「聞いてくれアリス。霊夢のところに温泉があって、魔法の森にないっていうのは、何か負けてる気がしてならないんだ」
うちに来るなり、魔理沙はそんな不可思議なことを言い出した。
「何よそれ。どういう勝負なのよ。っていうか、どうなったら負けるのよ」
「もちろん温泉がない時点で負けてるんだよ! もう私たちが逆転するには、温泉を掘り当てるしかないんだ。大体ね、そういう理屈っぽいところを直すべきだと魔理沙さんは提案してあげるんだぜ。何に負けてるとか考えた時点でおまえはもう負け犬なんだよ判るかアリス」
「全然」
「やっぱり負け犬だ」
魔理沙は紅茶を品も無くずず、と啜って(この子は緑茶とか麦茶とか、そういうしみったれたものしか飲みなれていないのだ)「だからさ」、と続けた。
「温泉は結果じゃないんだよ。私たちがまず頑張る。そして温泉がついてくるんだ」
魔理沙は唐突に因果を逆転させた。
「だからなんていうか、正直そこらへんの地面にマスパを打てば、温泉は湧いてくるとおもってる」
「どれだけアバウトなのよ!」
「という訳で温泉を掘り当てようと思う」
「勝手にどうぞ」
「いやいやいや。それはないと思わないかアリス? 私たちの仲じゃないのか?」
「人が昼寝している間に玄関ぶち壊す勢いでお菓子をたかりに来る仲のことを指しているの?」
「おまえ人じゃないだろう」
「論点はそこじゃないのよ!」
「そうチリチリするなよ」
「カリカリよ! 私は静電気か何かなの?!」
「じゃあビクビクするなよ」
「私は何に怯えてるのよ! ていうか適当にオノマトペを並べれば小粋なジョークになると思ってるでしょう!」
まったく、と呟いて、――ふと私は人形たちの並んだ棚に視線を投げた。
「そういえば」
「あ?」
「宝舟を追ってたときにいた鼠が、ダウジングなんてやってたわね」
「ああ、あれか。味なことをやってたな。じゃあアリス。おまえの器用さを生かしてダウジングのあれ作ってくれ」
「あんたどこまで自分勝手に私を巻き込むつもり」
私はそういいながらも、少し考える。
たとえばダウジングの機能が付いた人形なんてあったら、どうだろう。
失せ物探し物を勝手に探り当ててくれる上海人形。徳川の埋蔵金を勝手に掘り出してくれる蓬莱人形――うん、私の人形は犬か何かか。
「でも便利そうね」
「何か言ったか?」
「そうね、気が変わったわ。何か少し考えて見ましょう」
流石だな、頼って正解だ、なんて調子の良いことを言って大人しくソファに腰掛けていたのはものの数分だった。私が真剣に過去の文献やら魔導書やらを漁り始めた途端、怪訝そうに魔理沙が顔を覗かせた。
「なぁアリス、それはいつ頃出来上がりそうなんだ?」
「はぁ? そりゃ早くても一週間くらいは」
「何言ってるんだよアリス! 一週間あったら蝉が死んじまうよ。時は金なりだ、神綺に習わなかったのか?」
こいつはどこまで他人任せなんだ。
「あのね、私は軽食屋じゃなくて魔法使いなの。早い巧い安いを要求されても困るわよ」
「魔法使いだって巧くて早いほうがいいだろ。それに安さは要求してない」
「あら、高い報酬でもくれるの?」
「いや、無料でやってもらおうと思ってる」
神綺様、アリスは悪徳商法に引っ掛かりました。
「……魔理沙、魔理沙は一度ね、どこかの閻魔にでも裁いてもらった方がいいと思うの」
「出来る限り知り合いの人形遣いに頼りなさい。それがあなたにできる唯一の善行です」
「勝手に都合のいい閻魔の言葉を捏造するな――!」
ため息をつきながらソファに座り込んだ。
魔理沙ときたらいつだってこの調子だ。勝手に上がりこんで騒々しく議論をふっかけてきて、挙句の果てに自分で結論を出して即決で行動に移す。もちろんそのときは、私も巻き込んで。
そしてこれは非常に認めたくない、苦渋の結論な訳だが、私はなんだかんだで付き合ってしまっている。頭を抱えながら脳味噌を無駄遣いしながら時間をすり減らしながら、結局良い様に使われている。怨霊騒ぎで地底に行ったときなんか典型的なそれじゃないか。大事な大事な人形を断腸の思いで貸し出したというのに、どうだろうこいつは、あまつさえ、人形のお洋服をぼろぼろにして返しやがった。あの時の私の憤り様と言ったらなかったのだけど、握り拳をぐっと作って温かいお風呂を貸してやった私は馬鹿です。これが魔理沙商法か? 悪徳商法か? そうかそうか死にたい。
私はそんな、怨嗟の視線をこめて魔理沙を睨んだ。
う、と魔理沙の挙動が凍る。どうやら過去に引きずりまわされたあれこれの記憶は、ちゃんと視線エネルギー(?)となって魔理沙の鈍感な心にも届いたらしい。なんとなく居心地悪そうに頬をかく魔理沙に、私は言ってやった。
「あのね、ダウジングって長い棒があればできるんでしょう?」
「ああ、そりゃそうだが」
「じゃあ飛行用の箒を一本貸してあげる。もう一本は魔理沙の箒を使いなさい。それでできるはずよ」
「えー!?」魔理沙が唸る。もっと唸れ。「さっきの人形の話はどこに言ったんだよ!」
「今回の魔理沙の調査の結果をかんがえて後で作ります。それで私的に失せ物やら探し物やら徳川の埋蔵金やら掘り当てたり」
「それじゃあアリスが得してばっかじゃないか!」
「いつもは魔理沙が得してばっかりじゃない!」
「う、うう。わかったよ」
魔理沙はいかにも渋々といった様子で二本の箒を手に外へ出て行った。それで永遠にダウジングしていればいい。ついでに森で迷子になればもっといい。とりあえず困れ。
さて私は自分のお昼寝タイムに戻ろうか、と一息ついた、瞬間。
轟音。
家中に響き渡り、鼓膜をけたたましく蹂躙した。
「アリス! 温泉が出そうな勢いだぜ! 見ろって!」
こいつまじ呪われろ。
眠気を半分引きずったテンションのままで外に出て行き、大はしゃぎの魔理沙に向かって言う。
「魔理沙……あんたって私になにか怨みでもあるのかしら」
「あ? むしろアリスこそ私に怨み万点って顔じゃないか。どうしたんだ」
「怨むわよ! っていうか今のマスパの爆風で洗濯物が半分くらいなくなったじゃない!どうしてくれるのよ!」
「大丈夫だアリス。温泉に入るのに服は要らないと思うんだ」
「出て行くときに要るじゃない! あんた一生温泉に入ってる気か」
魔理沙から視線を話して、愛しの我が庭に空いた大穴を眺める。
「どうしてくれるのよ……トマトとか、キュウリとか、全部種ごとひっくり返されてるじゃないの……!」
「耕す必要が無くなってよかったじゃないか。おまえは体弱そうだし、耕すのも一苦労だろう?」
「耕すも何も、全部地下の大穴に落っこちちゃってるじゃないの! 肥料も、土も、野菜も!」
「家庭菜園とかばばくさいと思うんだぜ」
「趣味に口出ししないでくれる?!」
そんなことを言ったら魔理沙だってひどいものだ。
私は知っている。散らかりに散らかりまくった魔理沙の部屋の、うず高く積もった魔道書の地層を掘り返せば、レース付きのピンクのパジャマやら、うさぎのぬいぐるみやら、まあ一言で言えば普段の魔理沙のイメージがひっくり返りかねない物件が次々と出てくるのを。
それを魔理沙に言ったら、逆ギレされかねないから黙っているけど。
(家庭菜園がばばくさいは無いわ……あんたにトマトの色艶のなにが判るって言うのよ)
キャベツの素敵な香りとか。
いやまあそれはいい。大事なのはそれが失われたと言う事だ。この穴の奥に……。
燦々たる情景である。広くも無ければ狭くも無い、私ひとりの小さな箱庭は、今や将来有望な温泉スポットだ。大体、耕すとか肥料をやるとか、そういう力仕事は全部人形はやってくれたのだから私はなんにも苦労なんてしなかった。そも、苦労していたって誰が庭に大穴を開けてくれなんてこの馬鹿に頼む?
私がそんな怨み節を心の中で歌っていると、ぽん、と魔理沙が肩に手を置いてきた。
「心配するなアリス。これでもすごく頑張ってダウンジングしたんだ。きっと温泉は湧いてくる」
「慰めるポイントはそこじゃないでしょう! うちのまえに人間や妖怪たちが温泉を求めて長蛇の列を作っても何も嬉しくないわよ! 」
「ははは。七色の魔法使いが七色のお風呂屋さんになるんだな」
「成金っぽいことこの上ない!」
私たちがそんな事を喋っていると。
ふいに……穴の奥から、地鳴りが聞こえてきたのだ。
それは、何か硬いものと硬いものがぶつかりあって擦れるような凄まじい音で、しかもそれは徐々に近付いてくる。嫌な予感しかしない。考えればすぐ判る、もしこれがお湯の湧き出る音だとすれば、私や私の庭、ひいては私の家は一瞬で水浸しになってしまうということなのだから。
「おー。景気の良い音だな」
「暢気なこと言ってないで、避難しましょう!」
「え、なんで?」
「水浸しになりたいのねそうねご愁傷様さよなら」
一気に飛び上がった。せめて私は濡れないように。さよならマイホーム、まだローンが残ってるのに水害なんて災難でしかないわね。しょうがないわ後で魔理沙を殴り倒そう。
「なぁアリスー。お湯出ないぜー?」
魔理沙はまだ暢気に穴を覗き込んでいる。
「だって温泉が湧くならもっと湯気とかさー……」
えっ。
魔理沙が消えた。
話の途中で、ぷっつりと、いなくなった。
どこへ?
姿が隠せるような場所なんて、ただひとつを除いてある訳がない。あの子、穴に落ちるなんて馬鹿なことを。
「魔理、」
「数ヶ月、いや、数年振りの地上かもしれません。良い天気ですね?」
どうしよう、本気で逃げたい。
穴の中からせりあがってきたのは、地霊殿のあるじ、古明地さとりだった。
ゴゴゴゴ。そんな擬音が聞こえる。周囲に巻かれた水蒸気がドライアイスの様な効果をはたして、いかにもラスボス登場と言った雰囲気だった。――それにしてもこの威圧感と来たらどうしたことだろう。すごく、いや、むちゃくちゃ、目の前のさとり妖怪は怒っている。
(ひょっとして今のマスパが地霊殿を打ち抜いたんじゃ……)
魔理沙のダウジングは実にみごとなものだったらしい。
温泉だけじゃなくて、その下にある地霊殿まで見通すなんて。
「ご、ご機嫌、麗しゅう」
鷲みたいな三つの眼がこちらを睨んで離さないので、しどろもどろで話しかけてみた。目の前のさとり妖怪はどこまでも笑顔だった。そして眼が全然ちっともさっぱり笑っていなかった。全身余すところ無くずぶ濡れで、その上色々とぶつけてしまったのだろう、服はほつれ破れ、見える肌は痣だらけだった。
深呼吸して考える。魔理沙の撃ったマスパは私の庭を貫き、しかも不運なことに私の家の丁度地下に地霊殿が位置していた。マスパは地霊殿さえぶち抜き、恐らく地霊殿は崩壊、当然地霊殿に住むさとり妖怪はその被害を否応無く一身に受ける訳だ。
ここまで考えて、私は泣こうと思った。
「地霊殿は旧地獄の管理のために、是非曲直庁から受け渡された施設です。まさかそれを壊すだなんて」さとり妖怪の口上がヤクザじみてきた。「いい度胸をしていると言うか……とりあえず、普通はできないことです。ああ勘違いしないで下さい。褒めているんですよ?」
褒めてない。
絶対に褒めてない。
えらいことをやらかしてしまった。このさとり妖怪はいわば是非曲直庁の下請け公務員みたいなもので、それに手を出すという事は、間接的に是非曲直庁にケンカを売るということでもある。凄いな。閻魔さまにケンカ売っちゃったよ私。ああ、けれどこの妖怪は心が読めるはず。だとしたら全部魔理沙のせいで、私に非がないことくらい、百も承知でいてくれるはず!
「判っています、あなたが悪くない事くらい」
「ほっ」
「何、ご心配には及びません。地霊殿は由緒正しい堅固な建造物でありますから、多少の衝撃には強い訳です。貴女が考えている程の損傷ではなく、精々半壊と言ったところでしょう」
「そ、それは本当に良かった」
私の声はいつもより上擦っている。蛇に睨まれた蛙、袋の中の鼠。もう泣きたい。どうして私が怒られるムードなのだろうか。私だって被害者なのに。お庭が完全に崩壊してしまったのに。
「地霊殿とは、公的施設です。私有地ではないのですよね。是非曲直庁地獄支部、地霊殿。判りますか、私の言っている意味が。さて、アリスさんと仰いましたか。貴女がたはどのようにしてこの損害を賠償してくださるのでしょうか」
賠償問題になってきた。
「ええと……そこで伸びている黒白の魔法使いからお金を取ればいいんじゃないでしょうか」
私はそういいながら、さとり妖怪が現われた穴の中(そこに魔理沙がいるんだろう、たぶん)を指さす。
どうせ魔理沙はろくなお金の使い方なんてしてないだろうし、賠償能力はないと思うけど。
「ああなるほど、ろくなお金の使い方なんてしてないから、賠償能力はないのですか」
「心を読む能力って本当に厄介ね!」
でも私は魔理沙とは何のかかわりもないし!
普段から保護者めいたことをしてたけど、保護者なんかじゃ絶対にないし!
「なるほど。保護者なのですね」
「心を読む能力って本当に厄介よ! 大事なことだから二度言っちゃったじゃない!」
「よーいしょっと」
なんともわざとらしい口振りで、さとりの手によって魔理沙がごろりと掘り返された地面に投げ出される。がくがく震えて今にも泣き出さんばかりに眼を潤わせていた。あの怯え様、何かトラウマを掘り出されたに違いない。
「とりあえず彼女とは後でゆっくりと話をしますから、まずは貴女と今お話をしなければいけない」
さとりの視線は怖かった。泣いちゃうくらい怖かった。その瞳にはどす黒い汚泥がぐつぐつと煮込んで溶かしてあるかのような深遠ばかりが拡がっている。もはや人殺しのそれだった。このひと絶対公務員じゃないと確信した。こんな負の方向に眼力がある公務員なんていてたまるか。絶対ヤクザだよこれ。
「否定はしません」
「そこは否定してよ! お願いだから!」
「公務員の前はそういう道にいましたから」
「なにそれこわい! そんなエピソード聞かせないでよこわい!」
「誰からも好かれない恐怖の目の二つ名を舐めてはいけません。さとり妖怪が抱えてきた闇を軽く見てはいけません。アリス・マーガトロイド、貴女は貴女が脚を踏み入れたのがどんな場所か、もっと自覚すべきです」
「いきなりシリアスな方向に会話を持っていかれても困るわ!」
「とりあえず、この黒白は地霊殿の復建のための労働力として使わせていただきますが」
「報復のやりかたが生々しい! へんに合理的なところがまた怖い!」
「ところで貴女も、お友達と同じ所で働きたくはないですか?」
「絶対に嫌です」
ぶんぶんと首を横に振ってあとずさる。
すさまじく性質の悪い妖怪だった。心は読むわ言う事怖いわ権力をたてに取るわ、昔の黒いエピソードをチラつかせるわ、これなら嫌われてもしょうがない……っていうかああ、地の分で愚痴っても心を読まれて突っ込まれるんだ。地味に内心の自由がない。だとしたら私はこのストレスをどこでガス抜きすればいいの。
「そうですか。とても残念です」
だったらもっと残念そうな顔をしてください。なんで表情が全然変わらないのよ。
「生憎生まれ付いての顔ですので、いかんともしがたい」
「いやそういうことじゃなくて」
もう何を言っても無駄な気がしてきた。全部あの笑顔にかき消される。全部あの瞳に打ち消される。
「言葉で判って頂けないならしょうがない、実力行使で行きましょう」
ほら来た不穏な流れ! 最初から判ってたけど!
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。一歩一歩、あの真っ赤なスリッパが地面を擦れこちらへ近付いてくる。逃げようとするのに、足が動かない。あの瞳に見つめられている所為だ。なんの魔力がある訳でもトリックがある訳でもない。ただただ圧倒的な恐怖心を植えつけるあの視線が、私を掴んで離してくれない。
視線はずっと私に向いていた。猛禽のような眼光が脳髄まで染み渡る。ぞわぞわ、背筋を伝わる薄ら寒い不快感。ねめつけるような視線。ぐらぐら、思考を溶かすような深い悪寒。縛り付けるような視線。
――逃げられない。
「さぁ、貴女のトラウマを引き起こしてあげましょう」
「やめて! やめてください!」
「うわぁ……これなんて酷いですね。そこの黒白に家を占有されて入れなかった事件」
「いや! もう思い出したくないの!」
「そこの黒白に上海人形と蓬莱人形をレゲエ歌手風味にアレンジされた事件」
「だめ! パンチパーマの上海と蓬莱なんてもうまっぴらよ!」
「そこの黒白が勝手に幻想郷じゅうに宣伝して、カリスマ美容師だか料理人だかに仕立てられた事件」
「勝手にひとを凄腕パティシエにしないで!一秒間に百個のタルトが作れるとか嘘に決まってるじゃない!」
「……ほんとに貴女の人生って、そこの黒白に振り回されてばっかりですね」
「いや、もう本当に」
「じゃあそうですね、暫く、そこの黒白のことしか考えられないようにしてあげましょう!」
「?!」
勢い良く首根っこを掴まれ、そのままさとりの顔がぐいと近付く。顔と顔が数センチの距離である。え、ちょ、何、なんなのこの展開。
「何を期待しているのか知りませんがね。さぁ、私の眼をごらんなさい」
ねっとりとした空気がじわりじわりと肌を撫ぜた。
「想起『恐怖催眠術』。はて、何が恐怖で何が催眠術なのだと思いますか」
どろりどろりと言葉はめぐる。
「そう。貴女のトラウマは恐怖となり、それに囚われる催眠術を私がかける。おやすみなさい、トラウマの底で眠るがいいわ」
暗転。
◆
「アリス、おまえその首輪よく似合ってると思うんだぜ」
「いいからさっさと手を動かしなさいよ」
「だってしんどいんだぜ」
「そんなの私だってそうよ!」
「逃げよう、アリス」
「もう何回脱走に失敗してトラウマ想起されてると思ってるのよ!」
今日もさとり様(笑)を褒め称えながら、地霊殿に塗装を塗る作業がはじまった。
あのファンシー極まりない服飾センスをそのまま建築に応用したような、お菓子みたいな色彩の建物を私たちは作っていく。首輪と足枷。積み重なる疲労。私たちの将来は絶望的に真っ暗だ。
「……この懲罰っていつ終わるのかしら」
「さぁ」
「さぁじゃないわよせめて予想くらい言いなさいよー、あんたのせいでここに閉じ込められたんじゃない……」
ごしごしごし。
私は手を動かす。
指の先につながれた上海人形と蓬莱人形が作業を進める。あろうことか人形にまで足枷がはまっているから、もう作業しづらいことこの上ない。あの妖怪はまちがいなく脱走対策のやりかたを間違えている。
「だ、か、ら」と魔理沙が言った。「逃げるんだよ」
どうやって。
「発想の転換だよ、アリス。前は中途半端に壊したからさとりも怒鳴り込みにやってくる気力があったのさ。つまりね、生き埋めにしちゃえばいい」
ちょっと待ってほしい。さとり妖怪でもない私だけど、魔理沙が考えていることは手に取るように判った。そしてそれが至極成功率の低い、ハイリスクローリターンの作戦であるということも。
「さぁアリス、手ぇ貸して。というか魔力貸して」
「いや、待って魔理沙。考え直しましょう。私たちもっと話し合うべきよ。これからについて、魔理沙とたくさん話さなければいけないことがあるのよ、ねぇ魔理沙聞いて上海返して蓬莱も返してよねぇ待ってほんとやめてねぇったら」
「景気良く、マリス砲だぜ」
地霊殿が吹っ飛んだ。
そして私たちの未来もまた、無残に吹っ飛ぶフラグしかしなかった。
おわり
話を作るとはいえ、最初から最後までそれとは残念なものです。
しかし、そんな姿がよく似合う
床暖房とかに使ってたっけかな?
以前はちょくちょく創作話もあったっけなあ(懐かしい
いや、すごく面白かったです
最後までキャラがぶれないのは、単なる短編じゃなく
長編の番外、あるいは一部としての短編のように感じました
文章の端々からそういう書かれない長い部分を想像させられるって素敵です
で、なにが言いたいかって言うと、悪友腐れ縁魔理沙最高って話でしたw
原作で魔理沙がそうでなかったことなんてあったっけ?
一直線にダメコンビ街道を突っ走る二人が面白かったです。
さとり様と呼びたくなりました。
心が読める以上、アリスに責任は無くむしろ被害者なのは明白なのに、それでも賠償させようとするさとりにも笑えない。
無理矢理臭を隠せないギャグっていうのは、寒々しいというか痛々しいというか。
アリスが報われなさすぎだな
さとりは常識人なのにこんな対応しないだろう
まぁ、ギャグだな、うんそう考えれば耐えられる