冬のある日の朝のことである。
命蓮寺の前身、星輦船。その船長、村紗水蜜は傍らに錨を置き、命蓮寺の庭に佇んでいた。
「うー、さむさむ……」
ほう、と息を手に吹きかけて擦り合わせる。漏れた息が白く靄を作り、すぐに消えた。
「よっこいしょ」
しばらくそうして手を温めた後、気合いを一つ、肩に錨を担ぐ。冷え切っているも手になじむその感触にうっすらと笑みを浮かべた。
そしておもむろに錨を片手で振り回し始める。
―――ぐるんぐるんぶおんぶおん。
それはしばらくすると全身を伴った回転運動に変わった。
―――ぶおんぶおんぶおんぶおん。
まだまだ回り続ける。
―――ぶおんぶおんふぉん。
さらにしばらくすると、風を切る音が変わる。その瞬間。
「どっせーい!」
村紗は手を離した。澄み切った冬の空気を切り裂き、飛び続ける。
だが、それも段々と慣性に従って落下を始め、ずしん、という重い音が響いた。遠くの森から一斉に鳥が羽ばたいた。
それを確認し、村紗は満足げな笑みを浮かべた。
「うん、今日もいい感じ」
よーし、今日も張り切っていこー、と自らを鼓舞し、彼女は自室に消えていった。
――――――――――――
冬のある日の朝のことである。
命蓮寺の尼さん、姐さんの名をほしいままにする雲居一輪は使役する入道、雲山を侍らせて命蓮寺の庭に佇んでいた。
「よーし、雲山、準備はいい?」
雲山はおごそかに頷く。それを見た一輪は満足げな笑みを浮かべ、ぽんぽんと彼の肩を叩いた。雲山の頬が緩む。
しばらくそのまま時間が流れたが、おもむろに一輪は雲山から距離を取り、息を深く吐き出した。
「ん、いくわよ」
そう言うと、一輪は大きく振りかぶり。
「とってきなさい、雲山!」
手に持っていた入道を使役するための輪を投げた。
それを追いかける雲山の後姿を見やり、うっすらと笑みを浮かべ、空を見上げた。
「うん、今日もいい日になりそう」
視線を前に戻すと、口に輪を咥えた雲山がこちらに向かってきているところだった。
一輪は、今度こそ満面の笑みを浮かべた。
――――――――――――
冬のある日の朝のことである。
命蓮寺の中心人物、対外的にはリーダーと見られ、内部からは聖母として慕われる聖白蓮は魔法の巻物を手に命蓮寺の庭に佇んでいた。
「んー……んっんっ」
ゆっくりと伸びをし、体をほぐす。首、肩、腰、足。入念にストレッチした聖は、ほう、と息をはいてぶつぶつと何かを呟いた。
すると、その体は淡い光に包まれた。
「よし」
自分の手足を見て、しっかり魔法がかかっているのを確認すると、聖は二歩ほど勢いをつけ。
「えーい!」
巻物を投げた。肉体強化の術を駆使して投擲した巻物は凄まじいスピードで飛んで行ったが、彼女はそれを満足げに眺めていた。
そして、巻物が常人の目では見えなくなるほど遠くまで行ったことを確認すると、短く息を吐く。
「ふっ」
その瞬間、聖の姿がかき消える。
と思えばその次の瞬間には平然と元の場所に立っていた。その手には、先ほど投げられた巻物が握られている。
「うん、良い感じ」
むっ、と胸の前でガッツポーズを作り、彼女は自室に消えて行った。
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冬のある日の朝のことである。
聖の復活からこっち、命蓮寺に住み着いている未確認飛行少女、封獣ぬえは愛用の三つ又槍を持ってその庭に佇んでいた。
「ん……くぁ……あ」
大きく欠伸をする。見る者はだれもいないことから、手で隠そうともせず、豪快に新鮮な空気を取り込む。
冬の澄んだ空気を取り込んで少し目が覚めたのか、プルプルと首を左右に振って完全に眠気を飛ばそうとする。
「んー……まだねむい」
が、それは失敗に終わったようで、槍に体重をかけて少しでも楽な姿勢を得ようとする。
しばらくそのまま目を瞑っていたが、がくん、と頭が落ちてそれに伴って一気に覚醒する。その様子を誰かに見られていないか心配なのだろうか、きょろきょろとあたりを見回し、誰もいないことを確認すると一つ息を吐いた。
「よし、がんばろ」
そう言うと槍を手にとって逆手に持ち、腰を落として投擲の姿勢に入る。
そしてそのまま二歩ほど助走をつけ。
「いーよいしょー!」
三つ又槍を投げた。空気を切り裂いて飛んで行ったが、すぐに失速して地面に刺さった。庭からも出ていない、視認できる距離。
「うーん、やっぱり聖達には程遠いなぁ」
ブツブツつぶやきながら愛用の槍を地面から引き抜き、肩に担ぐと自室に戻って行った。
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冬のある日の朝のことである。
命蓮寺の中心となっている聖白蓮。その補佐という位置にいる寅丸星は、聖を復活させる際に用いた、今は用済みとなってしまっている宝塔を手に命蓮寺の庭に佇んでいた。
「……いい天気、ですね」
空を見上げて微笑み、ゆっくりと目を閉じる。
そのまま時間が過ぎてゆく。辺りは穏やかな鳥の鳴き声に包まれ、鋭利な冬の朝を少しだけ温めてくれる。
そんなとき、雀が一匹星の肩に止まる。しかし、星は微動だにしない。上を向いたまま、静かに佇んでいる。
その様子に興味を持ったのか、二羽、三羽と雀が増えてゆき、最終的には十羽を数えるほどになっていた。
「……はっ! 寝てました!」
突然の覚醒に驚いた雀たちが一気に飛ぶ。その様子を見て、星は、ああ、と情けない声を出す。
「申し訳ないことをしました……」
肩を落として呟く。が、それも一瞬のこと。次の瞬間には、顔に弛んだところなど見られない、凛々しい寅を彷彿させる表情の星が立っていた。
一つ咳払いをする。仕切り直しのつもりだろう。
「ん、よし」
掛け声を一つ、大きく振りかぶり。
「だぁぁっ!」
宝塔を投げた。
それはぐんぐんと伸び、がさりと森の中に落下した。驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ様子が見られた。
「ああ、鳥さんたちにはまた申し訳ないことをしました……」
しょぼん、と小さくなった星は、自室に戻って行った。
――――――――――――
冬のある日の朝のことである。
星の部下、ナズーリンは疲れたような表情を見せていた。両手にダウジングロッドを持ち、命蓮寺の庭に佇んでいた。
「ああ、もう……」
しゃがみ込み、頭を抱える。
悩みの種は彼女の主人のこと。
みんながやってるから私もやりたかった、後悔はしていない、などという理由で宝塔をぶん投げたのだ。
ありえない。おかげでここ二日位ほとんど寝ていない。しかもついでにムラサに錨の回収も頼まれるし。あんな重いもん、どないせーちゅーねん。
ナズーリンの苦悩は深い。
「ふ、ふふふ……」
頭を抱えたまま、唐突に不気味な笑いを漏らす。
そしてさらに唐突に、ダウジングロッドを手にがばりと立ち上がり、投擲体勢に入る。
「やってられるかっちゅーねーん!」
ダウジングロッドは星になった。
End.
いいですよねぇ、大遠投
私も若いころは毎日のように大遠投したものです
そして、今日も命蓮寺は平和ですw
ちゃんと拾ってこーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!
そしてひじりんの行動はまさしく「タ・おっぱいおっぱい」
よろしければ私が体を揉みほぐしてさしあげます。
幻想郷は(錨や宝塔が落ちてくる森以外)今日も平和です。
いやいや信仰の重さが追加されてるのです
小傘かわいいよこが(傘弾
>そんなとき、雀が一匹星の方に止まる。
「肩に止まる」でしょうか?
哀れだな