「あ~忙しい、忙しい。」
私が紅魔館を忙しなく動き回ってる事など、何時もの事で。
今日も今日とてそうやって一日を過ごしている。
否、そうでもしてないと心の平穏を保てそうも無いのだ。
「メイド長……今日は働かなくても良いとお嬢様に言われてませんでした……?」
妖精メイドの一人が気遣って声を掛けてくれる。
そう、本来なら働かなくてもいいのだが……先程も言ったとおり、動かずには居られなかった。
「良いのよ……こうして無いと落ち着かないの。」
正直に言うと、その妖精メイドは呆れたように溜息を付いた。
彼女は私より年配のメイドで、言わば古株だ。
他の妖精とは落ち着きが違う。
「明日は特別な日だって言うのに…………程ほどにして下さいね?」
そう言って仕事に戻っていく彼女を見送って、そっと溜息。
(──ホント、なにやってるんだか。)
そういえば、彼女はどうしているだろうか?
ふとそんなことを思い、廊下の窓から外を覗く。
彼女は何時もどおり、門番の仕事をしていると言っていたから。
(あら……なんの騒ぎかしら?)
門の周りに、人だかりが出来ていた。
気になったのでそばに降りてみると、彼女──紅美鈴が、何かを門番隊の妖精たちに見せびらかしているようだった。
「可愛いぃ~!」
「うそ、信じられな~い!」
「ああ……こんな頃もあったねぇ……」
輪の外からでは、その“何か”までは確認できない為、妖精たちの声に耳を傾けてみることにしたが、反応がまちまちで皆目つかめない。
こうなったらと、手を数回叩き注目を集める事に。
妖精メイドたちの指揮を執る際によく使う手だ。
「こら、貴女たち。仕事中でしょ? 一体何を騒いでるの?」
ついつい口調がお説教ぽくなるのは何時もの事。
こんなことを言うまでも無く、私を認識した瞬間から門番隊の妖精たちは綺麗に整列しているのだが。
そう、彼女達は妖精の中でも規律を重んじるというとても稀な存在なのだ。
そんな彼女達を誑かすのは、美鈴と相場が決まっている。
──本来は、束ねる立場だというのに……。
「ああ、咲夜さん! 良いところに! 実はですね、咲夜さんとの思い出のアルバムを皆で見ていた──」
言葉は全部言わせなかった。
そんな恥ずかし……否、危険な代物を彼女の手に委ねておける筈が無い。
「──ああ! 私のアルバム! ズルイですよ咲夜さん! 時間を止めましたね!?」
盗られた事に気付き、抗議する美鈴。
もちろん聞く耳なんて持ってやらない。
「こんなもの持ち出す方が悪いのよ!」
「それは布教用です! 持ち出さないと役目を果たせません!」
「ふ、布教用!? 一体何を広めようって言うのよ!?」
まさか他にもあるというのか……思わぬ反撃に頭が痛くなってきた。
だが美鈴は追撃の手を休めてくれたりはしなかった。
「もちろん、私の咲夜さんの可愛さを皆に知ってもらおうと──」
「なっ……!?」
わ、わたしのさくや!?
「か……」
「か……?」
「母さんのバカぁぁぁあああ!!」
羞恥心がピークに達し、私はその場から走って逃げてしまった。
「良かったんですか? メイド長を怒らせて……明日はお二人の大事な日だって言うのに……。」
「大丈夫ですよ、私と咲夜の絆はそんな軟なものじゃありませんから。」
後ろで何やら会話があったが、走り去る私には聞こえなかった。
──その夜。
「咲夜……まだ拗ねてるんですか?」
中々機嫌を治してくれない娘に、私は手を焼いていた。
おかしいですね……こんなに駄々を捏ねるような子じゃないんですが……。
きっと、明日の事が不安なんでしょう。それも手伝ってちょっと素直になれないだけなんです。
「聞いてないわ……あんなアルバムがあったなんて。」
漸く口を開いてくれました。
安堵すると同時に、手にあった例のアルバムをとって見せてあげます。
「咲夜だって写真を撮られた覚えはあるでしょう? アルバムがあるとは思わなかったんですか?」
「それは……そうだけど。一度も見せて貰った事ないし……。」
それもそうです。だってこれは私の為の物ですから。
でも、急に見て貰いたくなりました。
貴女にも……。
「お嬢様から貴女を引き取った時から、集めてるんですよ。ほら、これがその時の写真です。」
まだ赤子の咲夜をお嬢様と私とで一緒に抱いている写真……そしてアルバムの空きスペースには『咲夜との出会い』とタイトルも添えてあります。
カメラがあったのは偶然でした。けど思い出が形として残せるなんて、本当に素敵な事だと思います。
私は咲夜と同じベッドに腰掛けて、彼女にも見えるようにアルバムを開きながら懐かしむように1ページ、1ページ、丁寧に捲っていきます。
咲夜も、気になり始めたよう。時たま覗き込んでは、薄く笑みを浮かべています。
──どうやら、機嫌を治してくれたようですね。
「母さん? 撮られた覚えの無いものまであるんだけど!?」
「それはもちろん。こっそり撮りましたから。」
「もう、なんでそんな盗撮まがいな事?」
まがいというか、まんま盗撮ですが。隠し撮り、とも言いますか。
でもそれにだって、それなりの理由があるんです。
「いろんな咲夜を残しておきたくて……カメラに向かって笑顔を作っている貴女も、こうして自然体でいる貴女も全部が咲夜ですから。」
「…………そう。」
彼女は怒るそぶりも見せず、ただ静かに目を伏せました。
ふいに見せたその切なげな表情も、私は残しておきたくなりました。
カシャ
このカメラは、その場で現像してくれるタイプで、私は撮った写真をすぐにアルバムに貼ると早速タイトルを。
えっと『切なげな咲夜』っと。相変わらず安直なネーミングですね。
「また一枚、貴女が増えました。」
「もう……。」
咲夜はあきらめたように呟きました。
貴女の全てが、どうしようもなく愛おしいのだから仕方がありません。
──きっと言わずとも理解してくれたのでしょう。私の真意を。このアルバムの意味を。
「明日はまた、写真が増えるわね。」
──だからこんなにも素敵な笑顔を貴女は向けてくれているのでしょう。
「そうですね……でもその前にもう一枚、良いですか?」
──これは、未来の私が貴女に会うためのタイムカプセル。
「ふふふっ。仕方ないわね、母さんは。」
──私(妖怪)より先に逝ってしまう貴女(人間)だから。
「咲夜、もっとこっちによって。ほら撮りますよ?」
──貴女と離れてからも、ずっと近くに感じられるように。
「ちょっ、母さん! どこ触ってっ!?」
カシャ
二人で肩を並べて撮った写真には、咲夜の慌てふためいた姿がばっちり写されていました。
そして隣に写る私は誰よりも幸せそうな顔をしています。
当然です。だって私は、こんな素敵な娘に愛される世界一の幸せ者なんですから。
「タイトルはどうするの……?」
アルバムに写真を張り、マジックペンを手に取った私へと咲夜がそう問いかけてきました。
「もちろん。“結婚前夜”です。」
──願わくば、この幸せな時間が一瞬でも永く続きますように……
私が紅魔館を忙しなく動き回ってる事など、何時もの事で。
今日も今日とてそうやって一日を過ごしている。
否、そうでもしてないと心の平穏を保てそうも無いのだ。
「メイド長……今日は働かなくても良いとお嬢様に言われてませんでした……?」
妖精メイドの一人が気遣って声を掛けてくれる。
そう、本来なら働かなくてもいいのだが……先程も言ったとおり、動かずには居られなかった。
「良いのよ……こうして無いと落ち着かないの。」
正直に言うと、その妖精メイドは呆れたように溜息を付いた。
彼女は私より年配のメイドで、言わば古株だ。
他の妖精とは落ち着きが違う。
「明日は特別な日だって言うのに…………程ほどにして下さいね?」
そう言って仕事に戻っていく彼女を見送って、そっと溜息。
(──ホント、なにやってるんだか。)
そういえば、彼女はどうしているだろうか?
ふとそんなことを思い、廊下の窓から外を覗く。
彼女は何時もどおり、門番の仕事をしていると言っていたから。
(あら……なんの騒ぎかしら?)
門の周りに、人だかりが出来ていた。
気になったのでそばに降りてみると、彼女──紅美鈴が、何かを門番隊の妖精たちに見せびらかしているようだった。
「可愛いぃ~!」
「うそ、信じられな~い!」
「ああ……こんな頃もあったねぇ……」
輪の外からでは、その“何か”までは確認できない為、妖精たちの声に耳を傾けてみることにしたが、反応がまちまちで皆目つかめない。
こうなったらと、手を数回叩き注目を集める事に。
妖精メイドたちの指揮を執る際によく使う手だ。
「こら、貴女たち。仕事中でしょ? 一体何を騒いでるの?」
ついつい口調がお説教ぽくなるのは何時もの事。
こんなことを言うまでも無く、私を認識した瞬間から門番隊の妖精たちは綺麗に整列しているのだが。
そう、彼女達は妖精の中でも規律を重んじるというとても稀な存在なのだ。
そんな彼女達を誑かすのは、美鈴と相場が決まっている。
──本来は、束ねる立場だというのに……。
「ああ、咲夜さん! 良いところに! 実はですね、咲夜さんとの思い出のアルバムを皆で見ていた──」
言葉は全部言わせなかった。
そんな恥ずかし……否、危険な代物を彼女の手に委ねておける筈が無い。
「──ああ! 私のアルバム! ズルイですよ咲夜さん! 時間を止めましたね!?」
盗られた事に気付き、抗議する美鈴。
もちろん聞く耳なんて持ってやらない。
「こんなもの持ち出す方が悪いのよ!」
「それは布教用です! 持ち出さないと役目を果たせません!」
「ふ、布教用!? 一体何を広めようって言うのよ!?」
まさか他にもあるというのか……思わぬ反撃に頭が痛くなってきた。
だが美鈴は追撃の手を休めてくれたりはしなかった。
「もちろん、私の咲夜さんの可愛さを皆に知ってもらおうと──」
「なっ……!?」
わ、わたしのさくや!?
「か……」
「か……?」
「母さんのバカぁぁぁあああ!!」
羞恥心がピークに達し、私はその場から走って逃げてしまった。
「良かったんですか? メイド長を怒らせて……明日はお二人の大事な日だって言うのに……。」
「大丈夫ですよ、私と咲夜の絆はそんな軟なものじゃありませんから。」
後ろで何やら会話があったが、走り去る私には聞こえなかった。
──その夜。
「咲夜……まだ拗ねてるんですか?」
中々機嫌を治してくれない娘に、私は手を焼いていた。
おかしいですね……こんなに駄々を捏ねるような子じゃないんですが……。
きっと、明日の事が不安なんでしょう。それも手伝ってちょっと素直になれないだけなんです。
「聞いてないわ……あんなアルバムがあったなんて。」
漸く口を開いてくれました。
安堵すると同時に、手にあった例のアルバムをとって見せてあげます。
「咲夜だって写真を撮られた覚えはあるでしょう? アルバムがあるとは思わなかったんですか?」
「それは……そうだけど。一度も見せて貰った事ないし……。」
それもそうです。だってこれは私の為の物ですから。
でも、急に見て貰いたくなりました。
貴女にも……。
「お嬢様から貴女を引き取った時から、集めてるんですよ。ほら、これがその時の写真です。」
まだ赤子の咲夜をお嬢様と私とで一緒に抱いている写真……そしてアルバムの空きスペースには『咲夜との出会い』とタイトルも添えてあります。
カメラがあったのは偶然でした。けど思い出が形として残せるなんて、本当に素敵な事だと思います。
私は咲夜と同じベッドに腰掛けて、彼女にも見えるようにアルバムを開きながら懐かしむように1ページ、1ページ、丁寧に捲っていきます。
咲夜も、気になり始めたよう。時たま覗き込んでは、薄く笑みを浮かべています。
──どうやら、機嫌を治してくれたようですね。
「母さん? 撮られた覚えの無いものまであるんだけど!?」
「それはもちろん。こっそり撮りましたから。」
「もう、なんでそんな盗撮まがいな事?」
まがいというか、まんま盗撮ですが。隠し撮り、とも言いますか。
でもそれにだって、それなりの理由があるんです。
「いろんな咲夜を残しておきたくて……カメラに向かって笑顔を作っている貴女も、こうして自然体でいる貴女も全部が咲夜ですから。」
「…………そう。」
彼女は怒るそぶりも見せず、ただ静かに目を伏せました。
ふいに見せたその切なげな表情も、私は残しておきたくなりました。
カシャ
このカメラは、その場で現像してくれるタイプで、私は撮った写真をすぐにアルバムに貼ると早速タイトルを。
えっと『切なげな咲夜』っと。相変わらず安直なネーミングですね。
「また一枚、貴女が増えました。」
「もう……。」
咲夜はあきらめたように呟きました。
貴女の全てが、どうしようもなく愛おしいのだから仕方がありません。
──きっと言わずとも理解してくれたのでしょう。私の真意を。このアルバムの意味を。
「明日はまた、写真が増えるわね。」
──だからこんなにも素敵な笑顔を貴女は向けてくれているのでしょう。
「そうですね……でもその前にもう一枚、良いですか?」
──これは、未来の私が貴女に会うためのタイムカプセル。
「ふふふっ。仕方ないわね、母さんは。」
──私(妖怪)より先に逝ってしまう貴女(人間)だから。
「咲夜、もっとこっちによって。ほら撮りますよ?」
──貴女と離れてからも、ずっと近くに感じられるように。
「ちょっ、母さん! どこ触ってっ!?」
カシャ
二人で肩を並べて撮った写真には、咲夜の慌てふためいた姿がばっちり写されていました。
そして隣に写る私は誰よりも幸せそうな顔をしています。
当然です。だって私は、こんな素敵な娘に愛される世界一の幸せ者なんですから。
「タイトルはどうするの……?」
アルバムに写真を張り、マジックペンを手に取った私へと咲夜がそう問いかけてきました。
「もちろん。“結婚前夜”です。」
──願わくば、この幸せな時間が一瞬でも永く続きますように……
てっきり会った記念日かなんかかと思いましたよw
ということは次は結婚当日、そして結婚しょ(スカルプチュア
しかしそれがいい(`・ω・´)
所で、結婚式の招待状が未だに来ないのですが…。何故だ!