「文!?」
境内には、仰向けに倒れている文。黒い羽が鮮血で真っ赤に染まっていた。
風が全く吹いていないことが、今の文の生命力を表しているようだった。
霊夢は血相を変えて、倒れたまま動く気配の無い文に近寄る。
「どうしたのよ文! 一体何が……」
「っ……れい、むさん」
「文!?」
ぴくっと体を震わせ、文が言葉を発した。しかし、それはとても弱々しく、まるで今にも消えてしまいそうな灯のようだった。
目は虚ろで、霊夢をしっかりと捉えて話しているかも分からない。
「今すぐ永遠亭に連れてくわ!」
「いえ……無駄です。もう、長くないみたいですから」
「何を言って――」
「聞いて、下さい……霊夢さん」
霊夢の言葉を遮り、文が言葉を紡ぐ。
ギュッと霊夢の手を握る。文の手は、少し冷たかった。
霊夢は、本当なら今すぐ永遠亭へと連れて行きたかった。無駄かなんて分からない。諦めるな。そう言葉を掛けたかった。
だが、文の手がそうさせてくれない。
ただ黙って聞いてくれ、という意思が霊夢に伝わってくる。その意思をちゃんと汲み取ってくれた霊夢に、文は柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとう、ございます……」
「話聞いたらすぐに永遠亭連れてくからね」
また、笑みを作る。
そして、霊夢の手を握っていない方の手で、ポケットをまさぐり、手帳を取り出した。文がいつも大切に使い、肌身離さず持ち歩いている手帳だ。
それを霊夢に差し出す。
「これを、見て下さい……私が知った真実が、書いてあります」
「真実?」
「決して、騙されてはいけません……っ!」
「文!?」
痛みに顔を歪める。
吐血をして、咳き込み始めた。
何度も何度も血を吐いて、体を震わせる。
「永遠亭行くわよ!」
「無駄、ですってば……」
「うるさい、黙ってなさい!」
文を背中におぶって、霊夢は空をかける。
一分一秒でも早く、永遠亭へと文を連れてくため。
背中に伝わる体温は冷めきっていた。
いつの間にか、文が言葉を発さなくなっていた。
霊夢は歯ぎしりをする。
「絶対に助けてみせる……」
永遠亭までは、まだ遠い。
◇◇◇
「みたいな小説を文々。新聞に連載したら、購読者増えそうじゃないですか?」
「全く興味をそそられない。点数にしたらマイナス点になるわ」
「そんなに!?」
「大体あんたがいきなり瀕死ってどうなのよ」
「いやほら、私は超強くて可愛いですから、早々に退場しておかないと物語に支障が」
えへっ、と作り笑いを浮かべる文に、霊夢は無視という選択肢で対抗した。
冷たい風が吹く。
「私が滑ったみたいになるじゃないですか! 突っ込んで下さいよ!」
「そんな大声で、突っ込んで下さいなんて言わないでよ。恥ずかしいわね」
「何の話ですか!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ文。
霊夢は、大きくため息を吐いた後、お茶を啜る。文の話に付き合わされてしまったせいか、すっかり冷めていた。
空はため息が漏れるほどの、綺麗な青空。こんな日は、縁側でお茶を飲みながら、ぼうっとするに限る。そんな霊夢の予定を壊したのが、文だった。
定期購読をしないかという、いつもの誘い。
霊夢もいつもと同じように、くたばれという一言だけで返した。
その後、文が「では、一緒に購読者を増やすアイディアを考えましょう」とか言い出して、今に至る。
「はぁ……なんであんたと友達やってるのかしら」
「わぁ、嬉しいです。私を友達と思ってくれているなんて!」
「……訂正。私あんたと今日が初対面だったわ」
「今まで無かったことにされた!? ほら、そんなに照れないで。私と霊夢さんの仲じゃないですか」
「どんな仲よ」
「恋仲」
「いつなった」
「ついさっき」
「よし、別れましょう」
「速攻フラれた!?」
恋人時間、僅か10秒。
流石は幻想郷最速の文だ。見事に最速で付き合って、最速でフラれた。
「うぅ、霊夢さんは私に対して厳しい気がします」
「優しい方でしょう。私が本気なら、今頃あんたはもうノーパン生活よ」
「本気になったら何する気ですか!?」
「あんたの下着を全て燃やす」
「うわぁ……地味な嫌がらせ。もうちょっと私を愛撫しましょうよ。動物虐待反対です!」
「はいはい、射命丸射命丸」
「どんななだめ方ですか」
今度は文がため息を吐く。
そして、ポケットをまさぐり、手帳を取り出した。
中身を適当に開いて、霊夢の方へと見せる。
そのページは、びっしりと細かい文字で埋め尽くされていた。
「ふむ、意外に丸っこくて可愛い字ね」
「そうそう私は字まで可愛い――って違う! そこじゃないです!」
「うわ、ノリツッコミ寒いわよ」
「私が言いたいのは、こんなにも記事を書くため真剣なのに、何故購読者が増えないのかということです!」
「つまんないからでしょ」
「うぐぅ!? そ、そんなこと言う人嫌いです! せめて読んでから言って下さい!」
どこから取り出したのか、文は文々。新聞最新刊を霊夢に突き出した。
霊夢は、軽くあしらってやろうかと思ったが、文の瞳に真剣さを感じ、とりあえず受け取ることにした。
普段新聞なんて読まない霊夢は、少し不慣れな手つきで新聞を読む。
「ふむふむ」
「ど、どうですか?」
「まだ読んでる途中。静かにしてなさい」
「は、はいっ」
文がドキドキしながら感想を待つ。何故かいつの間にか正座していた。
霊夢はあまりにも文が真剣なので、割と真剣に読むことにしてみた。
どれくらいの時間が経ったろうか。
霊夢は、ふぅ、と一つため息を吐いて、新聞を横に置いた。
「ど、どうでした?」
緊張しているせいか、文の表情は固くなっている。
霊夢は文の方へと向くと、笑顔で、そう凄い笑顔で――
「うん、つまんない」
と言い放った。
「うわぁぁぁぁぁん!?」
割と本気で泣き始める文。まるで子どもみたいだ。
さすがの霊夢も、これには慌ててしまう。
「いや、えと、つまんないだけで、内容が悪いわけじゃあないのよ?」
「ふぇ……?」
いまいち意味が理解出来ない、といったように首を傾げる文。
霊夢は荒っぽく自分の髪を掻き、なんて説明すべきか悩む。
「あー、なんというか、あんたのはウケないってだけ」
「うわぁぁぁぁぁん!?」
「あぁ、泣くな馬鹿! 内容は正直、凄く良いと思ったわよ」
「じゃあなんで、ウケないんですか?」
「多分、求めているものが違うのよ」
「求めているもの?」
「そう。あんたの今見せてくれた新聞、内容は前回の異変についてだった」
内容は文がパートナーとなり、霊夢が地底に行った時のものだった。
そこに住んでいた鬼や心を読む妖怪について、異変の原因などなど、細かくしっかりと書かれていた。
「これ読んで、一般的に楽しいと思う?」
「私は面白いかと」
「それは書き手の主観でしょ。こういうのは客観的にならなきゃ駄目なんじゃない? 正直、普通の人が読んだら、ふーん……くらいで終わるでしょう」
「えー……じゃあ何を書けば良いんですか?」
「んー、俗っぽいので良いんじゃない? 甘味処の情報特集やら、悪戯好きな妖精にインタビューとか」
霊夢が適当に思い付いたものを述べる。
すると、文は露骨に嫌そうな表情に変わった。
「つまんなそう。そんなの私の新聞じゃないです」
「なら、それで良いんじゃない?」
「え?」
霊夢はお茶に手を伸ばす――が、空っぽだった。
一瞬、むぅと唸った後、入れに行くかどうか悩んだ末、結局面倒さが勝り、行くのをやめた。
「文は文の新聞を貫けば良いじゃない。購読者がどうのって小難しく考えるよりも、好きなことをしてた方が楽しいでしょ」
「霊夢さんらしい意見ですが、購読者が少なかったら……」
「少ないだけで、一人も居ないってわけじゃあないんでしょ。なら、それで良いじゃない。購読者を増やすために、自分の書きたいものを曲げてまでしたら、本末転倒だと思うけど?」
「それは……そうですね。自分が書きたくないものを書いてまで、購読者を増やしても意味がありません。私が伝えたい、本当のことを書かなきゃ、ですね」
文は、真剣な表情でそう言った。
多くの人に読んで貰いたいのは事実だが、自分を曲げてまで読んで貰いたいとは思わない。それが、文の確かな気持ちだった。
「それにさ、私たちには似合わないと思うわ」
「え?」
「小難しく考えたりすること」
おどけたような口調で、霊夢が言った。
文はなんとなく、自分と霊夢はもしかしたら似た者同士かもしれない、と思った。
「そうですね。楽しければそれで良い、って感じです」
文は、今日一番の笑顔で言った。
その笑顔を見れば、もう悩みは無いといった感じだ。
そんな文に対して、霊夢も笑った。
肩の力を抜いて、二人で笑い合った。
「さっきまで泣いてたくせに」
「な!? それは仕方無いでしょう!」
「ま、あんたがそれだけ新聞に対する想いがあるってことは、よく分かったけどね」
「そうですよ! 愛ゆえに涙を流すのです!」
「じゃあ愛以外では涙を見せないのね。よし、目潰してみよう」
「怖っ!? 泣くとかそういう次元じゃないですよ!?」
「妖怪だから大丈夫でしょ。それに手加減はするわ」
「動物虐待反対ー!」
ぎゃあぎゃあとふざけあう二人の声が、いつまでも神社に響いていた。
うわぁ、霊夢さんの言葉、書き手の心にグサッとくるナリ
が、頑張ろ
誤字報告
>さっきまでとは泣いてたくせに
霊夢いい事いうなぁ。
自分が楽しく…か。
文が本気で羨ましいorz
割と真剣に続きが気になった途端にこれかよw
僕のドキドキワクワクテカテカした気持ち返して下さい
冒頭でなにやらシリアスな気配を感じたものの、
これで終わるわけがないと思ったら本当にその通りだったw
チェックのストールを羽織った病弱で鯛焼き好きの文とな。
幻想郷住人全員の着用下着が日単位で事細かに書いてあると思った俺はもう駄目なのだろうか……
>もうちょっと私を愛撫しましょうよ。
わかりました。やっぱり羽の付け根あたりですか?
霊夢いいこと言った!
我も我のSSを貫くべく頑張ろう
ところで貫くって卑猥だよね?
ファンが好きなように楽しんで投稿する創想話に見合ったお話でした。
誤字報告ありがとうございました。
楽しく書ければ良いと思うのです。
>>2様
霊夢はスパッとしてるタイプだと思います。
好きなようにやれば良い!
>>3様
やっぱり楽しまなきゃダメですよね。
>>奇声を発する程度の能力様
良いですよね、楽しくやれるのって。
>>5様
すみませんw
私なりのお笑いでいうとこの掴みでした。
>>6様
むみゃ、読まれちゃいましたかw
ジャンルが突然変わりますw
>>7様
それでいい。
>>8様
想像したら、意外に想像しやすかったですw
>>ぺ・四潤様
いえ、胸の辺りをつつーっと指でなぞるように(ry
>>10様
ですよね!
流行るべき流行るべきなんです!
>>こじろー様
是非、貫いて頑張ってください。
>>12様
プロはまず、やりたいことなんてさせてくれませんからねぇ。売れてからじゃないと好きに出来ませんし。
文は小難しく悩むより、本気で楽しんでいる姿が似合うと思います。
書きたい話や場面があっても、そこへつなげるまでの展開で詰まってしまって、
結局お蔵入りしてしまったものが自分のメモ帳には沢山残ってます。
だからこそ、書きたいものを書けるように努力しなければっ。
よいお話をありがとうございます。
自身ももっと魅力あるカップリングを書きたいです!