Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

世界で一番愛してる

2009/12/15 19:35:33
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世界で一番愛してる





「魔理沙は、これからどうするの?」
なんとなく思いついた事を、いつものように深く考えずに尋ねる。
それに魔理沙が答える。
魔理沙とのおしゃべりは大体こんな感じだ。
魔理沙は、パチュリーやお姉様のように妙に捏ね繰り回した謎掛けのような答え方をしないし、咲夜や美鈴のように真面目に答える事も少ないが、独特な答えを返してくれる。
この前、なんで空の色が変わるのか尋ねたら、太陽が恥かしがったりするからだと答えてくれた。
答えとしては、限りなく不正解に近いのだろうが、私はこの答えが気に入った。
太陽が恥かしがる。
なんて楽しい考え方だろう。
きっと、朝は寝起きだから恥かしくて、朝焼けを起こすのだろう。
時間が経つと、照れが引いていくけど、夕方近くになると今度は夕焼けを起こす。
きっと、あれは長い間顔を見られていた事からの照れだろう。
そう考えると、なんだか楽しくなってくる。
私達にとって太陽は憎むべき敵だけど、ちょっとだけ親しみが湧いてくる。
「おはよう、今日は綺麗な顔だね」「あれ、その雲は寝癖でも隠してるの?」
そんな言葉すら掛けたくなってくる。
そういう不思議な気持ちにさせてくれるから、魔理沙とのおしゃべりは好きだ。
「これからどうって・・・今からって事か?」
困惑した表情で、魔理沙聞いてくる。
こういう風に表情がころころ変わるところも、面白くて好きだ。
「違うよ、これから。これから5年とか、10年とか先のこと」
「5年とか、10年とか、ねえ・・・」
魔理沙が難しい顔をする。
判りにくかったのだろうか?
「要するにね、魔理沙は女の子でしょ?女になったらどうするの?」
パチュリーから教わった事を思い出して、『これから』が指す時期を明確にする。
何でも、人間には少女と女を分ける明確な基準というものがあるらしい。
私が知りたいのは、女になった魔理沙はどうするのかだ。
魔理沙は人間だ。
魔女と名乗りながら、どうしようもないほどに人間だ。
私が今の魔理沙と同じ背丈になる頃には、薬か魔法でも使わない限り、老衰してしまっているだろう。
そして、魔理沙が自分の肉体に薬や魔法を使う事はないだろう。
知識を、力を求めながらそれを恐れる。
目的のために、いかなる感情も捨てきる事ができない。
そんなよくいる人間なのだ。
だから薬や魔法を使う事はできない。
使う事で得られる無限の力や知識より、友人達に置いて逝かれる事を恐がるだろうから。
だから、これからどうするのか気になった。
いつか魔理沙はここに来る事を止めるだろう。
それは構わない。
そもそも魔理沙がここに来るということ自体がおかしいのだから。
魔理沙が来なくなる。
それこそが正しい在り方だ。
でも、私はお姉様のように割り切るのが上手くないから、急に来なくなられると不満を抱くかもしれない。
もしかしたら能力を暴発させるかもしれない。
そんな事を起こさないために、魔理沙がここにいることが異常なのだと忘れないようにしなくてはならない。
これは、その為の一つなのだ。
「え、あ、う、あ、ああ、そういうことか」
魔理沙が赤面する。
私の言葉に、照れさせるようなものがあっただろうか?
もしかしたら、女になるというのは恥かしいのかもしれない。
「そうだな・・・きっと誰かと結婚してるだろうな」
魔理沙が左手の薬指を見ながら言う。
「結婚?」
「ああ、結婚だ。わかるか?」
なにも知らない子供に聞くような感じで私に尋ねる。
少しだけ、憎たらしい。
「わかるわよ。恋人同士が一緒に暮らすことでしょ?」
「まあ、そんな感じだな」
魔理沙の手が、私の頭を撫でる。
お姉様よりも一回り大きな手。
ちょっとだけ、荒れている手。
お姉様とは比べようもないけれど、この手は気持ち良いと思う。
「相手は誰かいるの?」
「さあね・・・残っちゃったら貰ってくれるか?」
悪戯好きの猫のような笑みを見せる。
でも、もう私には大切な相手がいるの。
「私にはもうお姉様がいるからダメ」
「結婚は姉妹じゃできないんだぜ?」
「そうなの?」
少しだけショックだ。
お姉様以外に結婚したい相手などいないのに。
「ああ。血が繋がってるとできないんだ」
「そうなんだ。結婚すると、何か貰えるの?」
魔理沙が左の手の平を見る。
どうも、左手ばかり意識しているようだ。
「指輪だよ。左手の薬指にさ、指輪を嵌めてもらうんだよ。誰にも渡さない、永遠に君は僕だけのものだって感じで」
「へえ・・・そうなんだ」
魔理沙は夢見る少女のように左手を見続ける。
きっと、大切な誰かが嵌めてくれるところを想像しているのだろう。


私とお姉様。
二人だけのティータイム。
いつも給仕を務める咲夜は別の仕事で忙しいらしく、パチュリーは研究に没頭しているらしい。
テーブルの上にはティーポットとクランベリーソースのかかったレアチーズタルト、温められた私のティーカップ。
今日だけは、今日だけは2人きりじゃないほうが良かった。
昼間にした魔理沙とのおしゃべりが頭から離れない。
自分が何をしだすかわからない。
誰か、お姉様以外に誰かいれば歯止めは利くはずなんだ。
なのに、こんな日に限って誰もいない。
いつも心の中で望んでいた2人だけのティータイムが、こんな日に限って実現する。
まったく、思い通りにはいかないものだ。
もしもお姉様の能力を私が持っていたらこんなこと考えなかっただろうなあ。
「フラン、いつまでも立っていては辛いでしょう?早く座りなさい」
お姉様がゴールデンルールに沿って紅茶を淹れ、ミルクと砂糖、スプーンを添えて席の前に置いてくれる。
「うん、ありがとうお姉様」
お姉様の言葉に促されて席に着く。
紅茶の優しい香りが、頭の奥まで染み渡っていくようにすら感じる。
この香りはディンブラだろう。
ミルクを淹れ、綺麗なオレンジ色を汚していく。
無造作に淹れたミルクが、表面でナイフの形を作る。
スプーンでその形をグチャグチャにする。
ナイフ。
様々なものを切る道具。
そのナイフがいきなり目の前に現れる。
驚き、顔を上げるとお姉様がタルトを取ってくれていた。
フォークと共に、タルトを載せた皿を渡される。
白いレアチーズタルトに掛かった赤いクランベリーソースが食欲をそそる。
その様はまるで・・・
「ねえ、お姉様?」
フォークでタルトをボロボロにしながら、食べる。
ナイフは綺麗にしておかなくてはならない。
「なにかしら、フラン?」
お姉様はナイフとフォークを器用に使い、優雅に食べている。
「好きな人、いる?」
左手の薬指に、指輪はない。
「ええ、いるわよ」
お姉様が紅茶をストレートで飲む。
ディンブラはミルクティーで飲むべきだと言ったのはお姉様なのに。
もしかして、その事に気付かないほど動揺しているのだろうか?
「お姉様、お願いがあるの」
ナイフを左手に滑らせる。
赤い小さな粒が無数にでき、赤い線になった。
切れ味は問題ないようだ。
「珍しいわね、何?」
お姉様がティーカップにミルクを淹れ、混ぜる。
「魔理沙から聞いたんだけど、結婚すると、指輪を嵌めるらしいの」
フォークをナプキンで綺麗に拭う。
「ええ、人間は聖なる誓いをするものね。もしかして、指輪が欲しいの?」
お姉様がティーカップに少しの砂糖を加え、混ぜる。
「いいえ、そんなものじゃないわ。結婚指輪は、左手の薬指に嵌めるらしいじゃない?」
ミルクティーを一息で飲み干す。
万一、零したりしたら怒られてしまう。
「たしか、心臓の血管が通っているから、その指に嵌めるのだったかしら?」
お姉様が目を瞑って紅茶の味を楽しむ。
いつもの癖だ。
この癖が、私に有利に働く日が来るなんて、今まで思いもしなかった。
「詳しい事は知らないや。私が欲しいのはね、お姉様。 お姉様の、その指よ!」
お姉様にフォークを投げつける。
同時に、テーブルを飛び越えて上からお姉様を押し倒す。
お姉様は特に抵抗せず、ティーカップをソーサーに置いて、為すがままに倒された。
「フラン、こういう事をしてはいけないと教えたでしょう? 早く退きなさい」
静かに、厳かに告げられる声が背筋まで響き渡る。
今すぐにでも謝りたい。
謝って、なにもかもを気が触れただけのことにしたい。
でも、今の私にそんな事はできない。
「お姉様、好きな人がいるんでしょう?」
「ええ」
お姉様の気持ちを知ってしまった。
このまま逃げるなんて事できるはずがない。
「お姉様、私は誰よりもお姉様を愛してるわ。世界で一番愛してる。お姉様が好きな誰かなんかより、ずっとずっと愛してる。だからお姉様、その指を頂戴よ。その指さえなければ、お姉様は誰かと結ばれる事なんて無くなる。ずっと、ず~っとお姉様は私のお姉様で在り続けてくれる。美鈴の為に、咲夜の為に、パチュリーの為に、メイド達の為に、なにより私の為に紅魔館の主で居続けてよお姉様」
お姉様の左手を掴み、ずっと右手に持っていたナイフで薬指に歯を立てる。
手から滲み出た汗の所為か、上手くいかない。
「フラン、世界で一番なんていってもあなたの世界は小さいわ」
「小さい?そんなわけないじゃない!私の世界はお姉様がいるだけで、とてつもなく大きかったわ!」
ようやく歯を立て、切り始める。
プツッ、プツッという繊維を切り裂いていく感触がナイフから伝わってくる。
「フラン、あなたの世界は徐々に広まってるわ。5年、10年、どちらにせよ私たちにはあっという間の時間よ。その間に、今よりもっとあなたの世界は広まるわ。それでも、あなたは私がいる世界を欲するの?」
ナイフが硬いものに当たる。
骨だろう。そこから折れるように、周りを切っていく。
「当然よ!いくら大きくなっても、それに比例して大切なものが小さくなるのならそんな世界いらない!たとえこの世の全てが得られたとしても、お姉様を諦めなきゃいけないのならそんなものいらない!必要なのは、お姉様だけなの!お姉様さえいてくれればそれでいいの!」
ナイフを置き、両手で指を握る。
ゆっくりと力を加えていき、ポキッっとよく乾燥した枝が折れるような音がしたところで手を離す。
右手に、千切った指があるのを確認し、両手で握り締める。
涙が止め処なく流れ出る。
胸が張り裂けそうなくらいに締め付けられる。
「お姉様、見捨てないでよ、お姉様。お姉様に見捨てられたら、何のために生きればいいの・・・」
お姉様の胸に顔を埋めると、自然と瞼が落ちてきた。





「見捨てないで、か」
右手で可愛い妹の髪を梳き、盗られた左手の薬指を見る。
元に戻るまでどれくらいの時間が掛かるだろう?
求められるのは嬉しいが、このままではいけない。
いつか、この子を独り立ちさせなくてはいけない。
少なくとも、私が不意にいなくなっても大丈夫なようにしなくてはならない。
でも、当面の目標はこの愛しき妹が、美しく育てるように教育する事だ。
「先ずは、好きと愛の違いを教えなくてはいけないな。恋人と夫婦のこともちゃんと教えないと」
前作に対して御感想有難う御座いました。
個人的なイメージなのですが、咲夜さんが老衰や病気といったもので亡くなることが想像できず、最も考えられたのが紅魔館の誰かに殺されるというものでした。更に、殺人を犯すのが、フランドールかパチュリーによる妬みのような具合でしか想像できず、あのような形になってしまいました。

この場所に何作か投稿させて頂き、ようやくではありますが、フランドールとレミリアの関係性が私の中で上手く納得できるものになりました。
今後の目標としてはレミパル、フラパル、レミさとが書けるようになるまで精進したいと思います。
御感想・批評を是非お願い致します。
S
http://syusetusroom.hp.infoseek.co.jp/index.html
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
レミパル…フラパル…レミさと…だと?
作者様とはいい紅茶が飲めそうだ。

とてもよいフラレミでした
2.名前が無い程度の能力削除
私の好みにどストライクでした。
この姉妹は実にいい!