カチカチと、時計の音がする。
規則正しく鳴るそれは寝ている私の頭にじんわりと染み込んで。
ぼうとした頭に響く音は、その上に綺麗な声が被さることで聞こえなくなった。
「美鈴、起きなさい」
「んんぅ……」
寝起きの頭を働かせながら声にならない返事をする。
頭の上から降ってくる声に立ち上がらなくては怒られる、と体が警鐘を鳴らすけれど、
温かく包み込んでくれている布団がその警鐘の音を遠くした。
だって、ここは門の前じゃなくて、私の部屋なのだから、その心配はないのだ。
いつもはじりりと鳴る目覚ましを急いでぱちんと止めて、それから朝の支度を始めている。
だったら起きなくてもいつもの朝が来るはずなのだ。これだって夢かもしれない。
「もう、起きなさいってば」
「んぐぐ……あと、さんじゅっぷん……」
素直な願望を口にする。
すぅ、と息を吸うような音。
寝起きの頭はひどく不明瞭なくせに妙に冴えていて、その音が怒られる合図なんだと分かった。
思わず体が布団を引っ張って、ぐるぐる丸まる。
「――――」
それに呆れたのか、毒気を抜かれたのか。
吸ったより多いだろう息を吐いて、声の主は言った。
「そう、そんなに寝たいなら寝てればいいわ」
その声は、ちょっぴり不機嫌そうだった。
何かを弄るような気配がして、それに顔だけ動かして、開かない瞼を押し上げる努力をしてみる。
「じゃあ、また後でね――おやすみ」
覚醒しない頭で見た咲夜さんは、まるで悪戯っ子のようで。
そんな完全で瀟洒な彼女が見せたことのない表情に、やっぱり、夢を見ているのだと思った。
目覚まし時計は、鳴る気配を見せない。
なら、まだ寝ててもいいはずだと再び瞼を閉じた――
◆
「遅刻だあっ!?」
じりりと鳴る目覚まし。時計はいつもの三十分後を指していた。
うわ、うわあ。なんでこんなことに。運命ってば酷すぎる。
朝の支度はもう大慌てで、目覚ましを恨む暇も考える余裕もなく、
とにかくやるべきことだけを済ませた。
咲夜さん、怒ってるだろうなあ。
目覚まし時計がサボタージュしてたんですなんて言ったら、
閻魔様より酷い判決を下すだろうことは間違いない。
そして慌てふためくを見て、お嬢様が笑ってるんだろう。
ううん、我ながら未来予知じみてるんじゃないかなこの想像。
一刻でも早く行って情状酌量の余地を作ってもらわなければ。
やだやだ、と漏らした声は不思議と軽いものだった。
◆
結論。
お咎め無し。
「はい?」
「何よ。怒られたかったの?」
「そんなことは、ないですが」
なければないで落ち着かないもので。
これって躾られてるのかな。実に悲しい。
「まあ、気まぐれよ。鞭も使いこなせるようになろうかと思って」
「甘い方が好きなのですが」
「冬に甘そうなものは難しいわね」
「私のご飯に何を入れようとしているんですか」
また変なものを入れられたらたまらないのだけれど。
お嬢様の紅茶ほどではないにしろ、咲夜さんの実験には私も被害に遭っているのだった。
……いや、実験というか気まぐれというか。とにかく、恐ろしいことに変わりはない。
毒のあるものも混じってるからなあ。むしろそれがメインだという勢いで。
そして、それを素でやってのけるから一層恐ろしい。
悪意のない行動ほど、怖いものはないのだ。
「そうね。おやつに何か入れてみましょう」
「ああ、楽しいおやつタイムが……」
もしかしてこれが遅れた罰なんじゃないか。鞭じゃなくて、時間差攻撃。
いや、咲夜さんのことだからそんな遠回しなことはしないだろうけど。
私ががっくりと肩を落とすと、大袈裟ねぇ、と咲夜さんが呆れたようにつぶやいた。
「ほら、そんなことより早く仕事してきなさい」
「そんなことって……まあ、いいですけどね」
いってきます、と私。
いってらっしゃい、と咲夜さん。
一瞬の沈黙。カチカチ、と懐中時計の音が聞こえて、なんとなく咲夜さんに話し掛けてみた。
「そうだ。今日、咲夜さんが出てくる夢を見たんですよ」
「ふうん? どんな夢?」
「咲夜さんに起こされる夢でした。まあ、起きれなかったんですけどね」
きょとん、とちょっぴり驚いたような顔をする咲夜さん。
……するよねぇ。咲夜さんに起こされて起きない夢なんて、私の願望駄々漏れだし。
「それは、面白いわね」
「そうですか?」
「これからは毎朝、私が起こしに行ってあげましょうか?」
なんだかちょっと邪悪な笑み。
うう、嬉しいけど、少し怖い。
丁重にお断りしたいけれど、それはなんか無限ループに陥る気がした。
いいえと言えば、そんなひどい。これからは毎朝私が、って返されそう。
「じゃあ、咲夜さんが暇な時ならお願いします」
「そう。じゃあ明日の朝を楽しみにしてなさいね」
…………恐ろしいよう。
ちょっと機嫌よさそうなとこがさらに恐ろしいよう。
「で、あなたはいつまで私と雑談してるのかしら」
三十分の遅刻が四十五分になるわよ、と言われて慌てて踵を返す。
いってきます、と私。
いってらっしゃい、と咲夜さん。
うん。今日の仕事もがんばろう。
◆
有言不実行って素晴らしいなあ。
いつの間にやら、ぐうすかぴと寝ていた私。
カチカチ。そんな懐中時計の音に目を開けば私を見下ろす咲夜さん。
寝転がったままぼんやりと思考を巡らせてみる。
結論。とっても絶体絶命。一秒後には命がないぞと体が警鐘を鳴らしている。
逆光で顔が見えないの怖い。でも、たぶん、見えた方がもっと怖い。
「起きた?」
「お、起きました」
とりあえず寝たままなのはマズイ。一瞬で正座してその顔を見上げようとした。
すると逆行に照らされていた顔が見えなくなって、後ろに控えていた太陽を直視。
目が眩んでふぎゃあと悲鳴が出そうになるけれど、なんとか堪える。
「そう。おやつ、食べる?」
「な――んと?」
何をするんですか、と言おうとすれば目の前には笑顔の咲夜さんが座っていて、思わず首を傾げる。
もう一度見上げた太陽は下り坂に入っていた。お昼の時間、逃しちゃったか。
「食べます」
「即答は嬉しいけど。その前に、よだれを拭きなさい」
言われて、慌てながら口をごしごしと拭った。
ふふ、なんて楽しそうに笑う咲夜さん。……まあ、笑ってくれる分にはいいけれど。
「はい。今日はケーキよ」
「ありがとうございます。いただきます」
「こら、あんまりがっつかないの」
私としてはあまりがっついているつもりはないのだけれど。
お昼を食べていないから、お腹の中が空っぽなのだ。
寝てたせいだろうっていうのは禁句。よくあることだし。
それに、何より――
「ねぇ、おいしい?」
唐突にそんなことを聞いてくる咲夜さん。らしくないな、と思った。
ショートケーキのような、しかしクリームが個性的な色をしたケーキ。
このケーキの名前は寡聞にして知らないのだけれど、
これをまずいだなんて言えるはずがなかった。
だって、何より、咲夜さんの作ってくれたものはなんでもおいしいのだ。
「おいしいですよ。すごく。……なんだか、色と同じく味も個性的ですけどね」
「そう。じゃあ、あの花は正解だったのかしら」
「ぶふっ!?」
うわあ、さっきまでの雰囲気台なしだなあ。思わず吹き出しちゃった。
そういえば朝にもそんなこと言ってたけれど。油断大敵というかなんというか。
咲夜さんは笑いが堪え切れないといったようにくつくつと喉を鳴らしていた。
ちょっと酷いのではないか。それは。
「ごめんごめん。ほら、口に付いてるわよ」
「むぐ。咲夜さんのせいじゃないですか」
どこからか取り出されたハンカチに口を拭かれながら反論してみる。
ちなみにケーキは綺麗な紅色。もしかしたらここの花壇から持って行かれた物かもしれない。
……後で確認しようかなあ。どの花を食べさせられたか認識するの怖いなあ。
それでもケーキは食べるけど。おいしいのだからしょうがない。
微妙にクセになる味なんだよなあ、これ。
「今度、お嬢様の紅茶にも入れてみようかしら」
「……まあ、いいんじゃないですか」
私に被害が及ばなければ。たまに八つ当たりされちゃうのは怖い。
決して饅頭怖い的な意味ではなく。ああ、でも今はお茶が怖い。
「はい。あなた用の紅茶」
「あ、ありがとうございます」
やっぱり咲夜さんは気が利くなあ。惜しいのはこの紅茶も花入りだろうことだ。
啜ってみると、ケーキと似た風味が口に広がる。同じ素材だけあって、よく合うなあ。
「目は覚めたかしら?」
「んんー……食べたらまた眠くなっちゃいましたね」
「…………」
じとりと呆れたような目で睨まれる。
しょうがないんですよう。自然の摂理なんですよう。
なんて。言えば確実に怒られるだろうし、言えないけど。
「はあ。あなたは、私が起こさないと駄目なの?」
「いやー、そんなことない、と思いたいんですけどね」
私は、咲夜さんがいないと駄目なのかなあ。
渋い顔をますます渋くする咲夜さん。そんな顔されても。
「……本当に毎日起こしに行くようじゃない」
「えへ。お願いします」
まったく、とそれほど呆れてなさそうな声。
例えるなら子供の些細な悪戯を笑顔で許す親のよう。
「それでも、部屋の目覚ましくらいはセットし直しておきなさいよ」
「うん?」
何で、咲夜さんがそれを。
私が口に出す前に咲夜さんは消えていて。
カチカチという懐中時計の音が、なんとなく頭の中に響いていた。
「目、覚めちゃったなあ……」
これじゃあ咲夜さんの方がよっぽど目覚ましみたいだ。
私専用の、目覚ましさん。
悪戯っ子はそっちの方じゃないか、とさっき思ったことに訂正を加えてみた。
規則正しく鳴るそれは寝ている私の頭にじんわりと染み込んで。
ぼうとした頭に響く音は、その上に綺麗な声が被さることで聞こえなくなった。
「美鈴、起きなさい」
「んんぅ……」
寝起きの頭を働かせながら声にならない返事をする。
頭の上から降ってくる声に立ち上がらなくては怒られる、と体が警鐘を鳴らすけれど、
温かく包み込んでくれている布団がその警鐘の音を遠くした。
だって、ここは門の前じゃなくて、私の部屋なのだから、その心配はないのだ。
いつもはじりりと鳴る目覚ましを急いでぱちんと止めて、それから朝の支度を始めている。
だったら起きなくてもいつもの朝が来るはずなのだ。これだって夢かもしれない。
「もう、起きなさいってば」
「んぐぐ……あと、さんじゅっぷん……」
素直な願望を口にする。
すぅ、と息を吸うような音。
寝起きの頭はひどく不明瞭なくせに妙に冴えていて、その音が怒られる合図なんだと分かった。
思わず体が布団を引っ張って、ぐるぐる丸まる。
「――――」
それに呆れたのか、毒気を抜かれたのか。
吸ったより多いだろう息を吐いて、声の主は言った。
「そう、そんなに寝たいなら寝てればいいわ」
その声は、ちょっぴり不機嫌そうだった。
何かを弄るような気配がして、それに顔だけ動かして、開かない瞼を押し上げる努力をしてみる。
「じゃあ、また後でね――おやすみ」
覚醒しない頭で見た咲夜さんは、まるで悪戯っ子のようで。
そんな完全で瀟洒な彼女が見せたことのない表情に、やっぱり、夢を見ているのだと思った。
目覚まし時計は、鳴る気配を見せない。
なら、まだ寝ててもいいはずだと再び瞼を閉じた――
◆
「遅刻だあっ!?」
じりりと鳴る目覚まし。時計はいつもの三十分後を指していた。
うわ、うわあ。なんでこんなことに。運命ってば酷すぎる。
朝の支度はもう大慌てで、目覚ましを恨む暇も考える余裕もなく、
とにかくやるべきことだけを済ませた。
咲夜さん、怒ってるだろうなあ。
目覚まし時計がサボタージュしてたんですなんて言ったら、
閻魔様より酷い判決を下すだろうことは間違いない。
そして慌てふためくを見て、お嬢様が笑ってるんだろう。
ううん、我ながら未来予知じみてるんじゃないかなこの想像。
一刻でも早く行って情状酌量の余地を作ってもらわなければ。
やだやだ、と漏らした声は不思議と軽いものだった。
◆
結論。
お咎め無し。
「はい?」
「何よ。怒られたかったの?」
「そんなことは、ないですが」
なければないで落ち着かないもので。
これって躾られてるのかな。実に悲しい。
「まあ、気まぐれよ。鞭も使いこなせるようになろうかと思って」
「甘い方が好きなのですが」
「冬に甘そうなものは難しいわね」
「私のご飯に何を入れようとしているんですか」
また変なものを入れられたらたまらないのだけれど。
お嬢様の紅茶ほどではないにしろ、咲夜さんの実験には私も被害に遭っているのだった。
……いや、実験というか気まぐれというか。とにかく、恐ろしいことに変わりはない。
毒のあるものも混じってるからなあ。むしろそれがメインだという勢いで。
そして、それを素でやってのけるから一層恐ろしい。
悪意のない行動ほど、怖いものはないのだ。
「そうね。おやつに何か入れてみましょう」
「ああ、楽しいおやつタイムが……」
もしかしてこれが遅れた罰なんじゃないか。鞭じゃなくて、時間差攻撃。
いや、咲夜さんのことだからそんな遠回しなことはしないだろうけど。
私ががっくりと肩を落とすと、大袈裟ねぇ、と咲夜さんが呆れたようにつぶやいた。
「ほら、そんなことより早く仕事してきなさい」
「そんなことって……まあ、いいですけどね」
いってきます、と私。
いってらっしゃい、と咲夜さん。
一瞬の沈黙。カチカチ、と懐中時計の音が聞こえて、なんとなく咲夜さんに話し掛けてみた。
「そうだ。今日、咲夜さんが出てくる夢を見たんですよ」
「ふうん? どんな夢?」
「咲夜さんに起こされる夢でした。まあ、起きれなかったんですけどね」
きょとん、とちょっぴり驚いたような顔をする咲夜さん。
……するよねぇ。咲夜さんに起こされて起きない夢なんて、私の願望駄々漏れだし。
「それは、面白いわね」
「そうですか?」
「これからは毎朝、私が起こしに行ってあげましょうか?」
なんだかちょっと邪悪な笑み。
うう、嬉しいけど、少し怖い。
丁重にお断りしたいけれど、それはなんか無限ループに陥る気がした。
いいえと言えば、そんなひどい。これからは毎朝私が、って返されそう。
「じゃあ、咲夜さんが暇な時ならお願いします」
「そう。じゃあ明日の朝を楽しみにしてなさいね」
…………恐ろしいよう。
ちょっと機嫌よさそうなとこがさらに恐ろしいよう。
「で、あなたはいつまで私と雑談してるのかしら」
三十分の遅刻が四十五分になるわよ、と言われて慌てて踵を返す。
いってきます、と私。
いってらっしゃい、と咲夜さん。
うん。今日の仕事もがんばろう。
◆
有言不実行って素晴らしいなあ。
いつの間にやら、ぐうすかぴと寝ていた私。
カチカチ。そんな懐中時計の音に目を開けば私を見下ろす咲夜さん。
寝転がったままぼんやりと思考を巡らせてみる。
結論。とっても絶体絶命。一秒後には命がないぞと体が警鐘を鳴らしている。
逆光で顔が見えないの怖い。でも、たぶん、見えた方がもっと怖い。
「起きた?」
「お、起きました」
とりあえず寝たままなのはマズイ。一瞬で正座してその顔を見上げようとした。
すると逆行に照らされていた顔が見えなくなって、後ろに控えていた太陽を直視。
目が眩んでふぎゃあと悲鳴が出そうになるけれど、なんとか堪える。
「そう。おやつ、食べる?」
「な――んと?」
何をするんですか、と言おうとすれば目の前には笑顔の咲夜さんが座っていて、思わず首を傾げる。
もう一度見上げた太陽は下り坂に入っていた。お昼の時間、逃しちゃったか。
「食べます」
「即答は嬉しいけど。その前に、よだれを拭きなさい」
言われて、慌てながら口をごしごしと拭った。
ふふ、なんて楽しそうに笑う咲夜さん。……まあ、笑ってくれる分にはいいけれど。
「はい。今日はケーキよ」
「ありがとうございます。いただきます」
「こら、あんまりがっつかないの」
私としてはあまりがっついているつもりはないのだけれど。
お昼を食べていないから、お腹の中が空っぽなのだ。
寝てたせいだろうっていうのは禁句。よくあることだし。
それに、何より――
「ねぇ、おいしい?」
唐突にそんなことを聞いてくる咲夜さん。らしくないな、と思った。
ショートケーキのような、しかしクリームが個性的な色をしたケーキ。
このケーキの名前は寡聞にして知らないのだけれど、
これをまずいだなんて言えるはずがなかった。
だって、何より、咲夜さんの作ってくれたものはなんでもおいしいのだ。
「おいしいですよ。すごく。……なんだか、色と同じく味も個性的ですけどね」
「そう。じゃあ、あの花は正解だったのかしら」
「ぶふっ!?」
うわあ、さっきまでの雰囲気台なしだなあ。思わず吹き出しちゃった。
そういえば朝にもそんなこと言ってたけれど。油断大敵というかなんというか。
咲夜さんは笑いが堪え切れないといったようにくつくつと喉を鳴らしていた。
ちょっと酷いのではないか。それは。
「ごめんごめん。ほら、口に付いてるわよ」
「むぐ。咲夜さんのせいじゃないですか」
どこからか取り出されたハンカチに口を拭かれながら反論してみる。
ちなみにケーキは綺麗な紅色。もしかしたらここの花壇から持って行かれた物かもしれない。
……後で確認しようかなあ。どの花を食べさせられたか認識するの怖いなあ。
それでもケーキは食べるけど。おいしいのだからしょうがない。
微妙にクセになる味なんだよなあ、これ。
「今度、お嬢様の紅茶にも入れてみようかしら」
「……まあ、いいんじゃないですか」
私に被害が及ばなければ。たまに八つ当たりされちゃうのは怖い。
決して饅頭怖い的な意味ではなく。ああ、でも今はお茶が怖い。
「はい。あなた用の紅茶」
「あ、ありがとうございます」
やっぱり咲夜さんは気が利くなあ。惜しいのはこの紅茶も花入りだろうことだ。
啜ってみると、ケーキと似た風味が口に広がる。同じ素材だけあって、よく合うなあ。
「目は覚めたかしら?」
「んんー……食べたらまた眠くなっちゃいましたね」
「…………」
じとりと呆れたような目で睨まれる。
しょうがないんですよう。自然の摂理なんですよう。
なんて。言えば確実に怒られるだろうし、言えないけど。
「はあ。あなたは、私が起こさないと駄目なの?」
「いやー、そんなことない、と思いたいんですけどね」
私は、咲夜さんがいないと駄目なのかなあ。
渋い顔をますます渋くする咲夜さん。そんな顔されても。
「……本当に毎日起こしに行くようじゃない」
「えへ。お願いします」
まったく、とそれほど呆れてなさそうな声。
例えるなら子供の些細な悪戯を笑顔で許す親のよう。
「それでも、部屋の目覚ましくらいはセットし直しておきなさいよ」
「うん?」
何で、咲夜さんがそれを。
私が口に出す前に咲夜さんは消えていて。
カチカチという懐中時計の音が、なんとなく頭の中に響いていた。
「目、覚めちゃったなあ……」
これじゃあ咲夜さんの方がよっぽど目覚ましみたいだ。
私専用の、目覚ましさん。
悪戯っ子はそっちの方じゃないか、とさっき思ったことに訂正を加えてみた。