「はぁ…はぁ…」
荒い息をしながら私は震えていた
自分が居た場所から逃げ出した屈辱と情けなさから
「…くっ」
自分の居た場所から逃げ出さざる終えなかったのだ
それも、敵からの襲撃でなく自分の本当の家族によって
私を倒した家族の手により私は能力を封じらた
そして…自らの目の前で哀れみを籠めた笑いを浴びせられた
(ち、畜生…)
気がつけば自分はこの場で倒れていた
(絶対に…生き延びて…)
怒りは限界に達している…
だが、悔しい事にボロボロになった身体は動かない
そして、今の自分には能力も全て使えない
(絶対に…復讐…)
誇り高き自分が地面に這いつくばって歩く姿に
自殺してしまいたい程の屈辱を覚えるが
復讐をすると言う心によってそれを耐える
(ぽつ…ぽつ…)
「…あ…めか…」
だが、そんな私に早く死ねと言っているのか
空から猛毒となる雨が振ってくる
口惜しいが、どうやら復讐も名誉ある自決も許してくれないようだった
(…ここまで…か)
そこまで呟いて目を閉じる
だから、最後に聞こえたのは幻聴だと思って気にしなかった
「…――さん!?」
誰かが私の名前らしきものを呼んだ気がしたが
(放っておいてくれ…惨めな姿を人の目にさらされるぐらいなら…)
既に私の意識は消えていた
・・・
「…雨が降って来るわね」
「なう…」
いつものように晩御飯の準備をしながら
私は外の様子を眺めて呟いた
(そろそろ、さとりも戻って来ると思うんだけど)
「まあ、それよりも今は…」
目の前の御味噌汁に力を傾ける
む、今日はかなりの自信作が出来たわ
(でも、私が求める御味噌汁はまだまだ果てしなく遠いわ)
私がそんな感じで料理を作っていると
入り口が開く音がして
「…今戻りました」
「ん、お帰りなさいさとり…もうすぐ晩御飯が…」
この一軒家に住むもう一人の隠居人が帰ってきたのを確認して
私が、お玉を片手にそちらの方に振り向くと
「あ、あの…これを拾ったんですけど…」
さとりが困った顔をして背負ってきたモノを降ろした
そして、その拾ってきたとするモノを見て私は動きを止めた
「…ねえ、さとり…」
「は、はい…」
「…この拾ってきたモノなんだけど…」
「……ど、どうしても放置する事が出来なくって」
さとりが放置できないと思ったのもよくわかる
多分、私も放置できなかったと思うけど…
「うー…」
気絶して唸っているモノを見て私とさとりが呟く
「…どう見ても、私よね?」
「はい…姿形と抱き心地のどれをとってもレミリアさんです」
気絶していたのは、自分と全く同じ姿だったのだ
再隠居14日目
まさか、自分のそっくりさんに会うとは思わなかったわ
でも『それもまた隠居の楽しさ』である…
…というわけで、晩御飯が出来たんだけど
「この私の姿を真似るとは良い度胸ね…」
さとりが拾ってきた私は、間違いなく『私』であった
…正確に言うと、隠居前の頃に近い
心身的にボロボロだと思われるが、それでもけして引く事がなく
「…無理はしない方が良いですよ?」
「だまりなさい…この私にそんな口を…」
さとりの言葉に口惜しそうにする姿と
「まあ、とりあえずさとりもえーと…行き倒れも…」
「生き倒れなんかじゃないわ!誇り高き…」
「晩御飯の準備が出来たからまず食べない?」
「(ごくっ)ま、まあとりあえず庶民のご飯とやらに興味があるから
今は引いてあげるわ…運がよかったわね」
凄い我侭な所など、隠居前の私にうりふたつである
(…私隠居してなかったらこんな感じのままだったでしょうね)
「うなぁ~」
ん?貴方もそう思うかしら…
「な~う」
「…はいはい、猫飯用意してあるから駆け足」
…全く逃げ足の速い猫ね
・・・
「ご馳走様でした…」
さとりがいつものように両手を合わせてお辞儀する
「ふん…たまには庶民のご飯も悪くないわね」
で、その隣でもう一人の私…
(めんどくさいから仮で『レミリャ』って呼ぶ事にするわ)
レミリャが尊大な態度でそう告げていた
囲炉裏の前で、私を含めた三人が一息ついた所で
「さて、とりあえず貴方の話を聞こうかしら」
「そうですね、まずは何であんな所で倒れていたのかを」
目の前で踏ん反り返っているレミリャに声をかけると
「…断るわ」
心外だと言わんばかりに目の前のレミリャが声を出す
「なんで貴方達に私の事を言わないといけないのかしら?」
うん、間違いない、こいつは昔の私そのもの…
だけど違う所が一つある
「こんな狭い小屋で生活している貴方達のような小物に風情に」
こいつは私以上に餓鬼であるという事に気がついていない
OK…餓鬼を相手にする方法は既にわかっている
さとりの方を見ると、自分を振り向いて頷いてくれた
「あら?怒ったかしら…良いわ、このスカーレットデビルが相手をしてあげる」
「ええ…とりあえず、表にでなさい…」
私の言葉にレミリャと私が表に出た
・・・
そして、玄関から出て数分後
「戻ったわよ!さとり」
私は久しぶりに良い汗をかいて良い笑顔だった
でも、私の顔を見たさとりが少し心配そうにしている
「…し、少々やりすぎなのではないですか?」
「ん?そうかしら…でも大丈夫よ」
私がもう一人の自分…
頭に大きなたんこぶを作ったレミリャを肩から降ろす
「誇り高い吸血鬼が『たかが』拳骨一発でやられるはずがないわ」
「う~(涙)」
まあ、美鈴仕込みの拳骨なんだけどね
あれは私もそうだけど、子供にすごくよく効くのよね
覚えてよかった美鈴のクンフーね
…とりあえず、これで少しは素直になったでしょう
「さあ?もう一発喰らいたくなかったら、何があったのか吐き出しなさい」
「わ、わかったわよ…」
私の言葉にすっかり気弱になったレミリャが
涙目のまま何があったのかを語り始めた
「か…かくかく…」
「はぁ…部下と家族に裏切りにあって」
さとりが感慨深そうにレミリャの言葉に頷くと
「…しかじか…」
「ふーん…気がついたら森で倒れていたと…」
私もレミリャの言葉に納得した
「…くそっ!…皆して私から受けた恩を忘れて…」
最後まで話すとレミリャが悔しそうに地面を殴りつけようとする…が私が止める
(床に穴が開くでしょう?全く…周りの人の迷惑を考えなさい)
(あの…レミリアさん)
その様子を眺めながらさとりが私の耳に小声で話しかけてきた
(…かわいそうですね…レミリャさん)
あ、さとりもレミリャって仮名に…
(レミリアさんの考えは私には筒抜けです)
…まあ、さとりだものね
(褒めないでください…てへっ♪)
(褒めてない!)
とりあえずさとりに心の中で突っ込みをいれると
(でも、レミリャさん…部下と家族に裏切られたんでしょう?)
(…ええ、こいつが言っているとおりならね)
ああ、多分目の前の私が言っている事は間違いないだろう
(ならなんで…)
(助けないのかって?)
決まっている…こいつの話は確かに間違いはない
(だけどね…)
私がレミリャの方を向くと
「いくつか質問しても良いかしら?」
「な、何で私g…い、言わせて貰うわ」
宜しい…振り上げた拳を使わないですんでよかったわ
「貴方がやりたい事を部下が嗜めて来たら貴方はどうする?」
「論外ね、私は夜の帝王…そんな部下は要らないわ」
私が目を閉じながら次の質問をする
「貴方の命令で部下が長い時間をかけて作った花があるわ
でも、貴方はその花を見た瞬間気に入らなくなった…貴方はどうする?」
「気に入らない花なら全て引き抜かせて、別の花を新たに作らせるまでよ」
まあそうでしょうね…気に入らない物は全て力で解決
「貴方が自分で面白いと思う計画を立てた時
貴方の友に当たる人物がそれを止めようとしたら?」
「無視するまでね…私が面白いと思う事は正しい事なのよ」
ああもう…目の前のこいつは本当に…
「最後に…貴方の家族が外に出たいと言ったら?」
昔の私そのものだ…
「…私にはどうする事も出来ないわ」
その言葉を聞いて、私は結論をだした
「餓鬼ね」
「!?」
その言葉にレミリャが目を見開くと、私に殺気を叩きつける
「自分の我侭を押し通す事は上の者の特権だけど
その為にほかの者を完全に蔑ろにするのなら
貴方は主としての器ではないわ」
「…ふ、ふふっ…此処まで愚弄されたのは始めてだ」
あ~…これは全力で攻撃を仕掛けてくるわね
(れ、レミリアさん!?こ、此処で戦われるのは!)
ん、確かに隠居小屋が壊れるのは困る
一応は借り物なんだから賠償しないといけなくなるし
「…ねえ、勝負をしない?」
さて、入り口の方にさりげなく誘導して…っと
「勝負だと?」
レミリャの額に怒りの青筋が立つ
「なら、私が負けたら言う事を聞いてあげるわ」
「勝負にすらなるものか!」
激情のまま真っ直ぐ私に突っ込んでくるレミリャ
(ああ、早いわね…)
でも、あまりにも真っ直ぐ過ぎる
これで昔痛い目に逢った事もすっかり忘れて…
「我が一撃で跡形無くけし飛ばしてくれる!」
猛スピードで突っ込んできたレミリャに対して
私はその場から動かずに冷静に相手を見極めて
「私が小妖怪なら…」
飛んできたレミリャの腕を空中で取り
そのまま地面にレミリャを顔面から叩きつけて
「貴方はそれ以下の餓鬼ね」
駄目押し気味に、その後頭部に踵を叩き付けた
「…決着ね」
「あの…レミリャさん完全に気絶してますよ?」
「勿論、そのつもりで放ったんだから仕方が無いじゃない」
昔、全く同じ事を美鈴に喰らった事があったもの
あの時も気絶したわ
「覚えてよかった、美鈴さんのクンフーですか?」
「…私の台詞とらないでよ」
少し荒れてしまった小屋の中をさとりと片付けを始める
もし、入り口に移動して無かったら隠居小屋が解体される所だったわ
「扉は完全に破壊されていますけどね」
「…し、しょうがないじゃない」
…吸血鬼の体当たりをそのまま地面に叩きつけたんだから
「はぁ…明日の朝は家の前のクレーターを掃除しないといけませんね」
「…うぐぅ」
さとりと私がため息をついた
はぁ…余計な仕事が増えちゃったわ
「それで…どうされるんですか?」
小屋の一応の片付けがすんだ後、さとりが告げる
さとりが見つめている先には
私が完全に気絶させたレミリャの姿
「それなんだけどね…」
本当はただ、ボコボコにするだけだったのだけど
「…家族の話を聞いたとき、まだ少しだけ躊躇があるみたいだったわ」
「そうですか…」
家族…すなわち、レミリャにとってのフラン
「復讐とか言っているけど…」
「…はい、心の底では別の声も聞こえました」
なるほど、さとりならばそれも聞こえたのだろう
ならば、私も自分の力を使って得た事を告げる
「…運命を見たんだけど、転機が訪れるまで約一週間あるみたい」
「…そうですか」
「だから…レミリャが此処に居る間に」
「はい、解っています」
さとりが私の顔を見て優しく微笑むと
「あのレミリャの根性を」
「ええ、一週間で叩き直しましょう」
お互いにすべき事をこの場で確認して
「…でも、まずは寝ましょうか?」
「ふぁ~…そうね」
気絶しているレミリャに毛布をかぶせ
今日はこれで眠る事を決めた
再隠居15日目
目を開くと
「…すぅ…すぅ」
さとりに抱きつかれていた…
まあ、これは日常茶飯事だから良いわね
(期間は一週間…それまでに最低限の事を叩き込む)
今日やるべき事を考える
「え~と…食材は何が残っていたかしら?」
それと同時に朝ご飯の準備をするためにエプロンを装備する
そして、料理を作ろうとした時
「…おはよう」
レミリアの背中から敵意を籠められた声が聞こえてきた
「おはよう、良く眠れたかしら?」
レミリアが料理をしつつ、その声を返すと
「良く寝れた?…ふん!ご丁寧に気絶までさせておいて何を言う」
レミリャが憮然とした態度で姿を現した
「あら?暴れないのね…」
敵意を込められた目で見られているが
攻撃をしてこない事に、レミリアが少し驚く
「…相手の背中から攻撃するなど、ヴァンパイヤロードの名が許さん」
レミリャがそう言うとレミリアを見つめる
「お前は一体何者なんだ?」
「なにって?ただの隠居よ」
「ふざけるな…ただの隠居風情に私の体当たりを捌けるものか」
当然の事である、いくらレミリャが疲れていたとしても
その辺の妖怪に全力の一撃を避けられる程弱くは無い
だから、レミリアは料理を作りながら答えた
「ただの隠居よ?ただし、私もヴァンパイヤロードだけど」
その言葉にレミリャの顔が凍りついた
「馬鹿な!?私以外のヴァンパイヤロードなんて!」
「貴方の家族以外に居ない?ってところかしら」
レミリャの台詞を先取りして答える
「これは私からの想像に過ぎないのだけど…」
レミリアが自分の考えを伝える
「どうやら、貴方は私とは違う世界の存在みたいね」
「違う?」
レミリャが眉を潜めるのを無視してレミリアが話を続ける
「簡単に言えば、貴方が居た世界から
なんらかの原因でこの世界に紛れ込んだんだと思うわ」
「……よくわからないな」
レミリアの言葉にレミリャが不機嫌そうに返す
そんなレミリャにレミリアが人差し指を突き出して
「簡単に言えば、大体一週間程ホームステイしているようなものよ」
すごくわかりやすく答えた
その説明にレミリャも納得したのか腕を組んで考え込むと
壮絶な笑みを浮かべてレミリアに問いかけた
「…つまり、後一週間程で私は元の世界に帰れるというわけだな?」
「まあ、そんな感じね(運命通りにいけばだけど)」
(そうか…あいつらに仕返しができるというわけだな…)
自分を追い出した者達に復讐が出来るのだ
笑みも自然にこぼれるというものである
「だから、一週間の間私とさとりが貴方を徹底的に叩き直すからね?」
「はっ!?」
だが、そんな笑顔のレミリャに水をさすように
レミリアがそう伝えると笑顔が固まった
「それと、貴方の名前は便宜上今此処に居る間はレミリャね?」
「ま、待ちなさい!私の名前は…」
「それより、朝ご飯の準備の為のお皿を並べて?」
「じょ、冗談じゃないわ!なんで私がそんな…」
「なんなら、もう一度勝負するかしら?」
「うっ…」
二人とも種族としての差は無いが
レミリアの方には豊富な戦いの経験がある
つまり、戦ってもレミリャが勝てる可能性は殆どない
レミリアの言葉にレミリャが言葉を詰まらせていると
「…おふぁおう…ごらいまふ…」
緊張感を一切台無しにしかねない声が二人の下に聞こえて来た
唖然としているレミリャの代わりにレミリアが声をかける
「おはようさとり」
「…ふぁい…」
今だ眠そうな顔をしながら食事の為のちゃぶ台の前に座るさとり
そんなさとりを見つめて、レミリアは
何か面白い事を思いついたのか意地悪な笑顔を浮かばせると
レミリャに声をかけた
「そうね…さとりに勝てたら自由にしても良いわよ?」
「えっ?」
レミリアの言葉に驚くレミリャ
目の前の相手が自分と同属ならば経験が多いレミリアの方に分がある
「だから、さとりと戦って気絶しなかったら自由になっても良いわよって」
だが、その隣の相手なら話は別である
自分と同属でない事はわかっている
その上、ヴァンパイアロードと並ぶ種族などなかなか居ない
そして目の前の相手は寝起きの状態
「その言葉に嘘偽りはないわね?」
レミリャの確認にレミリアがうなずくと
「貰ったわ!」
レミリャがそう言ってさとりに一撃を加えようと
寝ぼけているさとりに手を振り上げる
(さてと…たまには鶏飯の御粥も悪くないわよね)
その様子を尻目に、レミリアが今日の朝ご飯を作り始める
「…抱きまくらぁ~」
「う~!?」
数秒後に寝ぼけているさとりにチョークスリーパーを決められて
気絶させられるレミリャの事を放っておいて…
しばらく後、さとりが別の抱き枕を抱いて二度寝にはいるのを見届けてから
「さて、今日貴方にやってもらう事は…」
「…す、少し休ませて」
ようやく意識が戻ったレミリャに対して
「とりあえず隠居スキルを片っ端から叩き込むわ」
レミリアが容赦ない言葉を投げかけつつ
涙目になっているレミリャを引きずりだした
朝…園芸
「ねぇ…貴方本当に吸血鬼?」
レミリャがレミリアから離れた所で震えながら伝える
「吸血鬼よ?なんでそんな事を聞くのかしら?」
炎天下の中、麦藁帽子一つで土いじりをするレミリアに
大きめの傘の下で太陽の光りに恐怖しながらレミリャが叫んだ
「何処の世界に日光の下で土いじりをする吸血鬼が居るのよ!」
昼…薪割り
「はぁ…はぁ…な、なんで…こんな事を…私が…」
レミリャが汗だくになりながら薪を割るのだが
どれも綺麗に割れずに歪である
「これぐらいで音を上げていたらやっていけないわよ?」
その隣で、レミリアが数倍の薪を綺麗に割っていた
夕方…内職
「ノルマ終わりました…」
さとりが柔らかい笑みを浮かべながら
綺麗に出来上がった小物を全て箱の中に入れる
「やっぱり早いわね…」
レミリアがさとりの半分程の量の小物を作って
「う~…」
その隣でレミリャが六回目になる針を自分の指にさしていた
夜…料理
「凄いわね…」
レミリアが小さくそう呟く
「凄いです…」
さとりが心底驚いた様子でそう呟く
「わ、悪かったわね!」
レミリャがバツが悪そうに二人から顔を背ける
三人の目の前には焼き加減を間違えて所々焦げた魚の姿が
「まあ、始めはこんな物よね」
「くっ…」
レミリアの言葉にレミリャが悔しそうにしていたが
「凄いです!初めから食べれる料理が作れるなんて」
「……」
「……」
さとりがそう言ってレミリャを羨ましそうに見つめるのを見て
二人とも無言でさとりを見つめる以外なかった
・・・
「…つ、疲れた…」
「はいはい、お疲れ様」
レミリアがテーブルの上で突っ伏しているレミリャに声をかける
「流石に初日で全部はきついかしら?」
レミリアが挑発を籠めてそう告げると
ムッとした表情でレミリャが睨むが攻撃はしてこない
目の前にいるレミリアは自分と同じ仕事をこなし
自分以上の成果をあげたのだから
だから、レミリャが告げた言葉は本音の一言だった
「畜生…悔しい…」
そう呟くと同時にレミリャは全身の疲れにより
「…すぅ…すぅ…」
その意識を奪われるように睡魔に落ちていった
「…初日から虐めすぎたかしら?」
「そうですね…いきなり全部教えるのは流石に…」
テーブルに突っ伏したレミリャを見て
レミリアとさとりがお茶を飲んでいた
「でもねぇ…」
「はい、時間が少ないのも確かですから」
「…台詞を先読みしないで」
ジト目で見つめるレミリアを無視して
さとりが眠っているレミリャを楽しそうに見つめていた
「さあ、布団の上にレミリャさんを運ばないと」
「そうね…」
さとりの提案にレミリアが頷くと
「…出番よ」
「うな~」
その言葉に何処からとも無く猫が姿を現すと
レミリャが眠る為の布団を用意し始める
その間にさとりがレミリャをそっと抱えて布団に運ぶ
その様子を眺めながら
(…明日はもう少し優しくしようかしら?)
欠伸を噛み殺してレミリアはそう思った
再隠居18日目
レミリャが此処に来てから四日経ったのだけど…
「なかなか飲み込みが早いわね…」
「ふ、ふん!当然だ、私を誰だと思っている?」
薪は何とか二つに割れるようになったし
(でも、体力が無いのは慣れてないからかしら?)
裁縫は遅いながらも手に傷をつける事も無くなった
(凄い進歩ね…私も怪我しないようにするのに随分かかったのに…)
庭仕事は…まあ、仕方が無いので省く
(それと、私の趣味を取られてはかなわないわ)
料理は今日から包丁を使わせても構わないわね
(あとさとり…貴方は包丁を持つな!)
レミリャは思っている以上にやれば出来る子だった
まあ、平行世界の私らしいから当然の結果ね
そして、今日の仕事は…
「…で?レミリアは何をしているの?」
「はい、今日はレミリアさんは別の御仕事が入っていますので
私達は読書でもすることにしましょう」
…ええ、今朝早くに美鈴が
紅魔館の仕事を持ってきてくれたわこんちくしょう!
「まあ、仕方が無いわね…」
フランにも無理を言って隠居しているのだから
このぐらいは私がやらないとね…
幸い、外は雨が振っている
その上に内職の納品も既に終えているので
その隣で、レミリャとさとりが適当な本を読む
レミリアが仕方なく作業用のテーブルの上で仕事を開始した
「えーと…この予算の資料は…あら?」
良く見たら手元にある資料は自分が行なう仕事以外の物も含まれていた
「…美鈴、間違えたわね」
(まあ、資料が無いよりは良いけど)
レミリアがそう思いながら、余分にある資料をテーブルの端に置いて
紅魔館の主としての仕事を開始し始めた
・・・
「むぅ…今度はにとりさんが…」
その間にさとりが三ボス志の最新刊を真剣に読んでいた
レミリャもそれなりに本を読んでいたのだが
「…どうも面白くないわ」
じっくりと本を読むのがあまり面白くないらしく
少し本を読んではテーブルの上に置き
「なう」
「あら?やる気かしら…」
「うなぁ~」
何処からとも無く現われた猫と遊んでいた
「くっ!」
「なう…」
ある程度の力を込めた猫じゃらしに対して
猫がゆるゆるとしながらも無駄のない動きで追う
「ふんぬ!」
「にゃ…」
レミリャの猫じゃらしと言う名の激流に
紳士である猫が清水の動きで華麗に付いていき
「ずぇい!」
そして渾身の速さで放った猫じゃらしを
「にゃぁ~」
猫が空中に飛び上がり華麗に回避すると
レミリアが仕事をしているテーブルの端に着地して
「…二人とも静かにしないとご飯抜くわよ?」
「すいませんでした!」
「にゃう!」
レミリアが静かな怒りを籠めた笑顔の前に
謝らざるおえなかった
「全く…貴方のせいよ!」
「にゃう…」
テーブルから少し離れたところでレミリャが文句を言うと
猫が『すまんかった』と手で合図する
「でも…どう暇を潰した物かしら?」
流石にもう猫と戯れる事も出来ない上に
さとりは三ボス志なる本を読んでいる最中でピクリとも動かない
今なら多分、パンツを覗いても気がつかれないだろう
(するつもりはないけど…)
レミリャがそう思いながら、何気なしに
レミリアの居るテーブルの傍に近寄ったときだった
(あら?)
テーブルの上でそれを見つけた事は偶然だった
「…!?」
レミリャは真剣な顔をしてそれを手に取り見つめ始めた
・・・
「ふう、これで一段落着いたわ」
それにしても、随分仕事が溜まっていたわね…って
良く見たらフランと咲夜に任せてあった仕事も混ざってるじゃない
…これは屋敷に戻ったら二人に追及しないといけないわね
レミリアが仕事を終えた頃には既に夕方になっていた
グッと背伸びしながらレミリアが傍を見渡すと
「……」
自分の居るテーブルの傍で何かを真剣に見つめているレミリャの姿があった
「何か興味ある物でもあったの?」
「な、なんでもないわ」
レミリアが興味を持って声をかけると
レミリャは慌てて振り返りつつ首を横に振る
「そ、それよりも晩御飯の準備をしないといけなくない?」
「それもそうね…」
確かにもうそろそろ準備をしないと、晩御飯が遅くなってしまう
「そ、それに包丁の使い方を教えてくれるんでしょう?」
「そうだったわね…じゃあ台所に向かいましょうか」
レミリャの言葉にレミリアが頷くと台所に向かった
(確保よろしく)
(了解しました)
去り際に、そっとさとりにアイコンタクトを送って
台所の中で晩御飯の為の料理の準備が始まる
「いい?魚はこうやって…」
「こ、こうかしら?」
「そうそう…なかなかやるわね」
レミリアの指導の下、レミリャが魚を三枚に下ろす
「あの…私はどうすればいいですか?」
「…さとり…小太刀回転剣舞六連はやめなさい」
その隣でさとりが包丁を両手に構えていたので注意する
そんな感じで晩御飯の準備が進み
空が暗くなる頃には、三人が囲炉裏の前に並び
「お米炊けたわ」
すっかり慣れてしまったレミリャがご飯をお皿によそうと
「さあ、刺身が出来上がったわよ」
レミリアが今日三人が料理した魚の刺身を中皿の上によそい
「え~と…だ、大根の御味噌汁よそい終わりました」
さとりが味噌汁を茶碗に入れて準備をする
三人がそれを確認してから手を合わせると
『頂きます』
晩御飯の時間と相成った
(ふむ…)
レミリアが早速煮魚に箸を入れる
魚を下ろすというのはかなりの技術が必要とされる
しかも、切り方が荒いと形が崩れてしまう可能性が高くなるのだ
(…形は崩れてないわね…まず合格)
レミリャが切ったと思われる魚は少し形が崩れてはいたが
初めてにしては綺麗な形を保っている
それを箸で摘むと醤油と極少量の山葵につけて
熱々のご飯の上に乗せてから
(頂きます)
ご飯と一緒に刺身を飲み込む
しばらくの咀嚼の後
「合格!」
レミリアが合格の言葉を発した
「そ、そんな…たった一回で合格が…」
その言葉にさとりが驚きに表情でレミリアの方を向いた
さとりは今だ包丁を持つことすら許されて居ないのだ
ガックリとうなだれつつもご飯を食べるさとり
「………」
だが、等のレミリャは考え事をしているのか
レミリアの合格宣言が聞こえていなかった
「え~と…レミリャ?」
「…あっ?な、なにかしら?」
「魚の三枚おろし…合格って」
レミリアが改めてそう伝えると
「と、当然じゃない!わ、私は…」
いつものように胸を張ってレミリャが答えた
(何かあるわね…)
(ありますね…)
(…心の奥を見て見ますか?)
(それは止めなさい)
だが、何時もの比べてその様子がおかしい事は
さとりとレミリアの二人はとっくに気がついていた
「さて…レミリャは眠っているわね」
「はい…布団で眠っているのを確認しています」
その日の晩…
さとりとレミリアが小屋の外で話をしていた
「何か隠しているみたいだけど」
「…どうやら、漠然としすぎているみたいで良くわかりませんでした」
心の奥底の方での事みたいなのでレミリャの悩みは
さとりでもなかなか聞き取る事は難しいみたいだった
「あ、それと、夕方にレミリャさんが手にしていた物なんですけど」
さとりが思い出したかのようにレミリアに何かを手渡した
「これは…美鈴が間違えて持って来た資料ね…」
レミリアの手元にあるのはスカーレット家の家系図
それもかなり古い代物で、古い言葉で書かれているものだった
「…それを見てからレミリャさんの様子がおかしくなったみたいですね」
「これを見て?」
そこに書いてあるのは歴代のスカーレット家の党首の名前である
多分、自分もこれに名前を連ねるかもしれないが
「わからないわね」
「はい」
その家系図の何処にレミリャが動揺したのか
レミリアもさとりもわからなかった
「…となると、私達にできる事は…」
「なるほど、寝る事ですね」
レミリアがこれからどうするかを伝えるよりも先に
さとりが頷いて立ち上がる
「…さとりと会話してると、先を読まれてすごく楽だわ」
「あんまり褒めないでください…(ぽっ)」
「何故そこで照れる!後、褒めてない!」
何故か照れるさとりに、レミリアが突っ込みを入れつつ
既に眠っているであろう、レミリャの隣に向かうのであった
再隠居19日目
(朝か…)
レミリアが目を覚ます
不思議な事に、今日はすっきりと目を覚ます事が出来た
(何でかしら?)
不思議そうに思っていたが、自分の隣を見れば納得できた
「むにゃむにゃ…」
「う~…う~……」
さとりがレミリャに抱きついて眠っていたのだ
(なるほど納得ね…)
人身御供になってくれたレミリャに感謝しながら
レミリアは笑みを浮かべて台所に向かった
いつものように朝ご飯の準備をしつつ
レミリアは考えていた
(なんで家系図を見てレミリャはあんなに動揺したのかしら)
スカーレット家の党首の名前になにかおかしな所でもあるのかと思ってみたが
それぐらいなら、隠すわけでもなく疑問を口にするであろう
(それをしないというのには、きっとなにか深いわけが…)
レミリアがそう考えつつお米を炊いていると
「う~」
「あら、おはよう」
髪の毛が少し乱れているレミリャが
少し疲れた様子で台所に入ってきた
「…抱き枕にされるのがこんなにも辛いなんて初めて知ったわ」
「まあ、さとりの寝ている時の腕の力は凄いものね」
それこそ無意識に傍にある物を絞め殺すのか?と思うぐらいに
そう思うほどに寝ている時のさとりの抱きしめる力は恐ろしい
(まあ、無事に抜け出せてこれたみたいだから大丈夫ね?)
レミリアがそう思いながら朝ご飯を作っていると
「ねえ」
それを近くで見ていたレミリャが小さく話しかけてきた
「なにかしら?」
レミリアに声をかけられて言い辛そうにするが
意を決してレミリャが話をする
「お願いしたい事があるの」
レミリアはそれが直感的に昨日の様子がおかしい事に関係すると思い
料理を作る手をそっと止める
「……」
そして真剣な顔でレミリャを見つめると
「あのね……」
レミリアにお願いしたい事を告げた
・・・
「と言う訳で、悪いんだけど明日もう一度来てもらえるかしら?」
「わかりました…それでは明日までに集めて来ますね」
その日のお昼、書類を受け取りに来た美鈴に
昨日の内に仕上げた仕事を手渡し、それと同時にもう一つ仕事を頼む
書類と、もう一つの仕事を頼まれた美鈴が手を振ると
急いでその場から姿を消した
「これで、明日には約束の物が届くはずよ」
「ごめんなさい、無理を言って」
それを確認してから、小屋の中で隠れていたレミリャが
レミリアに対して申し訳なさそうに頭を下げた
「構わないわ、その代わりに約束は覚えているわね?」
「わかってる…でも、明日の夜まで待って」
レミリャの言葉にレミリアが無言で頷くと
「それよりも今はお昼ご飯を作るから手伝いなさい」
「りょ、料理は貴方の方が美味しいから私は待機を…」
料理を作るのを遠まわしに拒否したレミリャに対して
レミリアはエプロンを着けながら別の仕事を言い渡す
「構わないわ、でもその代わりに寝ているさとりを起して貰うけど?」
「オッス!料理を作るの是非手伝わせて頂きます!」
その難行にレミリャが頭を下げて大急ぎでお皿を準備をし始めようとした時
レミリアが少し考え込んでから声をかける
「……まって、お皿は私が並べるから、貴方には別の仕事をお願いするわ」
「何をすればいいの?」
いつもの料理の手伝いとなれば、お皿を並べるだけのはずだが
それ以外の仕事があると言われてレミリャが不思議そうにする
「ちょっと耳を貸しなさい」
不思議そうにしているレミリャにレミリアがやるべきことを伝えた
・・・
(…むにゅぅ……)
台所からの良い匂いで目が覚める
気がつけば、寝ているのは自分だけ
眠たい目を擦りつつ、何とか布団から起き上がると
「……ごはん」
パジャマ姿のまま匂いにつられて台所に向かう
「やっと起きたわねさとり」
半目のまま台所にたどり着くと、
傍でご飯を並べていたレミリアさんに笑われた
「……おはやうございまふ」
いまだ襲ってくる眠気と戦いながらテーブルの傍に座ると
「……はい、朝御飯の用意できたよ」
レミリャさんが準備をしてくれた朝御飯に手を合わせると
(むぐむぐ)
そっと口に運んだ
・・・
「ご馳走様でした」
食事を終えたさとりが空っぽになったお皿の前で手を合わせる
「ええ、ご馳走様」
「……」
その様子をレミリアが面白そうに
そして、レミリャが心配そうに見つめる
食事を終えて、少しだけ目を覚ましたさとりがそれに気がつくと
食後のお茶を飲みつつ告げた
「レミリアさん、調子が悪いんですか?」
「あら?なんでそう思うのかしら」
その言葉にレミリアが笑いながらつげると
さとりが顎の下に手を当てながら答える
「味がぼけてますし、具材も雑でした」
さとりの言葉にレミリャが体を硬くする
「それにいつものに比べて明らかに味がくどかったです」
その様子を見たさとりが意地悪そうに頬をにやけさせると
レミリャの方を向いて伝えた
「というわけで…レミリャさん」
「は、はい!?」
いきなり名前を呼ばれてレミリャが驚いた顔でさとりを見つめる
「次に期待しますね」
「えっ?えっ!?な、なんで?」
レミリアでは無く、レミリャが味噌汁を作った事を
なぜ寝起きのさとりが知っているのか驚く
「それで?さとりはどういう評価を下すのかしら」
驚くレミリャを尻目にレミリアがニヤニヤしながらさとりに聞くと
さとりが目を瞑って評価を下す
「そうですね、味は濃いし具の切り方は雑……そして明らかに煮過ぎ」
「うっ…」
指摘された点は確かにその通りなので
レミリャの顔が泣きそうになる
そのレミリャの姿を見て、さとりが意地悪そうな笑みをこぼすと
「ですけど合格です」
「えっ?」
レミリャに合格宣言をだした
散々な評価をされていたのに合格の通知を出されて
レミリャが信じれないといった表情になる
「ほ、本当に?」
その表情を見てさとりが満足気に頷く
「味は濃かったですけど、十分美味しい御味噌汁でした」
「と言うわけで、御味噌汁の作り方も一応合格した事だから」
さとりの言葉に続けてレミリアが満足そうな顔をして宣言した
「おめでとう、これで貴方は隠居生活の全ての過程を終了したわ」
「隠居生活の……全ての過程?」
その言葉が意味する事は一つ
「おめでとうございますレミリャさん……
これならもう何処でも一人で生活をする事が出来るはずです」
「まあ、私クラスになるにはもっと実地訓練をつまないといけないわね」
レミリアとさとりがそう伝えて拍手をする
だが、当のレミリャは悲しそうな顔になる
(え~と……うれしくないのかしら?)
レミリアがそう伝えようとするがその前にさとりが口を開いた
「あの…此処から出て行けって意味じゃないですからね?」
「あ…えっ?そ、そうなの?よかった」
さとりの言葉にレミリャがホッとした表情に戻って
素直に喜びだした
それを面白くなさそうにレミリアが見つめるが
咳払いを一つしてから、気を取り直して言葉を続けるが
「とりあえず、レミリャの隠居免許皆伝を祝って」
「今夜は豪華な食事をするんですね?」
「よし!なら久しぶりに肉が食べたい」
「……せめて最後まで言わせなさいよ」
レミリアの言葉は最後まで言わせて貰う事は出来なかった
・・・
「レミリャおめでとう」
「おめでとうございます」
「にゃあ」
「ありがとう!」
その日の晩、レミリアの宣言通りにかなり豪華な食事になった
その中でもメインになっているのは鍋
「本当に肉が出てくるとは思わなかったわ」
「確かに…良く手に入りましたね」
レミリャとさとりが驚いた様子で鍋を見つめる
その中には、大量の肉と野菜が豪快に入れられていた
二人の言葉に堂々と胸を張る物が一人
「ええ、まあ最大の功労者はこの子だけどね」
「「えっ?」」
さとりとレミリャが胸を張っている猫の方を向く
そんな二人にレミリアが話を続けた
「こいつ、たまに猪とかとってくるのよ」
(この猫…もしかしてかなりの兵?)
(流石は私がサーの称号を授けた猫ですね)
その言葉を聞いて、二人が考え込んでいると
「さあ、肉が焼けたわ」
レミリアが鍋の蓋を開けて二人に合図を送り
「合掌!」
『頂きます!』
「にゃあ!」
三人(+一匹)で牡丹鍋を食べ始める
「久しぶりに食べる肉美味しい!」
「白菜も煮えてるわよ」
肉ばかり食べるレミリャに対してレミリアが白菜を入れたり
「……!?ね、ねぎが…の、喉に!?げほっ!」
「レミリャ!水!」
「わ、わかった!」
煮えた葱の真ん中の部分を喉に直撃させたさとりに
二人が慌ててお水を用意したり
「にゃあ!」
「た、助かりました…」
「ぬっ?流石は紳士猫…やるわね」
(本当にこの猫何なんだろう?)
二人よりも先に猫が飲み物を用意したり
豪華な晩御飯はいつも以上に和気藹々とした雰囲気で続けられる
「………」
「どうしましたか?」
「もう満腹かしら」
そんなとき、レミリャが御飯を食べる箸を止めたので
さとりとレミリアが質問すると、レミリャが声をかけると
レミリャが首を横に振って答えた
「こんな風に…楽しく御飯を食べるのって此処に来て初めてだって思って」
レミリャの呟きにさとりとレミリアが箸を止める
「いつも一人で食べていてさ…家族と一緒に御飯を食べる事も無かったなって」
その言葉にレミリアとさとりが笑みをこぼすと
二人がレミリャのお皿の上に鍋の具材をドンと入れる
「えっ!?ちょ、ちょっと?これ盛りすぎ!」
「馬鹿らしいですね」
「ええ、本当に」
唖然とするレミリャに対してレミリアが口を開いた
「だったら……次からは家族と一緒に食べてやればいいのよ」
「あ……」
レミリアの言葉にレミリャがハッとすると
「そうね、次からは嫌でも一緒に食べさせる事にする」
うれしそうにそう言って再び食べ始める
「…では追加追加します」
「そうね、追加追加」
「ちょっと!?これ以上お皿入らないって!」
湿った空気を追い出す為にレミリアとさとりが
レミリャの皿の中に鍋の中身を追加しようとして
「きしゃあ~!」
「……『食べ物を粗末にするな』ですか」
「ごめんなさい」
猪を狩ってきた猫に二人が怒られた
その光景を見てレミリャが笑みを浮かべる
「そうだ二人の家族の話も聞かせて頂戴」
「多分、私は貴方と同じだと思うけど?」
「でしたら、私の家族の話でも…」
三人と一匹の晩御飯の時間がゆっくりと過ぎていった
・・・
再隠居20日目
「よく寝たわ」
昨日の夜はレミリャとさとりと一緒に枕投げをしたおかげで
気持ちよく眠れたわ
(今度紅魔館主宰の大枕投げ大会でもしようかしら?)
その場合、色々とルール決めないといけないわね、まあ考えておきましょう
「さあ、早速御飯を作らないと」
レミリアが起きて台所に向かうと
「あら、良い匂いね」
「えーと、雑炊だったかな?作ってみたんだけど」
レミリャがそう言って鍋を暖めていた
とりあえずレミリアが鍋から少しだけ小皿によそって味見する
「上出来ね、これならさとりも合格くれるわよ」
「良かった」
レミリャがホッとした表情になると手を叩いて告げる
「それじゃあ、私ちょっと資料見てくる」
「あら、美鈴来たの?」
「えーと……何か『咲夜さんに此処に仕事持って来た事で怒られる』とか
『少しでも屋敷に居る時間を延ばそうとしていて』とか言ってたけど」
「OK、美鈴が何を言おうとしていたかよくわかったわ」
「それじゃあゴメン、ちょっと行って来る」
レミリャの言葉に頭を抱えながら理解を示すレミリア
そんなレミリアを横目に、レミリャが資料を読みに向かった
そして残されたレミリアは
「とりあえず、帰ったら咲夜とフランに御仕置きね…」
朝御飯になる雑炊をかき混ぜながら
帰った際のお仕置きを考え始めた
・・・
さあ、資料を読破して自分がどのような存在なのかを知る事ができた
レミリアの考えはある意味当たりだったのかも知れない
レミリアとさとりのおかげでこの一週間は実に楽しかった
此処まで楽しかった事は生まれて初めてかもしれない
もし、もし明日私が元の世界に帰ら無くてもいいのなら
今朝までの自分だったら帰らない事を望んだと思う
でも、帰らないといけない…私の家族にも今日の用な事を教えたいから
どうやら、私がこの隠居小屋から姿を消す時間が迫っているようだった
既に右手が透け始めてきている
とりあえず、まだ眠ってしまっているさとりと
朝御飯を作っているレミリアに対して
左手で手紙を書くことにするそして、その手紙を…
・・・
「…おはようございます」
「あら、おはようさとり」
そして、暫く経ってさとりが起きて来た時だった
台所に急いでやってきたレミリャが二人に口を開いた
「……そろそろお別れみたい」
その言葉にレミリアと寝ぼけ眼だったさとりが振り向く
そこには、今にも消えてしまいそうなレミリャの姿があった
「ありがとう…隠居生活、実に楽しかった」
「そう言って貰えるとありがたいわね」
「……拾ってきたかいがあったという物です」
確実な別れが迫ってきているのが判る
だからこそ、レミリアとさとりは引き止めるような事はせず
軽い口調でレミリャに話を返した
「帰ったら、私の家族と良く話し合ってみる」
「それがいいわ……頭にきたらぶん殴ってやりなさい」
「いざとなったら、また隠居してしまえばいいですしね」
二人の言葉を聞いている間にもレミリャの体が透けて行くのが判る
つまり、この世界から元の世界に戻されて行ってるのだろう
その姿が消えようする前まで三人が隠居中の馬鹿話をして盛り上がる
そして……レミリャが最後に口を開いた
「そうそう…言い忘れてたけど、私の本当の名前ね」
「レミリア・スカーレットでしょ?」
レミリアがそう告げようとした瞬間
さとりが驚いた顔をして呟いた
「……レミリアさんどうやら違うようです」
「えっ?」
さとりに言葉を止められて驚くレミリア
そして、その姿を見てレミリャが微笑むと二人に抱きつき
「私の名前は……―――・スカーレット」
二人にしか聞こえない程小さな声で自分の名前を告げる
そして、それと同時にレミリャは隠居小屋から完全に姿を消した
・・・
レミリャが姿を消した後
猫がレミリアの元に手紙を持ってきた
それをみたレミリアが
大急ぎでテーブルの上に置いてあった資料を読み漁った
「……」
「レミリアさん…なにかわかりましたか?」
テーブルの上においてあった資料を見て放心状態のレミリアに対して
さとりがお茶を持って来てテーブルの上に置かれると
「ねぇ……さとり」
「はい」
「今まで隠居生活で結構色んな目にあってきたけどさ」
レミリアは足を投げ出してごろんと横になり呟き始める
「流石にこんな事が起こるとは想像すらしてなかったわ」
「何かわかったんですね?」
さとりがレミリアに問いかけると
レミリアが手にしていた資料の一部を指差した
その文章をみたさとりが絶句する事になる
「これは…」
「ねっ?」
「『カミーラ・スカーレット』
ヴァンパイヤの祖であるブラド・ツェペシュの一人娘
幼少期はカミリャと呼ばれ、わがままな性格であったが
ある時期を境に勉学に励み始める
後に、我がスカーレット一族を作り出し
生きている間に様々な功績を作り上げた偉人」
「まさか、レミリャさんが…」
「『カミーラ・スカーレット』…まさか自分のご先祖と
隠居する事になるなんて想像すら出来なかったわ」
レミリアはそう言うと自分の頭をさとりの膝の上に置いてため息をついた
再隠居20日目…
今回の報酬……
偉大な御先祖と一週間の生活
そして、どんな事があっても動じる事が無い心
「……これ以上驚く事はそうそうないでしょう?」
「そうですよね」
「にゃあ」
今の気持ちを言葉にするなら最高だの一言だけだ。
そしてオマケの椛先生の新作、にとりの最期に涙が。
さとりがかわいいし、猫のスペックが高すぎるw
てことは置鮎ボイスな兄と一緒にすんでいる時期があるってことかw(アルカード
次はカリスマなお嬢様がフランと咲夜さんに御仕置きねする話を読みたい
んでもってスッゴい良かった!
ありがとう!
やっぱり猫のスペックがすごいなぁww
にとり・・・
さとりが可愛い
あぁ、実に素晴らしい
あなたの名前を見つけた時、思わず小躍りしそうになりました!
この庶民的なレミリア……たまりませんね。とても面白かったです!!
相変わらずおぜうさまのカリスマすげえ