今まで何度鉄の塊に命を吹き込んだのだろう
そして何度、その命を失っただろう
命なき者に命を与えるというのは不可能なのだろうか?
いや、そうではないはず
ただ、ちょっとばかり寿命が短いだけ
ただ、少しだけ脆いだけ
失敗だってする
でもそれは「死」じゃない
「生」を受けるための試験だ
・・・こんなことを考えてたって、ね
目の前の試作品が勝手に出来上がるわけでもないでしょ
「さぁて、アンタはいつまで『生きる』かな?」
にとりは再び作業に戻った
皆は大してどうも思わないかもしれないけど、
自分の作った機械は生きてるように感じるものなのよ
そして、それが動くのをやめて、壊れてしまったときには、
それが死んでしまった悲しみまで感じるもの
エンジニアとして、作る者として愛を注ぐ結果なのよ
なぜ作り続けるのか
それは子供を授かった時の喜びに似ているものがあるから
それが死んでしまっても、またその魂を生まれ変わらせることが出来るから
そのために時間がかかったとしても、それはかまわない
そうすることに生きがいを感じ、さまざまなものを得られるから
この前作った光学迷彩だってそうだった
試験中にあの二人に出会った
もし何もなく飛んでいれば相手にされなかったかもしれない
でも、光学迷彩という怪しいもののおかげであいつらは今も私の「盟友」でいる
「意外とね、エンジニアもその辺り恵まれてんのよ」
独り言が多くなった自分にため息をつきたかった
なにエンジニア風情が語っちゃってんだか
「さて、これはどんなもんかしら」
にとりは新しく作った品をじっと見つめた
レバーとホルダーの連動回転がうまくいけばいいけど・・・
後はそれに合わせた音声ね
よく分からない注文よねぇ、『ターン・アップ』て何のことやら
「作れといわれたら作るだけ、他に何があっても気にしてはならない」
いつも自分に言い聞かせる言葉だ
変なところに意識を向けても成功はやってこないし、失敗は逃げていかない
ただただ望みどおりに作り上げることこそがエンジニアの務め
それにね、作り続ける理由はもう一つあるんだよ
さて、そろそろ時間だわ
依頼主が取りに来るころだわ
お気に召すかしら?
作り手としてはそこが不安でならないわ
「にとりー、いるー?」
アリスが入り口の戸を叩いた
「ほいほい、お待ちしておりましたー」
「その様子だと出来たみたいね」
人形遣いは期待に目を光らせた
くぅ、タマランねぇ、期待されるのは
「こんなんでどうだい? カードは作れなかったけどね」
「うん、いい感じ、ありがとう」
アリスは微笑んだ
そう、この瞬間が何よりやりがいを感じる
これだから・・・やめられないね
にとりもおおらかに笑った
「どういたしまして」