「う~……さすがに寒いわね」
「そんな巫女服着ていたら、風邪引くわよ」
体を震わせながらも、境内を掃除している霊夢の独り言に、返事が返ってきた。
声のした方へと顔を向けると、そこには咲夜が立っていた。
「ふん、あんただってそんなメイド服じゃあ寒いでしょうが」
「あら、案外暖かいのよ、メイド服」
「そ、案外暖かいのよ、巫女服」
視線が交わる。
空は、酷く中途半端な模様で、いつ降り出してもおかしくない空だった。
しばらく互いに無言だったが、一陣の風がきっかけに、口を開いた。
「とりあえず、中入る? あんたがわざわざ来るってことは、何かワケありなんでしょう?」
「そうさせてもらいますわ」
霊夢は箒を適当な場所に立て掛けて、居間へと向かった。
その後に続くように、咲夜も移動した。
「はい、お茶」
「ん、ありがとう」
目の前の湯飲みにお茶が注がれる。
咲夜はそれを、ゆっくりと口に運んだ。
そして一口飲み、ほうっと息を吐く。
「相変わらず簡素な部屋ね」
「ほっとけ! で、今日は何の用よ?」
「ん? 用件?」
んー、と唸りながら、頬を人指し指で掻く咲夜。
そして、少し苦笑い気味で言う。
「特に無いのよね」
「よし、帰れ」
「ただ、お嬢様から一日お暇を頂いちゃってね。明日の朝まで好きなように時間を使え、と」
「は?」
「多分、私を気遣ってのことなのでしょうけど、正直これといってすることも無いのよ。だから、ここなら時間潰せるかな、って感じで」
「そんな理由で一々来るな!」
霊夢の言葉を流すかのように、お茶を啜る咲夜。
居座る気満々のようだ。
「はぁ……なんでこう、神社に来るやつはまともなのが居ないのよ」
「類は友を呼ぶと言いますわ」
「それはあれか。私が変人だと言いたいのか?」
「いえいえ、少なくとも、私はそんなあなたを結構気に入ってるわよ?」
「っ……お、お茶入れ直してくるわ」
立ち上がって、逃げるようにいなくなる。
咲夜は、一体どうしたのだろうかといった風に、首を傾げていた。
「あ……雨」
ふと耳に、ぽつりぽつりと雨音が飛び込んできた。
それは次第に大きな音へと脹らみ、本降りになってきていることが分かった。
「ん、お茶」
「あ、ありがとう。って霊夢、顔赤いわよ? 風邪?」
「うるさい。風邪でもなんでもないわよ」
「そう、なら良いけど……」
見るからに、話し掛けんなオーラを身に纏う霊夢に、とりあえず咲夜はそれ以上、何も突っ込まないことにした。
ざぁざぁと、雨音だけが響く。
二人とも、別に何か喋るわけでもない。
霊夢が、箪笥から何かを取り出した。
「何それ?」
「マフラーよ。寒くなってきたからね」
「手編み? 凄いわね」
「何言ってるのよ。あんただって、これくらい出来るでしょう?」
「いいえ、私はそういう物作ったこと無いですわ」
「ほぇ、意外ね」
そんな軽いやりとりをしながらも、霊夢はしっかりと手は動かして編んでいる。もう既に、八割は出来上がっていた。
咲夜は、ただただ感心していた。
「普段は残念な霊夢が、こういうこと出来る方が、意外ですわ」
「あんたが私をどう見ているか、良く分かったわ」
「意外に家庭的なのね。そういえば、掃除とかはちゃんとしているみたいだし」
部屋を軽く見渡す。
室内は、普段紅魔館で徹底的な掃除をしている咲夜から見ても、十分に合格ラインを越えていた。
「暇なのよ、基本。だから、編み物も覚えたし、掃除も一通りちゃんとする。あ、最近は料理も楽しくて……」
「……霊夢」
「ん、何よ?」
咲夜は身を乗り出して、卓袱台を挟んだ向かい側に居る霊夢の手を、両手で包み込むように握った。
そして――
「あなたが、欲しい」
「……ふぁっ!?」
咲夜、爆弾発言。
優しく包まれていた筈の手は、いつの間にか、強く握られていた。
まるで、離さないという意思の現れのように。
とにかく、真っ赤になって慌てる霊夢。
「いや、ちょ、わけわからないし……ぇ、あぅ」
「あなたみたいな人が、紅魔館には必要なのよ」
「……はい?」
「是非、この紅魔館契約書にサインを……」
「紛らわしい言い方するなぁっ!」
手を払い、懐から針を取り出して投げ付ける。
しかし、全てナイフで弾き落とされた。
「ちょ、突然どうしたの霊夢? そんなに契約内容が嫌だった? あ、もしかして時給松ぼっくり五つが不満?」
「あんたの言い回しが腹立ったのよ! というか、何その時給!?」
契約は無理そうだと判断した咲夜は、どこから出したか分からない契約書を、再びどこかにしまった。
時を止めたのか、霊夢にはどこにしまわれたか分からなかった。
はぁ、とため息を吐いて、霊夢は座る。
「あぁ、霊夢が紅魔館に来て働いてくれれば、私も楽になるのに」
「残念でした。私はずっと巫女よ」
「本当、残念ですわ」
「とりあえず、好きにしてて良いからもう話し掛けるな。手元が狂うわ」
「はいはい、分かりましたわ」
再び無言。
霊夢はただただマフラーを編んでいる。
特にすることも無い咲夜は、落ち着かない。普段、バリバリと働いている咲夜にとって、こう静かでまったりとした時間は性に合わなかった。
うずうずとしだす咲夜。
気が付いたら、体が動いていた。
「咲夜……」
「ん?」
「あんた、何してるのよ?」
「霊夢の肩を揉んでいますわ」
「編み物してるのに肩揉むな! 手元狂うってば!」
「ほら、良く言うじゃない」
「何がよ?」
「揉んだら大きくなるって」
「肩大きくなっても困るわ!」
肩に置いた手を払われる。
また、することが無くなってしまう咲夜。
霊夢は、私に触るなオーラを身に纏っている。
こうなってしまっては、本当に何も出来なくなってしまう。
咲夜は、悩んだ結果、料理をしようと考えついた。
立ち上がろうとした瞬間――
「料理しなくて良いからね」
「う……」
中途半端に、立ち上がる直前の体勢で固まる咲夜。
「でも、お邪魔させてもらっているわけだし……」
「あんたの場合、自分が落ち着かないからでしょ」
「くっ……」
言い返せなくて、おとなしく再び座る。
することも無く、ただただ霊夢の方向をジッと見つめる。
「……ちょっと」
「ん? どうしたの?」
「そんなに見られてると、その、集中出来ない……」
「暇だから、これを機会にマフラーの編み方を学ぼうかと」
「もう出来上がるから意味無いわよ」
「そう。なら、仕上げる瞬間を見させてもらいますわ」
「……はぁ」
仕方無く、無視して進める。
霊夢の言った通り、あと数分もしないうちに出来上がるまでは進んでいた。
咲夜の視線が気にはなるが、さっさと仕上げてしまえば良い。そう、霊夢は考えた。
「マフラー、水色なのね」
「ん、おかしい?」
「いいえ。ただ、霊夢は紅白のイメージが」
「なにその、紅白以外の色は似合わないぞ発言」
「いや、別にそんなつもりで言ったわけじゃあ……」
「はい、でーきたっ!」
完成し、んぅ~っと体を伸ばす。ずっと同じ体勢だったから、凝っていたようだ。
ふわりとマフラーの全体を見せる。
「どうよ?」
「編み物には詳しく無いけど、上手いと思うわ」
「そう、じゃあこれ――」
咲夜の隣りにマフラーを持って移動する。
そして、そのマフラーを咲夜の首にそっと巻いた。
「咲夜にあげる」
「……ぇ?」
きょとんとした様子の咲夜。
「え、何で?」
「水色って、私よりあんたの方が似合うと思ったからよ。うん、えーと、その……やっぱり似合ってるわ」
自分からやっておいて、似合っているという言葉を真正面から言うことに、恥ずかしさやらを感じてしまっている霊夢。
「でも……」
「それにマフラーの編み方覚えたいんでしょう? なら、手編みの現物持っていた方が良い見本になるわよ」
笑顔でそんなことを言われては、咲夜に断る理由は無かった。
首に巻かれたマフラーはふんわりと柔らかく、暖かい上に温かかった。
「それじゃあ……」
「ん?」
「それじゃあ、お返しに私が霊夢にマフラーを編んであげますわ」
「いや、別にそんなことしなくても……」
「私がしたいの。初心者だし、いつ完成するかは分からないけど」
「咲夜なら、すぐに私より上手くなりそうだけどね」
「そんなことないわよ。だから、まぁ気長に待っていてくれると嬉しいですわ」
「……ん。分かった」
少しだけ、赤くなった顔を見られないようにそっぽを向きながら、霊夢は答えた。
雨音は、さっきよりも激しく地を叩くように聞こえた。ざぁざぁと降る雨は、やっぱり止む気配が感じられない。
「咲夜、今日泊まっていく? 雨酷いわよ」
「そうさせてもらえると、ありがたいですわ」
「ん、分かったわ。あー客用の布団あったかしら……」
「なるほど、つまりあなたと一緒の布団で朝を迎えれば良いわけね」
「なっ!? ば、馬鹿!」
「冗談よ。勝手に来たんだから、私は床で十分」
「……今はもう客なんだから、そんなことさせないわよ。ちょっと確認してくるわね」
そう言って、霊夢は寝室へ向かった。
一人になった咲夜は、首に巻かれたマフラーをキュッと掴んだ。
「ん、暖かい」
自然と、口元がほころびる。
ざぁざぁと降る雨音のリズムが、咲夜にはどこか心地良く感じられた。
ハッ、これって恋?おれってばさくれいむに目覚めちゃった!?
霊夢の反応にニヤニヤしてしまったw
さくれいむ万歳!
俺はのどさんのおかげでとっに目覚めてましたよ
咲霊万歳!!!!
>「……ふぁっ!?」
駄目だ、ここの時点で顔がにやけっぱなしになってしまった!w
貴方の書くさくれいむは良い塩梅の甘さで素敵過ぎます
貴方の書くさくれいむは最高だと思いますw
「肩大きくなっても困るわ!」
ここで大爆笑。
すいません。来週の歯医者予約の日まで歯痛我慢してなければいけないので、悪化させるのマジ勘弁してください。
今日は何か良い事がありそうです。w
しっかりものだけどどこか抜けてる面を妹だけには晒す姉
何に対してもあっさりしてるけどそんな姉だけはほっとけない妹
二人とも肉親に関してさっぱりだから余計にそう見える
寂しさからうっかり「お姉ちゃん」とか呼んでしまい慌てる霊夢さんと満更ではない様子の咲夜さんとか妄想止まらないよ
何だこのによによはw
さくれいむはもっと増えるべきである。
ホント、もっと増えないかなぁ
目覚めちゃいましたか、素晴らしい。それはとても良いことですよっ!
>>2様
メイド長は天然でそんなスキルを持っていると思いますw
>>3様
もっとあっても良いと思う組み合わせですよね!
>>奇声を発する程度の能力様
咲霊万歳ですぜ!
>>5様
咲霊万歳咲霊万歳!
>>6様
わ、ありがとうございます。嬉しいお言葉です!
>>7様
ふえ、ありがとうございます。
さくれいむ、少ないですよねー。
>>ぺ・四潤様
揉んだら大きくなりますよ!どこでも!多分w
>>ミナ様
それは良かったですw
>>10様
うあ、良い妄想ですね。それ想像してテンション上がりましたw
>>シーラ様
楽しんでもらえてなによりです。
>>12様
増えるべきですよねー。無ければ自分で書くしか……
>>13様
やっほう!万歳万歳!
癒される~
これからも是非頑張って下さい。