Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

訴えたいことがある

2009/12/19 11:19:24
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 底に冷たさを残す春の風を頬に受けながら、雲居一輪は相棒の雲山とともに聖輦船の船首から行く手を睨んでいた。
 船は聖の封印されている魔界へと向かっている。生きては帰れぬ船旅になるかも知れない。しかし、一輪の顔に恐れの色はない。
 むしろ、聖のいないこの世界で命を永らえて何になろうか。
 村紗船長の操舵のもと、いざ魔界へ南無三!


「でも、その前にスペルカードを作るわよ」


 先行したナズーリンから我らの航海を邪魔する者がいて、すでに秘宝の一部をその者に奪取された、との報告を受けている。
 邪魔者は異変の解決を生業とする博麗の巫女だという。
 あの秘宝がないと聖の封印を解くことができない以上、巫女との対決は避けられないだろう。
 そして、その勝負はスペルカードルールに則って行われることになる。

 スペルカードルール。それは、スペルカードとよばれるカードの中にあらかじめ魔法などを封じておき、相手と対峙した際にはスペルを宣言することにより、封じられていた弾幕を開放して、相手にぶつけ合うという決闘法である。

 一輪達は長らく地底に閉じ込められていたので知らなかったのだが、現在の幻想郷で揉め事が起きたときは、このスペルカードルールによって決着が図られるという。

 随分とけったいなものが流行ったものだと思う。自分より力の劣る人間相手でも、弾幕ごっこで負けたら相手の言い分を呑まなくてはならないという。
 少々、納得のいかないところもある決闘方ではあるが、一輪達にとってもこのルールに従う利点はある。

 現在の幻想郷ではスペルカードルール以外の暴力的手段で他人の行動を掣肘することは忌避されている。つまり、このルールのもとで異変解決役を担う博麗の巫女に勝てば、幻想郷の管理人を自任する八雲紫や、地底の管理者である古明地さとりといえども、一輪達のやることに手出しはできないのである。
 あるいは自分より力の強い妖怪やお説教好きの閻魔に行く手を遮られることがあっても、スペルカードルールに持ち込めば勝機が見える。
 こういう事情であれば、まずはスペルカードを作っておくのが利口というものであろう。これも全ては聖の封印を解くためである。


「というわけで、早速カードに妖力を封じたわ、あとは名前をつけていくだけよ」


 名前こそがスペルカードの肝、スペルのスペルたる所以である。いくら魔力、妖力を込めても名前を付けなくてはスペルカードは用をなさない。



 頭を抱えてスペルの名を考え込み始めた一輪を、雲山は入道雲のような優しい眼差しで見守っている。

 雲山は妖怪としてもかなり珍しい気体状の妖怪である。自由自在に大きさや姿を変えられるという特性を持つが、その代わりというべきか声を発して言葉を伝えることができない。
 そのため雲山の意思は入道使いである一輪が意を汲んで動く。あるいは周りに雲山の意思を伝える。逆に雲山も一輪の「入道を操る程度の能力」をもって動くとき、最高の力を発揮することができる。二人は車の両輪のようにお互いを支え合ってきた相棒なのだ。

 雲山は一輪に全幅の信頼を置いていた。言葉が喋れなくても、一輪は雲山の言いたいことをまるで半身のように理解してくれた。
 まさに一輪は雲山の喉であり口であった。
 そして一輪の手となり足となり彼女を守るのは自分の役目であると雲山は思っている。


 しばらくして一輪が顔を上げた。どうやらスペルの名前を思いついたらしい。


「思いついたわ、最初のこのカードの名前は『雲界クラーケン殴り』どう、初めてにしてはよくできたと思わない?」


 それを聞いた雲山は大きな手を顔の前で横に振っている。なにか意見があるようだが、一輪は意に返さない。


「二つ目の雲山が拳を雨あられのように降らす技は……そうね……『げんこつスマッシュ』……我ながらハイセンスすぎる……」


 雲山は頭から湯気を出すように蒸気を発したり、顔を大きく膨らましたりしている。なにか訴えたいことがある様子だが、一輪は次のカードの名前を考える事に熱中している。


「……思いついた。このカードは『天網サンドバッグ』ね。自分の才能が怖い」


 雲山は頭をかきむしるような仕草をしながら、片足で地団駄を踏んでいる。何か切ないほど伝えたいことがあるようだ。
 そんな雲山を見て一輪が顔をほころばす。


「そんなに気に入ってくれたの?」


 雲山は頭を大きく左右にブンブン振っている。しかし、一輪はそんな雲山の様子を気にしてはいないようだ。


「そう、そしてこのスペルは『天上天下連続フック』! 雲山にぴったりね」

「スペルカードは私が宣言するとはいえ、これは雲山のスペルカードといっていいのよ。なんなら、村紗達にはスペルの名前は雲山が考えたって言ってあげてもいいわ。」


 雲山はのたうち回っている。


「えっ、雲山、何? わかったわ! こう言いたいのね。次のカードの名前はズバリ『時代親父大目玉』だ、と……さすが雲山、その発想は無かったわ。……そして!そして!最後の切り札は『空前絶後大目玉焼き』!!……キマったわ……」


 ガンッ!ガンッ!ガンッ!……
 
 雲山は近くの岩に頭を打ち付けている。何かとても訴えたいことがあるようだ。
こんな話を書いといてなんだが、雲山は普通にしゃべれそうな気もする。
titeto
コメント



1.ずわいがに削除
クソワロチww
ジェスチャーは最もグローバルな意思表現法だというのにwww
2.名前が無い程度の能力削除
入道使えてねぇwww
私は雲山は一輪にだけわかる言葉を喋るイメージですねぇ…
3.奇声を発する程度の能力削除
雲山が可哀相すぎるwwwww
真昼間から大爆笑しましたwwwwww
4.ぺ・四潤削除
もう諦めろ。それが嫌なら自分の体を使って文字にするんだ。
「いやだ」
え?「いやった」?
そう、そんなに嬉しいの雲山!!

違う!!!!!!
5.名前が無い程度の能力削除
さすがはハイカラ少女。
6.名前が無い程度の能力削除
これはw