「今日は温泉に行くよ!」
一日のまだ早い時間にやってきた鬼が寝起き間もない私に対して煩いほどの大きな声で言う。
私としては、煩いとは思ったことはない。
勇儀はあんな見た目に反して意外と意外なところがあるので、大きな声を出すのは大きな決意があってこそだったりしている。
多分、ではなく確実に私の家の前で結構な時間決まりかねた決意を探していたに違いない。
「あー、勇儀さん、私の事情は気にしないんですか?」
半分寝た頭で、半分寝た眼で勇儀を見た私は淹れたばかりのお茶を飲む。
あぁ余り良い茶葉ではないけどやはり寝起きはお茶が美味しい。勇儀が来るまでは、朝ごはんはどうしようか、などと悠長なことを考えていたわけだけど、そうではなくなったのかもしれない。
「え、温泉行きたくないの?」
しょぼーん。という擬音か似合う表情を作る。本当に、勇儀は本当に可愛い。
「いや、そうじゃなくてね、勇儀さん。見ればわかると思うけど私さっき起きたばかりなのよ」
「あ、うん。それは分かるよ」
それで?って顔を作る。
いや、それでって言われてもね。
「私の今日の予定とか、気にしてくれないんですか?」
「おぉっ」
ぴこーん!と電球が点いたような顔になる。あぁもう一々可愛いな。妬ましい。
ていうか気にしてなかったんですね。そうですよね。
勇儀のいいところは思い立ったが吉日ってことなんだけど、それで一気に突っ走るから、振り回されるほうのことも考えて欲しい。
でも、全部私の為にやってくれてるから、とても嬉しい。
「えっと、ごめん、パルスィ。突然思いついて、居ても立っても居られなくなったんだよ」
「はいはい。それはいつものことでしょう。それより、お茶でも飲んでく?それとも朝ごはん食べる?」
「お茶を飲んで、朝ごはんも食べる」
押しかけたとはいえ、私の申し出を受けて嬉しそうな勇儀を見れて私も自然と笑顔になった。
で。
「パルスィ着いたよ!」
「そうね……って地霊殿じゃない!!!」
結局予定なんてない私は勇儀に連れられて、見慣れた道を進み、途中買い物をしたり、お茶をしたりとデートをして、昼過ぎに着いたのは見慣れた地霊殿だった。
「なんで地霊殿なのよ」
「それはね…」
「それは最近温泉を使って商売を始めたからなんですよ!」
にゃーん。
お燐が現れた!なんか旅館の仲居さんみたいな格好をしている。
お燐はなんか折角の地熱を利用して一儲けしようとか考えているらしく、とりあえず温泉ということなんだろう。
夏ごろには温水プールとか良いんじゃないかな!と色々と奔走していたようだが施設の準備が間に合わず、結局秋になり、もうプールの季節じゃないよねということと、プールに比べれば簡単に作れる温泉になった。
私としては、是非ともプールを完成させていただきたいと思っている。それはもちろん勇儀の整った身体を見たいからだ。
もうね、勇儀の身体って見たとおりなのよ。それでいて綺麗だし、自然と触りたくなるくらい綺麗なのよ。
で、脱衣場。
二人しかいない脱衣場で、勇儀は隅っこのほうでコソコソと脱ぎ始める。
「どうしたのよ、勇儀。ここには私たち二人しかいないのよ?」
「うひゃい!」
なんだその可愛い反応は。
「あ、いや、その、アレだよ。なんていうか、二人だけだと、逆に、恥ずかしいじゃないか!」
……え?誘ったの、そっちでしょ?
で、温泉。
こちらも私たち二人しかいない。貸切状態というわけね!
テンションが上がる私とは裏腹に、相変わらず余所余所しい勇儀。
「まったく、どうしたのよ。さっきも言ったけど私たちしかいないんだし恥ずかしがることないじゃない」
「あ、いや、さっきも言ったけど、そういうことなんだよっ!」
勇儀は逃げるように隅っこのほうへ行ってしまった。
あぁもう、可愛いなあ。
可愛すぎて色々とそれどころじゃなくなってきたわ!
私は勇儀の隣に行って温泉につかり、意識しないでもまじまじと勇儀の身体を見てしまう。
なんど見ても妬ましい。本当に妬ましいほどに綺麗だ。
肌も綺麗だし、それだけじゃない、長い髪もとても綺麗だ。妬ましい。
「そ、そんなにじろじろ見ないでおくれ!」
舐めるようにみていたら勇儀に逃げられた。
その逃げる姿がなんだか可愛かったのと、面白いので追いかけることにした。
「ちょ、ちょっとパルスィやめて」
「いーや止めないわ。貴女が可愛いのがいけないのよ!」
「か、可愛い!?」
勇儀という人は、自らが可愛いといわれるのに慣れていない。普段は一隊を率いて戦うこともある四天王として多くの者に慕われていて、「姐さん」とかそういう感じで憧れの的だったりする。
それが、それの本性がこうだなんて、知られたらいろいろ不味いんじゃないかしら。
でもまあ、目の前の勇儀が可愛いから今はそんなこと知ったことではないわ!
そして勇儀を追い詰めた。
「さあ、観念するのよ!」
「何を!?」
「私にもわからないわ!でも逃げたら捕まえたくなるのが心情ってものよ!」
そういう私に対し、退却を図ろうと180度回頭する勇儀に対し私は強襲をかける!
「きゃっ」
「うわっ」
ふにっ。
強襲しようとしたところ、足を滑らせた私は勇儀にぶつかってしまった。
だけでなく、所謂お約束のアクシデントが発生した。
すごい、柔らかい。
そして、手に余る。
なんなのよこれは、妬ましいわね!
でもこの感触は忘れないでおこう。
しかし妬ましい。
なんどか手を動かして感触を確かめていると、なんか目をうるうるさせて勇儀がこちらを見ている。
勇儀がそんなんだから、なんとなく謝ってしまった。
「なんか悪いことしちゃったみたい、ね」
「あ、いや、そんなんじゃなくて、なんていうかこういうのも慣れないとなあって思って」
そう言って勇儀は私の隣に来て、一緒に温泉につかる。
私たちの距離は肌が触れ合うほどに近い。
恥ずかしいのかそっぽを向いてこっちは見てくれないけど、私は普段見れない勇儀の綺麗な首筋を見れて満足、はしていない。
あまりにも、綺麗だから、思わず私は手で触れてみた。
勇儀が驚いて、こっちを見てくれる。
とても近いその綺麗な顔に私は触れ、顔を近づける。
どうせここには私達しかいない。
更に近づける。
今度は顔だけでなく、身体全体で。
勇儀、私の言いたいことは、分かってるわよね。
無言の問いに、無言で応えてくれた。
勇儀の大きくて、暖かくて、柔らかい身体に抱かれて、私は彼女と口付けをした。
で、温泉の後はお酒だよね!ってことでお酒を飲むことに。
まだ時間早いのに。
昼間の酒は良く回るって誰かが言ってたような気がする。
昼?
太陽なんてもうしばらく見てないわ。
実際に昼間だからなのかどうかわからないわけではなく、照れ隠しなのがばればれな勇儀は猛烈にテンションが高かった。
テンションというか、お酒でごまかしている。飲むペースがいつもより速い。
「さあ次はコレ呑もう!」
どこからか一升瓶を取り出す。
既に1升空けてるのは言うまでもない。
「そうね、でも勇儀、それ飲んだら、また一緒に温泉入りましょう?」
えっ?と言って鬼は固まる。
刹那を開けて、赤くなる。
さっきのことを思い出したらしい。らしいっていうか、思い出させたんだけれども。
「嫌なの?」
「嫌ではない、嫌じゃないよ!寧ろ、入りたい、くらい」
「なら、今度はちゃんと裸の付き合いをしましょ」
「は、はだ、か!」
鼻血を噴いて、鬼は沈む。
鼻血噴くとか、どうなのよ!
鬼がよ?鬼が鼻血噴いて倒れてるのよ?
なんなのよ!ギャグなの!?
そのままにしておくわけにもいかないから、私は中々進展しない関係というか、この可愛い勇儀にため息をつきながら膝枕をしてあげる。
今日は少しだけ、少しだけ進展したと思う。
キスだって、たまにはするようになった。
私はもっと勇儀と触れ合いたい。
それは勇儀だって一緒だと思う。
とにかく私は、この鬼のそういうところも含めて大好きだっていうことだ。
そして私は勇儀の角に軽くキスをした。
たまにゃする
たまにはする
たまにする
さあ、どれだ!
ありがとうございます!こういうのがあっても良いと思うのですよ。
> 2. 名前が無い程度の能力 ■2009/12/07 13:27:02 様
ご指摘ありがとうございます。
たまにはする に修正しました。
また何かあればよろしくお願いします。
勇儀が可愛いというのはは私も前からわかっていましたが、積極的なパルパルは初めてです。
オラワクワクしてきたぞ!続編にも期待します。
>この可愛い勇儀ため息をつきながら膝枕をしてあげる
初め「何この可愛い勇儀」って言ってるのかと思った
おせおせパルパルもいいね
これからもよろしくお願いしますぜ旦那