「聖っ!」
「みんな…ただいま」
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…!」
「いいんですよ、星…貴方は貴方のすべきことをした、それだけです。それに…今こうしてここに来てくれたじゃないですか」
「…っ!聖ぃ…っ!」
そうして私は彼女と再会した…あの時の後悔と懺悔と歓喜を胸に。
「そういうわけでこの子の事、よろしくお願いします」
「ふむ…それが弟子か」
「よ、よろしくお願いします」
「…妖怪のようだが?」
「はい、そうです。ですがその中でも特に真面目ないい子ですよ」
「…まあいいだろう」
「頑張ってくださいね、星」
「は、はい!」
それからの私は聖の期待にこたえようと必死だった
流石に毘沙門天様は簡単には信用してくれなかったようで、お目付け役も付けられましたが…
それでも私のすることは変わらない。そう、あの時も…
「ご主人、聖がっ!」
「…騒がしいですよ、ナズーリン」
「これが落ち着いていられる場合か!?聖や皆が封印されるんだぞ!」
「…らしいですね」
「らしいですね、じゃない!こんなところで暢気に写経している場合では…!」
「駄目ですよ、ナズーリン」
「何故だっ!何故動こうとしない!なんとも思わないのか!?」
「…私は今は毘沙門天の代理なのです。その私が皆を助ける事は出来ません」
「…っ!星っ!お前はそれでいいのか!?皆をこのまま見殺しにすると!?」
「落ち着きなさいと言っているでしょう!」
「っ…!?」
「仮に私達二人だけで何が出来るというのです…!もろとも封印されてそれで終わりです。それだけはなんとしても避けなければいけない」
「だが…」
「私には…責任があるんです。聖より毘沙門天様に斡旋して頂いたときから…私は『毘沙門天』でなければならないんです…!」
「…ご主人」
「向かいたくないわけがないでしょう…出来ることなら私だって今すぐにでもここを飛び出していきたい!しかし私にはそれは出来ない、許されない!私は…私はもう…」
「…わかった。失礼する…騒ぎ立てて申し訳ない」
そうして私は寺に残った…いつものように寺で職務をはたしながら…
皆は怨んでいるのでしょうね…薄情者だと…裏切り者だと…
それでも私は…ここの留守を任された、皆が帰ってくるこの寺の…
そうして何年も…何十年も…何百年も後…
「…すっかり寺も荒れてしまいましたね…誰も来なくなったのだし、当然ですが…」
今ならここから抜け出すことも可能かもしれない…そんなことを冗談交じりに考えていたある日…
「…呆れた、まだあんたここにいたのね」
「…!その声は…」
「…久しぶりね、星」
「ムラサ…」
懐かしい…また会える日が来るなんて思ってもみなかった…
「…何の用でしょうか、見たところ…一輪に雲山もいるようですが」
「…正直あんたには言いたい事が山ほどあるんだけど…単刀直入に聞くわ、聖の封印を解く方法を教えなさい」
「…どういうことでしょう」
「どういうことも何もないわ。ただ聖の封印を解きに行く、それだけ」
「…船はあるんですか?」
「当然よ。私がここにいることが何よりの証左。それで?教えるの、教えないの?」
「…封印を解く為には聖の弟様、命蓮様の力が必要です」
「へ…?」
「?どうかしましたか?」
「い、いや…いいの?そんなにあっさり教えて…私としてはあんたと1戦やりあうつもりだったんだけど…」
「…私は妖怪です。ならば聖の封印に手を尽くすのは当たり前の事です」
「…変わり身の早い事で」
「なんとでもどうぞ。とにかく、命蓮様の力は今はあの倉…空を飛ぶ倉にあります。それを集める事が出来れば」
「なるほどね…一輪!雲山に船の準備をさせて」
「わかった」
「…あんたも来るの?」
「当然です。それに倉を集めただけでは完全とは言えない。私の持っている宝塔の力も必要です」
「…ちっ」
こうして私もようやく本心に立ち返れた…まあ、その途中で肝心の宝塔をなくしていたりと、あまり褒められたものではないのですが…
「…それで、あんたもここに住むの?」
「…どう、でしょうね。聖はともかく皆はそれを許してくれないでしょうし…」
「当たり前でしょう。誰があんたみたいな裏切り者…」
「あれ?ムラサいいの?この人がムラサの言ってた人の事じゃないの?」
「っ!?ぬ、ぬえ!?」
「…?失礼ですが貴女は?」
「私?私はぬえ、まあムラサの友達みたいなもん?ところで…あんたが寅丸星?」
「…?はあ…そうですが…」
「へー、ふーん、ほー…」
「あ、あの…何か?」
「いやいや別にー?なかなかの色男だなーと」
「なっ!?」
「…話がよく見えないのですが」
「いあね、よくムラサが地底にいたときにあんたのこと」
「わーーーっ!!!」
「あれれー、ムラサ顔赤いよー、どしたのー?」
「うっさいっ!つーか黙れぬえ!それ以上言うな!」
「…彼女に話したんですか?私の事を」
「そりゃーもう色々聞かされたってもんよ」
「…そう、ですか」
…いい話、ではないのでしょうね
「駄目ですよムラサ」
「ひ、聖…」
「星も私達にとって大切な家族ですよ?一人だけ追い出すなんて駄目です」
「で、ですが聖…こいつは…」
「?立派に寺に残って責任を果たしてくれたじゃないですか、何か問題が?」
「え、ええ!?」
…相変わらず、聖にはかないそうもない
「…いいんですよ、聖。どうあれ、私のした事は褒められた事ではありません」
「いけません」
「しかし…」
「では一輪、貴女の意見は?」
「へ?うーん、私は別に。雲山も問題ないって」
「ちょ、一輪!?」
「そりゃ昔の事はそうだけどさ、実際今回は星がいなきゃ駄目だったわけだし。まあそれに免じてってやつ?それに雲山も男一人は辛いってさ」
「ナズーリンはどう思います?」
「どうもこうもこの人は私のご主人だぞ?去れと言うなら私も共に去る」
「ね?」
「う…うー…あー、もう、わかったわよっ!認めればいいんでしょ!?認めれば!」
「ではこれで解決ですね。さあ、新しい寺を建てましょう!」
本当に…かないそうもないな、まったく…
「…いいのか、ご主人」
「ナズーリン。いいのか、とは?」
「聖のことだ…まだ、好きなんだろう?」
「ああ、そのことですか…いいんですよ、もう」
「ふむ?」
「確かに私は昔…いえ、今でも聖の事を…ですが、いいんです」
「どうしてだい?」
「一つはそうですね…この気持ちの正体がなんだか…わからなくなってしまいまして」
「わからない?」
「ええ。情けない話ですが今こうして考えてみると、本当にこれは恋慕だったのかな、と、そんなことを思ってしまいましてね」
「ただの憧れだった、と?」
「そのようなものです。子が母に向けるようなそんな、ね…」
「…一つ、と言ったな、もう一つは?」
「もう一つはそうですね…こうして皆に会えて…またもう一度皆で暮らしていける…そのことがたまらなく嬉しいんです」
「…ふむ」
「もし私が恋をしていたとしたら…本当はきっと寺の皆と一緒にすごす、そんな毎日を想っていたんじゃないか、今はそんな風に思うんですよ」
「…なるほどな」
「とはいえ自分でも本当の事はよくわからないんですがね、本当に恋だったのかもしれないし」
「まあゆっくり気持ちの在り処を探していけばいいさ…いつかきっと見つかると思うよ」
「何故そう思うんです?」
「ご主人の力は『財宝が集める程度の』じゃないか。その気持ちは間違いなく、掛け替えのない『財宝』だと、私は思うよ」
「…そうですね、ええ、大切な…何よりも大切な『宝』です」
「なら、きっと見つかるさ…いつか、ね」
「いつか、か…」
見つけたいと思う反面、このままずっと見えないままでいてほしい気持ちもありますね…不思議なものです…
「みんな…ただいま」
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…!」
「いいんですよ、星…貴方は貴方のすべきことをした、それだけです。それに…今こうしてここに来てくれたじゃないですか」
「…っ!聖ぃ…っ!」
そうして私は彼女と再会した…あの時の後悔と懺悔と歓喜を胸に。
「そういうわけでこの子の事、よろしくお願いします」
「ふむ…それが弟子か」
「よ、よろしくお願いします」
「…妖怪のようだが?」
「はい、そうです。ですがその中でも特に真面目ないい子ですよ」
「…まあいいだろう」
「頑張ってくださいね、星」
「は、はい!」
それからの私は聖の期待にこたえようと必死だった
流石に毘沙門天様は簡単には信用してくれなかったようで、お目付け役も付けられましたが…
それでも私のすることは変わらない。そう、あの時も…
「ご主人、聖がっ!」
「…騒がしいですよ、ナズーリン」
「これが落ち着いていられる場合か!?聖や皆が封印されるんだぞ!」
「…らしいですね」
「らしいですね、じゃない!こんなところで暢気に写経している場合では…!」
「駄目ですよ、ナズーリン」
「何故だっ!何故動こうとしない!なんとも思わないのか!?」
「…私は今は毘沙門天の代理なのです。その私が皆を助ける事は出来ません」
「…っ!星っ!お前はそれでいいのか!?皆をこのまま見殺しにすると!?」
「落ち着きなさいと言っているでしょう!」
「っ…!?」
「仮に私達二人だけで何が出来るというのです…!もろとも封印されてそれで終わりです。それだけはなんとしても避けなければいけない」
「だが…」
「私には…責任があるんです。聖より毘沙門天様に斡旋して頂いたときから…私は『毘沙門天』でなければならないんです…!」
「…ご主人」
「向かいたくないわけがないでしょう…出来ることなら私だって今すぐにでもここを飛び出していきたい!しかし私にはそれは出来ない、許されない!私は…私はもう…」
「…わかった。失礼する…騒ぎ立てて申し訳ない」
そうして私は寺に残った…いつものように寺で職務をはたしながら…
皆は怨んでいるのでしょうね…薄情者だと…裏切り者だと…
それでも私は…ここの留守を任された、皆が帰ってくるこの寺の…
そうして何年も…何十年も…何百年も後…
「…すっかり寺も荒れてしまいましたね…誰も来なくなったのだし、当然ですが…」
今ならここから抜け出すことも可能かもしれない…そんなことを冗談交じりに考えていたある日…
「…呆れた、まだあんたここにいたのね」
「…!その声は…」
「…久しぶりね、星」
「ムラサ…」
懐かしい…また会える日が来るなんて思ってもみなかった…
「…何の用でしょうか、見たところ…一輪に雲山もいるようですが」
「…正直あんたには言いたい事が山ほどあるんだけど…単刀直入に聞くわ、聖の封印を解く方法を教えなさい」
「…どういうことでしょう」
「どういうことも何もないわ。ただ聖の封印を解きに行く、それだけ」
「…船はあるんですか?」
「当然よ。私がここにいることが何よりの証左。それで?教えるの、教えないの?」
「…封印を解く為には聖の弟様、命蓮様の力が必要です」
「へ…?」
「?どうかしましたか?」
「い、いや…いいの?そんなにあっさり教えて…私としてはあんたと1戦やりあうつもりだったんだけど…」
「…私は妖怪です。ならば聖の封印に手を尽くすのは当たり前の事です」
「…変わり身の早い事で」
「なんとでもどうぞ。とにかく、命蓮様の力は今はあの倉…空を飛ぶ倉にあります。それを集める事が出来れば」
「なるほどね…一輪!雲山に船の準備をさせて」
「わかった」
「…あんたも来るの?」
「当然です。それに倉を集めただけでは完全とは言えない。私の持っている宝塔の力も必要です」
「…ちっ」
こうして私もようやく本心に立ち返れた…まあ、その途中で肝心の宝塔をなくしていたりと、あまり褒められたものではないのですが…
「…それで、あんたもここに住むの?」
「…どう、でしょうね。聖はともかく皆はそれを許してくれないでしょうし…」
「当たり前でしょう。誰があんたみたいな裏切り者…」
「あれ?ムラサいいの?この人がムラサの言ってた人の事じゃないの?」
「っ!?ぬ、ぬえ!?」
「…?失礼ですが貴女は?」
「私?私はぬえ、まあムラサの友達みたいなもん?ところで…あんたが寅丸星?」
「…?はあ…そうですが…」
「へー、ふーん、ほー…」
「あ、あの…何か?」
「いやいや別にー?なかなかの色男だなーと」
「なっ!?」
「…話がよく見えないのですが」
「いあね、よくムラサが地底にいたときにあんたのこと」
「わーーーっ!!!」
「あれれー、ムラサ顔赤いよー、どしたのー?」
「うっさいっ!つーか黙れぬえ!それ以上言うな!」
「…彼女に話したんですか?私の事を」
「そりゃーもう色々聞かされたってもんよ」
「…そう、ですか」
…いい話、ではないのでしょうね
「駄目ですよムラサ」
「ひ、聖…」
「星も私達にとって大切な家族ですよ?一人だけ追い出すなんて駄目です」
「で、ですが聖…こいつは…」
「?立派に寺に残って責任を果たしてくれたじゃないですか、何か問題が?」
「え、ええ!?」
…相変わらず、聖にはかないそうもない
「…いいんですよ、聖。どうあれ、私のした事は褒められた事ではありません」
「いけません」
「しかし…」
「では一輪、貴女の意見は?」
「へ?うーん、私は別に。雲山も問題ないって」
「ちょ、一輪!?」
「そりゃ昔の事はそうだけどさ、実際今回は星がいなきゃ駄目だったわけだし。まあそれに免じてってやつ?それに雲山も男一人は辛いってさ」
「ナズーリンはどう思います?」
「どうもこうもこの人は私のご主人だぞ?去れと言うなら私も共に去る」
「ね?」
「う…うー…あー、もう、わかったわよっ!認めればいいんでしょ!?認めれば!」
「ではこれで解決ですね。さあ、新しい寺を建てましょう!」
本当に…かないそうもないな、まったく…
「…いいのか、ご主人」
「ナズーリン。いいのか、とは?」
「聖のことだ…まだ、好きなんだろう?」
「ああ、そのことですか…いいんですよ、もう」
「ふむ?」
「確かに私は昔…いえ、今でも聖の事を…ですが、いいんです」
「どうしてだい?」
「一つはそうですね…この気持ちの正体がなんだか…わからなくなってしまいまして」
「わからない?」
「ええ。情けない話ですが今こうして考えてみると、本当にこれは恋慕だったのかな、と、そんなことを思ってしまいましてね」
「ただの憧れだった、と?」
「そのようなものです。子が母に向けるようなそんな、ね…」
「…一つ、と言ったな、もう一つは?」
「もう一つはそうですね…こうして皆に会えて…またもう一度皆で暮らしていける…そのことがたまらなく嬉しいんです」
「…ふむ」
「もし私が恋をしていたとしたら…本当はきっと寺の皆と一緒にすごす、そんな毎日を想っていたんじゃないか、今はそんな風に思うんですよ」
「…なるほどな」
「とはいえ自分でも本当の事はよくわからないんですがね、本当に恋だったのかもしれないし」
「まあゆっくり気持ちの在り処を探していけばいいさ…いつかきっと見つかると思うよ」
「何故そう思うんです?」
「ご主人の力は『財宝が集める程度の』じゃないか。その気持ちは間違いなく、掛け替えのない『財宝』だと、私は思うよ」
「…そうですね、ええ、大切な…何よりも大切な『宝』です」
「なら、きっと見つかるさ…いつか、ね」
「いつか、か…」
見つけたいと思う反面、このままずっと見えないままでいてほしい気持ちもありますね…不思議なものです…