「はくめん、きんけ」
「金毛」
「はくめん、こんもう、きゅう………」
「きゅうび」
「はくめん、こんもう、きゅうびのきつね!」
「そうそう」
「言えた!」
「言えたね」
「で、これってなに?」
「ええと…」
偶然にも、私達が遊んでいたところに天狗さんがよく配っている新聞が落っこちてきた。
字を呼んでいても面白くないとよくチルノは言うけど、私は少しだけ興味があったからそれを眺めていた。
すると次第にチルノ達も興味を持ったみたいで、私の周りに集まってきていた。
「大妖精、これなんて読むの?」
「玉藻前……物凄く綺麗な狐さんだったんだって」
「「おー」」
まだ字を読めない妖精の子も、なんとなく驚いてなんとなく声をあげている。
私はたまたま紅魔館で読ませてもらっていた本にこのことが書いてあったから知っていただけだ。
「あ、そういえば!」
ひときわ元気の良い声が響いた。
「私すごくかっこいい狐見たことあるよ!」
「え?どこで?」
「えっとねー、妖怪に襲われたときに助けてくれたんだ」
「どうして妖怪が妖怪の邪魔をするの?」
「?……さぁ?」
「んー、わかんないなぁ」
「………」
私はその会話には参加しないで、その助けてくれた狐のことを考えていた。
多分だけど、一度だけその姿を見たことがある。
帽子を被っていたけど、耳の形が浮き上がっていて、いくつあったかはわからないけど尻尾もたくさんついていた。柔らかそうな尻尾。
「…私、その狐さん見たことあるよ」
「え?ほんと?」
「うん」
「じゃあ大妖精、今度会ったらお礼しておいて!」
「…そうだね」
お礼はしたいんだけど………
どこにいるか全然わからないんだよね。
「ああ、何度か見たことがあるよ、八雲藍のことだね」
「ご存知なんですか?」
「もちろん、この間飲み比べをしたんだけど、僅差で私の負けだったよ」
美鈴さんは相変わらず元気だ。
「で、藍がどうしたの?」
「はい、私の仲間を助けてくれたことがあったらしくて、お礼をしたいなーって…」
「…………んー」
「…」
「悪いね、どこにいるかは私にもわからないんだ」
「そうですか…」
謎の多い方。ミステリアスですね。
「咲夜さんや、パチュリー様なら知ってるかも、聞いてみたら?」
「あ、じゃあそうします」
「うん、ごめんねお茶も出さずに」
「いえそんな……じゃあ、また」
紅魔館を目指して、広大な中庭を進んでいると、私の目に飛び込んできたのは………
多分、咲夜さんとアリスさん……
すごい剣幕でお互いにらみ合い、セットされているお互いの武器がもう少しで動き出そうとしている。
「焼き魚には………焼き魚には醤油と大根卸しでしょうが!」
「ソース!」
「おかしい!絶対におかしい!」
「おかしくない!大体、からあげに調味料をつけないのもおかしい!」
「からあげにはなんもつけないのよ!」
「素材の味だけじゃ物足りないのよ!」
「不健康体!そんなやつにはおかゆしか作ってやるものかよ!」
アリスさんが、咲夜さんが作った料理を、変わった食べ方をしたから咲夜さんが激怒している。
多分そういうことだと思う。
「なによ!」
「なに!」
「………」
「………」
もう少しで戦いが始まってしまう気がする。
こういうときは、止めに入ったほうがいいんだろうなぁ…
ちょっと、怖いけど。
「あ、あの!」
「ん……」
「大妖精?」
「は、はい!いったいどうして喧嘩なんてなさってるんですか?」
「………こいつが私の部屋のベッドに紅茶こぼしやがったのよ」
「え?」
遊びに来たアリスさんが、人形を使って得意気に物運びをさせていたら、ちょっと操作を誤ってベッドの上にこぼした。そういうことらしい。
やかましいと紅魔館から追い出され、続きを中庭でやっているうちにエスカレートしていってもう一歩で戦闘になるところだったらしい。
咲夜さん曰く「かなりテンション上がってた」らしい。
「八雲藍を探してるって?」
「ええ、そうなんです」
「………あいつがいそうなところなんて、冥界かマヨヒガくらいなもんじゃない?」
「やっぱりそうなんですか……」
「冥界に行く方法なら知ってるけど、マヨヒガはよくわからない、暇になっちゃったから案内してあげようか?」
「いいんですか?」
「ええ、アリス、あなたもいくでしょ?」
「…別にいいけど」
勝手に話を進められて面白くないという風な顔だけど、咲夜さんの誘いに乗るアリスさん。
冥界なんてところに行く機会があるなんて思わなかった。
夕方には付くと、私は立ちは紅魔館を発ちました。
「アリス、なんかきになることでもあるの?」
「ん」
「なんか気がのってないって顔してるから」
「んー……いや、こないだ宴会があったじゃない?神社でかなり少人数で」
「ええ」
「そのとき、紫や妖夢がいたのに幽々子や藍がいなかったのが気になって」
「たまたまじゃない?紫も言ってたし」
「紫が言ってたからなんかあるんじゃないかって思ってるのよ」
「んー…」
「言ってみればわかるわよ」
「……そうだけど」
まだイマイチ納得がいっていない顔をしているアリスさん。
私にはよくわからないけど、藍さんに会えるならそれでいい。
そう考えていると、少し息苦しくなっていることに気が付いた。
「大丈夫?」
「え?……は、はい」
咲夜さんが私の異変に気が付いたみたいだ、心配をあまりかけたくなかったのに、この気圧の変化には耐えられなかった。
咲夜さんに体を支えてもらって一旦休憩をとる。
アリスさんはずーっと先の、沈んで行く太陽を見つめていた。
夕焼け空を高いところから見るのは初めてだ。
「………すごい綺麗ですね」
「ええ」
「……私、こんな光景がすぐ近くにあるなんて思ってなかった」
「……」
「夕方になったら、元気に遊んでいた妖精の子達が疲れて静かになって、それぞれの住処に帰っていって、寂しがってる子達を私がまた明日って慰めて……夕方って、忙しくて、少し憂鬱でした」
「本当は貴女も、寂しいのにね」
アリスさんが私の気持をずばり言い当てた。
年長物故の苦しみも、この人たちの前ではバレバレになってしまう。
「でも、頼ってもらえるのは嬉しいから……いっつも甘やかしちゃう」
「それはわかるかも」
「私だって、甘えたい」
泣き言を言う私、咲夜さんは私の体をささえながら、頭を撫でてくれた。
少しだけ微笑んで、アリスさんも同時に私の頭に手を載せた。
「な、なんですか?」
「もうひと頑張り、いけるでしょ?」
「…はい!」
ここが冥界………
あちこちに人の魂が浮遊していて、失礼だけどちょっと不気味。
でも夜に入ろうというのにここはなんだか明るい、それもまたちょっと、不気味だけど。
「ここ上りきれば、見えてくるわ」
「はい」
もうひと頑張りだ、もうひと頑張りで藍さんに会える。
たった一言、伝えたい言葉があるだけで、私はここまで頑張ることができた。
ちゃんと聞いてもらえるだろうか、私のお礼の言葉を。
「待った!!」
「………妖夢?」
「今は客人を入れるわけには行きません、大人しく引き下がっていただきます」
「いいじゃない、藍に会いたいのよ」
「藍様に?じゃあ、尚更ここは通せませんね」
突然私達の前に現れた魂魄妖夢さん。
いつもの親切な様子はなく、今回は冥界の住人として、私達の前に現れたみたいだ。
「橙、貴女も手伝って」
「うん!」
「………これはついてるわね」
「え?」
「橙がいるし、さっきのあの言葉、藍は絶対この先にいるわね」
「そうみたいね」
「そ、そっか」
「大妖精、適当なタイミングで突っ切りなさい」
「大丈夫なんですか?」
「私達が負けるわけ…」
そういいかけた咲夜さんが突然体を逸らせた。
何も見えなかったが、金属がぶつかり合う鋭い音がした。
「………」
「警告です、次は当てますよ」
いつのまにか下の段に移動していた妖夢さん。
一瞬で咲夜さんと私の間を走り抜けて攻撃しようとしていたみたいだ、咲夜さんはそれをナイフで受け止めた。
「……いつになくマジなようだけど、貴女」
「ええ、本気(マジ)ですとも」
「……そういうことされると、私のテンションが上がっちゃうんだけど」
「大妖精…」
「橙、お願い、ここを通して!」
「ごめんね、今は通せないんだ」
「どうして?ちょっとお話することもできないの?」
「…うん」
「そんな……」
「大妖精、化け猫と話したってしょうがないわ」
「あ、陰険な魔女」
「そうよ、じゃあはじめましょうか」
心なしか気合の入ったアリスさん。
橙は仲良く遊んでいる友達、できれば乱暴なことはしたくない。
「あ、あの、アリスさん」
「なに」
「橙を傷つけないで……あの、とってもいい子なんです…」
「………」
「おねがいですから……」
「あーもうわかったわかった、とっとといきなさい」
私が一人だけ階段を上りきろうとしているのはとっくにばれている。
でも私は、ここで立ち往生して皆が傷ついていくのを見ているなんてとてもできない。
私はいわれたとおり一心不乱に階段を駆け上った。
その瞬間視線が私に集中したのを感じた、多分妖夢さんが私を止めるために体を動かしたんだと思う。
そのまま振り向かずに階段を上り続けた。
何もこないということは、私は守られたんだ。
見えてきた、階段の一番上。
ここが、白玉桜。
趣のある和風の建物、何が待っているかもわからなかったので、正面の玄関から入る気にはならなかった。
ぐるっと、庭のほうを回って様子を見てみることにしたが…
「……誰だ?」
「………あ」
「あら、あらら」
縁側の障子が開いていて、そこには碁盤をはさむ様に座る二人の………
二人の………?
「妖精か…?なんだこんなところまで」
「まぁまぁ、いいじゃない」
「ですが、これでまた仕切りなおしです、3日もかけていたというのに」
「ふふふ」
不機嫌そうに私に話しかけているこの方、帽子をつけてはいないが、頭から生えている狐の耳と、後からたくさん生えている柔らかそうな尻尾を見て確信した。
「藍さん!」
「……確かに私は、藍だが」
「あら?知り合い?」
「……私は記憶力はかなり良いほうだったと思いますが」
「あ、その……多分、こうしてちゃんと話すのは初めてです」
「そうか」
藍さんが草鞋を履いて、庭のほうに入ってきた。
少し恐縮して、体が縮こまった。
「藍、その子怖がってるわ」
「え、ああ……すまん」
「あ………ええと……ごめんなさい突然」
「ああ、ところでどういう用事だ?」
「その……」
背、大きいな…
なんだか威圧されてるわけでもないのに、怖くて後ずさりをしてしまう。
「………」
「……」
ちょっとだけ助け舟を出してくれていた綺麗な着物を着た女性も、白紙になってしまったらしい碁盤を見つめて黙ってしまった。
落ちつけ、おちついて、お礼を言えば良いんだ。
「………あの」
「ああ」
「覚えていますか?ずっと前に、森で妖精を助けてくださったことがありましたよね?」
「………」
顎に手を当てて、んーと少し唸る。
すぐには思い出せそうになかったようだけど、着物の女性が口を開いた。
「あれじゃない?森で妖精を苛めてた妖怪をこらしめて、宴会に遅れたって言ってたことあったわよね?」
「ああ………ああ、そういえばそうですね、うん、ある」
「そのことで、どうしてもお礼を言いたくて……」
「………」
「あの!本当に、ありがとうございました!」
勢い任せに頭を下げて、全力で感謝の気持を伝えた。
藍さんは驚いたのか無言で、着物の女性は楽しそうに笑い始めた。
「藍、何か言ってあげなさい」
「え………ええ………えーと………なんでまた、その子じゃなくてお前さんが?」
「その子、とっても力が弱いので、ここまではこれそうになかったんです」
「ああ、なるほど…」
「そうか、礼をわざわざ言いにきてくれたのか」
「…はい」
「悪かったな怖がらせて、適当に腰掛けてくれ、お茶を入れる」
「い、いえそんな!も、もうおいとましますので!」
「え!?」
玄関のほうから、私の発言を聞いて驚く声が聞こえた。
そこに立っていたのは、妖夢さんをお姫様抱っこしている咲夜さんと、猫になっている橙の首根っこをつかんでるアリスさん。
「今から帰るの!?」
「あ、い、いえその…」
「……あらら」
着物の女性が、咲夜さんによって行った。
咲夜さんも知り合いだったらしく、親しげに話し始めた。
「ダウンしちゃってた?」
「いや、頭に踵落ししたらうまいこと当たったみたいで…」
「あらら………でもまぁ無理ないわね、これで3日徹夜してたんだから」
「そうだったの?幽々子、貴女この子に何を命令してたの?」
「実はね…」
幽々子と呼ばれた方が藍さんに目配せをすると、藍さんが話し始めた。
「私と幽々子様で、囲碁の真剣勝負をしていたんだ……紫様や橙が混ざってきたり、周りのちょっとした音で集中力が切れてしまったり、いろいろあって決着が一度も付いたことが無くてな」
「だから、4日かけて最高の環境で勝負をしようって、決めてたの」
「…だからこないだの宴会、貴女達来なかったのね」
「そういうことだ」
咲夜さんから、妖夢さんを受け取った幽々子さん。
そのまま奥の部屋に消えてしまった。
私は話しにあまりついていけず、これからどうすればいいか困っていた。
「……実はな」
「え?」
藍さんが、幽々子さんの姿が消えてから少し小声で話し始めた。
私に向かって。
「負けそうだったんだ」
「………あ」
「これは貸しとくよ」
藍さんのウインクはちょっと色っぽかった。
あまりの不意打ちにぼーっとしてしまって、少し我を忘れた。
「お前達、今日は泊まっていけ…橙ー」
藍さんに呼ばれると、橙はアリスさんの手を振り払って藍さんの胸に飛び込んだ。
そういえば、橙は式神だって聞いた。
藍さんが主だったんだ…
「仕方ない奴め、水でもかけられたか?」
とても暖かい笑みを浮かべて、藍さんも屋敷の奥に入っていってしまった。
「………まぁ、泊まっていけって言うならお言葉に甘えますか」
「そうね、貴女もそうしなさい」
「あ、はい!」
今度は、油揚げ持ってこよう…
.
「金毛」
「はくめん、こんもう、きゅう………」
「きゅうび」
「はくめん、こんもう、きゅうびのきつね!」
「そうそう」
「言えた!」
「言えたね」
「で、これってなに?」
「ええと…」
偶然にも、私達が遊んでいたところに天狗さんがよく配っている新聞が落っこちてきた。
字を呼んでいても面白くないとよくチルノは言うけど、私は少しだけ興味があったからそれを眺めていた。
すると次第にチルノ達も興味を持ったみたいで、私の周りに集まってきていた。
「大妖精、これなんて読むの?」
「玉藻前……物凄く綺麗な狐さんだったんだって」
「「おー」」
まだ字を読めない妖精の子も、なんとなく驚いてなんとなく声をあげている。
私はたまたま紅魔館で読ませてもらっていた本にこのことが書いてあったから知っていただけだ。
「あ、そういえば!」
ひときわ元気の良い声が響いた。
「私すごくかっこいい狐見たことあるよ!」
「え?どこで?」
「えっとねー、妖怪に襲われたときに助けてくれたんだ」
「どうして妖怪が妖怪の邪魔をするの?」
「?……さぁ?」
「んー、わかんないなぁ」
「………」
私はその会話には参加しないで、その助けてくれた狐のことを考えていた。
多分だけど、一度だけその姿を見たことがある。
帽子を被っていたけど、耳の形が浮き上がっていて、いくつあったかはわからないけど尻尾もたくさんついていた。柔らかそうな尻尾。
「…私、その狐さん見たことあるよ」
「え?ほんと?」
「うん」
「じゃあ大妖精、今度会ったらお礼しておいて!」
「…そうだね」
お礼はしたいんだけど………
どこにいるか全然わからないんだよね。
「ああ、何度か見たことがあるよ、八雲藍のことだね」
「ご存知なんですか?」
「もちろん、この間飲み比べをしたんだけど、僅差で私の負けだったよ」
美鈴さんは相変わらず元気だ。
「で、藍がどうしたの?」
「はい、私の仲間を助けてくれたことがあったらしくて、お礼をしたいなーって…」
「…………んー」
「…」
「悪いね、どこにいるかは私にもわからないんだ」
「そうですか…」
謎の多い方。ミステリアスですね。
「咲夜さんや、パチュリー様なら知ってるかも、聞いてみたら?」
「あ、じゃあそうします」
「うん、ごめんねお茶も出さずに」
「いえそんな……じゃあ、また」
紅魔館を目指して、広大な中庭を進んでいると、私の目に飛び込んできたのは………
多分、咲夜さんとアリスさん……
すごい剣幕でお互いにらみ合い、セットされているお互いの武器がもう少しで動き出そうとしている。
「焼き魚には………焼き魚には醤油と大根卸しでしょうが!」
「ソース!」
「おかしい!絶対におかしい!」
「おかしくない!大体、からあげに調味料をつけないのもおかしい!」
「からあげにはなんもつけないのよ!」
「素材の味だけじゃ物足りないのよ!」
「不健康体!そんなやつにはおかゆしか作ってやるものかよ!」
アリスさんが、咲夜さんが作った料理を、変わった食べ方をしたから咲夜さんが激怒している。
多分そういうことだと思う。
「なによ!」
「なに!」
「………」
「………」
もう少しで戦いが始まってしまう気がする。
こういうときは、止めに入ったほうがいいんだろうなぁ…
ちょっと、怖いけど。
「あ、あの!」
「ん……」
「大妖精?」
「は、はい!いったいどうして喧嘩なんてなさってるんですか?」
「………こいつが私の部屋のベッドに紅茶こぼしやがったのよ」
「え?」
遊びに来たアリスさんが、人形を使って得意気に物運びをさせていたら、ちょっと操作を誤ってベッドの上にこぼした。そういうことらしい。
やかましいと紅魔館から追い出され、続きを中庭でやっているうちにエスカレートしていってもう一歩で戦闘になるところだったらしい。
咲夜さん曰く「かなりテンション上がってた」らしい。
「八雲藍を探してるって?」
「ええ、そうなんです」
「………あいつがいそうなところなんて、冥界かマヨヒガくらいなもんじゃない?」
「やっぱりそうなんですか……」
「冥界に行く方法なら知ってるけど、マヨヒガはよくわからない、暇になっちゃったから案内してあげようか?」
「いいんですか?」
「ええ、アリス、あなたもいくでしょ?」
「…別にいいけど」
勝手に話を進められて面白くないという風な顔だけど、咲夜さんの誘いに乗るアリスさん。
冥界なんてところに行く機会があるなんて思わなかった。
夕方には付くと、私は立ちは紅魔館を発ちました。
「アリス、なんかきになることでもあるの?」
「ん」
「なんか気がのってないって顔してるから」
「んー……いや、こないだ宴会があったじゃない?神社でかなり少人数で」
「ええ」
「そのとき、紫や妖夢がいたのに幽々子や藍がいなかったのが気になって」
「たまたまじゃない?紫も言ってたし」
「紫が言ってたからなんかあるんじゃないかって思ってるのよ」
「んー…」
「言ってみればわかるわよ」
「……そうだけど」
まだイマイチ納得がいっていない顔をしているアリスさん。
私にはよくわからないけど、藍さんに会えるならそれでいい。
そう考えていると、少し息苦しくなっていることに気が付いた。
「大丈夫?」
「え?……は、はい」
咲夜さんが私の異変に気が付いたみたいだ、心配をあまりかけたくなかったのに、この気圧の変化には耐えられなかった。
咲夜さんに体を支えてもらって一旦休憩をとる。
アリスさんはずーっと先の、沈んで行く太陽を見つめていた。
夕焼け空を高いところから見るのは初めてだ。
「………すごい綺麗ですね」
「ええ」
「……私、こんな光景がすぐ近くにあるなんて思ってなかった」
「……」
「夕方になったら、元気に遊んでいた妖精の子達が疲れて静かになって、それぞれの住処に帰っていって、寂しがってる子達を私がまた明日って慰めて……夕方って、忙しくて、少し憂鬱でした」
「本当は貴女も、寂しいのにね」
アリスさんが私の気持をずばり言い当てた。
年長物故の苦しみも、この人たちの前ではバレバレになってしまう。
「でも、頼ってもらえるのは嬉しいから……いっつも甘やかしちゃう」
「それはわかるかも」
「私だって、甘えたい」
泣き言を言う私、咲夜さんは私の体をささえながら、頭を撫でてくれた。
少しだけ微笑んで、アリスさんも同時に私の頭に手を載せた。
「な、なんですか?」
「もうひと頑張り、いけるでしょ?」
「…はい!」
ここが冥界………
あちこちに人の魂が浮遊していて、失礼だけどちょっと不気味。
でも夜に入ろうというのにここはなんだか明るい、それもまたちょっと、不気味だけど。
「ここ上りきれば、見えてくるわ」
「はい」
もうひと頑張りだ、もうひと頑張りで藍さんに会える。
たった一言、伝えたい言葉があるだけで、私はここまで頑張ることができた。
ちゃんと聞いてもらえるだろうか、私のお礼の言葉を。
「待った!!」
「………妖夢?」
「今は客人を入れるわけには行きません、大人しく引き下がっていただきます」
「いいじゃない、藍に会いたいのよ」
「藍様に?じゃあ、尚更ここは通せませんね」
突然私達の前に現れた魂魄妖夢さん。
いつもの親切な様子はなく、今回は冥界の住人として、私達の前に現れたみたいだ。
「橙、貴女も手伝って」
「うん!」
「………これはついてるわね」
「え?」
「橙がいるし、さっきのあの言葉、藍は絶対この先にいるわね」
「そうみたいね」
「そ、そっか」
「大妖精、適当なタイミングで突っ切りなさい」
「大丈夫なんですか?」
「私達が負けるわけ…」
そういいかけた咲夜さんが突然体を逸らせた。
何も見えなかったが、金属がぶつかり合う鋭い音がした。
「………」
「警告です、次は当てますよ」
いつのまにか下の段に移動していた妖夢さん。
一瞬で咲夜さんと私の間を走り抜けて攻撃しようとしていたみたいだ、咲夜さんはそれをナイフで受け止めた。
「……いつになくマジなようだけど、貴女」
「ええ、本気(マジ)ですとも」
「……そういうことされると、私のテンションが上がっちゃうんだけど」
「大妖精…」
「橙、お願い、ここを通して!」
「ごめんね、今は通せないんだ」
「どうして?ちょっとお話することもできないの?」
「…うん」
「そんな……」
「大妖精、化け猫と話したってしょうがないわ」
「あ、陰険な魔女」
「そうよ、じゃあはじめましょうか」
心なしか気合の入ったアリスさん。
橙は仲良く遊んでいる友達、できれば乱暴なことはしたくない。
「あ、あの、アリスさん」
「なに」
「橙を傷つけないで……あの、とってもいい子なんです…」
「………」
「おねがいですから……」
「あーもうわかったわかった、とっとといきなさい」
私が一人だけ階段を上りきろうとしているのはとっくにばれている。
でも私は、ここで立ち往生して皆が傷ついていくのを見ているなんてとてもできない。
私はいわれたとおり一心不乱に階段を駆け上った。
その瞬間視線が私に集中したのを感じた、多分妖夢さんが私を止めるために体を動かしたんだと思う。
そのまま振り向かずに階段を上り続けた。
何もこないということは、私は守られたんだ。
見えてきた、階段の一番上。
ここが、白玉桜。
趣のある和風の建物、何が待っているかもわからなかったので、正面の玄関から入る気にはならなかった。
ぐるっと、庭のほうを回って様子を見てみることにしたが…
「……誰だ?」
「………あ」
「あら、あらら」
縁側の障子が開いていて、そこには碁盤をはさむ様に座る二人の………
二人の………?
「妖精か…?なんだこんなところまで」
「まぁまぁ、いいじゃない」
「ですが、これでまた仕切りなおしです、3日もかけていたというのに」
「ふふふ」
不機嫌そうに私に話しかけているこの方、帽子をつけてはいないが、頭から生えている狐の耳と、後からたくさん生えている柔らかそうな尻尾を見て確信した。
「藍さん!」
「……確かに私は、藍だが」
「あら?知り合い?」
「……私は記憶力はかなり良いほうだったと思いますが」
「あ、その……多分、こうしてちゃんと話すのは初めてです」
「そうか」
藍さんが草鞋を履いて、庭のほうに入ってきた。
少し恐縮して、体が縮こまった。
「藍、その子怖がってるわ」
「え、ああ……すまん」
「あ………ええと……ごめんなさい突然」
「ああ、ところでどういう用事だ?」
「その……」
背、大きいな…
なんだか威圧されてるわけでもないのに、怖くて後ずさりをしてしまう。
「………」
「……」
ちょっとだけ助け舟を出してくれていた綺麗な着物を着た女性も、白紙になってしまったらしい碁盤を見つめて黙ってしまった。
落ちつけ、おちついて、お礼を言えば良いんだ。
「………あの」
「ああ」
「覚えていますか?ずっと前に、森で妖精を助けてくださったことがありましたよね?」
「………」
顎に手を当てて、んーと少し唸る。
すぐには思い出せそうになかったようだけど、着物の女性が口を開いた。
「あれじゃない?森で妖精を苛めてた妖怪をこらしめて、宴会に遅れたって言ってたことあったわよね?」
「ああ………ああ、そういえばそうですね、うん、ある」
「そのことで、どうしてもお礼を言いたくて……」
「………」
「あの!本当に、ありがとうございました!」
勢い任せに頭を下げて、全力で感謝の気持を伝えた。
藍さんは驚いたのか無言で、着物の女性は楽しそうに笑い始めた。
「藍、何か言ってあげなさい」
「え………ええ………えーと………なんでまた、その子じゃなくてお前さんが?」
「その子、とっても力が弱いので、ここまではこれそうになかったんです」
「ああ、なるほど…」
「そうか、礼をわざわざ言いにきてくれたのか」
「…はい」
「悪かったな怖がらせて、適当に腰掛けてくれ、お茶を入れる」
「い、いえそんな!も、もうおいとましますので!」
「え!?」
玄関のほうから、私の発言を聞いて驚く声が聞こえた。
そこに立っていたのは、妖夢さんをお姫様抱っこしている咲夜さんと、猫になっている橙の首根っこをつかんでるアリスさん。
「今から帰るの!?」
「あ、い、いえその…」
「……あらら」
着物の女性が、咲夜さんによって行った。
咲夜さんも知り合いだったらしく、親しげに話し始めた。
「ダウンしちゃってた?」
「いや、頭に踵落ししたらうまいこと当たったみたいで…」
「あらら………でもまぁ無理ないわね、これで3日徹夜してたんだから」
「そうだったの?幽々子、貴女この子に何を命令してたの?」
「実はね…」
幽々子と呼ばれた方が藍さんに目配せをすると、藍さんが話し始めた。
「私と幽々子様で、囲碁の真剣勝負をしていたんだ……紫様や橙が混ざってきたり、周りのちょっとした音で集中力が切れてしまったり、いろいろあって決着が一度も付いたことが無くてな」
「だから、4日かけて最高の環境で勝負をしようって、決めてたの」
「…だからこないだの宴会、貴女達来なかったのね」
「そういうことだ」
咲夜さんから、妖夢さんを受け取った幽々子さん。
そのまま奥の部屋に消えてしまった。
私は話しにあまりついていけず、これからどうすればいいか困っていた。
「……実はな」
「え?」
藍さんが、幽々子さんの姿が消えてから少し小声で話し始めた。
私に向かって。
「負けそうだったんだ」
「………あ」
「これは貸しとくよ」
藍さんのウインクはちょっと色っぽかった。
あまりの不意打ちにぼーっとしてしまって、少し我を忘れた。
「お前達、今日は泊まっていけ…橙ー」
藍さんに呼ばれると、橙はアリスさんの手を振り払って藍さんの胸に飛び込んだ。
そういえば、橙は式神だって聞いた。
藍さんが主だったんだ…
「仕方ない奴め、水でもかけられたか?」
とても暖かい笑みを浮かべて、藍さんも屋敷の奥に入っていってしまった。
「………まぁ、泊まっていけって言うならお言葉に甘えますか」
「そうね、貴女もそうしなさい」
「あ、はい!」
今度は、油揚げ持ってこよう…
.
行ってみれば、かな
大ちゃん可愛いよ!
咲アリ…いつのまに結婚してたんですか?
その通りです、すいません
咲夜さんを話の中心にしないと、どんどんキャラが崩壊してしまう。
だがそれが、いい