※少し守矢家の設定を変えてます
ご注意ください
神たちは諦めていた。
人が神秘を否定し始め数十年。
自分たちへの信仰を減らしていき、神職につくものでさえ自分たちの姿を捉えることができなくなっていた。
ついには誰の目に見えなくなり、このまま忘れ去られるのだろうと考えていた。
自分たちがここに存在するのは、神主と巫女の祈りのおかげ。それも心からのものではない。見えない神に人々は昔ほどの信仰を捧げることはできはしないのだと、ぼんやりと頭に思い浮かび消えていった。
日々をなんともなしに過ごす二柱に感情は薄く、自分たちを信仰する者に関心を向けることすらなくなっていった。
そんな二柱がいる神社に一人の女の子が生まれた。
その子は空色の瞳で、浮かぶ二柱を捉えていた。小さな手を伸ばし触れようとしていた。
その行為は二柱の関心を引かない。常識という鎧を持たぬ子供ならば、神を見ることはできるのだ。成長していくにつれ、言葉を覚え、知識を増やしていくかわりに、見えていたものが見えなくなる。それを二柱は知っていた。
この子もそうなのだろうと二柱は考え、近づくことはなかった。
しかし違うのだと知らされた。本物の力ある者だと知らされた。
子供はいつでも二柱を空色の瞳で捉え、笑顔を向けていたのだ。手を伸ばしていたのだ。
神たちはそんな子供にじょじょにだが、関心を抱き始めた。
薄れていた感情が戻ってきた瞬間だ。
はじめに近づいたのは濃紫の髪を持つ神だ。子供の五才の祝いに健康の祝福を。
すぐに子供の先祖である神も近づいた。一人遊ぶ子供の遊び相手に。
幼さゆえに神というものを理解していない子供。そんな子供の無知を気にせず、二柱は本物の巫女の誕生を喜び慈しむ。子供も愛を注いでくれる二柱に懐いていった。
このまま穏やかながらも心地よい暮らしが続くと思われていた。
変化は子供が小学校に通い始めてから始まった。
少しずつだが子供の笑みが翳っていった。
理由は簡単なことだ。自分に見えるものが他人には見えない。この認識のずれが周囲との関係にも及び、少女から笑みを奪っていた。
中学校に上がる頃には自分と他人は違うのだと理解し、一定の関係を保つ社交性を得ていた。
笑みも浮かべて人付き合いは良好に見える。しかしその笑みは取り繕ったもので、幼い頃二柱に向けたものではない。
このように仮面を被って接することなど誰もが行っていること。
それは二柱も理解している。その一方で愛し子が苦しんでいることも知っている。
自分にとって当たり前のことが他人にとっては非常識。
誤魔化し、人に合わせるたびに、自分が人と違うことが悪いのだと責められるようで愛し子は傷ついていった。
愛し子の苦しみを解決したいと考えた二柱は、子供が遠慮しないように自分たちのためという部分を前面に押し出し提案した。
『ともに幻想郷に行かないか』
この選択は間違いではなかったと二柱は確信している。
愛し子に笑顔が戻ったのだ。
外に比べると生活は楽ではないが、愛し子は見違えるように生き生きとしている。
だから二柱は自分たちの行いに誇りを持っている。
愛し子との生活の日々が輝いて見える。
諦めの日々は遠い過去。
二柱は自分たちの宝ともいっていい愛し子との生活を満喫している。
そんな愛しい早苗の口からでた言葉に神奈子は固まった。
手に持っていた酒の入ったコップをコタツの上に置いて、聞き間違いを願い問う。
「もう一度言ってくれる?」
「神奈子様の右の袖からカリスマが漏れでてます」
「かりすま?」
肯定するように早苗は頷いた。
「……どんなふうに?」
「カリスマって文字がダラダラと」
「へー早苗も見えるようになったんだ。
徳を積んで神性があがったんだね。おめでとう」
「ありがとうございます、諏訪子様。
ところで私なにか徳を積むようなことしましたっけ?」
首を傾げる早苗に、諏訪子は目の前にあるミカンを持ち上げる。
「さっきこのミカンとってくれたでしょ。
善行をなして、徳となったんだよ」
「そんなことで?」
「小さなことだけど、こういう積み重ねが大事なんだよ」
「なるほど。心に刻んでおきます」
なにその会話、と神奈子が思ってしまうのも無理はない。
「いやいやいや! カリスマが漏れでてるって、私は見えないよ!?
二人してからかってるんだよね!?」
諏訪子が神奈子をからかうことは珍しくはない。早苗が神奈子をからかうことはない。だが諏訪子に頼まれれば、からかいに協力することはあるのだ。
今回もその類だろうと思う。というかそうであってほしいと神奈子は切実に願っていた。
だがきょとんとした早苗の表情にその思いは裏切られることになる。
「からかってなどいませんが?」
「今回は私も本当のこといってるよー?」
「ええー?」
「神奈子様に見えないのには何かわけがあるのでしょうか諏訪子様」
「誰だって見たくないものはあるからね。目を背けてるんだよ。実体はないから、見ようと思わなければ見えない。
私も昔は見えなかった時期があるし」
「というと諏訪子様も漏れでてるんですか?」
諏訪子の場合は、神奈子と戦い負けた頃から漏れだしていた。
「私は左足の裏からね」
ちょっと失礼といって早苗はコタツの中を覗き込む。
今日はネコさん柄ですかとスカートの隙間から視線をずらし、足の裏を見る。たしかに諏訪子の足の裏からは小さな文字が一文字ずつこぼれでていた。
「諏訪子様も漏れでてますけど、神奈子様とは大きさも速度も違いますよ?」
「コントロールしてるから」
「そんなことできるんですねぇ」
「慣れが必要だけどね」
二人の会話に神奈子は難しい顔をして口を挟む。
「本当のことだと仮定しよう」
「本当なんだって」
「か・て・いっしよう!
どうして漏れ始めた頃に教えてくれなかったのさ」
「いつ気づくかなって面白がってたんだよ。
んで、しばらくすると漏れてることが当たり前になったから指摘するの忘れてた」
「忘れるな!」
「ちなみにいつごろから漏れ出てたんですか?」
「んーとね……だいたい百年以上前から?」
「そんな前から!?
その時期って参拝客が減り始めた時期と重なるじゃないか!」
「客が減ったのは、神奈子のカリスマが減り始めたことが原因の一つだろうねぇ」
「ほんとにそんな大事なことはちゃんと言えよ!?」
「私的には子孫が健やかに生きているのを見てるだけで、わりと満足してたし」
とんでくる小さなオンバシラを上半身だけで避けつつ諏訪子は言う。
「まあまあ落ち着いてください神奈子様。
カリスマ流出を制限するコツは諏訪子様が知ってるんですし、今からでも止める努力してはいかがですか」
「そうだね。諏訪子、教えてちょうだい」
「いいけど、教えたところでいますぐ効果がでるわけでもないよ?」
「心情的にできるだけ早いほうがいいんだけど。今も漏れでてるんだろう? 落ち着かない」
「応急処置的なものでいいならあるけど、これはお勧めしない」
「どんなものかとりあえず言ってみな」
「ミニスカートをはく」
神奈子の表情が固まる。諏訪子のミニスカートをはいた自分の姿を想像して、それはないと心の中で自分に突っ込んでいる。早苗はミニスカートはどこにしまったかと思い出そうとしている。
「……なんでミニスカートをはいたらカリスマ流出が止まるのさ」
「説明長くなるよ?
まず絶対領域がカリスマに触れると反応連鎖を起こして常識というフィルターに自壊現象を」
「……いや説明はいいわ」
「そう?」
「早苗もミニスカート持ってこようとしなくていいから」
立ち上がりかけていた早苗をとめた。
「楽しないできちんと学ぶことにするよ」
溜息一つ吐いて言った。
「じゃあとりあえず、流れて出るカリスマを見えるようにしないとね」
「頑張ってみる」
そう言って神奈子は早苗が指摘した袖をじっとみつめだす。少しむなしく感じていたりする。
その様子を見て早苗はふと疑問を抱いた。
「こぼれでたカリスマはどうなってるんでしょう?」
「場に吸収されてるね」
「場というと?」
「ここ」
諏訪子は床を指差す。
「床ですか」
「床というか神社全体」
「神社がカリスマを吸収……。
あ、だから外にいたとき立派な神社ですねって何度も言われてたんだ」
「その通り。
神様二人分のカリスマを吸収したから、特に改修工事なんかしなくても立派に見えてたんだよ」
「カリスマってすごいです!」
「ふふーん。カリスマの活用法はこれだけじゃないんだよ」
早苗の驚きの声に気をよくした諏訪子はカリスマのさらなる可能性を示す。
「ほかになにか?」
「うん。料理の調味料にもなるのさ!」
「料理にも使えるんですか!」
「そう! 私のカリスマは漬けものと相性がよくてね」
「たしかに諏訪子様のとこ漬け美味しいです!」
「神奈子のカリスマは蒸しものに一番あったよ」
「私のも使ったのかい!?」
「もったいなかったから」
一言くらい断れ、気づいてなかった、などと言い合う二柱の横で早苗は考え込んでいる。
「カリスマの種類によって相性が違うんですね……うんっ、試してみたい」
早苗は立ち上がり、台所へと向かう。棚をあさり目的のものをみつけた。
「ちょっとでかけてきますね、ついでに夕飯の材料も買って来ます」
「どこに行くかわからないけど気をつけるんだよ」
「里に行くんだったらついでに饅頭もお願い」
言い合いを止めて早苗を見送る。
「はい。では行ってきます」
神社を出た早苗は紅魔館、白玉楼、永遠亭と大物のいる場所を大急ぎで回っていった。
各ボスたちはタッパー片手に近寄ってくる早苗に首を傾げることとなる。
日が暮れて満足げな顔で帰ってきた早苗に話を聞いた神奈子は、さすがにちょっと生き生きとしすぎなのではないかと思ってしまった。各ボスたちが早苗の行動の詳細を知れば激怒しそうなのだ。それを躊躇わず行った早苗の自由さに引きが入る。
諏訪子は楽しそうでいいじゃないと夕食を楽しみにしている。
この日から守矢家の食卓事情はとても潤ったものになる。
脱字報告
>愛し子が苦しんでいことも
>諏訪子のミニスカーを
その自由さが羨ましいw
ごめん、声に出して「うわぁ」って言っちまった。
最後のとこで「生き生きとしぎな」たぶん「生き生きとしすぎ」かと
いないなぁ…
なんだろう
あと神奈子様は今すぐミニスカを試すべきだと思います(キリッ