おーい、ナズーリン
……呼んだかな?御主人
ああ、少し話をしようと思ってな
はぁ……
む?何でため息をつくんだ?
……今度は一体何を失くしたんですか?
失くしてない!説法を聞かせようとしただけだ
むっ?それはまた珍しい
……なあ、私の事を何だと思ってる?
うっかりで大切な物を失くす駄目寅
……泣くよ?
泣き顔が見たいので是非!
(ガオー!)
言い過ぎましたゴメンナサイ、小鼠達が逃げ惑うから雄叫びはやめて
……判ればいいんだ
それで?どのような説法をするのですか?
良いかい?これは昔御釈迦様がなさった説法でね…
『ある旅人が道を歩いていた時、突然背中から恐ろしい魔物に追われた』
恐ろしい魔物?
うむ、まあ例えであろうから色んな物に例えれるだろう…続けるよ?
『旅人は急いで逃げるがその魔物はぴったりと背中についてきた』
魔物の足が遅いのか旅人の足が速いのか
はたまた両方かもしれないな…
『旅人は息が切れてもう駄目だと思った時、
目の前に古い空井戸を見つけたので、そこに飛び込んだ』
随分と都合が良い話だね
まあ、そうじゃないと説法にもならないからね
『旅人が井戸の桶を吊るした荒縄にしがみ付いて井戸に降りる
そのせいで魔物は井戸の傍を回る事しか出来なかった』
実は知り合いだったと言うおっちょこちょいなオチではないのかい?御主人
……宝塔を失くした事は悪かった、でもニヤニヤしながら私を見ないでくれ
『旅人がホッとして上を向いたら、なんと井戸の天井にぶら下がっている
荒縄を白い鼠と黒い鼠が二匹齧っているでは無いか』
はっはっは!どうだ?人間よりも鼠が賢いと言う事だ!
落ち着きなさいナズーリン…話を更に続けるよ
『このままでは空井戸に落ちてしまう、
慌てた旅人が荒縄を左右に振り鼠を追い払おうとした』
甘いね!鼠がその程度の事で離すと思うことが甘い!
ど、どうどう…まだ説法の続きがあるから興奮しないでくれ
『するとどうだろう、偶然井戸の天井にあった蜂の巣から蜂蜜が一滴落ちて
それが偶然旅人の口の中に落ちたが、その味のなんと甘露な事』
…む?少し話が違ってきたな
もう少しで説法も終わるからな
『その甘露を得たいが故に旅人は再び荒縄を振り始める
それにより魔物の事も鼠の事も
そして振る事によって命綱が切れそうになる事も気づかずに』
…と言う訳だ、これで話は終わりになる
……馬鹿な人間の話だね、欲を張るから自らの命を縮める事になるんだ
なあ、ナズーリン実はこのお話は人の一生を御釈迦様が諭された言葉なんだ
人の一生を?あの話で?
ああ…まず旅人なんだが、こいつが『人』を示す
まあ、旅人と言うのだからそうでしょうね…
次に白と黒の鼠は『朝日と月』すなわち一日を示している
太陽と月…それは気が付かなかった
そして魔物と蜂蜜…この二つがなんだか判るか?
む……魔物は常に追って来るという事から…影?
存外悪くないが正解は『現実』だそうな
なるほど…それならピッタリ着いて来て逃げれないだろうな
そして蜂蜜…これが『快楽』と言う物を現しているそうだ
そうか…人も妖怪も『快楽』に負けないようにすると言う話か
そして、御釈迦様がこの話でもう一つ説いたものがある
もう一つ説いたもの?
人生、苦労しすぎるのも快楽に溺れる事も駄目…と最後に説いたそうな
なるほど『人、中道を歩むべし』と言う教えと言う訳か
…でだナズーリン…今朝の修行はもう終えたかい?
ああ、御主人に言われた仕事は全て終わってるよ
つまり、ナズーリンは今日一日の苦労を終えている訳だな
…まあ、そういう事になる訳ですね
それだけでは私はいけないと思う
……何が言いたいんですか?
なあナズーリン…一緒に甘い物食べに行かないか?
和む…和むぞ!
この星きゅんかわいすぎる。
特命門番長続きまってます・・・まってます・・・