[FREE HUGS という運動は本当にあるんですが、細かい事考えずに地霊殿組でハグすればいいよ!、って軽いノリです]
(お燐とお空)
まあ持ってくださいよ、とお燐に押しつけられた木で出来たプラカードには、インクで書かれたあまり幻想郷では見かけない英文字が並んでいた。
片面に、FREE HUGS、と大きく書かれたプラカードは薄いぺらぺらした木材で作られていて、落としたら割れそうなくらい頼りない。
「ふりー、はぐ?」
「抱きしめてもいいですよー、って意味らしいです」
「へぇ」
地底で見た覚えは無いので地上経由のものだろうが、どうにもさとりには作られた意図が読めない。
くるくると手の中で遊ばせたり、文字を指でなぞったりしてはみる。
「じゃあいいですか?」
そう言いながらすでに身を低くしながら、お燐は狩りをする姿勢と肉食獣の目つきで尻尾を振っていた。
「ちょっと待っ……」
言い終わる前にお燐の足が床を蹴って、タックルのように抱きつかれてさとりはよろめいた。
紅色の髪の毛を摺りつけるようにして、ぐるぐると器用にお燐は喉を鳴らす。
「あ、お燐ずるい!抜け駆けなしって言ったのに!」
ドアが叩きつけられるように開く音がした直後、お空が文字通り飛びついてきた。
勢いを殺していなかったので、お燐がぶつかって吹き飛ばされる。
大丈夫かと心配になってさとりが軌道を目で追うと、空中で猫の姿になって一回転して着地していた。
さとりが気を取られているうちに、今度はお空が痛いくらいの力でわざわざ膝立ちになって、ぎゅうと抱きしめてきてから慌てて離れた。
「さとり様、あの、大丈夫ですか……?」
日頃の無鉄砲をどこに忘れてきたのか、おどおどとした様子でお空が顔を見上げてきて、さとりは頷いて笑いかけた。
眉根を下げて笑い返してくるお空の両腕はすでにさとりの腰に回されていて、外される気配はしばらくなさそうだった。
「言ってくれたら、いつでも抱きしめるのに」
「そんなの、言えないです」
言えないんです、と顔を伏せて呟くお空の頭を撫でていると、後ろからお燐が猫の状態で頭に乗ってきて、彼女たちの重さよりも体温がずしりとのしかかる。
ああ、このプラカードはこんな為に作られたのかとさとりはようやく気がついた。
(勇儀)
「久しぶりだねェ、古明地の」
振り向いたさとりの手には FREE HUGS と書かれたプラカードがあった。
ああこれですか、と軽く持ち上げて文字の方を勇儀に向けてきた。
「お燐達がくれたんですよ、持っていると誰にでも抱きしめられるそうで」
「そりゃまぁ、なんというか……けったいな代物だねぇ」
「同感です」
「で、抱きしめていいのかい?」
「……ご自由にどうぞ」
「じゃあ遠慮なく」
持ちあげるようにして抱きしめた体は見た目以上に薄くて、骨と皮で出来ているんじゃないかと勇儀は不安になる。自然と腕に込めた力を緩めた。
「心配されなくともきちんと三食食べてますよ」
「酒はちゃんと飲んでるかい?」
「酒を栄養に数えないでください」
さとりの困ったように笑う顔が、ため息をつく時に似ていると気がついたのは最近だ。
そもそも最初からため息だったのかもしれない。単に勇儀が笑っていると思いこんでいただけで。
そう考えていたら頭の上で、はっきりとため息をつかれた。
「……これでも笑ってますよ、ちゃんと」
「そうなのかい」
「あなた、面倒見がいいというか変にお節介ですよね」
「鬼は気に入った輩にはやさしいのさ」
古明地さとりを欲しがることは、出会ってすぐにやめてしまった。
どんなに欲しがっても、さとりは彼女の妹やペット達に全部分けられてしまって、もう勇儀が手に取れる部分なんてどこにも残っていなかったからだ。
それでも忘れた頃に彼女はやってきて、勇儀の目の前をちらつく。その度に思い出す。
「私だって、どんなに欲しくても手が届かないものくらいあります」
笑いの形に細まったさとりの目には、溶かしようがない悲しみが浮かんでいる。
腕から力を抜いて、勇儀はさとりを地面にゆっくりとおろした。
「本当かい?」
「知ってますか、覚って嘘がつけないのですよ」
ではまた、と軽く頭を下げた後くるりと体を半回転させ、さとりは地霊殿に向かって歩いて行った。
例えばここで追いかけて、彼女の細い手を取って、逃げるように地底を連れだして、幻想郷の果てまでたどり着いたとしても、彼女は妹やペットが待っている、と言ってさらりと繋いでいた手を放すのだろう。
地面になんか下ろすんじゃなかった、と今頃勇儀は後悔した。
(こいし)
おねーちゃーん、と後ろから間延びした声が聞こえたと思ったら、背中に軽い衝撃がやってきた。
振り向けばさとりの予想通り、黒い帽子に巻かれた黄色のリボンがひらひらと揺れていた。
「珍しいね、地霊殿の外にいるの」
「私だって散歩くらいしますよ」
何日振りかに見るこいしは元気そうで、やっと思い出したようにただいま、と言ったので、お帰りなさいと返してさとりは帽子についていたごみを払ってやる。
なにこれ、と言ってプラカードを指差してこいしは首をかしげた。
「これを持ってる人を抱きしめていいそうです」
「ふーん」
「……こいしも抱きしめます?」
「私、そんなのなくったってお姉ちゃん抱きしめるから」
邪魔なだけだよー、と言ってさとりがずっと持っていたプラカードはこいしに取り上げられた。
あ、と呟いて視線で追ってから、さとりは伸ばしかけた手を下ろした。
「持ちましたね」
「持ったよ?」
不思議そうに首をかしげるこいしの手にあるプラカードを確認してから、さとりは一歩踏み出してこいしを両の腕で抱きしめた。
最後にこいしを抱きしめたのはいつか思い出せないくらい昔だったので、変にぎこちなくなってしまい体と体の間に妙な空間が出来た。
それでも手を放した途端消えられては困るので、さとりは腕をほどこうとはしない。
くすくすと体を揺らすように笑いながらもこいしは逃げないので、ひとまずさとりは安心して息をつく。
「こいし、今度は何をして遊んできたの」
「あててみて?」
「弾幕ごっこでしょ」
「さすがお姉ちゃん」
笑うたびに細くなるこいしの目は、心底楽しそうで僅かの不満も無いようだった。
さとりは違う。こいしを待つ度に、服をほつれさせて帰ってくる度に、触れたいと思った時に限っていない度に、ざわつくような不快感が溜まっていく。
不快感が溜まって不満になって、それを忘れた頃にこいしは帰ってくる。
「いい加減、姉としては落ち着いて欲しいのだけどね」
「私なんて外ふらふらしてるだけだし、いつかは帰ってくるから待っててよ」
「そう言っては、あなたすぐにどこか行っちゃうから私はいつだって不安なんです」
抱きしめた腕の中の体は小さくて、今にもするりと抜けだされそうだった。
今しかない。この体温も脈拍も今しかない。いつか、では当てにならない。
(お燐とお空)
まあ持ってくださいよ、とお燐に押しつけられた木で出来たプラカードには、インクで書かれたあまり幻想郷では見かけない英文字が並んでいた。
片面に、FREE HUGS、と大きく書かれたプラカードは薄いぺらぺらした木材で作られていて、落としたら割れそうなくらい頼りない。
「ふりー、はぐ?」
「抱きしめてもいいですよー、って意味らしいです」
「へぇ」
地底で見た覚えは無いので地上経由のものだろうが、どうにもさとりには作られた意図が読めない。
くるくると手の中で遊ばせたり、文字を指でなぞったりしてはみる。
「じゃあいいですか?」
そう言いながらすでに身を低くしながら、お燐は狩りをする姿勢と肉食獣の目つきで尻尾を振っていた。
「ちょっと待っ……」
言い終わる前にお燐の足が床を蹴って、タックルのように抱きつかれてさとりはよろめいた。
紅色の髪の毛を摺りつけるようにして、ぐるぐると器用にお燐は喉を鳴らす。
「あ、お燐ずるい!抜け駆けなしって言ったのに!」
ドアが叩きつけられるように開く音がした直後、お空が文字通り飛びついてきた。
勢いを殺していなかったので、お燐がぶつかって吹き飛ばされる。
大丈夫かと心配になってさとりが軌道を目で追うと、空中で猫の姿になって一回転して着地していた。
さとりが気を取られているうちに、今度はお空が痛いくらいの力でわざわざ膝立ちになって、ぎゅうと抱きしめてきてから慌てて離れた。
「さとり様、あの、大丈夫ですか……?」
日頃の無鉄砲をどこに忘れてきたのか、おどおどとした様子でお空が顔を見上げてきて、さとりは頷いて笑いかけた。
眉根を下げて笑い返してくるお空の両腕はすでにさとりの腰に回されていて、外される気配はしばらくなさそうだった。
「言ってくれたら、いつでも抱きしめるのに」
「そんなの、言えないです」
言えないんです、と顔を伏せて呟くお空の頭を撫でていると、後ろからお燐が猫の状態で頭に乗ってきて、彼女たちの重さよりも体温がずしりとのしかかる。
ああ、このプラカードはこんな為に作られたのかとさとりはようやく気がついた。
(勇儀)
「久しぶりだねェ、古明地の」
振り向いたさとりの手には FREE HUGS と書かれたプラカードがあった。
ああこれですか、と軽く持ち上げて文字の方を勇儀に向けてきた。
「お燐達がくれたんですよ、持っていると誰にでも抱きしめられるそうで」
「そりゃまぁ、なんというか……けったいな代物だねぇ」
「同感です」
「で、抱きしめていいのかい?」
「……ご自由にどうぞ」
「じゃあ遠慮なく」
持ちあげるようにして抱きしめた体は見た目以上に薄くて、骨と皮で出来ているんじゃないかと勇儀は不安になる。自然と腕に込めた力を緩めた。
「心配されなくともきちんと三食食べてますよ」
「酒はちゃんと飲んでるかい?」
「酒を栄養に数えないでください」
さとりの困ったように笑う顔が、ため息をつく時に似ていると気がついたのは最近だ。
そもそも最初からため息だったのかもしれない。単に勇儀が笑っていると思いこんでいただけで。
そう考えていたら頭の上で、はっきりとため息をつかれた。
「……これでも笑ってますよ、ちゃんと」
「そうなのかい」
「あなた、面倒見がいいというか変にお節介ですよね」
「鬼は気に入った輩にはやさしいのさ」
古明地さとりを欲しがることは、出会ってすぐにやめてしまった。
どんなに欲しがっても、さとりは彼女の妹やペット達に全部分けられてしまって、もう勇儀が手に取れる部分なんてどこにも残っていなかったからだ。
それでも忘れた頃に彼女はやってきて、勇儀の目の前をちらつく。その度に思い出す。
「私だって、どんなに欲しくても手が届かないものくらいあります」
笑いの形に細まったさとりの目には、溶かしようがない悲しみが浮かんでいる。
腕から力を抜いて、勇儀はさとりを地面にゆっくりとおろした。
「本当かい?」
「知ってますか、覚って嘘がつけないのですよ」
ではまた、と軽く頭を下げた後くるりと体を半回転させ、さとりは地霊殿に向かって歩いて行った。
例えばここで追いかけて、彼女の細い手を取って、逃げるように地底を連れだして、幻想郷の果てまでたどり着いたとしても、彼女は妹やペットが待っている、と言ってさらりと繋いでいた手を放すのだろう。
地面になんか下ろすんじゃなかった、と今頃勇儀は後悔した。
(こいし)
おねーちゃーん、と後ろから間延びした声が聞こえたと思ったら、背中に軽い衝撃がやってきた。
振り向けばさとりの予想通り、黒い帽子に巻かれた黄色のリボンがひらひらと揺れていた。
「珍しいね、地霊殿の外にいるの」
「私だって散歩くらいしますよ」
何日振りかに見るこいしは元気そうで、やっと思い出したようにただいま、と言ったので、お帰りなさいと返してさとりは帽子についていたごみを払ってやる。
なにこれ、と言ってプラカードを指差してこいしは首をかしげた。
「これを持ってる人を抱きしめていいそうです」
「ふーん」
「……こいしも抱きしめます?」
「私、そんなのなくったってお姉ちゃん抱きしめるから」
邪魔なだけだよー、と言ってさとりがずっと持っていたプラカードはこいしに取り上げられた。
あ、と呟いて視線で追ってから、さとりは伸ばしかけた手を下ろした。
「持ちましたね」
「持ったよ?」
不思議そうに首をかしげるこいしの手にあるプラカードを確認してから、さとりは一歩踏み出してこいしを両の腕で抱きしめた。
最後にこいしを抱きしめたのはいつか思い出せないくらい昔だったので、変にぎこちなくなってしまい体と体の間に妙な空間が出来た。
それでも手を放した途端消えられては困るので、さとりは腕をほどこうとはしない。
くすくすと体を揺らすように笑いながらもこいしは逃げないので、ひとまずさとりは安心して息をつく。
「こいし、今度は何をして遊んできたの」
「あててみて?」
「弾幕ごっこでしょ」
「さすがお姉ちゃん」
笑うたびに細くなるこいしの目は、心底楽しそうで僅かの不満も無いようだった。
さとりは違う。こいしを待つ度に、服をほつれさせて帰ってくる度に、触れたいと思った時に限っていない度に、ざわつくような不快感が溜まっていく。
不快感が溜まって不満になって、それを忘れた頃にこいしは帰ってくる。
「いい加減、姉としては落ち着いて欲しいのだけどね」
「私なんて外ふらふらしてるだけだし、いつかは帰ってくるから待っててよ」
「そう言っては、あなたすぐにどこか行っちゃうから私はいつだって不安なんです」
抱きしめた腕の中の体は小さくて、今にもするりと抜けだされそうだった。
今しかない。この体温も脈拍も今しかない。いつか、では当てにならない。
素晴らしい!素晴らしい!!
そして勇儀姐さん、格好いい…っ!
主とはいい酒が飲めそうだ…。
勇さともいいよね
素晴らしい!
ちなみに自分もフリーハグやったことありますよ、おっちゃん達酒臭いっス