「ねえ」
「なに?」
「ここ、私の家よね」
「神社でもあるわね」
「そうよね」
「何よ、いきなり」
その日は変な悪態をつきたくなるほどいい天気だった。空は蒼い、薄い雲すらみつからない。けれど、時おり忘れたころに吹いてくる風は、冷気をめいっぱい含んでいる。
冬も間近ということで、早々にこたつを引っ張り出して、ぬくぬくとしていた霊夢は、やや納得のいかない顔で、目の前の人物を見ていた。
そのひとは、霊夢のどちらかというと訝しげな視線に気づこうともせず、自分の連れてきた家族と、しきりに笑い合って、霊夢のほうにはちらりとも見やしない。
「お茶煎れたわよ」
「んー」
なんとも曖昧な返事だ。
そのビー玉のような、青みのある透明な瞳は、霊夢が煎れたお茶を一瞥しただけで、飲もうとはしなかった。
「飲まないの? 冷めちゃうじゃない」
「今ブラッシングしてるから待って」
「……」
霊夢と話をしているときよりも生き生きとして、楽しそうな声色で、アリスは得体の知れない赤茶色の毛むくじゃらに、笑顔でブラッシングしている。
少しだけ疎外感を覚えた視線はゆるゆると、アリスに甘やかされている赤茶色の毛むくじゃらへ。
なんて。
――なんてアホっぽい顔なんだ。
だはーっと赤い舌を出してはへっへっとせわしなく尻尾を左右に振り回している。
その黒い瞳は、アリスが触れるたび細まる。ふんふんと鼻を鳴らしては、もっともっととねだるように顔をアリスの首筋へと埋める。
……もう無理。
「アリス」
「なによ」
「なんで連れてきたのよ」
「散歩がてらなのだから、仕方ないじゃないの」
ここでようやく、コロコロとしたビー玉が、霊夢を見つめ返してきた。
「だからといって、私を放置することもないでしょうに」
「もしかしたら、霊夢がそういうプレイをご所望かと思って」
「怒るわよ」
「冗談」
真に受けた? なんて意地悪に聞いてくるアリスのにんまりとした笑顔が、気にくわない。
「受けるわけないじゃないの。むしろ私は放置されるよりするほうが好きだわ」
「ここにきていきなりのカミングアウトはよしてよね」
「冗談よ」
してやったりと、今度は霊夢が、真に受けちゃった? なんてニヤニヤと笑う。
アリスはきょとんとした顔になって、それから、至極真面目な顔で、
「今日はやけに突っかかってくるじゃない」
なんてのたまった。
「……」
ずぶずぶずぶ、と脱力していくのが自分でも見えるようだった。
こいつは、この天然は、それすらもわからないのか。
……いや、仕方ない。これがアリスだ。
最終手段だと霊夢はまだ毛むくじゃらと戯れて、そのアホ面を優しく撫でるアリスの右手を掴んだ。
「……どうしたのよ、一体」
アリスは目を丸くして、それから眉を寄せる。
「妬いてるの」
掴んだ右手は、暖かくて、柔らかかった。
こんな手で、主人同様きょとんとしている毛むくじゃらは、毎日触れられている。それが嫌だった。
我ながら子供染みた独占欲だなぁ、なんて思う。
「……もしかして、」
ややあって、アリスが口を開いた。
「構って欲しかったの?」
「そうよ」
相変わらずの鈍感っぷりだ。
そんなところも、好きなのだけれど。
ずっとずっと、好きなのだけれど。
たまには、自分で気づいてもらいたいものだ。
なんとはなしに、霊夢が目を泳がせると、ばっちり、毛むくじゃらと目があう。
元はといえばアンタのせいよ、と睨みをきかせたつもりだったのだがむなしく、ひとなつっこい黒の瞳を潤ませて、くり、と小首を傾げるだけだった。
この親にしてこの子ありだ。
「く……ふふ」
「?」
突然、掴んだ右手が揺れたかと思うと、アリスはくつくつと笑って、
「霊夢って、何にでもやきもち妬くのね」
ゆっくりと、目を細める。
「好きだから」
霊夢は対照的に、少しも笑わなかった。
「私も好きよ、霊夢。それこそ、貴女のようになんでもかんでも嫉妬してしまうほど」
それは、
「嘘」
アリスと霊夢じゃ、愛するものも、好かれるものも、違いすぎている。
「嘘じゃないわよ」
まったく、少しは信じてくれてもいいじゃない、とアリスは霊夢の頬にそっと触れた。
あんなに暖かかな手は、いつの間にかひんやりとしていて、心地よい。
「私だって、貴女が魔理沙や紫やらと仲良く話しているのも、酔っ払って誰彼構わず絡んでいる姿を見るのも、辛くないと言えば嘘になるわ。
そうじゃなくても、貴女には何故か妖怪を惹き付ける魅力があるのだもの。それこそ、毎日ひやひやしっぱなしよ」
そして、微笑む。
霊夢の好きな笑顔が、目の前にある。
「今の霊夢のようにね」
「む……」
そのまま何回か、頬を撫でられ続けた霊夢は、突然、何の前触れもなくアリスを抱きしめると、その勢いで畳へと押し倒した。
「ひゃっ!?」
普段はそんなことに無関心な霊夢から想像できないほど、突然の行為に、アリスは目を白黒させて、どうしていいやら迷っている。
そんな表情から、アリスの考えを汲み取ったのか、霊夢はニヤリと笑って、
「えっち」と囁いた。
「なっ……!」
「……結局、私たち、同じようなことで悩んでいたのかしら」
アリスに覆い被さったままの霊夢は、しっかりと自分の右手とアリスの左手を握って、言った。
「そうだったら、凄く嬉しいわね」
冷静に言ったつもりのアリスだが、先程の言葉の余韻か、耳が真っ赤に染まっている。元々肌が白いものだから、余計、赤く見えた。
「アリス」
「なあに」
「好きよ。大好き」
「私も、好きよ」
「お互い好きなのね」
「そうじゃなきゃ恋人なんてやってられないわ」
冷たい風と、暖かな日差しが重なったとき、
赤茶色の毛むくじゃらは、ゆっくりと、尻尾を左右に振った。
最近甘さが足りなかったので、元気が出ました。これで1週間は闘えます。
ごちそーさまです。
自分も二人に構ってもらいたい…いや、せめていちゃいちゃしてるのを眺めてるだけでも良いから…
素敵なレイアリ有難うございました!
ちょっとわんこの視界ジャックしてくる
もっと、レイアリ増えないかな…。
いいないいなぁ。とっても犬になりたい。
レイアリは素晴らしいな
だからこの作品は弩ストライクでした。
確実にニヤけすぎてる
みなさんたくさんのコメントありがとうございました!!
なんとなく最後の2人の会話が印象に残った。
レイアリはサイコーですな・・・w