「諸人こぞりて、か……」
ナズーリンは障子を軽く開けて空を眺めながら、誰に聞かせるでもなくつぶやいた。
暮れの押し迫った命連寺の境内に、騒霊バンドの奏でる、場違いなクリスマスソングが粉雪とともに舞い込んできた。
クリスマス。命連寺の立場としては異教のものであるところのこの風習は、最近ではここ幻想郷にも広まりつつあった。
(今年も、もうそんな時期なのか)
12月25日。2千年以上前のその日、人間の世界の救世主が生まれたという記念日。
しかし、ナズーリンにとって12月25日はそれ以外にもうひとつの意味を持っていた。何百年か前の12月25日、その日は彼女がこの世に生を受けた日でもあった。
これが人間の子供なら、祝祭が重なったことで、贈り物がもらえる日が一回減ったことを恨みに思うところかもしれない。
無論、ナズーリンは人間の子供ではないからそんなことで悲しんだりはしない。人間の子供のようにクリスマスを指折り数えて心待ちにするということもない。
冬という季節には何の感慨も抱かない。努めてこの季節には何の期待も持たないようにしてきた。
人々の心を立ち騒がせずにはいられない初雪も、ねずみにとっては長く厳しい冬のはじまりを告げるものでしかなかった。
「ナズーリン」
不意に後ろから声がかかった。
振り向くと、そこに主人である寅丸星が立っていた。
「ナズーリン、すみませんがあなたの好きな食べ物を教えてくれませんか」
「なんだい、藪からスティックに」
「いいから、教えてください」
普段、こんな質問を星から受けたことはなかった。
これは、一体どうしたことだろう。
お互い、女学生のように好物の話で盛り上がるような歳でもないだろうに、と不審に思った。
しかし、星の語気には常にない真剣味があって、気押されるように答えてしまう。
「そうだな…好きなものは…チーズ…かな…それもマスカルポーネやクリームチーズを使って作る、いわゆるレアチーズケーキってやつが一番……好き……だけど……」
柄にもなく、顔が赤くなっていくのがわかった。
そんな自分の動揺を気づかれはしないかという恐れから、ナズーリンは答えながら主人から目を外して再び外に顔を向けた。
しかし、彼女の心配とは裏腹に星はナズーリンの狼狽に気づいている様子はなかった。
「そうですか、チーズ……なるほど、わかりました」
星はそういって、一人で勝手に納得すると、
「今のはそう、なんでもありません……忘れてください」
と念を押すと、逃げるように去って行った。
(ハハーン)
そそくさと立ち去る主の後姿を眺めながら、ナズーリンは先ほどの奇異な質問の意図を理解した。
もうすぐ、12月25日……
自分から口にしたことはない。どこで私の誕生日を知ったのだろうか……
部屋の気温は変わっていないはずなのに、なんだか少し体があたたかくなってきたようだ。
まあ、たまには冬も悪くないか。
ナズーリンは赤くなった顔を冷ますように、雪の舞う夜空を見上げた。
そのころ、台所に戻ってきた星は団子状のものを練りながらつぶやいていた。
「猫いらずにはチーズを混ぜるのが効果的、と」
「ご主人……なぜこんな時期にそんな紛らわしいものを作るんだ……」
「まさか! アレを食べてしまったのですか?!」
「……私のせいですね。……一人では動けないみたいですね。わかりました。正月まで私がしっかり付きっ切りで看病いたします。では外の世界で介護に使うというこれを使ってください。」
>藪からスティックに
ルーが付く外国人が頭に思い浮かんだw
部下のネズミはいるかもしれないのに星さんひでーなw
ナズーリンにオムツ穿かせ隊に入隊希望します。
あと、誤字でしょうか?
白蓮寺→命蓮寺
そういう二次の呼び方があるならすいません。