「反省したって? って聞かれるたびに5円貰っていたら今頃紅魔館がもう一軒建つわ」
悪魔の妹は悪びれずに答える。すでに五百年近く繰り返されてきた問答であり、問いかけた本人も大きなため息をついた。
「明日またくるから、いい子にしてるのよ」
「もちろん」
「それじゃ」
言いつけ通り地下からでないことには文句のつけようがない。いい子だとレミリアは考えを頭にくゆらせる。
できることなら外にだって出してあげたい。しかし、妹のフランドールにはもう五百年近く直らない悪癖があるのだった。
まだレミリアが十を数えた頃である。あの頃は泣き虫だったレミリアは、姉であるにも関わらず妹のフランドールに毎日のように泣かされていた。
あっちでびえええんこっちでびえええん。姉の威厳が備わるまでには時間がかかりそうだと呆れられたものだ。
しかし幼いレミリアは街の乙女を一カ所に纏めたぐらいに乙女であって、人懐こい少女であり、虐めてくる妹も可愛がっていた。
それがいけなかった。
ある日のことである。
遊女と駆け落ちする大工の若者という設定のおままごとをしていた二人は、当然のごとく愛を誓いあった。
「将来れみぃはふらんのお嫁さんになるね!」
ああ悲しきは乙女の性。幼きレミリアは姉妹同士、しかも同性でも結婚ができると思いこんでいた。
しかもフランドールは
「いいのよお姉さま。私はお姉さまとベッドでねちょねちょしたいがためにこの世に顕在しているのですから」
ガチ百合の姉好きであった。
そも、姉をついつい泣かしてしまうのは好きな女の子にたいしてちょっかいを出してしまう子供ならではの愛情表現で。
泣かしても泣かしてもすり寄ってくる姉に対し、次第にイケナイ感情が育ってきたフランドール。
そこにお嫁宣言は巫女にサラシと同じぐらいに黄金コンビであった。
リミッターを解放したフランドールに襲われたレミリアは速急に性教育を叩き込まれ、大人の階段を無理矢理登った。
そしてフランドールに対し、普通の姉妹であること、それ以外に意図はなかったのだと説明するに至ったのだが。
「ああお姉さま。私のこの燃え上がった気持ちは世界を滅ぼす大洪水でも消せはしませんわ。
さあかつてはソドムを滅ぼすに至った行為で神を冒涜しましょう。それが吸血鬼の努め。レッツソドミー」
だめだった。
それから毎日、レミリアはフランドールへ面会をしているのだが、姉に対する劣情は高まるばかり。
挿し絵付きの姉妹愛が描かれた原稿用紙も、つい先日一万枚の大台を越えた。
これを変名して売り出したものが紅魔館の運営資金であることは、あまり知られていない事実である。
「はぁ……」
ため息を吐くところは気心の知れた従者や、親友である魔法使いにも見られたくない。
「レミリア様、入ります」
「どうぞ」
「失礼します」
その二人ですら割り込むことのできない空間へ、扉を開けて入ってきたのは、鮮血のように紅い髪を流している図書館の司書。
その手には薄い本が大量に抱えられていた。
「今夜のは極上ですよ。パチュリーさまの目を盗んで集めるのって結構骨ですけどね」
「ふふ、今夜は永い夜になりそうね」
本の表紙には、妙にキラキラした瞳の男性二人が、一糸纏わぬ姿で抱き合っていた。
優男のくせに、やたらと引き締まった体。
女の子よりもよっぽどロマンティックに思い悩む、男、男、男。
「フランもこっちに目覚めればいいのに」
レミリアは今でも、乙女であった。
ちょっと幻想郷まで買いに行ってきます。
変態ふらんちゃんが素敵すぎてヤバい。
そしてレミリアは801が趣味でも自身の恋は別であることに気付くべき。
この紅魔館にまともな人はいるのだろうか。
まともなの咲夜さんだけじゃね?