Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

略語ブームに逆らって

2009/12/05 03:32:33
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「『万事休す』にもう一つ『ばん』を加えると『バンバンジー休す』になるよな?」
「……は?」

突然神社にやってきたと思ったら、訳の分からないことを言い出した魔理沙に対し、霊夢は固まる。
そりゃそうだろう。出会い頭に言われたのが「よう」でも「来てやったぜ」でもなく先程の台詞である。

こいつは一体何を言っているんだ。

そう思って霊夢が思考停止してしまうのも、普通に考えれば無理のない話だろう。

(何言ってんの?『万事休す』に『ばん』を足したところで『万万事休す』にしかならないじゃないの)
……前言撤回。突然の意味不明な台詞にここまでの冷静さを見せられる辺り、思いの外、この巫女の思考は柔軟なようである。

「あるいは、『きゅうす』をもう一つ足せば『万事休す、急須』になる。……私が言いたいこと、分かるな?」
「ごめん、さっぱり」
霊夢も魔理沙との付き合いがそれなりにあるため、彼女の考えは大体分かるつもりである。
しかしそれでも、時折こういう『彼女にしか分かりえないこと』を言ってくる魔理沙に対し、霊夢は『やっぱりついていけないなあ』と感じてしまうのだった。

「つまり、だ。外の世界で流行ってる略語とかいうのの、まるきり逆をいってやろうって訳だ」
そういって、どうだ!と言わんばかりの顔で親指を立てる魔理沙。
霊夢は『また面倒くさいこと言い出したなあ』と思いながら、ため息を吐いた。
「何だってそんなことを思いついたのよ」
「素直に流行りに乗るなんてミーハーなやつのやることだぜ」
「別にミーハーで構わないと思うのだけど」
「つまらないこと言ってると賽銭入らないぜ?」
「元より一円も無いわよ!」
わっと両手で顔を覆って泣く霊夢。そんな霊夢の様子には目もくれず、魔理沙は懐からごそごそと手帳を取り出す。
「どうせだったら幻想郷中に流行らせてやろうと思ってな。色々考えてきたんだ」
「聞く前から嫌な予感しかしないんだけど」
「まあそう言うなって。例えば私の『マスタースパーク』も、ちょっと言葉を足してやるだけで格好良くなる」
「どうするわけ?」
「『ます』を2個足して『ますますマスタースパーク』!」
「おー。格好……良いか?それ」
一瞬勢いに押されかけたものの、冷静に考えて首を捻る霊夢。
「格好いいだろ、『ますます』だぜ?『ますます』」
魔理沙は力説するが、霊夢はいまひとつ納得がいかない。
「あんたがそこまで『ますます』にこだわる理由が分かんないわ」
「威力が『増す増す』でいい感じだろ?」
「そうかなあ……」
「お前のもあるぜ」
「どんなのよ?」
今のを聞いて、既に大した期待は持っていないながら、律儀に聞き返す霊夢。何だかんだで彼女もお人好しなのである。
「お前の代名詞と言えば『夢想封印』だろ?『そう』を一つ足せば『夢想総封印』になる。格好良くないか?」
「何か、微妙な感じねえ」
少なくとも霊夢から見て、格好良い名前とは思えない。確かに、今までのよりは幾分マシにも感じるが。
そんな、いまいち乗り気でない霊夢を見て、魔理沙は少し考えてから言った。
「うーん、じゃあ『ふう』を足して『夢想風封印』の方がいいか?」
「嫌よ!何その『手作り風あんぱん』みたいなノリは!」
「何だよ、我侭なやつだなあ」
「誰が我侭よ!?」
さらりと霊夢のツッコミを流すと、魔理沙は手に持った手帳をパラパラと捲る。

「まだまだあるぜ。例えばこーりんに『りん』を一つ足すと勇敢な感じになる」
「何よ」
「森近リンリン之助」
「勇気凛々ってこと!?」
「あとは、メイド長に『咲』を加えると、美味しそうになる」
「何?」
「十六夜サクサク夜」
「無駄に食感良さそう!」
「こんなのは?永遠亭の玉兎が、どっか別の場所にいるみたいになる」
「どういうことよ?」
「鈴仙・優曇華院・イン・イナバ」
「たしかにイナバは地名だけども!」
「それと、萃香に『ぶき』を足すと『無茶してんなあ』と思える」
「はあ?」
「伊吹 武器 すいか」
「無茶ね!いくら鬼だからって!」
「メディスンにメラを2個足して怒った感じに」
「どんな風に?」
「メディスン・メラメラメランコリー」
「そんな分かりやすい怒り方!?」
「地霊殿で新種の生物発見」
「お、新パターン」
「古明地さとり鳥」
「フタバスズキリュウか何かじゃないんだから。どうせその妹は『古明地こいし石』とか言うんでしょ?」
「こめ めいじ こいし」
「もうただの単語じゃない!」
「こちこちや 早苗」
「固そう!」
「たたたたら 小傘」
「『た』が多い!」
「寅丸 しょうしょう」
「少々!?」
「アリス・ママーガトロイド、パパチュリー・ノーレッジ」
「親!?」
「八雲ランラン」
「……あんた、今適当に思いついたこと言ってるでしょう」
「バレたか」

「と、思いついた限りではこんなもんな訳だが……」
そう言って、パタンと手帳を閉じる魔理沙。その顔は、やり遂げた者のいい顔をしている。
「な?こんだけいかしてれば霊夢も流行ると思うだろ?」
「微塵も思わないわよ!」
ぜーぜーと息を切らしながらそう言う霊夢。その顔は『やっぱり付き合うんじゃなかった』という後悔に満ち溢れている。霊夢は息を落ち着けるため、縁側に腰掛けてお茶を一口啜った。

「しかし、あれだな。話してるうちに、何となくこの神社に賽銭が入らない理由が分かったぜ」
「……何よ?」
賽銭箱が空なのは、霊夢にとって目下最大の悩みである。
解決するとはとても思えないが、一応霊夢は魔理沙の話を聞いてみることにした。

魔理沙は、満面の笑顔で言った。
「だってお前『はく"れい""れい"む』だろ?わざわざ足すまでも無く、名前の中にデフォルトで2個も"0"が入ってるんじゃ……」
―間髪を入れずに放たれた霊夢必殺の夢想封印により、魔理沙は無縁塚まで吹き飛ばされたのだった。
魔理沙「おお!『むむ……そう!封印!』とかって、演出にこだわるやり方もあったか!」
小町「お前は何を言っているんだ」

―――――――――――――

気付けば師も走り出しましたね。ワレモノ中尉です。
前回コメント下さった方、ありがとうございました。あの作品で6つもコメを貰えたの葉正直驚きでしたが嬉しかったです。

今回は、前回とは別のジャンルのギャグ小説を目指しましたがいかがでしたでしょうか。
くすっとでも笑っていただけたでしょうか。
全ては、何故かふいに思いついた「『バンバンジー休す』って何か面白くね?」というところから始まっています。まさかこうして作品にするとは思いませんでしたが、作者的には書いてて楽しかったです(笑)
それでは、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ワレモノ中尉
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
十六夜サクサク夜で我慢出来なくなった。
面白かったです。
2.名前が無い程度の能力削除
ママーガトロイドとパパチュリーwww上手いwww
とても面白かったですwww
3.名前が無い程度の能力削除
「このイザヨイ……サクサクや!?」
4.名前が無い程度の能力削除
博れいれい夢…うまい!
5.謳魚削除
『たたたたら 小傘』にて吹きました。
6.名前が無い程度の能力削除
早苗「コッチコチやぞ!」