ちらほらと空から雪が降り、緩やかに吹く風にも寒気を覚える。そんな時分の八雲家の居間。
私は炬燵に入って暖をとり、紫様はそんな私にぴったりとくっついていた。
「紫様、はなれてくださいません?」
「いや」
最近出したばかりの炬燵。その中に入って暖まっている私の尻尾の中で、紫様が暖まっているのだ。
もふもふと九本の尻尾に包まれながら、それは暖かそうにそうにしている。
「炬燵もあったかいですよ?」
「こっちもあったかいからいい」
遠まわしに言っても効果はなし。
のんびりとした口調で断固として私の尻尾の中から出ない。そればかりか尻尾の中の一本を抱き締め
「きもちいいわ~」
と、お休みモードに入りそうになっている。
「紫様が出してくれとおっしゃったから炬燵を出したんですよ」
「それは、こうやって炬燵に入っている藍の尻尾に入ろうと思ったからよ」
「なんですかそれ」
「ほら、藍も暖か私も暖か。一石二鳥じゃない」
「ですが……」
絶賛もふもふ中の紫様はとても満足そうにそう言って、やはりギュッと尻尾を抱きしめてくる。
そんな風にしてくださるのは、勿論嬉しくないと言ったら嘘になる。
でも、そんな私の目の前にあるのは、誰もいない炬燵の向かい側。
背中というか尻尾というか、紫様はそばにいてくれるのだがとはいえやっぱり、目の前に誰もいないというのはどこかさみしい。
はあ、と一つため息をつく。すると、そんな私の心を察したのか、それともただなんとなく言ったのか、
「なに、藍? もしかして、独りで炬燵に入るのが寂しいの?」
と、どこかからかうような口調を混ぜながら聞いてきた。
ほんの少し答えに困る。このままさみしいといえばからかわれるだろうし、さみしくないといえばこのまま尻尾の中から出ないだろうし。
まあいっか、たまにはストレートに返して差し上げよう。
「……はい、さみしいです」
すると、ふふっと優しく笑う声が聞こえたような気がする。
「もう。藍はやっぱり、いつまでたっても甘えん坊ね」
そう言って尻尾の中から離れていく紫様。
紫様がいなくなった尻尾の中は少し寒かった。
「藍、こっち向いて」
言われた通りに後ろを向く。するとそこには、
「はい、いらっしゃいな」
両手を広げた紫様がいた。
「えっと、どういうことで?」
「さみしがり屋の藍に、仕方がないから私からのサービス。さあ、どんときなさい」
「あの、えっと」
「何今更恥ずかしがっているのよ。昔は思い切り飛び込んできたじゃない」
「いつの話ですか、それ」
「藍がもっとちみっこかった頃かしら。あのころの藍はいつも「紫様~」って私のそばから離れなかったもんね。
お風呂のときも夜寝る時もずっと私にひっついたままで」
「そ、それは昔の話です!」
「でも、さみしがり屋なのは変わってないわ。ほら、いらっしゃい」
んっ、ともう一度両手を広げて抱きついてくるように促してくる紫様。
もういい、こうなったらやけだ。
私は真正面から、思いっきり紫様の胸に抱きついた。
ぎゅっと抱きついてみる。すると、紫様も私の背中に手をまわしてきた。
「ふふ、久しぶりね。こうやってあげるの」
「私はもう、大人ですから」
「あらあら。そんな大人の藍は、寂しくなったらこうやって私に抱きついてくるのね」
「むう……」
反論が出来ない代わりに思い切り抱きしめてみる。
紫様の腕の中は、どこかやさしくて懐かしい香りがした。
「あらあら、ホントに甘えんぼさんね」
「もう、今日はそれでいいです」
「ふふ、本当に懐かしいわ」
そう言って帽子の上から私の頭をなでる紫様。
紫様の柔らかい指の感触が頭の上をなぞり、くすぐったくてそれでいて気持ちが良かった。
「ゆかりさま」
「何?」
「……呼んでみた、だけです」
「そう」
紫様はそういって、ずっと頭をなでてくれた。
伝わってくる撫で撫でという感触はとても懐かしくて、今日はずっとこうしていられないかななんて、ぼんやりと考えていた。
そんな時、どたどた! と廊下を誰かが走ってくる音が聞こえ、障子が思い切りがらっと開いた。
「藍様! 紫様! 遊びに来ました!」
そこには走ってきたためか、はあはあと少し息を切らした橙がいた。
障子を開けはなった状態でこちらを確認した橙は、その瞬間に固まった。
さて、橙が今開けたのは居間の障子であり、その中には紫様に抱きつく私がいるわけだ。
そして、それを現在進行形の形で見ている。いや、見られている。
やばい、見られた。どうしよう。
恥ずかしさゆえに顔が熱くなり、橙の方向をまともに見れない。
かすかに視界の端にとらえている橙は、はじめの方は固まっていたがそのうちぷるぷると震え始めているように感じた。
そんな様子に気づいたのだろう。紫様が声をかける。
「どうしたの、橙?」
その言葉に一瞬びくっとなったが、その後意を決したようにこう言った。
「あ、あの私も藍様に抱きついてもいいですか?」
恥ずかしそうに頬を染め、もじもじしながら尋ねてきた。
そんな橙を見てふふっと笑う紫様。
「もちろんよ橙。ほら、そんなところに立ってないではやく来なさい」
一気にぱあっと明るくなる橙の顔。
そして、私と紫様の方に走ってきたかと思うと、そのまま私の背中ダイブしてきた。
がっしりと私の背中を抱き締めてくる橙。
「藍様あったかいです~」
確かに、外から入ってきたばかりの橙の体は冷たかった。
「こ、こら橙。紫様の前だぞ」
「でも藍様も紫様に抱きついていましたよね」
「うっ」
反論のしようもなく、さらに二人に挟まれて身動きもとれなくなった。
そんな状態の私を見ながら、紫様は楽しそうにこう言った。
「あらあら、挟まれた藍の完成ね。サンドイッチならぬ藍ドイッチ」
「……紫様、寒いです」
私の突っ込みにあらあらと呟く紫様。
しかしそのあと、私の頭を撫でながらこう問いかけてきた。
「でも、あったかいでしょう?」
その時の紫様のとても優しげなその顔に、私は目を奪われて返事を返すのに戸惑う。
背中では橙がぐりぐりと抱きついていて、そんな私は紫様の胸に抱きついている。
そんな状況で返す答えは一つしかない。
「……とても、あったかいです」
そんな私の答えを聞いて、とても嬉しそうに微笑んだ紫様。
「それは、よかったわ。ね、橙」
「はい、紫様! もふもふ~!」
前と後、紫様と橙に挟まれながら、私は今日はずっとこのままでいられないかなと真剣に考えてしまうのであった。
炬燵にもふもふ機能があればぁぁぁぁぁ!!!
ならばマヨヒガの炬燵布団になって包み込むのはこの私の役目ですな
キュンってなった
みんなが炬燵になるなら俺はみかんになる!
合法的に全てのコタツに入れる俺は豆炭。
全部回って来る
ババアなんだぜ。これで…おや足下に隙間が
じゃあ俺は神主が酔い潰れて眠る炬燵になるぜよ。
あ、俺は遠出してよっちゃんの炬燵になるわ。