Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

私の名前は古明地こいし

2009/12/07 00:14:25
最終更新
サイズ
6.27KB
ページ数
1

分類タグ


 やめろ。

 すすむな。

 この先には楽しい夢の話しかない。

 すすむな。

 やめろ。













































「お姉ちゃん」

「なんですか、こいし?」

「……ううん、なんでもない。ただ呼んでみたかっただけー」

「はいはい」

 お姉ちゃんは私の頭を優しく撫でた。

 お姉ちゃんの細いけどやらかい膝の上に私は頭を乗せている。

 その頭を、私のふわふわした髪の毛をお姉ちゃんは優しく撫でた。

 私は古明地こいし。

 姉は古明地さとり。

 世界一仲のいい覚り妖怪の姉妹だ。






 地霊殿のリビングには紅茶のにおいがかすかにしてる。

 きっとお姉ちゃんが淹れたんだろう。

 ローズヒップティー?

 そっか、私の薔薇園から採ってきたやつかな。いい香り。






 まどろむ私は、なんとなく部屋を見渡してみる。

 部屋の隅っこでお空が本を読んでいた。

 最近お空は地上にずいぶん興味を持って、外の話を色々と聞いてくる。

 今、あの子が読んでいるのは図鑑だ。

 空を飛ぶ鳥たちの図鑑。

 目を輝かせて食い入るように読みふけっている。

 ここ旧地獄にはあんなにたくさんの鳥達はいない。

 お空もいつか他の鳥達と、大空を舞いたいって言ってた気がする。

 かわいい。

 お空は、かわいい。






 そういえば。

 そういえばお燐の姿が見えない。

 あれかな。

 お姉ちゃんの膝の上はあの子の特等席でもあったんだった。

 今は私が占拠しちゃってるもんなぁ。

 やきもちやいてどっか行っちゃってるのかな?

 それともまた死体でも運んでるんだろか?






「お姉ちゃん」

「……また、呼んでみただけですか?」

「あれ、すごいね。お姉ちゃんは私の心が読めるの?」

「姉妹ですから」

 そう言って優しく微笑むお姉ちゃん。

 やっぱりお姉ちゃんにはかなわないなぁ。

 お姉ちゃんの手が私の髪を撫でる。

 お姉ちゃんが私を優しく撫でてくれる。

 嬉しい。

 けどちょっと、眠い。

 このままお姉ちゃんの膝の上で寝てしまおうかな。





 
 姉は古明地さとり。

 私は古明地こいし。

 世界一仲のいい



――違う。

 違わない。

 私は古明地こいし。

――違う。

 誰?

 何を言ってるの?

 私は

――違う。

 違わない。

――違う。お前は。

 古明地

――違う。お前は。

――お前は。

――お前の名は。






<●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―>

「お前の名は、火焔猫燐」

 彼女はその言葉を”意識して”呟いた。その言葉は燐と呼ばれた娘に手向けられる事無く、闇に
消える。

 ここは地霊殿。旧地獄を管理するさとりの居城は、火が消えたように暗く静かだ。そのリビングに
一人だけ佇む姿。彼女こそ本当の古明地こいしである。






 いつもと同じ日、同じ朝。破滅は唐突に起こった。さとりはその可能性を危惧していたのかも
しれない。だが愛する妹を押さえつけることを彼女は良しとしなかった。だから。

 こいしの”無意識を操る程度の能力”が暴走した。なぜ、を問うても誰も答えることはできない
だろう。こいし本人にすら分からないのだから。もしかすると悟り妖怪の力を捨てたそのひずみの
せいなのか。誰も、わからない。

 こいしの力に呑まれれば、全ての存在は彼女の無意識の力によって無意識のまま行動を左右
される。生きることも死ぬことも、こいしの”なんとなくそう思った”程度のことで決定される世界で
ある。それを感じ取っていたから、さとりの行動は早かった。

 こいし、と愛しい妹の名を呼びざま、手にしていた紅茶のカップを机に叩きつける。刃物のように
尖った断面を迷いなくその細い首に突き刺した。意識のあるうちに愛する妹の姿を眺めて死にたかった
から。その妹は薄い笑いで自分を見ている。こいし、ともう一度呟いたつもりが喉を溢れる大量の血で
声にはならなかった。そしてさとりの意識は闇色に染まり、その体は力なくテーブルに突っ伏した。

 その時リビングにはもうひとりの姿が会った。ひとりというか、一匹か。それは猫の姿でさとりの
膝に乗りまどろんでいたお燐。さとりと違い何がおきたのかも分からぬままこいしの力に囚われた。
そしてお燐は二度と覚めない夢を見るだけの存在と成り果てたのである。かすかな意識のある最後の
一瞬、聞こえたのは”こいし”という聞きなれた言葉。

 そして彼女は夢の中で古明地こいしとなった。彼女の理想の古明地こいしは、彼女の理想の地霊殿で、
彼女の理想の幸せな生活を送り続けるのだ。



 彼女の生が尽きるまで。



 その哀れな小さい猫の姿のまま眠り続けるお燐を、こいしは毛布でくるみソファへと移している。
何故そんなことをしたのかこいし自身もよくわかっていないのだが。

 お空、『霊烏路 空』はその姿を地霊殿に置いていない。いつものように灼熱地獄跡で火力の
調整をしていたはずだ。もちろんそこもこいしの力の及ぶ範囲であった。

 もしかするとすでにあの業火の中に身を投じてしまったのかもしれない、とこいしはなんとなく
そう思った。だとするとそうなのだろう。そうでなくとも今のこいしの無意識の思考で、お空は
死のダイブを行ったはずだ。















 力が暴走してからどのくらい経ったのだろうか、こいしはもう思い出せない。座るソファの傍らで
今にも途絶えそうなか細い息をしながらやせ衰えた黒猫が眠っている。姉はもう、”古明地さとり
だったらしき物体”にその姿を変えてしまった。

 地霊殿のあちこちが崩壊しかかっている。ふたり分の地霊殿への思いがこの場所をかろうじて
維持している。それももう限界が来ている、こいしはなんとなくそう思った。地霊殿が壊れたなら、
自分はその残骸に押しつぶされて死ぬのかな、とこいしは思う。姉と同じところで死ねるのなら
それも幸せなのかな、とも。

 真っ暗な地霊殿のソファに腰掛けてなんとなくお燐を撫でてやる。そんなことをしながら薄笑いを
浮かべ、こいしはいつかくる死をいつまでも待っていた。



<●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―>



 いじわるな声はもう聞こえない。

 けど少しだけ不安になって、聞く。

「お姉ちゃん」

「はい?」

「お姉ちゃんは古明地さとりで、私は古明地こいしだよね?」

「……当たり前でしょう? まったく、こいしったら変なことを聞くんですね」

 ちょっとだけ苦笑いをしながらお姉ちゃんは私の頭に優しく手を置いた。

 あれ、なんだか子ども扱い?

 まぁ、それでもいいや。

 それにしても、眠いなぁ。

「お姉ちゃん……なんだか、ねむいよ」

「いいわよ、そのまま眠っても」

「うん、じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ、お姉ちゃん」

 私の頭を優しくお姉ちゃんの手が撫でる。

 その感触を知りながら私はまどろむ。

 暗い眠りの中へ、落ちていく私。

 私は古明地こいし。

 世界一幸せな、さとり妖怪だ。



<●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―><●><―>















 その日、地底のどこかで、ひとつの夢が終焉を告げた。



 その日、地底のどこかで、ふたつの”古明地こいし”が終焉を告げた。








 
 
 そんなあなたの地霊殿の終焉に。

 白でした。

[email protected]
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
救いが無い……
でも猫の方のこいしは、幸せなまま逝ったんだろうな。
2.名前が無い程度の能力削除
とりあえず、読みずらいです。文章じゃなくて配色的な意味で。
いや、わざとなんでしょうが。
3.名前が無い程度の能力削除
さとりがこいしを殺したかと思ったら自殺したのか。
楽しい夢の話でした。
4.奇声を発する程度の能力削除
こうゆう終焉もありだと思います。
5.名前が無い程度の能力削除
読みにくいからメモ帳にコピペしたんだぜ。
地底で起きた無意識の暴走は「異変」として取り扱われなかったのかな?
そのまま放置と言うのも考えにくいし。

あと
<●><―><●>
これが顔に見えてワロタw
6.名前が無い程度の能力削除
目がぁ目がぁぁぁ!!
読みにくかったです……

薄気味も後味も悪いお話。
不気味さをうまく出せていたと思います。
7.名前が無い程度の能力削除
無意識異変っすか、怖いなぁ…
8.名前が無い程度の能力削除
お空ちゃん無残
9.名前が無い程度の能力削除
とことんダークな話ってのも良いですね。