この話は、作品集52、『巫女さんだって恋をする』からの続きとなっております。
宣伝ばかりで心苦しいのですが、そちらからお読み頂けると助かります。
「なぁ~霊夢~。ご飯にしようよ~?」
神社の縁側で、霊夢の膝に乗せられた私──伊吹萃香は顔を霊夢にいじられながらも抗議した。
もちろん顔を引っ張るなとか、そっちの方も抗議したのだが、心ここにあらずと言った感じの霊夢からは気の抜けた返事が返ってきただけで未だ改善されぬままだ。
「はぁ……。」
「霊夢ってばぁ~。」
先程からこうやって溜息ばかり……暫く会ってなかったけど、今日の霊夢が何時もと違うのは一目瞭然だ。
「えっ? あ、何? 萃香。」
「なに? じゃないよ、ご飯だって……。」
漸く声が届いたが、霊夢の顔は浮かないままだ。
「そう……やっぱり自分で作らなきゃいけないのよねぇ……」
はい?
流石に今のには驚いた。
確かに霊夢は面倒事を嫌うが、自己管理とかは割としっかり出来ていた筈だ。それがまたどうして──
私が地底に里帰りしている間に霊夢の身に何かあったに違いない。
考えても分かるはずもなかったが、しかしその答えは向こうからやってきてくれた。
「面倒なら私が作ってあげましょうか?」
唐突に現れた第三者の声に、私が顔をあげるより早く、霊夢が勢いよく立ち上がった。
「早苗!」
当然、彼女の膝に乗っていた私は振り落とされてそのまま地面とキスする羽目に──なるはずだったが、ギリギリで自分の能力で霧になり霧散したのち、霊夢の後ろで元の姿に戻ってみせた。
「ちょっと霊夢。危ないじゃないか。」
またまた抗議するも、後ろに立ったのが災いしたのか私の事なんてアウトオブ眼中のようだ。
……ひどい。
「そんなに驚く事ないじゃないですか。」
先程霊夢に早苗と呼ばれていた少女は不服そうに顔を膨らませながらそう言った。
確か、山の神に仕える巫女さんだったか。以前と霊夢と組んだ時に対峙したことがあったような。
「ごめんなさい……」
しおらしく謝る霊夢なんて始めてみた。
早苗とやらはそんな霊夢に満足したのが、朗らかに微笑んで見せた。
「冗談です。怒ってなんていませんよ。それじゃあ台所借りますね。」
勝手のしった我が家のように、彼女は縁側から居間に上がり込むと、霊夢の返事もまたずそのまま奥に進もうとする。
あれ? 私はスルー?
「待って!」
そう! 大事な役者がもう一人居るでしょう?
「食材……切らしてるのよ。だからせっかく何だけど──」
いやだから私は? ていうか食材無かったんかい!?
思わぬ展開に冷や汗をかくも、早苗(自己紹介もされてないけどこれでいいや)はそれさえもお見通しだと言わんばかりに手に持っていた買い物袋をおもむろに広げてみせた。
「そう思ってここに来る前に買っておきました!」
得意気な早苗に霊夢は目を丸くして驚いている。もちろん私だって驚いたが。
なんと用意の良いことだろうか。
「……悪いわね、何から何まで。」
「これくらいで驚かないでください。いずれは私が霊夢さんの為に毎朝味噌汁を作ってあげる事になるんですから……なんて私ったら、きゃっ♪」
何が、“きゃっ”だ何が。こいつほんまもんの乙女だわ……。
「なっ!? ちょっと早苗、何恥ずかしい事平然と言ってるのよ!」
あれれ? なんでむきになってるの……?
まさかの満更でもないご様子の霊夢。
これは……ひょっとして私おじゃま虫?
私が居るのを忘れてる奴と、恐らく気付いてない奴の両者は、私にお構いなく暫しの間見つめ合ったのだった。
「早苗…………。」
「霊夢さん…………。」
……どうでも良いからご飯作ってよ。
ちゃんと私の分も作って貰えるのか、一抹の不安を抱かずにいられない私だった。
とりあえず先程の不安は杞憂のものとなった。
が、目の前で繰り広げられるラブラブなやり取りに私は目のやり場を完全に奪われてしまった。
「はい、霊夢さん。あ~ん♪」
「ちょっ、止めなさいよ。子供が見てるじゃない……。」
誰が子供か、誰が。
「だって私、こうやって好きな人に手料理を食べてもらうのが昔からの憧れだったんです。」
「だっ、だったらそのすすす好きな人とやらに食べさささせてやればいいいいじゃない。」
声が上擦ってるよ、霊夢。
「もう、言わなくても分かってるくせに♪」
「なっ何のことかしら?」
終いには完全に裏返ってるし。
しかし霊夢がこうもウブな反応を示すとは意外だった。
ここに来て漸く私は先程の謎の答えを見出すに至った。
ようは早苗が訪れる前の生きた屍のようだった霊夢は所謂“恋煩い”とかいうやつだったのか。
それに二人の会話から察するに、早苗に至っては完全に“通い妻”でいるつもりのようだ。
もう好きにしなよ、とツッコミを諦めたその時。服を何者かに背中から引っ張られた。
(ああ、紫か。)
特段驚く程の事でもない。私の背後を取れる人妖など多くは無いのだから。
だからそのまま身を任せると、思った通りスキマへと引き込まれることに。
「やあ、紫。私に一体何ようだい……って何かあったのかい?」
つい問い直してしまう程に紫の様子は尋常では無かった。
顔を両手で覆い、女の子座りでメソメソと泣く紫……。正直ちょっと気色悪い。
「…………萃香も見たでしょう?」
ぼそりと、呪詛を吐くように紫の口から言葉が零れ落ちた。
見た、とは恐らく霊夢達の事だろう。
「私の……私から霊夢を奪うなんて……赦せない……! あのアマ……どうしてくれようか……!」
うわぁ……病んでるわ。ヤンデレだわ。
「でも霊夢に止められた……?」
でなければ早苗は今ああして霊夢といちゃついてなどいられないだろう。
しかし、どうやらそれが爆弾だったらしい。
「う……うわ~ん!!! 霊夢に最低って言われたぁ~ん!!!」
やっぱりか。そんな事だろうと思った。
しかし幻想郷の管理者がこれじゃあ私達の未来が危うい。
またとんでもない事を言い出す前に慰めてやる事にしよう。
「元気出しなよ……紫。あんたは霊夢にばかり気を取られて大切なものを見落としてるよ。」
紫の肩を抱いてやり、優しく声をかける。すると紫は、「それは何?」と言いながら涙で泣きはらした顔を上げた。
「それはあんたの目の前にあるさ。」
そう言って視線を前へと促す。するとそこには彼女の式たちが心配そうに紫の事を見つめていた。
「こーん……。」
「にゃーん……。」
──何故か揃って獣の姿だったが。
かわいさアピール?
「あ、貴女達……そうね、私が間違ってたわ! 私には貴女達がいるものね!」
そう言って二匹を抱き寄せる紫。抱かれた二匹も鳴き声と共に、ひしっと抱きついていた。
どうやら問題は解決したらしい。
やれやれ、世話の掛かる賢者様だこと。
「それじゃああたしは帰るよ。食事の途中だったもんでね。」
「悪かったわね。急に呼び出したりして……お陰で目が覚めたわ。」
先程までとはまるで別人の紫に、私は満足しながらもヒラヒラと手を振る程度で挨拶を済ませた。
もはや言葉など必要ない。
さて、またあのピンク色の世界に戻りますかね。
腹を括って、紫の手によって再び開かれたスキマを通って神社の居間へ──
「ほら早苗! お、お返しよ! 今度は私からあ、あ~んして上げるわ!」
「そっそんな恥ずかしい……ですよ。」
いやんいやんと体をくねらせる早苗に霊夢は箸を突きだしている。
──ていうかまだやってたんかい。
「あんたに拒否権は無いわ! そうよ! これは罰ゲームなのよ! 私を辱めた酬いを受けなさい!!」
熱くなり過ぎてるのか、多分霊夢は自分で何を言ってるのか分かって無い。
「ば、罰ゲームですか……? それじゃあ仕方ないですね。」
何が仕方ないものか、あんたやりたくて仕方なかったんだろ?
「い、いくわよ。早苗……!」
「は、はい! 霊夢さん!」
「「あ、あ~ん」」
……馬鹿らし。
とても耐えられなかった私は出たばかりスキマを再度くぐり直す事にした。
「ごめん、紫。暫く泊めて。」
遅くとも、あのバカップルの熱が冷めるまで帰れそうにない……。
しかもたった二連載でこの有様なのに、更に続く予定とは…
いいぞもっとやれ
意外と受けに弱い霊夢も可愛いし早苗さんも可愛過ぎる!!
守矢神社はそろそろ跡継ぎもできて安泰だろうから、もうわざわざ通わないで嫁にきちゃいなよ!
誤字報告です。
「あの尼」はカタカタでいいと思いますが、誤字なのあえてそうしてるのか微妙なところですが、わざとなのでしたらごめんなさい。
萃香のセリフ「……どうでも良いからこばん作ってよ。」ご飯ですね。
作者様はもっと調子にのるべきです。
もっと!もっと!!
確かに”バカップル「2人だけの世界」”は危険だ。
だが、今の紫は”結界「八雲一家」”を発動させている!
マヨヒガにもとてもじゃないが居られないと思うんだ。
・・・はっ、今度は八雲一家にあてられて、地底に逃げ込んで今度は勇ぱると遭遇とか、
萃香受難一人旅シリーズとかどうよ?
何が言いたいかというと、いいぞ、もっとやれ。
こ、殺される!作者様に砂糖にされてしまう!