Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

東方新耳袋

2009/12/06 15:13:54
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・くどくどしい前書き
 拙作は、角川文庫等で発行されている怪談集「新耳袋」と、東方のコラボ……のつもりの短編集です。
 ネタ元を知らない方は意味不明かもしれません。
 知ってても意味不明かもしれません。
 ご注意ください。











・甘い匂い


Aさんには、ちょっと変わった好き嫌いがある。
彼女は、甘い果物が食べられないのだ。
ある日一緒に食事をした際、そのことについて尋ねると、こんな話をしてくれた。


彼女がまだ小学校に上がる前の、幼いころのことである。


ある時、法事のために両親と共に田舎に帰省した。
すぐに退屈してしまった幼い彼女を、祖母が村の秋祭りに連れて行ってくれたそうである。

小さな神社で行われていたその祭は、規模の割りにけっこうな人手があり、屋台も数多く並んでいた。
すぐに彼女は楽しくなり、祖母の手を引き引き、目に付く屋台を端から順に覗いていったそうだ。

夢中になって屋台を回っていたところ、ほどなくして彼女は祖母とはぐれてしまった。
迷子になってしまったわけだが、彼女は小さいながらに

(目立つところにいたら、お祖母ちゃんが見つけてくれるだろう)

と考え、屋台の並ぶ参道の突き当たりにある、社殿付近で祖母を待つことにしたそうだ。

彼女は賽銭箱の横に座り込み、そこから立ち並ぶ屋台をぼーっと見ていたのだが、そのうち妙なことに気が付いた。

屋台から風に乗って鼻に届く、焼きイカや焼きとうもろこしの香ばしい匂い。
その匂いの中に、甘い匂いが混じっているのだ。
カステラやタイヤキの匂いともまた違う、もっとしっとりした、甘い甘い匂い。
やがて彼女は、その匂いが、屋台のある方向ではなく、自分のすぐ近くからすることに気が付いた。
どうやらそれは、社殿の中から漂ってきているようなのである。

彼女は匂いの元が気になって、閉ざされた格子戸越しに、社殿の中を覗き込んだ。
社殿の中は明かりがなく、おぼろげにしか様子がわからなかったが、彼女はすぐに人影があるのが見えたという。

洋服を着た二人の少女が、社殿の奥にいた。
二人は向かい合って座り込み、帽子をかぶった片方の少女が、もう一方の少女に、何かを渡し続けている。
見るとそれは、みかんや柿といった果物類であった。
薄暗いせいで、二人の表情は見えないが、なにやら楽しげな雰囲気があった。

一方の少女が、胸の前で、山となった果実を両腕で抱え込んでいる。
その上に、帽子の少女が、どこからともなく取り出した果物を、次から次へと乗せ続けていた。
不思議なことに、いくら乗せても腕の中から果物はこぼれ落ちない。
どうやら、少女の腕の中の山は、縮み続けているようなのだ。

なんだろう、と彼女は眼を凝らして気が付いた。
腕の中の果実は、見る間に表面に皺がより、変色し、形を崩していく。
すごい勢いで、腐り続けていたのだ。

よくよく見ると、少女の腕やその下のスカートは、腐汁でぐっしょりと濡れていた。
漂っていた甘い匂いは、果物が腐り落ちるときの匂いだったのだ。

あっこれは人間じゃない、と思った瞬間、ポンと背後から肩を叩かれて、Aさんは飛び上がった。
振り向くと、ちょっと怒ったような祖母がいた。

Aさんはそれで安心するやら怖くなるやら、甘い匂いで胸が悪くなるやらで、その場で吐いてしまったそうだ。

「それ以来、甘い果物が食べられなくなってしまったんですよね」

Aさんは屈託の無い笑顔でそう言った。

社殿の中にはもちろん人影などなく、甘い匂いも消えていたという。





・喫煙コーナーの人形


会社員のOさんが、同僚としこたまお酒を飲んだ後、帰宅しようとしたときのこと。
乗り換えの駅で電車を待っている間、酔いと疲れからか強烈な眠気を覚えて、駅のベンチでうとうとしてしまった。

肌寒さで眼が覚めたのが、ちょうど終電間際の時間であった。
これはいかん、とOさんは席を立ち、眠気覚ましの意味も兼ねて、煙草を一服することにした。

人気の絶えたホームを横切り、ふらつく足取りで喫煙コーナーに向かっていたところ、灰皿付近の風景に違和感を覚えた。
何だろうかといぶかしみつつ近づいて、わかった。

喫煙コーナーに設置された円柱状の灰皿の上に、30cmぐらいの洋人形が置いてあったのだ。
人形は、まるで灰皿の縁に腰掛けるようにして置かれていた。
Oさんは一瞬ぎょっとしたが、酔いの勢いも手伝ってか、煙草吸いたさが勝ってとりあえず煙草を取り出し火をつけた。

そうしてから、なんだこりゃ、としげしげとその人形を見ていたのだが、そのうち面白いことに気が付いた。

煙草から立ち上る煙や、Oさん自身が口や鼻から出した煙が、その人形に吸い寄せられていくのだ。
人形を中心にして、糸状の煙がうずを巻いて人形に集まり、消える。
試しにフーッと煙を人形に吹きかけてみると、煙は人形に届く寸前でパッと散り、それから改めて糸を巻き取るようにして人形に絡め取られた。
これは面白い、とKさんが何度も煙を人形に吹きかけていたところ、唐突に

「○番ホームに 電車が 参ります」

と機械音声でアナウンスが流れた。
その声でOさんは我に帰り、慌ててその場を離れたという。

「その人形が怖くなった、というわけじゃないんです。
 いい年して人形にフーフー煙を吹きかけている自分が、ひどく恥ずかしいことをしているように思えまして」

アナウンスがあったのに、電車はなかなか来なかったそうだ。





・帰ってきたの


Hさんの息子が、3歳ぐらいのときのことである。
彼女の息子のお気に入りのおもちゃに、サルのぬいぐるみがあった。
ただのぬいぐるみではなく、走り回りながら両手のシンバルを叩く仕掛けのあるぬいぐるみである。

彼女の息子は、どこに行くにもこのぬいぐるみを持って出かけた。
そうして、出かけた先でそれを走り回らせては喜ぶ、そんな子供だった。

ある日、家族三人でドライブに出かけた。

空気の良い山間部を小一時間ほど走り、それから見晴らしの良い展望台で休憩することにした。
彼女の息子はサルの手を握って車を飛び降りると、さっそくそれを走り回らせ始めた。

「まったく、こんなところまで来て……」

Hさんは呆れ半分その様子を見ていたのだが、彼女の夫が言った。

「おい、あれちょっと危なくないか……あ」

夫の言ったとおりであった。
本来グルグルとその場を回るだけの、そのサルのぬいぐるみが、小石を跳ねて突然あさっての方向に向きを変えた。
そうしてそのまま展望台の柵に突進したかと思うと、柵の隙間をすり抜けて、落ちてしまったのである。

「あっ」

Hさんは慌てて柵に駆け寄ったが、時既に遅し。
渓谷にせり出したその展望台から落ちたサルは、二、三度崖に当たって跳ねた後、眼下の渓流に吸い込まれるようにして消えた。

彼女の息子は泣きに泣いた。
結局、家に帰り着いてもまだ泣いていた。

そんな出来事があったことも、忘れかけていた数週間後のある日。

Hさんが買い物から帰ってくると、留守番させていた息子の機嫌の良い笑い声が聞こえる。
さて面白いテレビでもやっていたかと、息子の様子を見に行くと、なんと息子はあのサルのぬいぐるみで遊んでいたのである。

Hさんは驚き、息子に

「あなた、これどうしたの!?」

と問うたが、息子は

「帰ってきたの」

としか言わない。

Hさんは改めて件のサルのぬいぐるみを見たが、やはりそれはあのぬいぐるみで間違いなかった。
色の剥げ具合もそっくりそのままで、どこも壊れていない。
ただ、動き回る速度が、それとなく速くなっているような気がした。

そんなHさんの息子も、今年で新社会人となった。
Hさんの部屋には、まだあの時のサルのぬいぐるみが置いてある。

Hさんの息子は、サルのぬいぐるみを落としたことも、覚えてはいないそうだ。





・オービス


新潟県と長野県を繋ぐ某国道での話。


俳優のNさんは、一日の仕事を終えた深夜、この国道をマイカーで走行していた。

広い片側2車線の道路が、ずっと続いていた。
時間が時間なだけあってか、道路はとてもすいている。
早く自宅に帰りたいという思いもあって、Nさんはいつしかだいぶスピードを上げてしまっていたという。

(おっといかん、確かこの辺りにはオービスが設置してあるという話を聞いたことが)

Nさんがブレーキを踏もうとした次の瞬間。


パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!


車両前方の中空で光源が瞬き、シャッター音とともに数回フラッシュが閃いた。

(あちゃあ、やられた)

Nさんはぐっとブレーキを踏み込み車の速度を緩めたが、後の祭りだった。
違反金やら免停といったペナルティのことが頭をよぎり、がっくりするNさん。
何かの間違いであってほしいと思うが、フラッシュが自分の車に対して光ったことは確かだった。

……ふと、気付いた。

(オービスというのは、あんなに連続して光るものなのか? いや、それ以前に―――)

Nさんは時速100kmオーバーで走る車内から、中空の一点でストロボが何度も瞬くのを見た。
ということは、ストロボも時速100kmオーバーで中空を移動していたことになる。 
……ぞっとした。

その日、Nさんは極力安全運転に努めて帰宅した。
警察からの呼び出し通知は、未だにこない。





・柱の傷


ある日Kさんは、自宅の居間と台所の間の柱に、傷がついているのを見つけた。
つい最近建て替えたばかりの家である。
まだ真新しい柱についた、その引っかいたような傷は、とても目立っていた。

Kさんは旦那さんに傷について心当たりがないか尋ねたが、まったく身に覚えがないという。
旦那さんは真面目な人で、嘘をついたりするような人でもない。

もちろんKさん自身も覚えがない。
気付かないうちに、家具でも引っ掛けてしまったのだろうか……Kさんはとりあえずそう考えた。
そうして、そんな傷のこともそのうち忘れてしまった。


一年程経ったある日のこと。

「あら……傷が増えてるわ」

以前見つけた傷の数cm上に、同じような傷がもう一つ出来ていた。
また何かぶつけてしまったのかしら……Kさんは首を捻るが、やはり思い当たる節はない。
その傷は、まるでわざとつけたかのように、一年前と同様の一文字の傷口をさらしていた。
傷口は、真新しかった。

その次の年。
気がつけばいつの間にか、またもや傷が増えていた。
去年一昨年に引き続いて、傷の位置はわずかに天井に近づいている。

その次の年も、同様に傷が増えた。
その次の次の年も、傷が出来る。
少しずつ、傷は天井に近づいていた。

数年が経過した。
もはや、柱は傷だらけである。

ある日Kさんは気がついた。

一年ごとに天井に近づいていくこの柱の傷は、まるで子供の背丈の成長を刻むためにつけられる傷に、そっくりであるということに。

数年前に新たな傷が刻まれて以来、今はもう傷が増えることはないらしい。
その傷は、ちょうどKさんの背丈と同じぐらいの位置に刻まれている。

「もう背が伸びなくなっちゃったんでしょうね。
 だとしたら、この子は女の子なのかも」

子供のいないKさんは、そう言って朗らかに笑った。
ご無沙汰しております。

「新耳袋」は訥々とした語り口ながら妙にリアリティのある話が目白押しで、ぞくぞくさせてくれる面白い短編集です。
ぞくぞくとするのですが、ある日ふと「もしこれらの怪異の原因が東方キャラだったら萌えね?」と考えてしまい、出来たのが拙作です。
我ながら東方のキャラ成分が薄すぎだろ! とも思うのですが、東方キャラを身近に感じる一手段とでも思っていただけたら幸いです。

ちなみに、(説明するまでもないと思いますが)一連の流れとして風神録を採用しています。
個人的に、風神録が一番しっくりくると思ったからです。
というわけで、最後はカナスワで〆たいとも考えたのですが……。
建御名方命とかミシャグジ様とかは、とてもじゃないですけどこういった表現には絡め切れませんでした。
反省反省。
蟹人間コンテスト
コメント



1.#15削除
見事なくらい、本家に載ってても不自然じゃない内容ですね。

ただ、ちょっとしっくりこないのは、風神録ということでしたが、そうすると2話目の洋人形は、アリスかメディスンを連想する人が殆どだと思うのと、最終話はちょっと無理が有り過ぎるのではないかと、そんな気がします。

お話としては、非常に完成されているのですが…
2.名前が無い程度の能力削除
作者はコラボという言葉の意味を勘違いしてるかと。
3.名前が無い程度の能力削除
あぁ、読み返してみると確かに風神録の流れでしたね。
二話目がアリスだと勘違いしていましたが。

最後のお話は、通常は感動を誘うようなお話の末路なのでしょうが……現実的にはそういうことになると考えると微妙に怖くなるのがまた。