛ばされるなど日常茶飯事だった。いかれている。
が、ハンドとファウルのルールが広まるにつれてそういったカオスさはなりをひそめ、最近では里の人間も遊ぶようになったようだ。
話がずれた。
この試合、見ていると魔理沙は少しずるをしている。
魔法で肉体を強化しているのだ。
男の子が相手、魔理沙は女の子。とはいえ、あれは少し強すぎる。
私が観戦を始めてからも、魔理沙は既に2点入れた。スコアボードを見ると、現在5‐0。
とっくにハットトリックぐらいは達成していると思われる。
ぽん
魔理沙の相手側チームのディフェンダーが、なんとかボールを奪い返し、大きくクリアした。
ボールは危険域を脱し、コートの外に飛んでいく。
そして私の目の前に落ちてきた。
「あ、お姉さーん」
男の子の一人が、私に気づいて声を掛けてくる。
「それ、取っ」
彼がみなまで言う前に、私は右足で踏み込み、バウンドするボールを見据えた。
左のインステップボレー。
私の蹴ったボールは低空を這うように飛んで行き、魔理沙側のゴールにすぱんと突き刺さった。
「私も混ざっていいかしら?」
…気づけば私はそう言っていたのだった。
まったく驚いた。
私が蹴鞠(正式名称はサッカー。でも別にそんなカッコつけなくても良いだろう。蹴鞠でいい)に参加して遊んでいると、突然アリスの奴が相手チームに加わったんだ。
アリスは肉体的には弱いと思われがちだが、そんなことはない。奴は万能型の魔女である。
肉体強化の魔法だってさらりとやってのけ、しかも人間のレベルに合わせたパワーに抑えつつ、
中盤でのキープで人を集めてから空いたスペースにスルーパスを出し、
味方ディフェンダーからの速いパスをダイレクトでサイドアタッカーに流し、
ドリブルで中央を単独突破…と見せかけて端に抜けて絶妙なセンタリングを上げ。
なんだかんだで大活躍している。なんという器用さ。
「く、やるじゃないかアリス!」
こちらの攻めの出鼻を潰され、中央付近でアリスと1on1の状況。私はアリスに話しかけた。
「あら魔理沙。一方的な展開だと詰まらないでしょう?もっと楽しくしてあげるわ」
アリスはにやりと笑った。
す、とアリスの右足が動き…ボールを、蹴らなかった。
左足。も、ボールの前をくぐる。
(個人技――)
ダブルシザース。
魔理沙は知らなかったが、その技はそう呼ばれている。アリスの知識は広範なのだ。
アリスが魔理沙を抜き去った。
それから一歩ドリブルし、アリスはミドルシュートを放った。
ゴールポストぎりぎり、右斜め上。キーパーは捕れない。
ゴール。気づけば、スコアは5‐5。同点になっていた。
「むむ。…悔しいな」
そう呟く魔理沙。その表情はむしろ、いきいきとしていた。
努力の天才。誰も口に出しては言わないが、霧雨魔理沙はそういう人である。
苦境をむしろ楽しめる人間なのだ。
「アリス。ここからが本番だぜ?」
「あら、私はずっと本番よ」
すれ違いざま、二人はそう言葉を交わした。
魔理沙は本当に、いつでも楽しそうな奴だ。
私はそう思う。
大した力も持っていない癖に、全力で楽しむことにかけては誰にも引けを取らないのだ。
常に凪いでいて穏やかなはずの、妖怪である私の心まで引っ張られていくような、そんな幻覚すらおぼえる。
魔理沙がパスを受ける。無駄なくトラップし、体重を移動させてスピードに乗る。
それからフェイント……は、かけない。私から見て向かって右側へ、一直線にドリブル。目標は明確、サイドアタックで崩してくる気だ。
生半可な速度ではない。単純だけど速い!
「くっ」
そう簡単には止められない。置いていかれそうになるのを、ぎりぎりでスライディングしてボールを掠め取った。
「いたた」
ずてん、と魔理沙は転んだ。もちろん、足を引っ掛けてはいない。ホイッスルは鳴らない。
私は味方の前線を見渡す。
守備から一転、速攻をかけられる条件が揃っている。相手ディフェンダーはラインを下げ切れていない。
いま一気に攻め込めば、人数差でゴールまでもっていける!
大きく前進する味方フォワード目掛けて、私がロングパスの体勢に入った時だった。
がきん
ボールがブロックされた。
見なくても分かる、魔理沙だ。
転んでも一瞬で体勢を立て直し、私に喰らい付いてきたのだ。
(まったく、こいつは)
これはただの遊び。
命がかかってる訳でもないし、人生の趨勢が占われるものでもない。
それなのに魔理沙は、転んで服が泥んこになっても、汗だくで綺麗な金髪が顔に貼りついても、それでもこうして全力で挑んでくるのだ。
今度は私が転倒する番だった。
転びながら私は…少し笑っていたような気がする。
今まさに蹴り飛ばそうとしていたボールをブロックされ、勢いあまって私は地面に転がった。
魔理沙が前線にボールを送っているのが、視界の隅で見えた。
今度はこちらがカウンターの速攻を貰う番というわけだ。
残り時間は少ない。今、失点すればそれが決勝点になりかねない。
「くそっ、まったく!」
私はがばと起き上がった。
空を飛ぶのは当然駄目。
魔法の肉体強化はせいぜい人間の男性並まで。
ここまできてズルはしない。
味方ゴールに向けて私は走った。
息が切れ、たぶん私は無様な格好なんだろうな。
そんな事を思ったけれど、むしろそれはどうでもいいと思った。
景色がスローモーションに見える。
魔理沙のチームのフォワードがサイドに流れ、センタリングを上げる。
大きい。これはゴール前を抜ける――?
……いや、むしろそれが相手の狙い!
ゴール前の密集地帯。を、少し離れた場所で。
あいつは空中を飛び去っていこうとするボールに向かって、跳びあがっていた。
頭を下げ、足を天に向け、オーバーヘッドキックの体勢に入った霧雨魔理沙が、痛いほど綺麗に、私の目に映った。
魔理沙の足が振り下ろされる。
いいコースのシュート!
キーパーは捕れるか、どうか。
そんな事を考える余裕もなく、私は夢中でボールに跳びついていた。
さて、思い切った事をしたものだ。
こんな蹴鞠、これはただの遊びだ。
でも、私はアリスに負けまいと必死だった。それは認めよう。
だから私は、とにかく頑張って、飛んできた鞠に喰らい付いて、思い切り蹴ったんだ。
予想外だったのはアリスだ。
いつだってクールで、私がほうぼうで要らぬことに首を突っ込んでいるのを見ても、静かに笑ってるだけのあいつが、だ。
いつのまにか真剣な顔をしていたんだ。
こんな…こんな蹴鞠で。
どうしても負けたくない、そんな表情で、なりふり構わず鞠を止めに入ったんだ。
バチィ
そう、アリスは顔面で鞠を止めたのだった。
はたして。
……鞠は大きく跳ね、ぽんぽんと離れていった。
私はアリスの顔を見た。
あいつのふっくらと艶やかな唇が、今は真っ赤に腫れ上がっていた。
…それと同時に、試合終了の笛が鳴った。同点、か。
アリスは笑って、肩をすくめてこう言った。
「ファーストキスだったのに」
「キスか、鞠と」
「ボールと言いなさい」
なんだか分からんが、アリスはとても満足げだった。
よく分からんけど、私も満足だったと思う。
ただ、人形しか使えないという訳では、決して、ない。
たとえば弾幕ごっこの際。人形を目立たせておいて、別の手段で奇襲……そんな手を使うことだって、勿論出来る。
そして、これはその一つである。
す、と息を吸い。
急速に前進し。
標的を蹴り飛ばす!
私の蹴りを受け、訓練用のサンドバッグ人形はずどんと大きく吹き飛んだ。
筋力・速度・体重を魔法で一時的に強化した下段蹴り。
ダッシュキック、とでも呼ぼうか。
私のことを"戦闘は人形まかせで本体は隙だらけ"と思って油断している相手に、思い切り奇襲をかけることができる。
余談だがこのダッシュキックは私本人にも強烈な慣性が掛かり、相手にガードされてしまうと多大な隙をさらすことになる。
が、あらかじめ槍を装備させた人形達をスタンバイしておけば、すかさず彼女達を突進させることでフォローも可能である。
私のキックに隙はない。霊力の消耗がきついのはご愛嬌。
閑話休題。
「ふっ」
サンドバッグ人形を立たせ、再度蹴りをぶちこむ。
これは知り合いの霧雨魔理沙を模した人形だが、特に他意はない。本当にない。
ずどん
気持ちよく魔理沙を吹き飛ばす音が、しばらく辺りに鳴り響いていた。
すこし後、トレーニングを終え、私は人里の近くを飛んでいた。
「ん?」
人里の外れの開けた場所に、里の男の子達が集まって遊んでいる。
いや、それだけでは別に私の注意を引いたりはしないのだが。
「……あいつ、何やってんのかしら」
魔理沙がその中に混じっている。
勘当された実家の親父さんが見たら何と言うだろうと、他人事ながら思った。
地面に降り、離れた場所から観察していると、どうもこれは複数人が2つのチームに分かれて対戦するゲームのようだ。
地面にはラインが引かれてあり、長方形のコートの中で対戦が行われている。
よく見るとゲームの中心は一つのボールらしい。
彼らは皆、手は使わず、足技でボールをやりとりしている。
見ているうち、魔理沙のもとにボールが渡った。
彼女は左足をボールの傍に添え、そこを軸足に右足を振りぬいた。
足の甲が、ボールの中心を綺麗に蹴り飛ばす。
「ああ、サッカー」
魔理沙のシュートが相手陣地のゴールに吸い込まれるのを見ながら、私は彼らが遊んでいる競技を理解した。
サッカー。
これはもともと、外の世界の競技だという。
このゲームが幻想郷で始まった当時は、日傘でボールを突き刺したりいきなり極太レーザーをコートに撃ちこんだりコートが突然弾幕裁判所と化したりと無茶苦茶なものだった。
ゴールキーパーがボールに吹き飛ばされるなど日常茶飯事だった。いかれている。
が、ハンドとファウルのルールが広まるにつれてそういったカオスさはなりをひそめ、最近では里の人間も遊ぶようになったようだ。
話がずれた。
この試合、見ていると魔理沙は少しずるをしている。
魔法で肉体を強化しているのだ。
男の子が相手、魔理沙は女の子。とはいえ、あれは少し強すぎる。
私が観戦を始めてからも、魔理沙は既に2点入れた。スコアボードを見ると、現在5‐0。
とっくにハットトリックぐらいは達成していると思われる。
ぽん
魔理沙の相手側チームのディフェンダーが、なんとかボールを奪い返し、大きくクリアした。
ボールは危険域を脱し、コートの外に飛んでいく。
そして私の目の前に落ちてきた。
「あ、お姉さーん」
男の子の一人が、私に気づいて声を掛けてくる。
「それ、取っ」
彼がみなまで言う前に、私は右足で踏み込み、バウンドするボールを見据えた。
左のインステップボレー。
私の蹴ったボールは低空を這うように飛んで行き、魔理沙側のゴールにすぱんと突き刺さった。
「私も混ざっていいかしら?」
…気づけば私はそう言っていたのだった。
まったく驚いた。
私が蹴鞠(正式名称はサッカー。でも別にそんなカッコつけなくても良いだろう。蹴鞠でいい)に参加して遊んでいると、突然アリスの奴が相手チームに加わったんだ。
アリスは肉体的には弱いと思われがちだが、そんなことはない。奴は万能型の魔女である。
肉体強化の魔法だってさらりとやってのけ、しかも人間のレベルに合わせたパワーに抑えつつ、
中盤でのキープで人を集めてから空いたスペースにスルーパスを出し、
味方ディフェンダーからの速いパスをダイレクトでサイドアタッカーに流し、
ドリブルで中央を単独突破…と見せかけて端に抜けて絶妙なセンタリングを上げ。
なんだかんだで大活躍している。なんという器用さ。
「く、やるじゃないかアリス!」
こちらの攻めの出鼻を潰され、中央付近でアリスと1on1の状況。私はアリスに話しかけた。
「あら魔理沙。一方的な展開だと詰まらないでしょう?もっと楽しくしてあげるわ」
アリスはにやりと笑った。
す、とアリスの右足が動き…ボールを、蹴らなかった。
左足。も、ボールの前をくぐる。
(個人技――)
ダブルシザース。
魔理沙は知らなかったが、その技はそう呼ばれている。アリスの知識は広範なのだ。
アリスが魔理沙を抜き去った。
それから一歩ドリブルし、アリスはミドルシュートを放った。
ゴールポストぎりぎり、右斜め上。キーパーは捕れない。
ゴール。気づけば、スコアは5‐5。同点になっていた。
「むむ。…悔しいな」
そう呟く魔理沙。その表情はむしろ、いきいきとしていた。
努力の天才。誰も口に出しては言わないが、霧雨魔理沙はそういう人である。
苦境をむしろ楽しめる人間なのだ。
「アリス。ここからが本番だぜ?」
「あら、私はずっと本番よ」
すれ違いざま、二人はそう言葉を交わした。
魔理沙は本当に、いつでも楽しそうな奴だ。
私はそう思う。
大した力も持っていない癖に、全力で楽しむことにかけては誰にも引けを取らないのだ。
常に凪いでいて穏やかなはずの、妖怪である私の心まで引っ張られていくような、そんな幻覚すらおぼえる。
魔理沙がパスを受ける。無駄なくトラップし、体重を移動させてスピードに乗る。
それからフェイント……は、かけない。私から見て向かって右側へ、一直線にドリブル。目標は明確、サイドアタックで崩してくる気だ。
生半可な速度ではない。単純だけど速い!
「くっ」
そう簡単には止められない。置いていかれそうになるのを、ぎりぎりでスライディングしてボールを掠め取った。
「いたた」
ずてん、と魔理沙は転んだ。もちろん、足を引っ掛けてはいない。ホイッスルは鳴らない。
私は味方の前線を見渡す。
守備から一転、速攻をかけられる条件が揃っている。相手ディフェンダーはラインを下げ切れていない。
いま一気に攻め込めば、人数差でゴールまでもっていける!
大きく前進する味方フォワード目掛けて、私がロングパスの体勢に入った時だった。
がきん
ボールがブロックされた。
見なくても分かる、魔理沙だ。
転んでも一瞬で体勢を立て直し、私に喰らい付いてきたのだ。
(まったく、こいつは)
これはただの遊び。
命がかかってる訳でもないし、人生の趨勢が占われるものでもない。
それなのに魔理沙は、転んで服が泥んこになっても、汗だくで綺麗な金髪が顔に貼りついても、それでもこうして全力で挑んでくるのだ。
今度は私が転倒する番だった。
転びながら私は…少し笑っていたような気がする。
今まさに蹴り飛ばそうとしていたボールをブロックされ、勢いあまって私は地面に転がった。
魔理沙が前線にボールを送っているのが、視界の隅で見えた。
今度はこちらがカウンターの速攻を貰う番というわけだ。
残り時間は少ない。今、失点すればそれが決勝点になりかねない。
「くそっ、まったく!」
私はがばと起き上がった。
空を飛ぶのは当然駄目。
魔法の肉体強化はせいぜい人間の男性並まで。
ここまできてズルはしない。
味方ゴールに向けて私は走った。
息が切れ、たぶん私は無様な格好なんだろうな。
そんな事を思ったけれど、むしろそれはどうでもいいと思った。
景色がスローモーションに見える。
魔理沙のチームのフォワードがサイドに流れ、センタリングを上げる。
大きい。これはゴール前を抜ける――?
……いや、むしろそれが相手の狙い!
ゴール前の密集地帯。を、少し離れた場所で。
あいつは空中を飛び去っていこうとするボールに向かって、跳びあがっていた。
頭を下げ、足を天に向け、オーバーヘッドキックの体勢に入った霧雨魔理沙が、痛いほど綺麗に、私の目に映った。
魔理沙の足が振り下ろされる。
いいコースのシュート!
キーパーは捕れるか、どうか。
そんな事を考える余裕もなく、私は夢中でボールに跳びついていた。
さて、思い切った事をしたものだ。
こんな蹴鞠、これはただの遊びだ。
でも、私はアリスに負けまいと必死だった。それは認めよう。
だから私は、とにかく頑張って、飛んできた鞠に喰らい付いて、思い切り蹴ったんだ。
予想外だったのはアリスだ。
いつだってクールで、私がほうぼうで要らぬことに首を突っ込んでいるのを見ても、静かに笑ってるだけのあいつが、だ。
いつのまにか真剣な顔をしていたんだ。
こんな…こんな蹴鞠で。
どうしても負けたくない、そんな表情で、なりふり構わず鞠を止めに入ったんだ。
バチィ
そう、アリスは顔面で鞠を止めたのだった。
はたして。
……鞠は大きく跳ね、ぽんぽんと離れていった。
私はアリスの顔を見た。
あいつのふっくらと艶やかな唇が、今は真っ赤に腫れ上がっていた。
…それと同時に、試合終了の笛が鳴った。同点、か。
アリスは笑って、肩をすくめてこう言った。
「ファーストキスだったのに」
「キスか、鞠と」
「ボールと言いなさい」
なんだか分からんが、アリスはとても満足げだった。
よく分からんけど、私も満足だったと思う。
個人的にサッカーは最高のスポーツ。
いや、話も普通に良かったが、全部持ってかれた感が。
後書きwww少し経ってから気づいたwww
新しすぐるwwww
何でこんなまともな話が
なんかすごくもったいなく感じるぞwww
しかし素晴らしい!
しょうもねーけど、笑ったw