その日、私たちはいつものように三人でちゃぶ台を囲み、居間で揃ってお茶を啜っていた。
早苗の淹れてくれたお茶は格別だと、いつも思う。
「私、そろそろ出掛けてきますね。」
そう言って早苗が立ち上がった。
「行くって、どこへだい?」
神奈子が胡坐を構いた姿勢のまま、早苗に問いかけた。
私はというと、両手で湯飲みを抱えたまま二人の様子を窺っている。
「人里へ買い物に。それから友達にも会ってこようかな、と。」
ここのところ早苗の友好関係も広くなったようだ。
私は良いことだと思う。早苗だってお年頃。そういった仲間とかも必要だろう。
だが、そうは思わない捻くれ者が居る訳で──
その捻くれ者の神様は、私の目の前で訝しむような目を早苗に向けていた。
「友達? まさか男友達とかじゃないだろうね……?」
ほらきた。
心配性なのかなんなのか知らないが、神奈子はいつもこういった話題に敏感に反応する。
付き合わされる早苗が可哀想だよ。
「やめなよ、神奈子。早苗だってもう子供じゃないんだよ? 好きな人の一人や二人、居ても不思議じゃないよ?」
これもいつも言ってる事なんだけど……やっぱり神奈子は納得いかないようだ。
「しかし、悪い虫が付いてからじゃ遅いじゃないか。私はただ、早苗が心配で──。」
「それが大きなお世話だって言ってるの。早苗も良いよ、早く行っといで。こんな頑固親父の言うこと、聞いてることないよ。」
さっきから立ったまま苦笑いしている早苗に助け舟を出してやる。
すると早苗も、「いつもすいません……」と私にだけ聞こえるように小声で返してくれると、足早にその場を去っていった。
「あっ早苗……!」
立ち去ろうとする早苗に手を伸ばす神奈子だったが、時既に遅く、無常にも襖は閉じられてしまった。
ずずー。
固まったままの神奈子が動き出すまで、手にあったお茶を啜る事にした。
「……ん。」
やっと動き出したかと思ったら、不機嫌を隠そうともせず、私に向かって無言で湯飲みを突き出してきた。
こぽこぽこぽ。
仕方ないので、テーブルにあった急須でお茶を淹れてやる。
するとまたもや無言でお茶を啜り始める神奈子──これはかなりご立腹だ。
「全く。神奈子も親馬鹿なのか知らないけど、ちょっと独占欲が強すぎるんじゃないの?」
これは割りと本音。
もちろん、神奈子が早苗を心配する気持ちを疑うつもりなんてない。
でもそれ以上に、早苗が可愛いんだろう。傍から離したくないのがバレバレだ。
そんな神奈子の気持ちを少なからず理解しているから、早苗は文句も言えずに要るんだ。
「…………悪かったね。独占欲の強い我が侭な頑固親父で。」
あちゃ~……怒ってたのはそっちの方だったか。
しかしまぁあっちに居た頃から、早苗、早苗、と……ホントそれしか頭に無いのかね。
……かと思えば一言も言わずこんな所まで、私のこと連れ出したりするし。しかも神社ごと。
そのことを怒ってなんていないし、むしろそれって私の事も大切に思ってくれてるって事だと思うし……ただ──
「その独占欲、私一人じゃ満たせないのかな……。」
なんて思ったりもしたりしてね。
ん? なんて顔してるんだろ、神奈子の奴。
まるで鳩が豆鉄砲食らったような……。
「諏訪子……あんた……。」
……げ!?
ひょっとして私、口に出してた!?
「ちょっ、まっ! 今のなし! 今の撤回──。」
慌てふためく私だったけど、真剣な神奈子の瞳に思わず言葉を飲み込んだ。
──やだ、久しぶりにみるよ。こんなカッコいい神奈子……。
「……良いのかい? 人妻がそんなこと言って。」
言葉だけ聞けばどうかと思うけど……神奈子はこれでも気を使ってくれてるんだ。
そしてそれは、私だけ分っていれば良いこと。
「人妻じゃないよ……未亡人。」
「どう違うんだい……?」
「未亡人は……恋、出来るでしょ?」
旦那が居たんじゃ、それは罪になる。
でも、あの人は遠い昔に置いて来た……。
──今、私の傍に居るのは……居て欲しいのは……。
「私が……どうかしてたね。諏訪子の口からそんなこと言わせることになるなんて……。」
「べ、別に……神奈子が謝る事じゃ──。」
余りの恥ずかしさに、私が目を背けた、その時──。
「なっ……!」
不意を付くように、一瞬にして私は神奈子に押し倒されてしまった。
「諏訪子……。」
「だ、駄目だよ、神奈子……こんな真昼間から……」
「早苗も居ないし……キス、だけだから。」
いいだろ? なんて、そんな真剣な目で言われたら、断る事なんて出来るわけ無い。
徐々に近づいてくる神奈子の顔──私は咄嗟に目を閉じて、そのときを待つ……。
ガラ
「いや~私とした事がうっかりしてました。まさか財布を忘れるなんて。お前はサザエさんか~、な~んちゃっ…………て。」
──時が止まった…………気がした。
突然襖が開いたかと思いそちらを見てみれば、重なり合う私たちをどこか虚ろな目で見下ろしている早苗がいた。
ピシャンっ!
再び閉められた襖…………しかし早苗は居間に入ってこなかった。
そして重なり合ったままの姿勢で固まった私たちの時は、早苗が廊下を走り去っていく足音によって引き戻される事となった。
「「さ、早苗ぇぇぇぇぇええええええ!!!?」」
…………弁解の余地も無い。
「どうしたのよ、突然現れたと思ったら暗い顔して……?」
「霊夢さん……この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね……。」
早苗の淹れてくれたお茶は格別だと、いつも思う。
「私、そろそろ出掛けてきますね。」
そう言って早苗が立ち上がった。
「行くって、どこへだい?」
神奈子が胡坐を構いた姿勢のまま、早苗に問いかけた。
私はというと、両手で湯飲みを抱えたまま二人の様子を窺っている。
「人里へ買い物に。それから友達にも会ってこようかな、と。」
ここのところ早苗の友好関係も広くなったようだ。
私は良いことだと思う。早苗だってお年頃。そういった仲間とかも必要だろう。
だが、そうは思わない捻くれ者が居る訳で──
その捻くれ者の神様は、私の目の前で訝しむような目を早苗に向けていた。
「友達? まさか男友達とかじゃないだろうね……?」
ほらきた。
心配性なのかなんなのか知らないが、神奈子はいつもこういった話題に敏感に反応する。
付き合わされる早苗が可哀想だよ。
「やめなよ、神奈子。早苗だってもう子供じゃないんだよ? 好きな人の一人や二人、居ても不思議じゃないよ?」
これもいつも言ってる事なんだけど……やっぱり神奈子は納得いかないようだ。
「しかし、悪い虫が付いてからじゃ遅いじゃないか。私はただ、早苗が心配で──。」
「それが大きなお世話だって言ってるの。早苗も良いよ、早く行っといで。こんな頑固親父の言うこと、聞いてることないよ。」
さっきから立ったまま苦笑いしている早苗に助け舟を出してやる。
すると早苗も、「いつもすいません……」と私にだけ聞こえるように小声で返してくれると、足早にその場を去っていった。
「あっ早苗……!」
立ち去ろうとする早苗に手を伸ばす神奈子だったが、時既に遅く、無常にも襖は閉じられてしまった。
ずずー。
固まったままの神奈子が動き出すまで、手にあったお茶を啜る事にした。
「……ん。」
やっと動き出したかと思ったら、不機嫌を隠そうともせず、私に向かって無言で湯飲みを突き出してきた。
こぽこぽこぽ。
仕方ないので、テーブルにあった急須でお茶を淹れてやる。
するとまたもや無言でお茶を啜り始める神奈子──これはかなりご立腹だ。
「全く。神奈子も親馬鹿なのか知らないけど、ちょっと独占欲が強すぎるんじゃないの?」
これは割りと本音。
もちろん、神奈子が早苗を心配する気持ちを疑うつもりなんてない。
でもそれ以上に、早苗が可愛いんだろう。傍から離したくないのがバレバレだ。
そんな神奈子の気持ちを少なからず理解しているから、早苗は文句も言えずに要るんだ。
「…………悪かったね。独占欲の強い我が侭な頑固親父で。」
あちゃ~……怒ってたのはそっちの方だったか。
しかしまぁあっちに居た頃から、早苗、早苗、と……ホントそれしか頭に無いのかね。
……かと思えば一言も言わずこんな所まで、私のこと連れ出したりするし。しかも神社ごと。
そのことを怒ってなんていないし、むしろそれって私の事も大切に思ってくれてるって事だと思うし……ただ──
「その独占欲、私一人じゃ満たせないのかな……。」
なんて思ったりもしたりしてね。
ん? なんて顔してるんだろ、神奈子の奴。
まるで鳩が豆鉄砲食らったような……。
「諏訪子……あんた……。」
……げ!?
ひょっとして私、口に出してた!?
「ちょっ、まっ! 今のなし! 今の撤回──。」
慌てふためく私だったけど、真剣な神奈子の瞳に思わず言葉を飲み込んだ。
──やだ、久しぶりにみるよ。こんなカッコいい神奈子……。
「……良いのかい? 人妻がそんなこと言って。」
言葉だけ聞けばどうかと思うけど……神奈子はこれでも気を使ってくれてるんだ。
そしてそれは、私だけ分っていれば良いこと。
「人妻じゃないよ……未亡人。」
「どう違うんだい……?」
「未亡人は……恋、出来るでしょ?」
旦那が居たんじゃ、それは罪になる。
でも、あの人は遠い昔に置いて来た……。
──今、私の傍に居るのは……居て欲しいのは……。
「私が……どうかしてたね。諏訪子の口からそんなこと言わせることになるなんて……。」
「べ、別に……神奈子が謝る事じゃ──。」
余りの恥ずかしさに、私が目を背けた、その時──。
「なっ……!」
不意を付くように、一瞬にして私は神奈子に押し倒されてしまった。
「諏訪子……。」
「だ、駄目だよ、神奈子……こんな真昼間から……」
「早苗も居ないし……キス、だけだから。」
いいだろ? なんて、そんな真剣な目で言われたら、断る事なんて出来るわけ無い。
徐々に近づいてくる神奈子の顔──私は咄嗟に目を閉じて、そのときを待つ……。
ガラ
「いや~私とした事がうっかりしてました。まさか財布を忘れるなんて。お前はサザエさんか~、な~んちゃっ…………て。」
──時が止まった…………気がした。
突然襖が開いたかと思いそちらを見てみれば、重なり合う私たちをどこか虚ろな目で見下ろしている早苗がいた。
ピシャンっ!
再び閉められた襖…………しかし早苗は居間に入ってこなかった。
そして重なり合ったままの姿勢で固まった私たちの時は、早苗が廊下を走り去っていく足音によって引き戻される事となった。
「「さ、早苗ぇぇぇぇぇええええええ!!!?」」
…………弁解の余地も無い。
「どうしたのよ、突然現れたと思ったら暗い顔して……?」
「霊夢さん……この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね……。」
途中からお父さんお母さんと思っていたらwww
このあと早苗さんに兄弟ができるまでを詳しくお願いします。
かなすわいいよね。すわかなもいいよね。
でもレイサナも良いと思うよー