正座を崩した膝の上には大体子供相応の重さをした、水色の頭が乗っている。
撫でるたびにさらさらとした彼女の髪の毛は、指の間を伝っては流れ落ちる。
つま先の感覚はもうよくわからなくなっていて、後ろ手で触ってみても触れている程度しかわからない。
(こんな姿だけれど、彼女は妖怪な訳です)
「こーがーさーさーん、起きてくださいー」
何を勘違いしたのか、うふふふと寝たままよだれでもたらしそうな顔で笑って、小傘はごろんと丸まるように寝がえりを打った。
こうして寝ていると、見かけばかりは人間の少女にしか思えないのだけど、今撫でている頭の固い骨の下に埋め込まれているものが自分と同じ保証はない。全部芯まで頭蓋骨だったら怖いなとは思った。
(こう見えて、私より何倍も何十倍も長生きをしてる訳です)
「……十数える間に起きないと退治しますよー」
人間に捨てられたから化け傘になったのと彼女は言うのだけれど、細かい事は話さない。その割には人間に殺したい程の敵意は持っていないようで、驚かせられればそれでいいらしい。
だからこそ、知り合ったばかりの巫女の膝で居眠りなんて出来るのである。きっと。
(私ときたら去年までは女子高生で、六年前はランドセルしょってて)
「いーち、にーい、さーん」
頭を撫でなくてもきっと小傘は起きない。手を止めないのは彼女がかわいいからではなく、単に手の置き場が他にないのと退屈だからだ。
それでも撫でるたびに彼女が幸せそうに笑うので、まあいいかとも思っている。
(昔から神奈子様や諏訪子様は見えていたから、将来は巫女になるとは思ってた訳です)
「しーい、ごーお、ろーく」
すうすうと小傘が息をするたびに背中が僅かに上下して、起きる気配はなさそうだった。
空の上で出会った彼女を思い出す。青空みたいな髪の色だなぁとあの時からずっと思っている。空の上なんて碌に人間は来ないだろうに、それでも彼女は待っていた。
(お二方と一緒に、神社を盛りたてて、信仰を増やして、考えていたのはそれくらいです)
「しーち、はーち、きゅーう」
あの神様たちが帰って来たらそれか誰か来てくれたら、今すぐにでも膝の上の頭なんて放り出して立ち上がれる。雨が降ってもいい。
そうしたら派手に声をあげながら立ちあがって、床に頭を打った彼女が、痛いーとぶつけてくる涙声の不平に知らん顔して洗濯物を取り込める。
(想像する訳ないでしょう、だってありえないもの)
「……きゅーう、はーち、しーち」
放りっぱなしの新聞に手を伸ばしても、あと少しの所で届かなかった。こんなに長くなるんだったら本でも用意すればよかったと今頃になって思った。
もうずっと撫で続けている髪はさらさらとしていて、小傘はたまにうなりのような寝言を漏らしながら眼を閉じている。
どんな夢を見ているのか口元は相変わらず緩んでいるので、足の痛みもどうでもよくなった。
(何年後かの自分が、傘のお化けに、真剣に愛だなんて考えちゃうとか)
「私、神様なんだけどなぁ」
呟いてみても、誰も聞いていなければ意味がない。
撫でるたびにさらさらとした彼女の髪の毛は、指の間を伝っては流れ落ちる。
つま先の感覚はもうよくわからなくなっていて、後ろ手で触ってみても触れている程度しかわからない。
(こんな姿だけれど、彼女は妖怪な訳です)
「こーがーさーさーん、起きてくださいー」
何を勘違いしたのか、うふふふと寝たままよだれでもたらしそうな顔で笑って、小傘はごろんと丸まるように寝がえりを打った。
こうして寝ていると、見かけばかりは人間の少女にしか思えないのだけど、今撫でている頭の固い骨の下に埋め込まれているものが自分と同じ保証はない。全部芯まで頭蓋骨だったら怖いなとは思った。
(こう見えて、私より何倍も何十倍も長生きをしてる訳です)
「……十数える間に起きないと退治しますよー」
人間に捨てられたから化け傘になったのと彼女は言うのだけれど、細かい事は話さない。その割には人間に殺したい程の敵意は持っていないようで、驚かせられればそれでいいらしい。
だからこそ、知り合ったばかりの巫女の膝で居眠りなんて出来るのである。きっと。
(私ときたら去年までは女子高生で、六年前はランドセルしょってて)
「いーち、にーい、さーん」
頭を撫でなくてもきっと小傘は起きない。手を止めないのは彼女がかわいいからではなく、単に手の置き場が他にないのと退屈だからだ。
それでも撫でるたびに彼女が幸せそうに笑うので、まあいいかとも思っている。
(昔から神奈子様や諏訪子様は見えていたから、将来は巫女になるとは思ってた訳です)
「しーい、ごーお、ろーく」
すうすうと小傘が息をするたびに背中が僅かに上下して、起きる気配はなさそうだった。
空の上で出会った彼女を思い出す。青空みたいな髪の色だなぁとあの時からずっと思っている。空の上なんて碌に人間は来ないだろうに、それでも彼女は待っていた。
(お二方と一緒に、神社を盛りたてて、信仰を増やして、考えていたのはそれくらいです)
「しーち、はーち、きゅーう」
あの神様たちが帰って来たらそれか誰か来てくれたら、今すぐにでも膝の上の頭なんて放り出して立ち上がれる。雨が降ってもいい。
そうしたら派手に声をあげながら立ちあがって、床に頭を打った彼女が、痛いーとぶつけてくる涙声の不平に知らん顔して洗濯物を取り込める。
(想像する訳ないでしょう、だってありえないもの)
「……きゅーう、はーち、しーち」
放りっぱなしの新聞に手を伸ばしても、あと少しの所で届かなかった。こんなに長くなるんだったら本でも用意すればよかったと今頃になって思った。
もうずっと撫で続けている髪はさらさらとしていて、小傘はたまにうなりのような寝言を漏らしながら眼を閉じている。
どんな夢を見ているのか口元は相変わらず緩んでいるので、足の痛みもどうでもよくなった。
(何年後かの自分が、傘のお化けに、真剣に愛だなんて考えちゃうとか)
「私、神様なんだけどなぁ」
呟いてみても、誰も聞いていなければ意味がない。
口を塞いで窒息させる(手は使いません)という意味だと捕らえました。
あまりに早苗さんが可愛すぎて卒倒した